290.フォレスタニアの旅

「よし、HPハイポーション、依頼の数できたぞ」

「ありがとうございます。そちらに運んでください」

「わかった」


 今月の行動予定が決まった翌日、俺とユキはフォレスタニアの各ギルドを再訪し、そこで簡単なお手伝いクエストをする事となった。

 俺の場合、ガンナーギルドに錬金術ギルド、それから調合ギルドになる。

 ガンナーギルドと錬金術ギルドでは特にお手伝い系のクエストがなかったため、調合ギルドで調合のクエストを受けている最中だ。


「……はい、品質も問題ありません。以上で作業終了になります」

「それはよかった。品質の方は上にぶれないか心配だったんだけどな」

「それは大丈夫ですよ。あの調合セット、かなりガタがきているので最高品質にはならないので……」

「それって大丈夫なのか?」

「……最高品質にならないだけで、店に卸すポーションを作るのにはちょうどいいんですよね」

「……まあ、そう言うことならあまりつっこまないけど」


 確かに使ってて違和感があったと言えばあったのだが、普段自分が使っているものと違うって言うだけじゃなかったんだな、理由。


「ともかく、これで作業終了です。こちらを受付までお持ちください。規定の依頼料を受け取れます」

「はいよ。……ところで、フォレスタニアはあまり詳しくないんだけど、何か変わったものとか面白い場所とかはないか?」

「変わったものや面白い場所ですか?……フォレスタニアではそう言った場所は少ないですね。と言うよりも、ほぼないでしょう。千年単位で続いている国家ですが、歴史的に重要な遺産と呼べるものもほぼありませんし、あまり観光客などを相手にする事もないので、観光名所的な場所もありません。どちらかというと閉鎖的な国ですからね、フォレスタニアは」

「そうか……。いや、それならいいんだ。ありがとう」

「いえいえ。こちらこそ溜まっていた作業を片付けていただきありがとうございます。機会があればまたお願いいたします」

「わかった。それじゃあな」


 依頼完了の印が入った依頼票を受け取り、受付まで戻ってくる。

 受付で依頼完了の手続きをしてもらいながら、さっきと似たような質問をしてみたが結果は一緒だった。

 フォレスタニア自体が国として観光とかには力を入れていないらしい。

 そうなると、見て回れるような場所もほとんどないだろうな。

 依頼達成の確認が終わり、依頼料を受け取ったらユキと合流だ。


 ユキと合流するために待ち合わせ場所として転移門広場を利用する。

 王都やジパンならそれなりのプレイヤーがいる転移門広場だが、この国では転移門広場にいる人は極端に少ない。

 この国にあまりプレイヤーが入国できていないとも聞くし、待ち合わせ場所としてはあまり使われていないのだろう。

 ……実際、ガンナーギルドや錬金術ギルドもフォレスタニアの住人向けと思われるサービスがメインだったからな。


「お待たせ、トワくん。……何か考えごとの最中?」


 考え事をしてるとユキがやってきた。

 ユキの方も料理ギルドでのクエストをこなしてきたようだな。


「ああ、ユキか。考え事というか、プレイヤーの数が少ないなと思ってさ」

「そういえばそうだよね。マナリーフだとそれなりに他のプレイヤーもいたけど、この国だと全然見かけないよね」

「まあ、そういうことだな。……こっちは話を聞いてもほとんど何もないとしか言われなかったけど、ユキの方では何か収穫があったか?」

「うーん、私の方も収穫はないかな。観光スポットのような場所も特にないって。どうしようか、トワくん」

「そうだなぁ、適当に街を歩いてみるか」

「うん、わかったよ。それじゃ、いこう」


 ユキと連れだって転移門広場を後にする。

 転移門広場から大通りに出てフォレスタニアの市場側に向けて歩いて行くが、これといってめぼしいものは見当たらない。

 市場では食材をメインに色々なアイテムを売ってはいるが、これといって珍しいアイテムはなさそうである。

 実際、ユキの方は一通り眺めたら興味を失ったように次へ向かおうとしてるしな。

 俺の目から見ても、特産品と呼べそうな作物はないし、普段から食材を扱っているユキなら尚更なんだろうな。


「どうだ、ユキ。何か珍しいものがあったか?」

「ううん、特にないかな。食材アイテムも、他の国で買えそうなものばかりだし……」

「のようだな。さて、そうなるとどこに向かったものやら」


 こう言ってはなんだけど、本当に行く場所がないな。

 ジパンのように特別な住人NPCにいきなり接触できる方が珍しいとは言え、ここまで何もないとどうしたものかと思ってしまう。

 さて、どうしたものかな。


「……おや、お二人さん。何か困り事かな?」


 今後の予定について悩んでいると、住人に声をかけられた。


「うん? ……ああ、困り事と言うか、どこか面白い場所はないかと思ってな」

「面白い場所ねぇ。……お二人さん、フォレスタニアの人間じゃないと見えるがあってるかな?」

「ああ、俺達は異邦人だ」

「なるほどなるほど。それならば、今の質問にも納得だ。フォレスタニアは良くも悪くも閉鎖的で観光地ではないからね。見て歩く場所がないと言うのも納得だ」

「……まあ、そう言う訳なんだよ。どこか面白い場所とかを知らないかな?」

「ふむ、まあいいだろう。こちらから声をかけたわけだしね。現地の人間しか行かないような市場に案内してあげよう。私はリーフ。君達は?」

「俺はトワ。それで、こっちはユキだ」

「よろしくお願いします、リーフさん」

「ああ、よろしく頼むよ。それではこちらだ。ついてきたまえ」


 リーフと名乗る女性の案内に従い、後をついていく。

 リーフは大通りを外れて脇の小道へと入り、住宅街らしき場所の中をスイスイ進んでいく。


「……ここは住宅街か? どこもかしこも木造建築ばかりだが」

「フォレスタニアは木材が豊富だからさ。石材を切り出してくるよりも、木材だけで家を建てた方が楽というわけさ」

「そうなんですね。……でも、これだけ家が並んでいると火事とかになったら大変そうですね」

「火事か。確かに、木材は火に弱いからな。だが、フォレスタニアで建材として使われる木材には特殊な加工が施されていてね。簡単には燃えないようになっているんだよ。だから火事が起こることも滅多にないかな」

「そうなんだな。ちなみに、その技術って学べるのか?」

「ほう、興味があるのかね? 学べないこともないだろうが、あまり意味はないと思うぞ。建築用の木材にするような大きさがなければ効果を発揮しない技術が使われているのだ。今も日夜研究をしてはいるようだが、人間が身につけるような装備サイズで有効な効果が得られたという報告はないね」

「そうなのか。そうなると、俺達が学んでも仕方がないって事か」

「それ以前に、学ぶための下地があるかどうかも問題だね。植物に関する知識はもちろん、魔術や錬金術にも詳しくないといけないと言う話だ。学べないこともないだろうが、果たして役に立つかどうか」


 うーん、魔術や錬金術は何とかなるだろうけど、植物に関する知識はないな。

 何かのフラグのような気はするけど、ここは軽く触れる程度にしておくか。


「魔術と錬金術ならある程度以上の実力はあるんだけどな。植物の知識もないと難しいか?」

「難しいだろうな。そもそも、この技術を学んで異邦人の役に立つかがイマイチわからん。建材レベルの大きさがないと効果を発揮しない技術だ。それに燃え広がりにくくなるだけで、強度は変わらないわけだからな。もし、鎧や盾に利用しようと考えているなら諦めることだ」

「……やっぱり無理か」

「無理だな。むしろ、フォレスタニアがそれを試していないとでも?」

「だよな。いや、忘れてくれ」

「いやいや、未知のものに向かおうとする心構えは大変好ましい。まあ、今回は的外れだったというだけでな」

「そう言ってもらえると助かるよ。それで、市場とやらはこんな住宅地の中にあるのか?」

「そうだ。現地の人間しか取り扱わないような作物を売っているような場所だ。住宅地の中に場所を構えるというのも納得できるのではないか?」


 現実で言うところのスーパーみたいなものかな?

 普通、大きな街に設置されている市場はデパートみたいに何でも売ってるわけだし。

 比較対象としてはそんな感じになるんだろうな。


「……ここを右に曲がってと。ついたぞ、ここだ」

「……確かに、住宅地のど真ん中に市場があるな」

「それに見たことがない食材がいっぱいですね」

「興味があるなら見てくるといい。調理の仕方も聞けば教えてくれるだろう」

「わかりました。トワくん、ちょっと行ってくるね」

「ああ、気をつけてな」


 市場の中に小走りで向かっていくユキを見送り、俺はリーフに尋ねてみる。


「それで、俺達をここに案内した理由はなんなんだ?」

「単なる気まぐれ……だけでは満足ではなさそうだな。そうだね、フォレスタニアに入国できる異邦人なら戦闘にもそれなりに自信があるんだろう? ちょっと手を貸してほしい事があってね」

「戦闘ねぇ。俺達は一応職人なんだけど」

「なに、この国のモンスターどもに後れを取らないなら十分さ。そうだね、詳しいことは彼女が戻ってきてから話そうか」


 確かに、ユキと別々に話を聞いても二度手間になるだけだからな。


「簡単にお願いしたい中身を話しておくと、ちょっとした遺跡の調査を手伝ってほしい。なに、手伝ってほしいのはモンスターの駆除だから難しいことはないさ」

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