284.魔力の源泉

「やあ、来てくれたね。待っていたよ」

「ああ、我々の研究もこれで次のステップに進める」


 ゴーレムの魔導コアを渡した翌日、魔道具が完成しているかどうかを聞くために学術都市を訪れたが、既に準備は出来ていたようだ。

 2人の研究者に揃って歓迎され、手渡されたのは再びの指輪型魔道具。

 これはやっぱり、何か新しいスキルを練習させられるんだろうかね。


「さて次の段階だが、その指輪をつけた状態で『魔法』を使いモンスターを倒してきてくれ」

「『魔法』なら何でもいいよ。ただし、『魔術』ではダメだけど」

「うん? つまり、ファイアーボールやファイアーバレットで敵を倒してくればいいのか?」

「そういうことだね。今回はまず初級の『魔法』について調べてみようと思ってね」

「まずは基本からという事だな。我々でも調べているが、サンプルは多いに越したことはない」

「という訳だから、それをつけた状態でモンスター退治、よろしく頼むよ」



 ―――――――――――――――――――――――


 シークレットチェインクエスト『魔力の源泉Ⅱ』


 クエスト目標:

  魔法クラスのスキルを使いモンスターを倒す 0/500

  (このクエストはパーティでの進行となる)

 クエスト報酬:

  次段階へのクエスト進行


 ―――――――――――――――――――――――



 新しいクエストも発行されたし、まずはこれをクリアしにいくか。

 俺達は揃って学術都市を後にし、【始まりの街】まで戻ってきた。


「……なんて言うか懐かしいわね、この街は」

「そうですね。ゲームを始めて1ヶ月もしない間に次の街に移動しましたから」

「確かに懐かしくはあるな。……さて、それじゃクエスト達成のためにモンスターの乱獲といきますか」

「それもそうね。さすがに街の周辺でウサギ狩りは初心者に悪いし、森の奥の方で狩りをしましょうか」

「わかりました。現地に着いたら別々に行動しますか?」

「その方がいいだろうな。さすがにこの周辺のモンスターなら初級スキルでも一撃だろうから」

「そうね。その程度の攻撃力はあるだろうし、固まって行動する必要もないでしょうからね」

「そうですね。それでは、現地まで移動しましょう」


 俺達は街を出たところで騎獣を呼び出し、森の方へと向かう。

 森に入るとウルフたちが襲ってくるが、浅いところで戦闘をしていると初心者の邪魔をするかも知れないので騎獣の移動速度に任せて振り切っていく。

 騎獣で10分ほど森の奥へと進んだあたりで騎獣を降りて、3人バラバラに行動することになった。


 さすがにこれくらい奥まで進めば初心者は入ってこない。

 各種探索スキルを総動員してモンスターを探し、発見し次第、魔法スキルを使って倒していく。

 クエスト表示のカウンターは勢いよく上昇していっているので、他の2人も加減せずに倒して行っているのだろう。

 モンスターの湧き具合もなかなかいいペースで復活しているので、カウンターはどんどん増えていく。

 結果として、1時間半ほどで500体の討伐を完了する事ができた。


「ふう、なかなかいいペースでクリアできたんじゃないかしら?」

「500体の討伐ですからね。いくら敵が弱いといっても数をこなすのは、結構手間ですよね」

「まあ、敵の強さが指定されていないだけマシだろう。もし自分達と同レベルって言われたら、レベル60越える程度のモンスターを相手にしなくちゃいけないんだからな」

「それもそうね。さて、学術都市に戻りましょうか」

「そうだな。早いところクエストを完了させてしまおう」


 クエストの完了報告のため、学術都市に戻る。

 学術都市でガレウスとリバウトのところまで戻ると、待ちきれないと言わんばかりに食いついてきた。


「おかえり、やっぱり早かったね。それでは、指輪を返してもらえるかな」

「ああ、わかってる。……ほら、これでいいんだろ?」

「確認させてもらおう。……ああ、大丈夫だ。まず第一段階はこれで終了だな」

「なら、第二段階とやらに進めるのかしら。次はどうすればいいの?」

「まあまあ、落ち着いて。第一段階はこれで終了だけど、次の段階に進む前に現在の状態を調べなくちゃいけないんだ。悪いけど、また明日以降に来てもらえるかな」

「そう言うことなら仕方がないか。それじゃ、また明日以降に来ることにするよ」

「うん、そうしてほしいな」

「今後もよろしく頼む。この研究が実れば新たな可能性が開けるはずだからな」


 興奮気味の2人を残し、俺達はクランホームへと帰還する。

 今日はこれ以上クエスト進行できないみたいだし、残りの時間は大人しく生産活動に充てる事にしよう。


 それから俺はついでにヒヒイロカネの打刀を受け取らなくちゃな。

 ドワンの工房を訪れると、机の上に鮮やかな色合いの打刀が飾られていた。


「ドワン、これがヒヒイロカネの打刀だよな? 随分と神秘的な色合いになったな」

「うむ、魔力の流れに任せて作ったらこれができた。性能は……現時点ではオリジン武器に及ばないな」

「現時点では? 強化すれば追い越せると?」

「ヒヒイロカネの武器は同じ種類の武器を取り込む性質があるらしい。その性質を使って装備を取り込ませると取り込ませただけ強くなるそうだ。無論、どこかで限界値はあるじゃろうがな」

「……でも、そこまでしなくても俺達なら問題ないっていうべきか」

「十二分に強い武器を持っているからのう。まあ、習作じゃし、そのままトワが持っていてくれ」

「そう言うことなら預かるよ。それじゃあな」

「明日もクエストの続きか? 無理をしない程度にな」

「わかってるって。それじゃ、また」


 そして打刀を受け取った翌日、再び3人で学術都市を訪れる。

 ガレウスとリバウトのところにいけば、2人とも俺達を待っていたようだ。


「やあ、約束通り来てくれて嬉しいよ」

「早速だが、本題に入ろう。いつも通り、この指輪をつけて今度は『魔術』を使ってモンスターを倒してきてくれ」

「『魔術』に分類されるものなら何でも構わないからね。どんな強力なスキルでも構わないから、サンプルを取ってきてほしい」

「つまり、上級スキルのファイアバレットとかファイアジャベリンのようなスキルで倒してこいと?」

「そういうことだね。それでは指輪を渡そう。……では、いつもの事ではあるがよろしく頼む」



 ―――――――――――――――――――――――


 シークレットチェインクエスト『魔力の源泉Ⅲ』


 クエスト目標:

  魔術クラスのスキルを使いモンスターを倒す 0/500

  (このクエストはパーティでの進行となる)

 クエスト報酬:

  次段階へのクエスト進行


 ―――――――――――――――――――――――



「昨日とほとんど一緒のクエストね」

「まあ、次はそう来るだろうとは思ってたが」

「昨日と同じ方法で大丈夫だよね」

「そうだな。さっさと移動してクエストを終わらせよう」


 こうしてこの日受けたクエストも、人気の少ない場所でモンスターを乱獲することであっさりと達成してしまう。

 クエストをクリアして報告した結果も昨日と同じく「また明日以降に来てほしい」という内容だったので、大人しくクランホームに戻って残りの時間はそれぞれ思い思いに過ごした。


 さらに翌日、学術都市を訪れるとやはりガレウスとリバウトの2人が俺達を待っていた。


「ようこそ。さあ、この研究も次が最後のステップになるはずだ」

「その代わり、少々ややこしい事をしてもらわなくてはならないがな。まずは指輪を渡しておこう」


 リバウトから指輪を受け取り装着しておく。

 さて、お次の課題はなんだろうな。


「さて、最後のステップなんだけどちょっと複雑でね。……まあ、やり方はそんなに変わらないんだけど」

「今度は契約している精霊にモンスターを倒させてきてほしい。精霊がモンスターを倒せばいいので、倒すモンスターの種類などはこれまで通り気にしなくてもいいぞ」



 ―――――――――――――――――――――――


 シークレットチェインクエスト『魔力の源泉Ⅳ』


 クエスト目標:

  精霊のスキルを使いモンスターを倒す 0/100

  (このクエストはパーティでの進行となる)

 クエスト報酬:

  次段階へのクエスト進行


 ―――――――――――――――――――――――



「精霊にモンスターを倒させればいいのね? 他には何かないの?」

「そうだな……魔力共鳴増幅は使わないでもらおうか。あれのデータは今回に限れば邪魔になるだけだ」

「契約している精霊との間での純粋な魔力循環を調べたいからね。共鳴増幅が入るとデータが乱れるから注意してほしいかな」

「わかった。それじゃあ、行ってくる」


 こうして三度目のモンスター討伐依頼を受けた俺達は、またいつもの場所へと移動する。

 違うのは今回は俺達自身がモンスターを倒すんじゃなくて、精霊に倒してもらう事だな。

 精霊を召喚しなければ始まらないので、早速呼び出して事情を説明する。

 だが、エアリルはいまいち乗り気じゃない様子だ。


「うーん、モンスターの相手をするのはいいけど、こんな弱い場所のモンスターを相手にするのは嫌かなー。弱いものイジメみたいじゃない」

「……まあ、否定はできないけど。手早くクエストを終わらせるならここがいいんだよ。悪いがここでやってもらえないか?」

「むぅ。確かに長時間拘束されるのも好きじゃないかな。……わかったよ、今回はここで手を打とう。その代わり、今度、もっと骨のある相手がいるところで暴れさせてよ!」

「わかった。そのうち案内するよ」

「よし、約束だ! さて、それじゃあ、始めるとしようか!」


 エアリルの機嫌もよくなったし、後はモンスターを探すだけだな。

 他の2人も精霊との交渉は終わったみたいで、準備は万全のようだ。

 準備は整ったので3人別れて行動し、精霊にモンスターを倒してもらう。

 精霊は元々魔力特化であるが故に、この程度のモンスターでは初級スキルでもオーバーキルだ。

 エアリルもモンスターを見つけ次第、適当なスキルで倒していく。

 心配があるとすればMPの枯渇だけど、さすがに討伐モンスター数も少なかっただけあり30分程度であっさりとクエストが終わった。


「さて、クエストは終わったからもう大丈夫だぞ」

「そう? やっぱり、暴れたりない感じがするよ。約束は忘れないでよね」

「わかってる。今度は骨がある敵の時に呼ぶよ」

「それならよし! それじゃあ、ボクはそろそろ帰りたいから召喚解除よろしく!」

「はいはい、またな」


 エアリルを送還して、ユキと柚月に合流する。

 2人の方も既に精霊は召喚解除してたみたいだ。


「さて、これでクエストは完了したわけだけど。今度、強いモンスターとも戦わせるって事になったからどうしようかしらね」

「私のシャイナちゃんは大丈夫でした。トワくんは?」

「俺も強いモンスターと戦わせるって約束をしたな。……まあ、ヒヒイロカネの坑道にでも行けば大丈夫だろう。ドワンもヒヒイロカネは追加でほしいだろうし」

「……その場所、私は知らないんだけどどこにあるのかしら?」

「ジパンにあるよ。今度行くときに案内するさ」

「お願いね。手頃なところで満足しそうなモンスターなんて見当たらないからね」

「そこは任せておけ。さて、学術都市に戻るとするか」


 学術都市へと戻ってガレウスとリバウトに指輪を見せる。

 2人は指輪を調べた後、満足げに頷いていた。


「ありがとう。これで研究が完成するよ」

「魔法と魔術、それから精霊に流れる魔力。これらの魔力の流れを読み取り、魔力の源泉とでも言うべきものの存在ははっきりしたからな」

「後はこれを元に最後の仕上げをするだけだ。……そう言う訳だから、済まないけど研究成果を渡すのはまた明日以降になるよ」

「ああ、だがこれで研究は完了だ。後は我々に任せて休んでいるといい」

「そう言うことなら後は任せるよ。それじゃあ、また今度」


 最後の仕上げをするという2人を残しクランホームへと帰還。

 さて、これでこのクエスト群も完了だろうし、明日には新しいスキルがアンロックされるのかな。

 ……SPの消費が高くなければいいんだけど。

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