292.遺跡調査の護衛
クエストを受けた翌日、教授が決めた時間になったのでリーフの家まで3人で向かう。
教授だが、ログインしたらメールが届いていて、早くログインしたので先に行ってる、とのこと。
リーフの家に到着するとメール通り教授が先に来ていて、リーフと打ち合わせをしていた。
「む、来たようであるな。待っていたのであるよ」
「やあ、よく来てくれた。今日はよろしく頼むよ」
「ああ、よろしく。それで、なんの打ち合わせをしてたんだ?」
「今日の調査範囲を決めていたんだ。ウォールナットの遺跡はそれなり以上に広いからね。とりあえず今日は、ウォールナットの遺跡まで辿り着いた後その周囲の調査がメインだね」
「うむ。できれば数日に渡って調査したいところであるが」
「異邦人にそれを頼むのも酷というものだろう。まあ、引き受けてくれるならありがたいがね」
「それは今日の結果次第という事で。出発の準備は?」
「大丈夫、できているよ。それでは遺跡に向かうとしよう」
リーフと教授の2人が合流した後、ブリーズウッド東門から街の外へと向かい、街の北東にあるというウォールナットの遺跡へ騎獣で向かう。
パーティ編成は俺達4人に盾役としてプロキオン、前衛アタッカーとしてシリウスを加えた形だ。
遺跡まではリーフに先行してもらい、遺跡に着いた後は俺達が安全確認をした後に踏査に入ってもらう事にする。
遺跡までの道程では特に危険なモンスターに襲われることもなく、開けた平原のような場所まで辿り着いた。
どうやらここが『ウォールナットの遺跡』のようだな。
「さあ、ここがウォールナットの遺跡だ。……とは言っても、地上部にはほぼ何も残っていないのだがね」
「地上部っていう事は、地下が広いのか?」
「そう言う訳でもない。『ウォールナットの遺跡』などと大層な名前がついているが、ここは昔の都市が遺跡となった場所だ。なんだったか……そうそう、『ノーザンウォールナット』という名前の都市だったかな」
「そうなんですね。どうしてこの都市はなくなったんですか?」
「それを解き明かすのがこの調査の目的さ。いかんせん、この都市については謎が多くてね。何故滅んだのか、いつ頃まであったのか、どの程度の規模の都市だったのか、それらを知るのが調査理由だな」
「エルフの都市なら何百年も昔じゃないのー?」
「そうだな、少なくとも千年程度は昔だと言われている。だが、千年も昔の都市遺跡なのに、何故ここはいまだに森に侵食されていないのか。不思議なことは山盛りになっているな」
「……確かに、この一角だけ森が途切れてるな。その理由を探ろうっていうのか」
「まあ、そんなところだ。……今日のところはここから中心部に向かって調査するとしよう」
「了解。それで、冒険者が襲われたっていう巨大モンスターとやらはどの辺にいるんだ?」
「それが襲われた場所というのがバラバラでね。巣があるとすれば中心部付近であると予測はできたのだが……」
「……それって、中心部に向かって進むのは危ないんじゃないですか?」
「まあ、多少の危険は承知の上だ。危険がないのであれば、これほど近くにある遺跡なんだから既に調査されていて当然だろうからね」
「それもそうだねー。それじゃあ、始めよう」
「そうだな。護衛はお願いするよ」
リーフが騎獣から降りて遺跡の調査作業を始めると、遠くの方からモンスターが迫ってきた。
「ふむ。到着早々、熱烈な歓迎だね」
「そのようであるな。……ふむ、モンスター名レッサーバジリスク、レベルは58であるか」
「それなり以上には強いようだな。ユキ、支援よろしく。プロキオンは盾役を頼む」
「うん、わかった」
「ウォン!」
遠くから迫ってきたレッサーバジリスクに対してプロキオンが挑発してターゲットを集める。
向かってきたレッサーバジリスクは計3体、油断しなければ十分に対処出来る数だ。
「さて、プロキオンがターゲットを集めてくれたようだし攻撃を始めようか」
「そうであるな。行くのであるよ!」
プロキオンに集中しているレッサーバジリスク相手に、俺達は攻撃を仕掛ける。
レベル58とそこそこ高レベルな相手だけあって倒すのには多少時間がかかってしまったが、時間がかかった以外には特に問題もなく倒す事ができた。
「ふむ、モンスターの強さ的には特に問題にならないようであるな」
「……だといいんだが。レベルは高かったし、油断はできないよな」
「であるなぁ。もっとも、気になることもあるのであるが」
「気になること?」
「バジリスクといえば石化で有名なファンタジー生物である。であるが、プロキオンは石化したような様子は見受けられないのである」
「そもそも『石化』っていう状態異常が未実装な可能性は?」
「その可能性も十分にあるのであるが、それならば別の状態異常を引き起こしそうな気もするのであるよ」
「……それもそうだねー。気を抜かないように気をつけよう」
「だな。……とりあえずこの周囲の安全は確保できたのかな?」
周囲を見渡してみるがモンスターの影は見受けられない。
一応、索敵系スキルも使ってみるが反応はなしだ。
「どうやらモンスターはあれだけのようだね。いや、見かけよりも強いんだね、君達は」
「それはどうも。あの程度ならなんとでもなるけど、手に負えないモンスターが現れる可能性もあるから自衛程度はしてくれよ」
「わかっているとも。……さて、それでは周囲を調査させてもらおう。しばらく待っていてくれ」
地面を掘り返したり、草むらの中に分け入ったり。
リーフが周囲を調査している間、俺達は警戒に当たる。
周辺を調査すること数分、リーフが俺達を呼び集めた。
「待たせたね。この周囲の調査は終わったよ」
「そうであるか。何かわかったことはあるのであるか?」
「残念ながら何もわからない事がわかったくらいさ。……まあ、この周囲のことは何度か調査しているから当然と言えば当然なんだけど」
「それなら、今まで調査していないところまで一気に進むのか?」
「いや、手間をかけるがこのまま細かく再調査していきたい。何か変わったことがあるかも知れないからね」
「そう言うことならば任せるのである」
「それではよろしく頼むよ。では次の調査地点に向かおう」
リーフに促されて次の調査地点へと向かう。
調査地点まで移動する途中で何回かモンスターに襲われるが、襲ってくるモンスターはレッサーバジリスクのみであり戦闘自体は多少時間がかかる程度で問題なく切り抜けることができた。
モンスターを駆除しながら次の地点へと向かい、安全が確認できたら周囲を調査する。
その繰り返しでどんどん中心部の方へと向かって調査を進めていった。
「トワ君、この周囲の異変に気付いているであるか?」
「異変ねぇ。モンスターがレッサーバジリスクしかいないって事か?」
「そうである。これだけ広い平原であれば他にもモンスターはいて然るべきである。であるのに、この遺跡に入ってからモンスターは全てレッサーバジリスクのみであるよ」
「確かにそうだねー。でもそれを言ったら、遺跡の外にレッサーバジリスクがいなかったことも何か関係あるのかなー?」
「それも関係がありそうであるな。ともかく、まずは護衛に専念であるがな」
「そうですね。気をつけましょう」
「さんせー。奇襲とかされないように気をつけなきゃねー」
「奇襲を受けるとしたら地中からしかないけどな。リーフ、この辺の土壌ってどんな感じなんだ?」
「そうだね、あまり固くはないかな。だが、レッサーバジリスクが地中を潜ってくるとは聞いたことがないが」
「それならそれでいいんだ。注意するに越したことはないからな」
「確かにその通りだ。私も気をつけよう」
リーフに注意を促した後も調査作業は続き、かなりの距離を移動してきた。
それなりに時間も経ったし、そろそろ今日の調査は終わりかな。
「……ふむ、今日一日で大分調査が進んだな。もう少し進んだら終わりにするとしよう」
「わかった。それじゃあ、先に……」
「待つのであるトワ君! 地面が揺れているのである!」
「なんだ、地震かね!」
教授が言うように地面が揺れ出し、しばらくすると地中から巨大な蜥蜴型モンスターが飛び出してきた。
「こいつが冒険者達を襲った巨大モンスターか!?」
「よりにもよって地中から来るとは……。モンスター名ヒュージレッサーバジリスク、レベルは63である!」
「了解! リーフは下がっていてくれ。俺達が相手をする」
「心得た。済まないがよろしく頼むよ」
ヒュージレッサーバジリスクのレベルは63。
対して俺達のレベルは、俺とユキが64、イリスが63、教授が69である。
レベル的にはほぼ同格、おそらくボスモンスターのヒュージレッサーバジリスク相手では気が抜けないな。
「プロキオンはあいつの注意を引いてくれ。ユキはバフを、教授はデバフを頼む。俺とイリス、シリウスで攻撃を仕掛ける!」
「了解である。さあ、行くのであるよ!」
「わかった。気をつけてね、皆!」
「りょうかーい。いっくよー!!」
ヒュージレッサーバジリスクは名前にヒュージとつくだけあって非常に巨大である。
おそらく6メートルくらいはあるんじゃないかな。
その巨体と蜥蜴型という姿にも関わらず、動作はそれなりに俊敏だ。
だが、プロキオンも素早さでは劣っておらず、上手に相手の注意を惹きつけて足止めを行う。
その隙に教授がデバフを複数付与し、ユキがパーティ全員にバフをかける。
攻撃態勢が整ったら一気に攻撃を始め、ダメージを積み重ねていく。
「……ふむ、パーティレベルのボスにしてはHPが多めであるが、攻撃力はあまり高くないのであるな?」
「そうだな。HPバー3本は多めだけど、それだけのボスか?」
「……トワ、教授! ボスが変わった動きを始めたよ!」
一心不乱にプロキオンの事を追い回していたヒュージレッサーバジリスクであったが、いきなり動きを止めると尻尾をくわえる動作をする。
そして、勢いをつけて尻尾を振り回すと、周囲に電撃が降り注いだ。
「っと、こいつ、雷鳴属性持ちか!?」
「そのようであるな! プロキオンとシリウスが感電状態になったのであるよ!」
「どうやら、ここまでは届かないようだけど、距離には要注意だね!」
「そのようだな。……アンチショック!」
「どうやら状態異常は回復したようであるな。……レジストショック」
「この先も電撃攻撃には注意しないとねー」
「そうであるな。ここまで届く攻撃がないとも言えないのである」
「注意するに越したことはないか。ユキも気をつけてくれ」
「うん、わかった」
どうやらHPが高いだけのボスではないようだ。
俺自身は雷鳴耐性が高いから問題ないけど、周りが攻撃を受けたらどうにもならないからな。
その後も尻尾の振り回しからの落雷攻撃や、雷のブレス攻撃、レーザーのようにこちらを狙ってくる電撃など、様々な攻撃を使ってくるヒュージレッサーバジリスク。
HPが高く後衛狙いの遠距離攻撃も使ってくる厄介な相手ではあったが、時間をかけることで何とか撃退することができた。
……うん、回復アイテムの物量による力押しが効いてよかったよ。
「……どうやら倒したようであるな」
「そのようだ。大分苦戦させられたけどな」
「レベル差がない事を考えれば十分であるよ。……さて、ヒュージレッサーバジリスクは倒したわけであるが、ここからはどうするべきであるかな」
「そうだね。できればもう少し先も調べさせてほしいかな?」
戦闘が終わった事を受けて、俺達よりも後ろで様子を見ていたリーフが前に出てきた。
「ふむ、もう少し先ならば問題ないのであるが、そちらは大丈夫であるかな?」
「ああ、問題ない。せっかく謎の巨大モンスターを倒せたんだ。この隙に中心部も調査したいからね」
「……それならもう少し先まで調べてみるか。ユキとイリスも問題ないか?」
「うん、大丈夫だよ」
「ボクも平気ー」
「ありがとう。では、先に進むとしよう」
ヒュージレッサーバジリスクが出てきた穴を迂回して先に進むと、平原の中にクレーターのような場所があった。
中を覗いてみると中央部付近にレッサーバジリスクのものと思われる巣が見つかった。
「……なるほどなるほど。レッサーバジリスク達はあそこから来ていたようだね」
「そのようだな。……クレーターの壁面に大きな穴がある。ここを通ってさっきのヒュージレッサーバジリスクは襲ってきたようだな」
「さて、こうなると面倒だね。これ以上、中心部を調査するにはあの巣が邪魔になる訳だけど……」
「さすがにこの戦力では無理であるな」
「わかっているさ。今日はここまでにしよう。あの巣を見つけられただけでも十分な収穫だ」
「……肝心の遺跡の調査はどうなんだ?」
「そちらについてはさっぱりだな。他の方面を調べるにしても、レッサーバジリスク達が邪魔だ。まずはあの巣を何とかしないと」
「そうであるな。今日はここらで引き上げるのである」
「そうだね。見つかる前に街まで戻るとしよう」
その後は途中で寄り道をせずに街まで引き返した。
戻ってくる最中にはレッサーバジリスク達に襲われることもなく、安全に引き返すことができたのが幸いかな。
「……さて、今日の調査だが、邪魔者の存在が明らかになったことだけでも十分な成果だ。今まではどんな状況かもわからなかった訳だからね」
「それは結構。それで、今後はどうするんだ?」
「そう焦らないでくれ。まずは今日の報酬だ」
リーフから渡されたのは十数個の強化結晶。
どうやらこれが今日の報酬らしい。
「さて、今後の計画だが、調査は一旦中止だな。あのような脅威がいることがわかった以上、のんびり調査などできん」
「だろうな。……あの遺跡が調査されてなかったのって、レッサーバジリスク達が原因か?」
「かもしれんな。もっとも、あれだけの脅威が街のそばにあるのに、駆除されていないのもおかしな話であるが……」
「確かにそうであるな。……ただ、我々も引き上げる際には襲われなかったのであるが」
「それも不思議な話だ。ともあれ、まずは遺跡全体でどうなっているのかを調べなくてはいけないだろう。次はそちらの調査だな」
〈シークレットクエスト『遺跡に巣くう魔獣達』が発生しました。受注しますか?〉
次もシークレットクエストか。
クエスト詳細は……
―――――――――――――――――――――――
シークレットクエスト『遺跡に巣くう魔獣達』
(パーティ推奨)
クエスト目標:
ウォールナットの遺跡周辺の魔獣の生息域を調査する
クエスト報酬:
強化結晶
―――――――――――――――――――――――
どうやら次も似たようなクエストのようだな。
リーフの護衛がクエスト目標から外れたから、そちらはしなくてもいいみたいだけど。
「さて、次の調査だが、これも引き受けてもらえるのかな? できれば引き受けてもらえると嬉しいんだが」
次は完全に戦闘系のクエストだよな。
さてどうしたものか……
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