291.ウォールナットの遺跡

「さて、買い物も一段落したようだし、今度はこっちの話を聞いてもらおうか」


 ユキの買い物が終わり、近くの広場に移動すると、リーフがそう切り出した。


「はい、わかりました」

「それで、遺跡の調査をしたいって話だったが……」

「ああ、私は考古学者でね。遺跡の調査や発掘を生業にしている。最近では、ブリーズウッドこの街の北東にある『ウォールナットの遺跡』を調査中だな」

「調査中という事は、まだ終わってないんですね」

「ああ、そうさ。いかんせん、遺跡という奴はモンスターのねぐらになってたりするからね……なかなか、調査を進められないのさ」

「うん? それだったら、冒険者を雇ってモンスターの駆除を依頼すればよかったんじゃないか?」

「それを試していないとでも? 既に3回試して3回とも返り討ちにあってるよ。何でも、巨大なモンスターに襲われたとか」

「それは気の毒でしたね……。それで、私達二人に駆除を依頼したいと?」

「あー、ちがうちがう。依頼したいのは駆除じゃなくて、私の護衛だ。私もそれなりには戦えるが、調査中は無防備だからな。腕利きに護衛してもらおうって訳さ。どうだい、この依頼、受けてはもらえないかね」


〈シークレットクエスト『フォレスタニアの考古学者』が発生しました。受注しますか?〉


 ふーん、シークレットクエスト扱いか。

 クエスト詳細も見てみるか。


 ―――――――――――――――――――――――


 シークレットクエスト『フォレスタニアの考古学者』

           (パーティ推奨)


 クエスト目標:

  ウォールナットの遺跡にてリーフの調査作業を手伝う

 クエスト報酬:

  ???


 ―――――――――――――――――――――――


 ふむ、パーティ向けクエストか。

 まあ、人を護衛するんだから人数はいなくちゃダメだよな。


「これって今すぐに返事をしなくちゃダメか?」

「いや、今すぐでなくても構わないよ。そちらにも都合があるだろうし、護衛となれば君達二人だけでは厳しいだろうからね」

「わかった。決まったら連絡するけど、どこに行けば会える?」

「そうだな……よし、私の家まで案内しよう。話がまとまったらそこにきてほしい」

「了解した。それじゃあ、案内よろしく」

「ああ、それではついてきてくれたまえ」


 再びリーフに先導されて移動すること10分ほど、周囲の家とは異なる印象を受ける家に辿り着いた。


「ここが私の研究室兼自宅だ。普段はここにいることが多い。もしいなかった場合は、メモか何かを残していってくれ」

「ああ、わかった。それじゃあ、俺達はこれで引き上げるぞ」

「ああ、了解した。依頼の返事だが、1週間以内にはもらえるかな。急ぎではないとは言え、あまりのんびりするつもりもないのでね」

「わかったよ。近日中には結果を伝えに来るさ」

「それは頼もしい。それじゃあ、よろしく頼むよ」


 自分の家に戻っていくリーフを見送り、俺達は最寄りのサブポータルへと向かう。

 問題はパーテイメンバーの選定だな。

 とは言っても、フォレスタニアにくることができる人間っていうのは限られてるんだけど。


「トワくん、他の参加者ってどうするの?」

「どうしたものかね。とりあえず、一人ずつ聞いて回るよりほかないかなと思ってるけど」

「わかったよ。それで、誰に聞いてみるの?」

「まずはイリスと柚月だな。その後で、教授にも声をかけてみる」

「教授さんにも? 迷惑じゃないかな?」

「教授も考古学者の一人だし、シークレットクエストなら喜んでついてくるだろ。問題は、パーティの配分が後衛ばかりになることだけど……」

「それは仕方がないよね。前衛ができる人って、私達の周りだとフォレスタニアに来ていないもの」

「そうなんだよなぁ。ともかく、まずはクランホームに戻って柚月とイリスに聞いてみよう」


 サブポータルに辿り着いたら、クランホームまで戻り柚月とイリスに事情を話して協力をお願いする。


「うーん、手伝ってあげたいけど、私は難しいわね。曼珠沙華から依頼された服がまだまだ残ってるから……」

「ボクの方は大丈夫だよー。という訳だから、行くときには声をかけてねー」

「わかった。イリス、よろしく頼むな。柚月は……生産頑張ってくれ」

「了解。……私は曼珠沙華とは違って、コスプレ系のデザインは苦手だっていうのに……」

「……まあ、無理しない程度にな。それじゃあ、俺は教授も誘ってみるから」

「わかったよー」

「私は工房に戻らせてもらうわ。頑張ってね、トワ」


 柚月の激励に手を振って答えると、柚月は自分の工房へと戻っていった。

 その後、教授にフレチャで連絡を取ると、詳しい話が聞きたいとかで、すぐに『ライブラリ』にやってきた。

 そして、教授にリーフとの出会いから依頼された内容まで話をしてみた。


「なるほどなるほど。遺跡の発掘作業を手伝えばいいのであるな」

「発掘作業を手伝うというか、発掘作業をしているリーフNPCの護衛だな」

「了解である。そう言うことならば私も手伝うのであるよ。住人の考古学者というのも珍しいのである」

「そうなのか? ……そういえば、考古学者のジョブチェンジってどうやってるんだ?」

「考古学者のジョブチェンジは、王都にある考古学協会で受けられるのであるよ。無論、考古学者以外には意味のない場所であるので、他のプレイヤーが知らないのは当然であるが」

「そんな場所があったんだな」

「あったのであるよ。……さて、今日は調査に行けなくとも顔を出しておくことならできるであろう。一度、その考古学者の元に案内してもらいたいのである」

「わかったよ。それじゃあ行くとしよう。イリスはどうする?」

「ボクも一緒に行こうかなー」

「了解。ユキもくるか?」

「私は、新しく買った食材で何が作れるのか試してみたいな」

「わかった。それじゃあ、ユキは不参加で、この3人で会いに行こうか」

「了解である」

「おっけー」


 俺達一行はフォレスタニアへと転移してリーフの家へと向かった。

 リーフの家に辿り着いて、ノックをしてリーフを呼び出すと少ししてからリーフが現れた。


「やあ。随分と早かったけど、もう人数が揃ったのかい?」

「ああ、俺達3人にユキを加えた4人で護衛することになった。こっちのが教授、あっちの女の子がイリスだ」

「教授である。よろしく頼むのであるよ」

「イリスだよ。よろしくねー」

「なるほど、それなら大丈夫そうだ。……ただ、前衛を務める人間がいないみたいだけど、そこは大丈夫かい?」

「その辺は立ち回りで何とかするしかないかな、と思ってる。一応、足りない分は眷属で補う予定だけど」

「ほほう。フォレスタニアに来ているので、何か眷属を連れているだろうとは思っていたが、随分自信ありげなようだ。これはひょっとするとなかなかの掘り出し物を見つけたようだぞ」

「そうであろうなぁ。トワ君達は異邦人の中でもかなり特殊故に」

「ほほう、そうなのかね。そういえば、教授からは私と似た気配を感じるな」

「私も考古学者であるからなぁ。そのせいであろう」

「ほほう、考古学者か! 異邦人ではかなり少ないと聞いていたが、まさかこんな形で出会えるとはな!」

「喜んでもらえて光栄である。それで、今度向かう遺跡について教えてほしいのであるよ」

「わかった、任せてもらおう。それではこちらの部屋に来てくれ」


 リーフに奥の部屋へと案内されて、今回行くウォールナットの遺跡についての基本的な知識やら発掘の目的、何を見つけたいかなどの話が始まった。

 とりあえず理解できたのは、ウォールナットの遺跡は二千年前から千五百年前の都市遺跡で、当時の生活様式は現在のフォレスタニアとは大きく異なること、また、ウォールナットの遺跡ができた理由を探るのが今回の目的である事と言ったところか。

 また、今回の調査はリーフ個人で行うものではなく、国に認められた上での調査らしい。

 より詳しい話は、教授が行っているが……正直、ちんぷんかんぷんだ。


「……さて、事前の意見交換はこれくらいで大丈夫だろう」

「そうであるな。この続きは現地に行ってから聞きたいのである」

「ああ、構わないぞ。……それにしても、考古学者仲間を連れてきてくれるとは、私は運がいいな」

「まったくであるな。それでは、当日はよろしく頼むのである」

「こちらこそよろしく頼むよ」


 教授とリーフの話し合いも終わったようなので、リーフの家を後にする。

 帰り道の途中で、決まった事を教授に確認を取る事にした。


「教授、一体何を決めたんだ?」

「ふむ、そうであるな。まずは、遺跡に向かう日程であるが、リアル時間の明日夜9時頃という事に決めたのである」

「……いや、決めたのであるって。都合がつかなかったらどうするよ?」

「その時は再調整であるな。それで、時間は大丈夫なのであるか?」

「ボクは大丈夫だよー」

「俺も大丈夫だが……ユキにも聞いてみる」


 ユキにフレチャで時間は大丈夫か確認したが、特に問題ないという事なので、教授にそのまま伝えた。


「やはり全員問題なかったようであるな。それで、実際に遺跡に行ったときであるが、まずはある程度モンスターの間引きを行うのである。その後、私とリーフで色々と調べていくのであるよ」

「やっぱり教授も調べる側に回るんだな」

「当然である。このような面白い機会を逃す手はないのであるよ」

「それでー、調査の目標はどうなったのー?」

「最終的な目標は、何故、ウォールナットの街が滅びたかの調査であるが……そこまでわかるとは思っていないのである。リーフが受けている依頼としても、国家踏査団が乗り込む前の事前調査というのが目的らしいのであるな」

「つまり、基本的には本命の調査を行う前の事前調査ができればいいって事か」

「そうなるのである。もっとも、詳しい調査ができればそれだけよいという事であるがな」

「まあ、無理に高望みする必要もないだろ。……それじゃあ、明日はどこで待ち合わせなんだ?」

「普通にリーフの家で待ち合わせである。我々は『ライブラリ』のクランホームで一度合流してから向かえばよいであろう」

「……それもそうだな。わかった、そうしよう」

「それでは私はこれで失礼するのである。明日はよろしく頼むのである」


 サブポータルに辿り着くと教授は足早に転移していった。

 明日の調査のための準備でもするのかな?


「トワ、ボク達が準備する事って何かあるのかな?」

「うーん、特にないんじゃないかな。基本俺達の役目ってモンスターの駆除と護衛だから」

「それなら装備の手入れぐらいだね。ボクも戻るとするよ。バイバーイ」

「ああ、お疲れ様」


 イリスを見送った後、俺もクランホームへと戻り、念のために持ち歩くポーションを追加作製しておいた。

 なお、追加作成の途中でユキから試作品の料理の味見を頼まれたが、ユキの料理らしく好みに合った味付けだったという事だけ伝えておこう。

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