286.教授との情報交換
無事に【精霊魔術】と【原初魔術】の両方を覚えられるようになるためのスキル【魔力の源泉】を覚えた翌日、俺達は教授にこの情報を渡すために教授と情報交換をする事となった。
時間は教授からの指定で夕方前、午後4時頃の予定である。
日中に済ませなければいけない用事を全て済ませた俺達は、ログインして生産活動をしながら教授がクランホームに来るのを待つ。
ユキは教授を待っている間に飲み物とお茶菓子を用意していた。
そしてリアル時間で午後3時40分頃、教授から連絡が入りこれからこちらに向かうとの事だった。
俺達がログイン状態であるのはわかっているためか、既に決定事項としてこちらに向かうらしい。
教授らしいと言えば教授らしいのだが、相変わらず目的の情報が目の前にあるとせっかちである。
生産作業をキリのいいところで終わらせて、談話室に向かうと既に教授が待ち構えていた。
「来たのであるな。では早速、調査結果を聞かせてもらいたいのである」
「まあ、まて、教授。ユキと柚月も来てからだ」
「うむ、それもそうであるな。であるが、先に結論だけは聞いておきたいのである。【精霊魔術】と【原初魔術】、両方を覚える事はできるようになったのであるか?」
「ああ、それはできるようになった。詳しい話は全員揃ってからだ」
「わかったのである。こちらも調査状況を報告したいのであるからな。揃ったら早速始めるのである」
俺と教授が席についてまもなく、ユキと柚月が姿を見せた。
「まったく、待ち合わせ時間よりも早く来すぎよ。相変わらずせっかちね」
「こんにちは、教授さん。まずは飲み物とお茶菓子を配りますね」
「うむ、よろしく頼むのである。そして、待ちに待っていた情報が目の前にあると聞かされてはじっとしてられないのであるよ」
「……まあいいわ。それでは情報交換といきましょうか。まずは私達の調査結果からね」
ユキが席に着いたのを見計らい、柚月がこちらの調査結果を報告していく。
教授には【精霊魔術】と【原初魔術】を覚えたところまでは既に報告済みだし、それぞれの研究者が学術都市に移動してクエストが発生していたことも伝えてあるのでその続きからだ。
まあ、その続きと言っても、これまでと同じように一定の条件でモンスターを倒すだけなので説明はかなり短く済んだが。
「……とまあ、そう言う訳でシークレットクエストはクリアしたわ。その結果としてもらった報酬が【魔力の源泉】スキルね」
「ふむ、【魔力の源泉】であるか。その効果はどのようなものであるか?」
「色々とあるから主立ったものだけ上げていくけど、【精霊魔術】と【原初魔術】の同時取得可能化、【精霊魔術】と【原初魔術】の取得SP減少、魔法や魔術スキルの攻撃力強化や消費MP低下、クールタイムの減少などね」
「それはまた多岐にわたるスキルであるな。それだけ強力なスキルであれば相応のコストが必要だったのであろう?」
「ここからは俺が説明するよ。【魔力の源泉】は確かに相応のコストが必要だったな。普通に取得しようとすると消費SPは50だった」
「うん? 普通に取得すると? 他にも取得方法があったのであるか?」
「ああ。夏休みイベントのイベントポイントが余ってたから、プラチナスキルチケットと交換してスキルチケットで覚えられないか試してみたんだ。そうしたらプラチナスキルチケットで【魔力の源泉】を覚えられてな。そのおかげで、SP消費無しでスキルをゲットできたよ」
「プラチナスキルチケットの上限SPは40だと思われていたのであるが、50でも取得出来るのであるな。私もプラチナスキルチケットを残しているので【魔力の源泉】を覚えられるようになったら試してみるのである」
「それがいい。あと、【魔力の源泉】を覚えると、【精霊魔術】と【原初魔術】の消費SPが30まで下がるから、ゴールドスキルチケットで覚えられるようになるぞ」
「それも嬉しい情報であるな。……もっとも、プラチナスキルチケットやゴールドスキルチケットを残しているプレイヤーがどれだけいるかは疑問であるが」
「そこまでは知らないな。……とりあえず、こちらから話せることは以上だな。ユキや柚月から補足はあるか?」
「ううん。特にないよ」
「そうね、特別補足しなくちゃいけないような内容はないわね」
「……だそうだ。【魔力の源泉】絡みの情報はこれで全部だよ」
「うむ、了解したのである。……そうなると、まずは【魔力の源泉】を取得したのは、トワ君達が一番初めなのかが気になるのであるな」
「つまり俺達より先にクエストクリアしているプレイヤーの存在か?」
「うむ。ここの運営であるからして、第一クリア者には称号程度のボーナスはありそうである。今回はそれがなかったのでなぁ」
「……まあ、俺達のスキル調査も遅かったし仕方がないさ」
「そうであるな。あと【魔力の源泉】につながるイベントの発生条件が気になるところであるな」
「発生条件? それぞれの魔術の研究者に話をするだけじゃないのか?」
「それがトリガーなのは間違いないのである。であるが、そのイベントが起こるプレイヤーと起こらないプレイヤーがいるのであるよ」
「そうなのか? 条件はまだわかっていないと?」
「そうであるな。今は、発生したプレイヤーと発生していないプレイヤーの状況を比べて色々調べているところである。ちなみに、私はイベントが発生した側であるな」
「そうか。でも、俺達も特別なフラグを立てた覚えはないぞ?」
「大丈夫であるよ。私も話を振った以外にフラグを立てた覚えはないのである。なので、それ以外のパラメーターが条件と思われるのである。まあ、今月中には条件の絞り込みが可能になると思われるのであるよ」
「それならいいんだが。さすがに、もう再調査はできないからな」
「わかっているのである。『ライブラリ』の残りのメンバーは魔法系スキルをあまり育てていないようであるからして、これ以上『ライブラリ』に調査協力を依頼することはないのであるよ」
「……その口ぶりだと俺達以外に調査協力を依頼しているようだけど?」
「『白夜』に協力を依頼してあるのである。あちらとしても、魔術士系プレイヤーの強化につながるこの情報は見逃せないのであるよ」
「まあ、そうだろうな。調査協力をしないでも情報が解禁になれば積極的に聞いてくるだろうし、先行して情報が得られる利益を考えれば安いものか」
「白狼君もそう言うことを言っていたのであるな。……もっとも、『白夜』のメンバーでもイベントが発生せずに、シークレットクエストが発生していないのであるが」
「……まあ、サンプル数が増えたと思えばいいんじゃないかな」
「そう思うしかないのであるな。……さて、それでは【魔力の源泉】についてはこれで大丈夫であるな」
「そうだな、これ以上教えられる事は無いと思うぞ」
「私も含めて何人かはシークレットクエスト受注まで進んでいるのである。あと数日もすれば【魔力の源泉】スキルを入手出来るのであるよ」
「それはよかった。それじゃあこっちの話は終了でいいな」
「うむ、構わないのである。……さて、それでは我々が調査していた強化アイテムについての調査結果を報告するのである」
さて、俺達側からすればここからが本題だ。
『インデックス』がどこまで調べ上げることができているのかな。
「まずはこのスキルブックを受け取ってほしいのである。……ああ、ここにいない『ライブラリ』メンバーの分も用意してあるので後で渡してほしいのであるよ」
そう言って教授から渡されたスキルブックのスキル名は『強化結晶鑑定』だった。
「教授、これって……」
「スキル名の通り、『強化結晶』と呼ばれているアイテム群の効果を鑑定できるスキルである。取得すると特殊スキルにスキルが追加されるのであるよ」
「なるほどな。これってもらってしまっても構わないのか?」
「そちらに渡すために集めたのである。もらってもらわないと困るのであるよ」
「それもそうか。それじゃあ、遠慮なく使わせてもらうよ」
受け取ったスキルブックを使用して【強化結晶鑑定】のスキルを取得した。
スキル一覧を見ると、確かに特殊スキルの分類に【強化結晶鑑定】が追加されてるな。
ユキと柚月もスキルブックを使ってスキルを覚えたようだ。
「さて、それではスキルは覚えてもらえたようであるな。では次の段階である。これらの強化結晶を見てもらいたいのであるよ」
教授は机の上に大量のアイテムを並べ始めた。
どうやら、これらが『強化結晶』と呼ばれているアイテムのようだな。
俺は近くにあった結晶の一つを鑑定してみる。
すると、以下のような表示がされた。
―――――――――――――――――――――――
STR強化結晶 ★6
装備と合成することでSTRが上昇する強化結晶
上昇値:26~35
―――――――――――――――――――――――
「……ふむ、これがSTRの強化結晶なのか」
「こっちはDEXの強化結晶ですね」
「私の手元にあるのはINTの強化結晶ね。なるほど、さっきのスキルがあれば強化結晶の効果が調べられるのね」
「そういうことである。そのスキルがあれば、どの結晶でどのステータスや属性が付くのかを調べられるのであるよ」
「なるほどな。さすがに完全にランダムという事は無かったか」
「そうであるな。それに、実際には強化結晶の色や形でどのステータスなのか、あるいはどの属性なのかを知ることは出来るのであるよ」
「そうなのか?」
「うむ、そうである。例えば、ステータス強化結晶で黄色い角の形をした結晶であればSTR、黄色い球体であればINTと言ったように色と形で見分けがつくのであるよ」
なるほど、それが広まれば鑑定しなくても良さそうだ。
「もっとも、属性強化結晶は少しばかりややこしいのであるがな。例えば水色の球体が火属性だったりするのである」
「……直感的な感覚だと、火属性は赤系って思いそうよね」
「そう言うことである。そういったところがひねくれた運営であるな」
「まあ、簡単にわかっては面白くないって事だろう」
「そうであるな。ともかく、そのスキルがあれば強化結晶の詳細がわかるので存分に使ってほしいのである」
「わかったわ。それで、強化結晶の入手方法を聞いてもいいかしら」
「構わないのであるよ。強化結晶はレベル10以上のモンスターを倒したとき、稀にドロップするのである。品質は★1がレベル10から19、★2がレベル20から29といった具合であるな」
「なるほどね。それで、これらの情報ってどこまで知られているの?」
「ほとんど知られていないというところであるな。今は掲示板で有志達が色々と調べているところであるが、そちらはまだあまり情報が集まっていないのであるよ」
「……もう9月下旬だしある程度は知られていると思ったんだけどな」
「強化結晶の入手がなかなか難しいのであるよ。ドロップ率はかなり低いのである。そのためにサンプルも集まらないようである」
「それでも少しは知られているような気がするけどな」
「強化結晶で装備を強化した場合、上書きができるかどうかと言ったところで躊躇しているプレイヤーが多いみたいであるな」
「ちなみに、その辺はもう調べてあるのか?」
「もちろんである。上書き可能であるよ。ただし、できるのは上書きだけで効果の消去は出来ないのであるがな」
「消去はできないのか。強化結晶の効果って、一つの装備にどれだけ数を設定できるんだ?」
「そこはまだ調べ切れてないのである。わかっているのは、★8以下の装備で1種類、★9以上の装備で2種類は出来たのである。それから、聖霊武器には強化結晶は使えないのであるよ」
「了解。それならこれ以上は俺達で検証してみるか」
「そうしてもらえると助かるのである。我々では装備の検証は難しいのであるからな」
「まあ、そうだろうな。……そういえば、【強化結晶鑑定】ってどこで手に入るんだ?」
「レベル65以上のレイドクエストをクリアしたときのクリア報酬であるよ。入手確率があまり高くないみたいなので、まだ市場には出回っていないようである」
「……よくそんなスキルを6つも集めたわね」
「そこは情報系クランとしてのコネであるな。さて、それでは私からの報告も以上であるが、何か聞きたいことはあるのであるか?」
「俺はないな。2人はどうだ?」
「私はないわね。ユキは?」
「強化結晶って消耗品にも使えるんでしょうか?」
「ふむ。そういえば試していないのであるな。使えるかどうか試してほしいのである」
「わかりました。こちらで確かめてみますね」
「申し訳ないが頼むのである。……そうそう、トワ君。ヒヒイロカネについて聞きたいのであるが?」
「あー……また今度でいいか? 長くなりそうだし」
「まあ、仕方がないのであるな。では次の機会に頼むのであるよ」
『白夜』と交流を持っているならヒヒイロカネの話も耳に入るよな。
まあ、また今度行くときに一緒に連れて行けばいいだろう。
「それでは、今日はこれでお開きであるな。……ああ、これらの強化結晶はまとめてプレゼントするのである。検証の役に立ててほしいのであるよ」
「それは助かるわね。市場に出てる強化結晶は値段が高いからあまり買いたくなかったのよ」
「多少の出費を気にするほど懐が寂しいわけではないと思うのであるが?」
「それでも気になるのよね」
「あまりお金を貯め込みすぎるのもよくないのであるよ。この機会に少し貯め込んでいるお金を使うといいのであるよ」
「考えておくわ。それじゃあ、またね教授」
「うむ、またである。それでは失礼するのである」
教授が帰っていくのを見送ったら、もらった強化結晶で早速検証作業である。
久しぶりの生産スキル検証だから懐かしい気もするな。
さて、それじゃあ始められるところから手をつけていくか。
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