287.エピローグ:10月に向けて

「それじゃあ、強化結晶についての検証はほぼ完了したって訳かい?」

「そうなりますね。基本的なところについてはもう大丈夫だと思います」


 10月を目前に控えた日曜日。

 装備強化について話があると言うことでやってきた白狼さんとそんな会話を交わす。


 教授からもらった強化結晶を使って検証してみた結果、以下のような法則が適用されることがわかった。


・別種のステータス、および属性を付与しようとした場合、装備の品質が★8以下は1つ、★9以上★11以下は2つ、★12は3つまで強化できる

・強化の上限数を上回る強化を行おうとした場合、既に付与されている強化結果から任意の1つを選んで上書きする必要がある

・上書きを拒否した場合、強化に使おうとした結晶は消費されて消えてしまう

・同一ステータスの強化を行おうとした場合、後から行われた強化の結果に上書きされる

・複数属性を付与しようとした場合、後から付与しようとした属性に上書きされる

・ステータスの上昇量は強化結晶鑑定の鑑定結果の範囲でランダムに決定される

・属性付与は強化結晶鑑定の鑑定結果に従って付与される

・ごく稀にだが複数の属性・ステータスが付与される強化結晶も存在しており、それによって付与された場合のみ上記のルールの適用範囲外となる


 現時点で判明している法則はこれくらいだ。

 ステータスの上昇量に関しては、付与に際してプレイヤー側から作業を割り込む余地がないため、完全にランダムであると推測できる。

 属性に関しては、上手いこと2属性付与の結晶を複数集めることで、4属性武器とかが作れてしまうことは確認した。

 攻撃属性も防御属性も一番相性がいい属性値でダメージ計算がされるため、なかなか重要だったりする。

 ただし、複数属性や複数ステータス上昇の結晶はただでさえドロップ率が低い強化結晶の中でもさらにドロップ率が低いらしく、強化結晶の中の1割未満しかドロップしていないものと推測している。

 なお、複数属性または複数ステータス上昇の強化結晶だが、見た目は普通の強化結晶と変わらないので、強化結晶鑑定がないと判別できないようだ。


 複数属性が付与出来たり、複数のステータスが上昇する強化結晶の存在は掲示板でも既に話題になっており、『当たり結晶』などと呼ばれているようだ。

 だが、その『当たり結晶』を見分ける術がない、と言われているので【強化結晶鑑定】のスキルはいまだに出回ってはいないらしい。

 おそらく、俺達と同じように【強化結晶鑑定】のスキルを持っていても秘匿しているのだろう。

 これについては文句を言われる筋合いもないので、存在が露見するまでは秘匿させてもらう事にしている。


「それじゃあ、『ライブラリ』に強化結晶で強化を依頼すればおおよその強化結果は事前にわかるというわけだ」

「そうなりますね。事前にわかると言っても、ステータスの上昇量については誤差10の範囲からランダムですから、望んだ値を出そうと思うと何回試行する事になるかわかりませんけど」

「それでも、ある程度の強化値がわかるっていうのはすごい事だよ。僕らが自力でやろうとすると、どんな値が付与されるのかまったくわからないからね」

「ああ、付与されるステータスの種類については情報が出回ってるんでしたっけ」

「掲示板情報だけどね。強化結晶の色と形で上昇ステータスの種類を見分けることができる、ってところまでは公表されてるよ」

「……強化結晶の品質については、普通に見てもわからないんでしたっけ」

「というか、強化結晶に品質なんてあったのかい?」

「ありますよ。教授曰く、レベルの10の値に従って品質が決まるって言う話ですけど」

「うーん、僕らが倒してるモンスターは基本的にレベル60台だけど、強化結晶は他のクランメンバーが集めたものも一緒に保管してしまってるからね。おそらく品質が混じってしまっているだろうな」

「でしょうね。見た目では品質がわからないようになってますから」

「その辺は面倒な仕掛けをしてくれたものだよね」

「ええ、まったくです。それで、強化結晶による強化をしていきますか?」

「いや、今は強化結晶を持ってきてないから今日はしないよ。クランとしてどういう風に強化結晶を使っていくかを協議してから強化を依頼することになるかな」

「わかりました。強化結晶による強化は、上級生産スキルと上級生産セットがあれば生産スキルの種類を問わずに強化できるので、誰かがいるときなら対応できますのでその時はよろしく」

「へえ、そうなんだ。という事はユキさんが武器の強化をすることも可能だったりするのかな?」

「ええ、可能ですよ。あと、これはまだ表に出していない情報ですけど、消耗品を作るときに強化結晶を混ぜることで、消耗品の本来の効果以外に強化結晶の効果を乗せることも出来る事がわかってます」

「……つまり、料理バフを増やしたり、回復ポーションでバフをつけたりも出来ると」

「そうなりますね。バフの効果時間は15分しかありませんけど、本来はつかないバフをつけることが出来ます」

「……それってステータス強化ポーションに上乗せとかは?」

「もちろんできましたよ。強化結晶分の上乗せは15分で消えてしまいますけど、なかなかの上昇値でした」


 実際、試してみたときは100近い上昇量のポーションとかもできてたからな。

 費用対効果コストパフォーマンスはいいとは言えないけど、短時間であっても上昇量を上乗せしたいなら有効な手段になるだろう。


「そう聞くと、今攻略に向かっているレイドの補助用にいくつか用意してほしくなるね」

「それって『天上の試練に挑みし者』ですか」

「ああ、そうだよ。トワ君に許可をもらったとおり、ハルさんやリク君、『インデックス』のパーティと合同で挑んでるけど……結果は散々だからね」

「確か、ボス一体とのガチバトルだって妹が言ってましたけど」

「うん、レベル90のボス一体との戦闘だね。いやはや、僕らのタンクでも攻撃を3回受けたら確実に死ぬから、クリアできる見込みがまるで立たないよ」

「……そんなところに何度も挑んでる方が不思議ですけどね。レベルキャップが70である以上、普通はクリアできないレベルだと思うんですが」

「そこは、ほら。大手の意地とプライドかな」

「……大人しく、鍵に使っているヒヒイロカネを装備作成に回して戦力強化を優先した方がいいと思いますけど」

「……やっぱりそうかな。クラン内部でも一度戦力増強を優先すべきだって言う話になってるんだよね」

「それで、強化結晶による装備強化ですか」

「うん。それも戦力増強の一環だね。……ちなみに、強化結晶で強化をする場合の支払金額っていくらなのかな?」

「結晶持ち込みで行うなら30万。結晶鑑定をするならプラス40万。こちらで結晶を用意するなら結晶の購入費用プラス100万ですね」

「あれ、意外と高いんだね」

「というか、これ以上お金を稼いでも仕方がないレベルまで金銭が貯まってきてますからね。★12品の販売を解禁したのが大きくて、全員原価に対して儲けが大きすぎる状態が続いてますから。少しでも他に顧客が流れるように考えた結果ですよ」

「なるほどね。そういえば、おじさんも上級生産セットを手に入れたんだって?」

「ええ、手に入れてますよ。もっとも、まだ★10が安定する程度のスキルレベルしかないって嘆いてましたけど」

「そこはスキル経験値を稼ぐしかないだろうね」

「ええ。なので★10アクセがお手頃価格でゴロゴロと販売されてますよ」

「そうなんだ。『白夜うち』の中堅どころに教えても構わないかな?」

「一向に構いませんよ。売れれば売れただけストックを作れると本人も言ってますから」

「じゃあ、帰ったら話をしておくよ。……そういえば【魔力の源泉】ってトワ君達も覚えてるんだよね? どの程度の効果が得られてるんだい?」

「うーん、あまり測ったことがないので微妙ですが……MP消費は1割減、ダメージは2割増し程度でしょうか」

「【精霊魔術】と【原初魔術】の使い勝手は?」

「かなりクセがありますね。どっちも魔法系スキルなのに、近接戦闘の距離までしか届かないスキルとかが普通にありますから。『白夜』ではまだ取得できないんですか?」

「うん、まあ、大分苦戦してるかな。まさか精霊との好感度が100以上ないとイベントが始まらないとは思わなかったからね」


 そう、【魔力の源泉】を覚えるためのシークレットクエストを発生させるための最初のイベント発生条件、それが『精霊との好感度が100以上』だったのだ。

 実際には研究員と話した時点でのパーティ内に、精霊との好感度が100以上のプレイヤーが一人でもいれば大丈夫らしい。

 だが、好感度100というのはそれなりに大変らしいのだ。

 ……俺とユキは普通に満たしてた訳だけど。


「まあ、何とか2パーティほどシークレットクエストに進めたからそこは何とかなりそうかな。問題があるとすればSP消費が激しいことだけど」

「それはどうにもなりませんね。ゴールドスキルチケットやプラチナスキルチケットの在庫はないんですよね」

「さすがにね。それらがあれば楽をできたものなんだけど」


 夏休みイベントで配布されてたとは言え、交換に必要なポイントは膨大だった。

 それに、手に入れたらすぐにでも使ってしまうのがゲーマーの性みたいなものだし。


「まあ、とにかく、そっちの方も大分目処は立ってきてるよ。……さて、今日のところはこれくらいかな」

「わかりました。また何かありましたらいつでもどうぞ」

「ああ、そうさせてもらうよ。それじゃあ、またね」


 帰っていく白狼さんを見送り、自分は夏休みイベントのポイント清算に向かう。

 実際にはプラチナスキルチケット1枚とゴールドスキルチケット2枚で、ほとんどのポイントは使い切っているがあとわずかなポイントが未使用状態で残っている。

 それを使わずに済ませるのはもったいない気がして、アイテム交換所に足を運んだわけだ。


 ……とは言え、ホーム内で飼えるペットの類いは基本的に全て入手済みだし、ポーション詰め合わせとかはいらない。

 仕方がないので生産素材の詰め合わせをポイントが許す限りもらっておいた。

 ドワンや柚月に頼んで素材アイテムに替えてもらうとしよう。


 夏休みイベントのポイント清算が終わってクランホームに戻ってみると、俺以外のクランメンバーが談話室に勢揃いしていた。


「おや、全員揃ってどこかに行くのか?」

「あなたも行くのよ。ヒヒイロカネの坑道にね」

「うむ、ヒヒイロカネは今のところ研究段階であるが故、いくらあっても足りないからのう」

「これから行くのか? 皆、夏休みイベントのポイント清算は大丈夫か?」

「そんなのとっくに済ませてるわよ。ギリギリまで粘っていたのはあなたくらいよ」

「とりあえず、了解だ。それで、今すぐにでも向かうのか?」

「あなた以外は全員準備できてるわ。トワの準備はどうなの?」

「俺のほうも特に問題ないな。緋緋色の亡霊武者は苦戦するだろうけど」

「そこは仕方がないでしょうね。私達のパーティじゃ相性がいいとは言えないもの」

「まあ、ボスが討伐できるかは賭けだよねぇ。負けても道中で拾った鉱石類は残るから問題ないけど」

「……それもそうか。それじゃあ、出発するか」

「そうですね。行きましょうか」

「そうだねー。ここで待ってても仕方がないし早速出発しよー」


 全員が出発準備を整える中、柚月が軽い調子で尋ねてきた。


「そういえば、10月のイベントの準備ってしてるのかしら?」

「10月のイベント? ……ああ、ハロウィンか。特に準備してないな。どんなことをやるのかいまだに発表がない以上、準備もできないからな」

「……まあそれもそうよね。内容の発表は今週中にあるらしいし、それを見てから参加するかどうか考えてもいいわよね」

「そういうことだ。……さて、ヒヒイロカネの坑道に向かう準備は出来たみたいだぞ」

「わかったわ、それじゃあ、向かいましょうか」


 こうして俺達は最近よく行く事になっているヒヒイロカネの坑道に向かうこととなった。

 10月のイベントに参加するかどうかは未確定だが、とりあえずは目の前のことに集中だな。

 さて、バリバリモンスターを倒して素材を集めるとしますか!



 **********



 ~あとがきのあとがき~



 本章はこれにて終了となります。

 ……作者的には微妙に物足りなさというか、もう少し話を膨らませられたんじゃないかと思うところなのですが、教授と情報交換をしてしまった時点で、書くことがあまりなくなってしまったのが原因ですかね。

 でも、ライブラリ側の調査結果を一方的に開示するだけではおかしいので、教授側からも情報を提供させた結果、あんな感じになりました。


 ともかく、本章はこれで終わり。

 普段より少なめですが、掲示板を挟んで第9章へとつながっていきます。

 それでは、最後にいつものトワの現時点でのステータス公開をして閉めたいと思います。

 今後も応援よろしくお願いします。


 名前:トワ 種族:狐獣人 種族Lv.66

 職業:メイン:マスターガンナーLv.13

    サブ:上級魔法錬金薬士Lv.15

 HP:436/436 MP:751/751 ST:537/537

 STR:20 VIT: 50 DEX:82

 AGI:54 INT:111 MND:68

 BP:16 SP:234

 スキル

 戦闘:

【剣Lv30 MAX】【刀Lv28】【斧Lv30 MAX】【片手斧Lv8】【銃Lv30 MAX】

【ハンドガンLv48】【ライフルLv50 MAX】【マナカノンLv49】【マギマグナムLv50 MAX】

【格闘Lv30 MAX】【体術Lv12】【テンペストショットLv45】【エコースペルLv20】

【ツキカゲ流刀術Lv6】【マジックブレイクLv6】

 魔法:

【炎魔術Lv28】【海魔術Lv30】【嵐魔術Lv31】【雷鳴魔術Lv50 MAX】【氷雪魔術Lv35】

【神聖魔術Lv50 MAX】【魔導の真理Lv55】【式神招来・十二天将Lv12】

【精霊魔術(雷)Lv15】【原初魔術Lv13】

 生産:

【上級錬金術Lv24】【上級調合術Lv19】【料理Lv24】【生産ⅡLv88】

【道具作成Lv32】【家具作成Lv31】【魔石強化Lv75】

【生産製造数増加Lv50 MAX】【調合の極意Lv50 MAX】【錬金術の極意Lv50 MAX】

 その他:

【気配察知ⅡLv34】【魔力感知ⅡLv36】【夜目Lv60】【隠蔽Lv70】【看破Lv70】

【罠発見Lv53】【罠解除L53】【罠作成Lv1】【奇襲ⅡLv40】【隠密ⅡLv28】

【採取Lv46】【伐採ⅡLv8】【採掘ⅡLv19】【言語学Lv40】【集中ⅡLv48】

【アーマーチェンジLv2】【聖霊開放Lv13】【ウェポンチェンジLv10 MAX】

【器用さ上昇ⅢLv40【敏捷性上昇ⅡLv23】【知力上昇ⅡLv42】【精神力上昇ⅡLv40】

【ホークアイLv50】【ダッシュLv25】【ハイジャンプLv17】【空中動作Lv17】

 特殊

【AGI上昇効果・小】【INT上昇効果・小】【INT上昇効果・中】

【雷属性効果上昇・中】【風属性効果上昇・微】【火属性効果上昇・微】

【雷属性耐性・中】【風属性耐性・微】【火属性耐性・微】

【二刀流】【眷属召喚】【魔石鑑定】【聖霊石合成】【聖霊武器修理】【聖霊武器強化】

【魔力操作】【気力操作】【アクセサリー錬成】【魔力の源泉】

 眷属

【神狼・フェンリル(亜成体)Lv33】【猫妖精・ケットシー(熟練)Lv8】【雷鳴の中級精霊Lv27】

 称号

【初心者講習免許皆伝】【雷精霊の祝福】【かつての英雄に連なる者】

【上級錬金術士】【上級調合士】【魔導を求める者】【ガンスミス】

【眷属を従える者】【神狼に打ち勝ちし者】【妖精郷の解放者】

【神狼の導き手】【猫妖精の導き手】【精霊の導き手】【聖霊と共に歩むもの】

【妖精郷の来訪者】【星見の開門者】【第1回武闘大会マイスタークラス優勝者】

【黒翼に届きし者】【魔銃鬼】【双刀銃聖】【アルケミックファーマシスト】

 ギルドランク

 ガンナーギルド:14 生産ギルド:12 錬金術ギルド:15 調合ギルド:15

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