295.錬金術士の依頼

「さあ、ここだ。済まないが、先に入って待っていてくれ。もう一人連れてくる相手がいるのでな」

「わかりました。では、適当に待たせてもらいますね」


 俺とユキは執務室のソファーに腰掛け、部屋の様子を見渡してみる。

 部屋の様子は……なんというか、研究者の部屋といった感じだ。

 みたことのない剥製や、奇妙な形をしたオブジェクトなど表現に困る物もいくつかある。

 ウォーレンは普段この部屋でどんな研究をしているのだろう。

 むしろそっちに興味が湧いてきたぞ。


「トワくん、なんだか変わった物が多い部屋だね」

「確かにな。みたことのない剥製やら、奇妙なオブジェやら……一体何のために集められたんだろうな」

「戻ってきたら聞いてみる?」

「……いや、止めておこう。聞いても仕方がないし、理解できない答えが返って来そうな気がする」

「うん、わかった。でも一体何の用事なんだろうね?」

「さぁてな。あの銀時計を確認されたって事は、高位の錬金術士に対する依頼なんだろうが……」


 ユキと会話をしていると、ドアが控えめにノックされた。


「ウォーレンだ。入っても大丈夫か?」

「ええ、大丈夫ですよ。どうぞ」

「待たせてしまったかな。この男が今回の依頼人であるサハスだ」

「ご紹介に与ったサハスだ。どの程度の付き合いになるかはわからないが、よろしく頼む」

「ええ、よろしく。俺はトワ。聞いてると思うけど錬金薬士だ。それで、こっちがユキ」

「ユキです。初めまして」

「ああ、了解した。……ウォーレン、依頼内容はもう説明してあるのか?」

「いいや、まだだ。どうせならお前がきてから説明しようと思ってな」

「そうかい。それじゃあ、依頼の説明だ。依頼内容は簡単で『ガーゴイルを作る』ことだ」

「ガーゴイルを作る? それって素材から集めなくちゃダメなんですか? さすがに素材集めからだとお断りしますが」

「ああ、そこは心配するな。必要な素材はほとんど用意してある」

「ほとんど?」

「ああ、いくつか足りていない。依頼内容はそれらを集めてガーゴイルを完成させることだ」

「……ちなみに報酬は?」

「ほう、できるかできないかの前に報酬の交渉か?」

「報酬次第で引き受けるかどうか決めたいので。それで、報酬はなんでしょう?」

「それなんだが、現在【学術都市】で研究されている、ガーゴイル用の特殊装備のレシピとしたい。もちろん、そのレシピ用の素材もある程度は用意しよう」

「ある程度とはどのくらいですか?」

「うむ……そうだな。装備5つ分くらいまでなら用意しよう。どうだ、手を打ってはくれないか?」

「それはガーゴイルに足りていない素材を聞いてからですね。鉱石類が足りていないとかだと、採掘するのに何日もかかってしまい割に合いませんから」

「そこは心配するな。鉱石類はきちんと足りてるよ。足りてないのは、ガーゴイルのコアになる魔核の類いだ」

「……魔核ですか。それなら市場で買い取ってもいいのでは?」

「それはダメだ! 俺がほしいのは特別なガーゴイルだ。魔核は自力で採取してもらいたい!」


 自力で採取ねぇ。

 倒さなくちゃいけないモンスターにもよるかな。


「それで、魔核を集めるために戦うモンスターは?」

「そちらは私から話そう。手に入れてほしい魔核は全部で4つ。『プロトタイプゴーレムαの魔核』、『プロトタイプゴーレムβの魔核』、『プロトタイプゴーレムγの魔核』、『ガーディアンゴーレムの魔核』、以上だ」

「……それらを全部自力で集めてこいと?」

「ああ、そうだ。異邦人プレイヤーならば容易いだろう?」

「……俺達は生産者、職人ですよ。モンスター退治を頼むなら、戦闘を専門にしている面子を当たるべきかと」


 うん、正直、話にならない。

 プレイヤーだからって戦闘力が必ず高いって決めかかってるのも気にくわないし、命令口調なのも気に入らない。

 面倒だし、こんなクエスト断ってしまおうか。


 そう考えてたら、ウォーレンから耳打ちされた。


「済まないが、この依頼を引き受けてくれないか? サハスは街の顔役の一人で錬金術士なんだ。彼は近日中にガーゴイルを用意できないと失脚……というか、別の都市に左遷されることになっててな。後が無い状況なんだよ」

「後がないなら尚更あの態度はどうかと思うけど」

異邦人プレイヤーというのは、死をも恐れずに戦いに向かうと聞いているからな。サハスはそういった話を真に受けてる側の人間だ。だからこそ、異邦人プレイヤーにはああ言った扱いでいいと思っている」

「尚更救いようがないですね。それでこの依頼を受けるとでも?」

「サハスの人間性に問題があることは認める。だが、錬金術ギルドとして今回の依頼は受けておきたい」

「……それなら、報酬の上乗せを。アダマンタイト鉱石600にメテオライト鉱石600、ミスリル鉱石400を追加してもらおうかな」

「ッ!! ……さすがにその量はすぐには準備できない」

「なら話は無しだな」

「待ってくれ。それぞれ半分の量ならすぐに用意できる。残り半分は……2週間もあればかき集められるだろう」

「……わかりました。それならこの話を引き受けましょう」

「……助かる。他にサポートが必要な事はあるか?」

「各ゴーレムの居場所を教えてください。プロトタイプゴーレムαとは戦った事があるけど、それ以外とは遭遇したこともないですから」

「わかった、各ゴーレムはマナリーフ王国内に散らばっている。どこら辺に生息しているかの地図はこちらで用意しよう」

「それじゃあ、そちらは任せました。それで、この依頼っていつまでに仕上げれば?」

「1週間、次の天の日には全ての魔核を集めきっている状態であってほしい。可能か?」

「まあ、やってみなくちゃわからないかな。とりあえずは引き受けるけど、間に合わない可能性もあり得る」

「……その時はもう1週間延ばせるように交渉する。だから頼む」


 ……条件面はこれくらいでいいか。

 うまいことこのクエストをクリアできれば、報酬としてガーゴイル2体分の素材が手に入るということで。


「なんだ? 話はついたのか?」

「ええ、話はつきましたよ。ガーゴイル作成の依頼、受けさせてもらいましょう」

「そうか、ならもったいぶらずにそう言えばいい。それで、いつ完成するんだ? 明日か? それとも明後日か?」


 ……うわ、この手のおっさんの相手とかめんどくさい。

 俺はウォーレンを振り返り目配せをする。


「まあ、落ち着けサハス。集めなければいけない魔核は4つだ。まして、討伐対象のゴーレムは国の至る所に点在している。明日明後日とかそういう期日では作れないよ」

異邦人プレイヤー達は転移門を使って様々な場所を一瞬で移動すると聞くぞ。それを使えばすぐじゃないのか?」

「転移門での移動は、一度転移地点として登録が必要だ。それに、モンスターを倒して魔核を手に入れることを考えたら1カ所1日じゃ足りないだろう」

「ふむぅ。ならば何日くらいかかる。俺はあまり余裕はないぞ」

「とりあえず1週間は待て。それでもダメならもう1週間だ」

「それではギリギリではないか!」

「そもそも高位錬金術士がこのタイミングで現れてくれたこと自体が奇跡なんだ。それが受け入れられないなら、諦めてもらうしかなくなるぞ」

「……くっ、わかった。お前のいうとおりにする」


 どうやらあちらさんの話もまとまったみたいだ。


「待たせたね。それでは、正式にクエストの発注だ」


〈シークレットクエスト『マナリーフの石像兵』が発生しました。受注しますか?〉


 今回もシークレットクエスト扱いか。

 一応内容も確認しておくかな。


 ―――――――――――――――――――――――


 シークレットクエスト『マナリーフの石像兵』

           (パーティ推奨)


 クエスト目標:

  以下のアイテムを直接ドロップで手に入れる

    プロトタイプゴーレムαの魔核 0/1

    プロトタイプゴーレムβの魔核 0/1

    プロトタイプゴーレムγの魔核 0/1

    ガーディアンゴーレムの魔核  0/1

 クエスト報酬:

  ガーゴイル強化用特殊装備のレシピ 1

  特殊装備作成用素材 5セット

  アダマンタイト鉱石 600

  メテオライト鉱石  600

  ミスリル鉱石    400

 クエスト期限

  現実時間10月21日(日)まで



 ―――――――――――――――――――――――


 ……うん、内容に過不足はないな。

 報酬として特殊装備のレシピと各種金属の鉱石が載ってるし問題ない。

 後は期日までに全てのアイテムを集めることだが……うん、ここも教授に助っ人を頼もう。

 新しいシークレットクエストの情報と引き換えなら喜んで手伝ってくれるだろう。


 クエスト受注が終わったら、サハスは部屋を出て行った。

 なんとも忙しい御仁だ。


 サハスが出て行って少し経つと、代わりにギルド職員が地図のようなものを持って入ってきた。


「ギルドマスター。頼まれていた資料です」

「ああ、わかった。……よし、これで間違いない。下がってくれ」

「はい、失礼します」


 どうやら地図を持ってきてもらってたようだな。


「トワ君。これが各ゴーレムが生息している地域の地図だ」

「……結構、広範囲に散らばってますね」

「ああ、プロトタイプゴーレムαは割と近所だが、それ以外は見事に散らばっているよ」

「……これ、移動するだけでも1日がかりですよね」

「ああ、だからこそ1週間でも間に合うか怪しいんだ」


 まさか、こんなところに落とし穴があるとは……


「ともかく、1週間で集めることにはこだわらなくていい。ただ、2週間でなんとか集めきってくれ」

「こちらも報酬を上乗せしてもらってますからね。できるだけ要望には応えますよ」

「そうか。それでは、よろしく頼む」


 これでクエストは正式受注だ。

 俺とユキの2人じゃ戦力的に足りてないから、教授あたりに連絡して助っ人を用意してもらおう。

 あっちへの報酬は、このクエストの発生条件と思わしきもので十分だろ。


 さて、時間はあまりないし、早速教授達に連絡を取らなくては。

 クエストの受注がおわったため、ギルドマスターの部屋を後にし、外に向かいながら教授と連絡を取ってみる。

 教授は教授でウォールナットのクエストが忙しいかもだけど、新しいシークレットクエストという餌があれば、3人程度は釣れるだろ。

 人数さえ揃えば、後は試行回数で魔核を揃えるだけだからな。

 物欲センサーが恐いけど、数で勝負するとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る