293.今後の遺跡調査

「うーん、手伝いたい気持ちはあるんだがな。正直、今の戦力じゃ厳しいな」

「ふむ、そうか。やはり難しいか」


 リーフは特に落胆せずに俺の話を聞いている。

 この辺は冒険者と言うより職人として見てくれてるのかな?


「今日程度のモンスターしかでないなら、まあ何とかなる。でも、今日のレベルのモンスターが複数で襲ってきたら、俺達じゃ太刀打ちできないな」

「そうであるな。このパーティで対処出来る限界は、ボスがもう一段階強くなったくらいであろうな。あるいは、今日と同じレベルでも取り巻きにレッサーバジリスク達を連れてきていたら勝てたかどうか」

「その通りだ。悪いが、俺達が提供できる戦力じゃ、今日の状況が精一杯ってところだな」

「……そうか、わかった。君達に引き受けてもらえないのであれば、冒険者ギルドに依頼を出すしかないな」

「ああ、済まないが……」

「まあ、待つのである。話はまだ終わっていないのであるよ」

「教授?」


 教授の方では何か案があるんだろうか?


「トワ君達ではこれ以上の調査は厳しいのである。であるが、私と私の仲間達であればこれ以上の調査でも対応可能である」

「ほう。教授、それは本当かな」

「本当であるよ。我々には戦闘部門のクランメンバーもいるのである。そのメンバーを集めれば今日以上の戦力で調査できるのであるよ」


 なるほど『インデックス』の戦闘部隊を集めるのか。

 それならこの怪しい遺跡の調査も行けそうだな。


「ふむ、そう言うことならば教授に頼みたいところだが……トワ達は受けなくて構わないのだね」

「受けたくても実力的にきついからな」

「そうですね。私達ではこれ以上は厳しいかもです」

「そうだねー。教授達の戦闘部隊がきてくれるなら、そっちに任せた方が安心かなー」


 変に職人が戦闘イベントに関わり続けるよりも、ここは戦闘職に道を譲るとしよう。

 教授なら悪いようにはしないだろうし。


「ふむ、わかった。教授を連れてきてくれたこと、感謝するよ。もし何かあったら、また私の元を訪れるといい。出来る範囲で力になろう」

「ああ、わかった。それじゃあ、リーフ、またな」

「リーフさん、お疲れ様でした」

「バイバイ、リーフさん」

「私はもう少しリーフと話を詰めてから戻るのである。そんなにかからないはずなので、待っていてもらいたいのである」

「わかった。それじゃあ、俺達は先に戻っているな」

「うむ、それではさらばである」


 教授はリーフの元に戻り打ち合わせを始めた。

 今後の予定について話をしているのだろう。


「さて、俺達は先にクランホームに戻ろうか」

「そうだね、そうしようか」

「だねー。ホームに帰ろー」


 俺とユキ、イリスの3人はリーフの家から立ち去り、最寄りのサブポータルからクランホームへと帰還する。

 クランホームに帰還したら、イリスは一度装備のメンテナンスに行くと言って談話室を出て行った。

 俺とユキは教授が戻ってきたときのための準備だ。

 ……まあ4人しかいないので机を動かしたりしないで済むので飲み物を用意するだけだけど。


 数分でイリスが談話室に戻り、さらに数分後、教授がクランホームへとやってきた。


「やあ、待たせてしまったであるかな?」

「大して待っていないから気にしなくてもいいよ。それで、今後の調査については話し合いが終わったのか?」

「うむ、大体の話はついたのである。この先、何回かに分けてウォールナットの遺跡を威力偵察するのである。その結果をまとめて冒険者ギルドに対して『ヒュージレッサーバジリスクおよびレッサーバジリスクの巣の破壊』をクエストとして発注する事になったのである。『巣の破壊』クエストについては多パーティ参加型の協力クエストになるようであるな」

「そんなクエスト今まであったっけ?」

「数は少ないであるが存在してるのである。戦闘系コンテンツがほとんどである以上、トワ君達とは縁がなかったようであるな」

「それは確かに縁がなさそうだ。それで、今後のシークレットクエストについては教授達『インデックス』で引き受けてくれるんだな?」

「うむ、その予定である。トワ君にはシークレットクエストを途中参加から奪い取る形になってしまい、申し訳ないのであるが……」

「それは気にしなくて大丈夫だ。俺達『ライブラリ』だけでクエストを受けていたら、今日の時点で次の依頼は断るしかなかったんだからな」

「そうですね。私達で手に負えないクエストを引き受けてもらうだけですし、特に問題はないかと」

「だよねー。ボクもこれ以上、レッサーバジリスク達あいつらとは戦いたくなかったからちょうどいいよー」


 ……とまあ、『ライブラリ』側からすれば完全な戦闘イベントに移行した以上、どこかのクランに渡してしまいたい案件なのだ。

 そういう意味でも『インデックス』に丸投げできるのはちょうどいい。


「そう言うことであれば構わないのであるが……まあ、手に入れた情報は随時トワ君達にも知らせるのであるよ」

「別にその必要もないんだけどな。多分、俺達全員が断ってたら通常クエストとして発行されたんだろうし」

「おそらくはそうであるな。ただ、そうなるとワールドクエストではない事が気になるのであるが……」

「そこの線引きは曖昧なところがあるからな、この運営。あまり気にしない方がいいんじゃないかな」

「……それもそうであるな。それでは、とりあえず今日の報酬は全て『ライブラリ』に渡すのである」

「さすがにそれはもらいすぎな気がしますよ、教授さん」

「構わないのであるよ。シークレットクエストを引き継がせてもらったと言うだけでも十分過ぎるほどの情報であるからな。その対価として強化結晶をその程度しか渡さないというのも問題であるが」

「それじゃあ、まだ追加で持ってきてくれるのか?」

「うむ。明日以降、数回に分けて遺跡の調査を行うのである。その時にもらえる強化結晶の一部を『ライブラリ』に譲るのであるよ」

「ふむ、具体的に一部ってどれくらい?」

「そうであるな。……他のメンバーとも話してみなければ何とも言えないのであるが、4割から3割くらいは融通するつもりであるよ」


 うん、特にクエストにかかわらずにそれだけの強化結晶が手に入るなら十分だろう。


「オッケー、それじゃそれで手を打とう」

「うむ。それで、このクエストクリアのためにポーション類や料理の準備をしてもらいたいのであるよ」

「わかった。それはこちらで用意しよう。適正価格で買ってもらうけどな」

「そこは承知の上である。……作ってもらいたいのは、レジストショックポーションと、対雷鳴属性が付く料理である。可能であるかな?」


 レジストショックポーションか、それなら確か作れたはずだな。

 後はユキの料理だが……


「対雷鳴属性の料理、作れますよ。昨日仕入れたフォレスタニアの食材でちょうどいい料理ができますから」

「おお、それはありがたいのである。それで、ポーションの方はどうであるか?」

「ポーションの方も問題ないな。後は素材をいくら手に入れることができるかだが」

「もし仕入れが必要ならば教えてもらいたいのである。我々で用意できるものもあると思うのであるからな」

「わかった。……うん、こっちは市場で買えるものだけで何とかなりそうだ。ユキの方は……って、追加の仕入れは住人の市に行かなくちゃダメか」

「うん。でも、今日渡す分の料理を作るだけの食材はもう持ってるから、問題ないよ」

「……という訳らしい。後はしばらく待っていてもらえれば、料理もポーションも出来上がるぞ」

「わかったのである。では、私は一度『インデックスクラン』に戻ってクランの戦闘班に状況を説明してくるのである」

「了解。……それで、その戦闘班ってフォレスタニアに入れるのか?」

「念のため、全部の国に移動できるようになっているはずであるよ」

「そいつはまた念の入ったことで」

「どこでどんなクエストを受ける事になるか、まったくわからないであるからな。今回みたいな住人NPC起点の隠しクエに対応するには、相応の柔軟さが求められるのであるよ」

「そういうものか」

「そう言うものであるよ。……さて、それでは私は一度戻るのである。アイテムの準備が出来たら、また呼んでほしいのである」

「わかった。準備が出来たら呼ぶよ」

「うむ、任せたのである。ではさらばである」


 自分のクランに帰っていく教授を見送り、俺とユキは足りないアイテムをマーケットボードから購入していく。

 アイテムが揃ったら工房へ行って、それぞれのアイテム作製だ。


 とは言っても、俺の作るレジストショックポーションは普段店売りはしないけどレジスト系はある程度備蓄として持っているポーションなので、普段通りに作れば★12のポーションの完成である。

 今回はポーション瓶による効果増幅はしないが、増幅無しでも雷鳴属性ダメージ50%カット、状態異常『感電』100%カットなので問題はないだろう。

 増幅すれば、効果時間が延びるけどそこまでしなくても、管理出来るだろう。


 そんな感じでレジストショックポーションを作成し終えた俺は、ユキの料理も確認してみる。

 ユキが作っている料理は……なんだろうね?

 豆を煎ってスープにしたものみたいだけど……


「ユキ、この料理って一体?」

「煎り豆のスープだよ。これが雷鳴耐性を高める料理なの。味見してみる?」

「ん、じゃあ少しだけ」

「わかったよ。……はい、どうぞ。味の調整は済んでるから大丈夫だと思うよ」

「了解。……うん、さっぱりしてておいしいスープだな。これで、どの程度の効果があるんだ?」

「30分間、雷鳴属性のダメージを30%カット、かな」

「やっぱりこの手のアイテムだと、ポーション類の方が効果は高いか」

「それはそうだよ。料理はどちらかというと、長時間効果が持続することが売りなんだから」

「ポーションだと10分程度しか持たないからな。連続使用をすると中毒が危険だし」

「そう言うことだね。……うん、準備完了。教授さんを呼ぼう」

「そうだな。俺の方から連絡を入れるよ」

「うん、よろしくね」


 教授にフレチャをつなぎアイテムの準備が出来たことを告げると、数分でアイテムの受け取りにやってきた。

 なんというか、早いな。


「ずいぶん早くきたな、教授。別に逃げやしないのに」

「待たせるのも悪いのであるからな。それで、できたアイテムは?」

「ああ、これが俺からのレジストショックポーションだ」

「こっちが私の料理です。効果は、雷鳴属性のダメージを30%カットが30分、です」

「いや、十分である。おそらくボスでしか使わないで済むはずなので、これだけあればしばらく持つのであるよ」

「それはよかった。それで支払いは……」

「支払いはこれでお願いするのである」


 教授が手渡してきたのはステータス強化結晶だった。

 それも現在で回っている中でも最高品質の★6品だ。

 それが4つ、さすがにこれは貰い過ぎな気もする。


「教授、さすがにこれは多くないか?」

「クエストに対する情報料も含めての値段であるよ。気にせず受け取ってほしいのである」

「……わかった。そう言うことなら受け取るよ」

「うむ、話が早くて助かるのである。それでは、打ち合わせを抜けてきているのですぐに戻らねば、さらばであるよ」


 慌ただしく教授が去っていったが、これでフォレスタニアのイベントは完全に俺達の手から離れただろう。

 戦闘系以外のクエストが続くなら継続して受けてもよかったけど、戦闘系クエストになってしまった以上、ついていくのが厳しいからな。


「あら、トワにユキ。談話室に何か用?」

「ああ、柚月か。教授に依頼の品を納品してた」

「依頼の品? そういえば今日は教授達とクエストだったわよね。どうだったの?」

「ああ、それも報告した方がいいだろうな。まず、今日のクエストだが……」


 柚月に今日のクエスト内容について順を追って説明する。

 俺の説明で足りないところはユキが補ってくれるのでありがたい。


「……つまり、今日の分のクエストはクリアできたけど、そこから次のクエストは純粋な戦闘系クエストに切り替わったから、『インデックス』に丸投げしたと」

「まあ、そんな感じ。問題あったかな?」

「あっちが喜んで引き受けたなら問題ないんじゃないかしら? 戦闘系クエストを私達が引き受けるのも厳しいし」

「だよな。……という訳で、俺とユキのフォレスタニア調査は終了だな」

「……少し強引な気もするけど、区切りはいいわね。それじゃあ、明日以降はマナリーフの探索かしら」

「明日はレイドの日だし、時間があったらだけどな。とりあえず、まずは学術都市をぶらぶらしてみるつもりだよ」

「わかったわ。私は曼珠沙華の依頼をこなしつつ、フォレスタニアに何かないか探してみる。手伝いが必要になったらよろしく」

「それはこっちもだな。……まあお互いに大規模イベントにぶつからないように注意しよう」

「それ、フラグっていうのよ」

「むぅ」


 何はともあれ今日の冒険はこれで終了だな。

 明日の昼間、ログインする時間があったら一足先にマナリーフの学術都市を探索してみるか。

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