285.【魔力の源泉】アンロック
研究者2人から依頼されていたクエストを無事にこなした俺達は、指定されたとおり翌日になってからまた顔を出した。
そこで待っていたのは憔悴していたが達成感に満ちた表情を浮かべるガレウスとリバウトだった。
「……2人とも大分疲れてるんじゃないか? なんなら、明日また出直してきてもいいんだけど」
「ああ、君達か。確かに疲れているけど、問題ないよ。さて、僕達の研究成果について発表しようじゃないか」
「とは言っても難しい話を理解しろというわけではない。我々の研究、その結果だけを覚えてくれればそれでいい」
『研究成果』と聞いて露骨に身構えたのをみたのだろう。
慌てて、と言うほどでもないが、リバウトがフォローをしてくれた。
「まあ、実践するに当たって過程はそんなに大事じゃないのが今回の研究だからね。聞きたければ過程についても説明するけどどう?」
小難しい理屈を説明されても正直困る。
ここは大人しく結果だけを聞くことにしよう。
「過程を説明されても理解できないだろうからな。結果の方を手短に頼む」
「そうか、わかったよ。それでは結果について話をしようか」
「まず、お前達に3種類のデータを集めてもらった結果、魔力を扱う際に必ず同じ経路を辿って魔力が体外に流れ出していることがわかった」
「必ず同じ経路を辿るという事は、その大元も同じ場所にあると言うことだね。僕らはその大元を『魔力の源泉』と名付ける事にした」
ここでクエスト名にもなっていた『魔力の源泉』が登場か。
さて、ここから先の話はどんな内容なんだろうな。
「僕達は『魔力の源泉』から全ての魔力が供給されているという仮定の下で、『精霊魔術』と『原初魔術』も試してみたんだ」
「するとどうだ。予想通りどちらの魔術も『魔力の源泉』から力を引き出していたんだよ」
「そう、それもかなり無理矢理な形でね。『魔力の源泉』から力を引き出しているのはわかったけど、今度はそれをより自然な形で引き出せないかという事になった」
「『精霊魔術』と『原初魔術』を同時に覚えられないのは、『魔力の源泉』から無理矢理力を引き出しているのが原因じゃないかと仮定できたんでな。あとは、どうやって『魔力の源泉』から自然な流れで力を引き出すかという事になった」
「……ちなみに、ここの話は結構長くなるけど、聞きたいかな?」
「……いや、遠慮しておこう。次に進んでくれ」
「わかったよ。色々と試した結果、『魔力の源泉』を表出化させることで無理矢理魔力を引き出すことなく、より自然な形で魔力を引き出せることがわかったんだ」
「つまり、『魔力の源泉』も一つのスキルとして覚えてしまえば、『精霊魔術』と『原初魔術』、その両方を覚えられるようになるって事だな」
「つまり、研究は成功したんだな」
「まあ、そうなるね。……その代わり、覚えなくちゃいけないスキルは増えたんだけどね」
「それでもすごい事ですよね。おめでとうございます」
「ありがとう。……さて、そう言う訳で手伝ってくれた君達3人には【魔力の源泉】スキルが覚えられるようになるスキルブックを進呈だ。これは、君達の使っていた指輪から君達の魔力の波長を抽出して記録してある特別製だ。他の人に渡しても扱えないから注意してくれ」
「出来る事なら【魔力の源泉】スキル自体を一気に覚えられるスキルブックを用意してやりたかったんだがな。そっちの方は生産難易度が半端なく高かったせいで用意できなかった。済まないが、覚えられるようになるスキルブックだけで勘弁してくれ」
「それは構わないわよ。こうして覚えられるようになるだけで、十分役に立つからね」
「そういってもらえると助かるよ。それで【魔力の源泉】スキルの効果なんだけど、【精霊魔術】と【原初魔術】その両方を同時に覚えられるようになる他に、魔法や魔術のスキルで使用するMP消費を抑えてくれる……はずだ。まだ研究段階だから、どの程度の軽減率かはわからないけど、育っていけば必ず役に立ってくれるはずだよ」
「それは頼もしいな。早速だけどスキルブックを使ってみても構わないか?」
「ああ、スキルブックを使用してくれ。何か不具合があったら困るから、この場で使用してもらった方がありがたい」
「それじゃあ遠慮なく、スキルブック使用っと」
渡されたスキルブックを使用することで、俺の中に新たなスキルの力が宿ったことが何となく理解できた。
〈【魔力の源泉】のスキルブックを使用しました。これ以降、SPを消費することで【魔力の源泉】スキルを取得できます〉
〈【魔力の源泉】は複数のスキルに効果を発揮するスキルです。どのような効果が得られるかは追加されたヘルプページをご確認ください〉
ふむ、【魔力の源泉】は説明通り、単純に【精霊魔術】と【原初魔術】を同時に覚えられるようになるだけのスキルじゃなさそうだ。
ヘルプページは後で確認することにして、【魔力の源泉】を覚えようか……って、SP50も消費するのか?!
さすがにこのスキルは考え無しに覚えられないな。
「その様子だと【魔力の源泉】を覚えられるようにはなったようだな」
「ああ、そっちは問題ない。……ただ、覚えるのにかなりのコストがかかると言うだけでな」
「それは仕方がないかもね。【魔力の源泉】は魔法や魔術にも幅広く影響を与えるスキルだから。魔力効率を一気に上昇させるんだ、体に馴染ませるには相応の対価が必要だよ」
「……さすがにこれを覚えるには色々と覚悟が必要よね」
「そうですね。覚えるメリットとデメリットがはっきりしすぎてます」
「まあ、そう言う訳だから、実際に覚えるかどうかは君達に任せるよ。僕達はこれだけ有意義な研究ができたことで大満足だからね」
「ああ、そうだな。惜しむらくは、これで研究が終了という事で、それぞれ自分の所属する研究所に戻らなければいけないと言う事だが」
なるほど、確かに2人は別々の研究所の研究員だから、研究が終わったら引き上げなくちゃいけないのか。
「そうなのか。じゃあ、わからない事があったら、今度はそれぞれの研究所まで行かなくちゃダメか」
「手数をかけるけどそうなるね。……まあ、
「さすがにそれは買いかぶりすぎってものだけど。……まあ、わからない事が出てきたら研究所の方を訪ねるよ」
「そうしてもらえるかな。これからは、そっちの方で研究を続ける予定だから」
「できれば、スキルを覚えた上での使用感を聞かせてもらえると嬉しいがな。【魔力の源泉】を覚えた上で、【精霊魔術】や【原初魔術】を使った場合の効果というのは、まだまだデータが足りないからな。そのデータ収集にも協力してもらいたいが、そこまで甘えることもできまい。そちらはゆっくりと協力者を募って、サンプルデータを集めさせてもらうさ」
「わかったよ。感覚的な話でいいなら、何かの機会に研究所を訪ねて話をさせてもらうよ」
「そうか、それはありがたいな。さて、それではそろそろ解散かな」
「そうだね。この部屋も整頓して各種データを忘れずに持ち帰らないといけないから、整理が大変なんだよ」
「そう言う訳だから、今日のところはこれくらいで解散で構わないか?」
「それなら仕方がないわね。今まで色々と手を貸してくれてありがとう」
「新しいスキル、ありがとうございました」
「それじゃあ、2人とも元気でな」
「ああ、そちらの皆もお元気で」
「またいずれ会おう。ではさらばだ」
研究成果のまとめで慌ただしくなった2人の研究室を後にして、俺達は一度クランホームに帰還する。
目的はもちろん、追加された【魔力の源泉】についてのヘルプページを確認するためだ。
ヘルプの中から【魔力の源泉】について調べてみると、その効果は非常に多数の分野に影響を与えるスキルなようだ。
【精霊魔術】と【原初魔術】を同時に覚えられること以外で主立ったものだけでも上げていくと、
・魔法・魔術スキルのMP消費減少
・魔法・魔術スキルの効果増加
・魔術スキルの詠唱時間短縮
・一部魔術スキルの強制冷却が可能(ただし相応のMPとSTを消費する)
・一部魔術の使用に際するリバウンド効果の軽減
・【精霊魔術】と【原初魔術】を覚える際の消費SPの減少
となっている。
ぶっちゃけ、魔術士系キャラだったら戦術が変わるくらいに効果がある、つまり喉から手が出るほど覚えたいスキルだろう。
問題があるとすれば、スキルの取得に必要なSPが50と言う非常に高コストなスキルであると言うことか。
「さて、魔術士の私にとっては非常に有用なスキルを拾った訳だけど、SP50はやっぱり踏ん切りが付かないわね。それに、この後、【精霊魔術】と【原初魔術】も覚えると考えると、SPが余ってるとは言えそう易々とは使えないわね」
「おそらく、全部でSP100くらいは持っていかれるだろうからな。そう簡単に覚えられるものでもないか。……ちなみに、ユキは全部覚えるのか?」
「うーん、【魔力の源泉】と【精霊魔術】はほしいけど【原初魔術】は微妙かな。私はあまり魔法スキルを複数種類覚えている訳じゃないから」
「その理屈で行くと俺も【原初魔術】は微妙なラインだな。育っているのって【雷鳴魔術】と【神聖魔術】くらいで、しかも【原初魔法】で使うには『属性を極めろ』って前に言われた気がする。つまり、スキルをカンストしなくちゃいけないって考えるとかなり微妙なんだよな」
「うーん、悩ましいわね。教授に【精霊魔術】と【原初魔術】を同時に覚えられたことを証明するためにも、誰かは3つとも覚えなくちゃいけないんだけど……」
問題はその誰かをどうするかである。
さすがにSP100以上消費する人柱はごめんだからな。
……そんな事を考えていたとき、ふとある手段を思いついた。
「……上手く行けば、SP消費無しで3種類のスキル全部覚えられるかも」
「……詳しく聞かせてもらえる?」
「ほら、俺達って夏休みイベントのポイント大分余しているだろう?」
「そうね。私でも部門別ランキング入賞のポイントとかで150万くらい残ってるわね。それがどうかしたの?」
「もし、【魔力の源泉】をプラチナスキルチケットで取得できれば、残りの2つもゴールドスキルチケットで覚えられる可能性がある。そうすれば、SPの持ちだしは最小限で済むんじゃないかな?」
「……まずは、プラチナスキルチケットで【魔力の源泉】を覚えられるかが賭けになるけど大丈夫なの?」
「そこはまあ大丈夫だろ。覚えられなかったとしても、何かの機会に使うかも知れないんだから」
「そこまで言うなら止めはしないけどね。……ユキはポイント大丈夫?」
「私も150万ちょっと残ってますから大丈夫です」
「そう、ならイベントアイテム交換所に向かうわよ。そこでサクッとプラチナスキルチケットとゴールドスキルチケットを入手してきましょう」
「そうだな。早速行こう」
「はい、行きましょう」
俺達は3人連れだって、各街に設置してあるイベントアイテム交換所に足を運ぶ。
交換所に辿り着いたら、ひとまず、プラチナスキルチケット1枚だけを交換しておいた。
「さて、いよいよ運命の瞬間ね」
「消費SP40までならプラチナスキルチケットで取得できるって話は聞いてるけど、SP50が取得できるかは謎だからな。ホント、一種の賭けだよ」
「そうは言っても、試してみないとわからないよ。早速チケットを使って一覧を調べてみよう?」
「そうだな。始めるか」
俺達はスキルチケットを使い、取得可能なスキルの一覧を表示させる。
念のため、【精霊魔術】や【原初魔術】も検索してみたが、取得可能スキルとして登録されていた。
やはり、取得条件がアンロックされているスキルなら覚える事ができるらしい。
そして、お目当ての【魔力の源泉】だが、こちらも検索した結果、取得可能スキルとして表示されていた。
「……どうやら賭けには勝ったみたいね」
「らしいな。さて、SP50のスキルもプラチナスキルチケットで覚えられることを
「覚えないって選択肢はないのね」
「……このためだけにプラチナスキルチケットを入手したんだからな。今更、覚えないなんて言うわけにはいかないだろ」
「それもそうね。……よし、取得完了」
「私も取得できました」
「俺も取得完了だ。さて、【精霊魔術】と【原初魔術】の消費SPはどこまで下がっているのかな?」
「それはもう見てみたわ。どっちも消費SP30になってる。消費SP40だった頃のものも含めて
「さすが柚月、仕事が早い。消費SP30まで落ちてるって事はゴールドスキルチケットでもスキルを覚えられそうだな」
「スキルチケットをもらって試してみる? 私もギリギリだけどゴールドスキルチケットを交換出来るだけのポイントは残っているし」
「とりあえず、俺だけ交換してみて取得可能かどうか調べるよ。2人はその後で交換で構わないだろう」
「……そう。それじゃあお言葉に甘えるとするわ」
「よろしくね。トワくん」
「ああ、任せておけ」
イベントアイテム交換所でゴールドスキルチケットを受け取った俺は、早速チケットを使用して取得可能スキル一覧を表示させる。
そして、【精霊魔術】と【原初魔術】を絞り込み検索で表示させたが、俺の目論見通りどちらも取得可能スキルとして表示されていた。
俺はこの結果を2人にも伝える。
「予想はしていたけど、やっぱり覚えられるようになるのね」
「【魔力の源泉】を覚えるまでの間に、覚えられるかどうか試してなかったのが悔やまれますね」
「そこまで詳しい検証は教授達に丸投げでも構わないだろうよ。ともかく、これでゴールドスキルチケットでもスキルを覚えられることは確定だな」
「そのようね。それじゃ、私もスキルチケットを交換しましょ」
「私も交換しますね」
2人がスキルチケットを交換している間に、俺は【精霊魔術】を取得してしまう。
【原初魔術】の方は使えるようになるまでに少し時間が必要そうなので後回しだ。
「お待たせ、トワはもうスキルを覚えたの?」
「【精霊魔術】を覚えたぞ。柚月はどっちを覚えるんだ?」
「スキルチケットで片方を覚えて、SPを使ってもう片方も覚えるわ。SP30程度なら十分余裕があるしね」
「私はスキルチケットで【精霊魔術】を覚えて終わりですね。【原初魔術】は必要になったときに覚える事にします」
何はともあれ、これで教授からの依頼は完遂だな。
残っていたイベントポイントでスキルを覚える事ができたので、消費SP的にも優しかったし特に申し分ないかな。
どうすれば今回のシークレットクエストに発展するのかとか、詳しい検証は教授に丸投げでいいだろう。
少なくとも、シークレットクエストをクリアした結果として、目的の2種類同時取得ができるようになったんだからな。
教授への報告は明日行うことにして、俺達は解散することになった。
教授のことだから、色々と根掘り葉掘り聞かれるんだろうなぁ。
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