280.ヒヒイロカネの坑道

「長から話は聞いている。『ヒヒイロカネの鍵』がほしければヒヒイロカネ鉱を20個用意してくれ」


 陰陽寮前で『白夜』のメンバーと合流した後、一度陰陽寮に入ってセイメイ殿から聞いていた鍵の件を確認しておく。

 話はちゃんと伝わっていたらしく、クエストアイテムを作ってもらうためのクエストを無事受注できた。


「うん、ここまでは予定通りだね。ヒヒイロカネ鉱が20個というのが多いのか少ないのかがわからないけど……」

「それは行ってみればわかるじゃろう。まずは現地に向かうぞい」


 うん、新しい鉱石が手に入るとあってドワンがいつになくやる気だ。

 水を差すのも悪いので、そこには触れずに陰陽寮を出て【星見の都】の西門前へと転移する。

 全員が西門を出たことを確認してから、騎獣に乗って移動を開始する。

 パーティメンバー以外が隠し通路を見つけられない可能性があるので、念のためレイドチームを組んで全員が同じパーティで行動する事にした。


 なお、『白夜』側の参加者は15人ほどである。

 白狼さんや十夜さんがいなくても目的地に行けるよう、大勢での行動になったのだろう。

 人数が多くても特に問題はないので、サクサク進んでしまうことにしよう。


 セイメイ殿に指示されたとおり、北西方向に2時間ほど進んだところに森を抜けて山肌に向かう獣道のような場所を発見した。

 おそらくこの先が目的地だろう。


「白狼さん、この先に向かいますが大丈夫ですか?」

「ああ、特に問題はないよ。先に進もう」

「わかりました。行きましょう」


 森の中の獣道を進む事10分ほど、山肌にぽっかりと開いた洞窟を発見することができた。

 おそらくここが目的地だろう。


「ふむ、トワの話を聞く限りでは、ここが目的地のようじゃの」

「そのようだな。とりあえず中に入ってみるか」

「そうだね。一応、僕達が前と後ろを守るから、トワ君達はその間を歩いてきてくれ」

「助かります。それでは行きましょう」

「ああ、出発だ」


 全員が騎獣を降りて洞窟の中へと入っていく。

 洞窟の中はうっすらと明るくなっており、壁を見ると苔がうっすら光り輝いているようだ。


「トワ君達は見るのは初めてかな? ヒカリゴケと言ってうっすらと光り輝く苔なんだ。主にこういった洞窟に生えていて、プレイヤーの視界を確保するのに役立ってくれるよ」

「それは便利ですね。……もっとも、ヒカリゴケのなくなった場所にモンスターが潜んでいたりしそうですが」

「うん、実際にその手のトラップは何回か経験済みだよ。だから、ヒカリゴケが途切れたあたりに行くときは、周囲を明るくできる魔法や、光を放つ攻撃魔法を撃ちこんだりしてるね」

「やっぱり罠にも使われてますか。……ここら辺は壁一面に広がってますし、罠の可能性はなさそうですね」

「確かに。でも、油断するといけないから、隊列はこのままで進むよ」

「ええ、わかってます」


 時々、会話を交えながら歩くこと5分ほど、開けた広場のような場所にたどり着いた。

 おそらくここが目的地の転移装置がある場所かな。


「……ここが目的地なのかな? 妙に綺麗に整地されている場所だけど」

「おそらくはここが転移装置の場所で間違いないと思いますよ。……あそこにそれらしい操作パネルがありますし」

「本当だ。ともかく、行ってみよう」


 ここでばらけても仕方がないので、全員で操作パネルのようなものを見に行くことに。

 実物を見てみると鍵の差し込み口も付いており、これが『ヒヒイロカネの鍵』を使う場所である事は間違いないだろう。


「どうやら、これが鍵を使う場所のようだね。……横に何か書いてあるけど読めないな。【言語学】スキルが足りないのかな?」

「ああ、俺が読めるので読みますね。『この先に続くは天界の試練。挑む勇者はここに緋緋色の鍵を捧げるべし』だそうですよ」

「ふむ、どうやら間違いはないようだね」

「ですね。……って、あそこにモノリスがありますよ」

「本当だ。入口からは見えない場所にあるとは意地が悪いね。隣には転移ポータルもあるから、今後ここを訪れるのは楽になりそうだよ」

「そうですね。とりあえずポータルを登録しましょうか」

「そうだね。まずは、そちらを優先しようか」


 全員でポータル前に移動して、転移ポータルを登録する。

 ポータル名は『ヒヒイロカネの坑道』になっていた。


 ポータル登録を済ませたら、今度はモノリスの調査だ。

 モノリスがあるって事は、この先はレイドクエストがあるって証でもあるからな。

 モノリスを調べてわかったレイドクエストの内容は、俺達の想像を超えていたが。


「……いやはや、まさか既に80レベルレイドが実装されていたなんてね」

「『天上の試練に挑みし者』ですか。レベル80レイド、6パーティ必須とはかなりの条件ですね」

「しかも、一回挑むごとに『ヒヒイロカネの鍵』を消耗するとなると、それなりの数のヒヒイロカネを集める必要もありそうだ」

「どっちにしても楽じゃないって事ですね」

「そのようだ。……あちらにある穴が『ヒヒイロカネの坑道』なんだろうね」

「そうだと思いますよ。行ってみましょうか」

「そうだね。そうしよう」


 俺達は『ヒヒイロカネの坑道』と思われる奥に通じる穴の前にやってくる。

 すると、ここから先はダンジョン扱いになり、パーティごとに分断されるというメッセージが表示された。


「どうやら、レイドチームを組んで数でクリアすることはできないダンジョンのようだね」

「そのようですね。……さて、どうしますか?」

「とりあえず、パーティを組み直そう。『ライブラリそっち』のパーティに僕と十夜、それからタンクとしてガイスを加えてもらっても構わないかな?」

「わかりました。それでは申請を送ります」


 『白夜』側はパーティを再編して、パーティ単位で行動しやすいように布陣を整える。

 俺達も白狼さんに十夜さん、ガイスさんの3人が加わることでかなりバランスのいいパーティになった。


「それじゃあ、パーティ分けも済んだことだし、各パーティごとでこのダンジョンのクリアを目指そう。ただ、ワールド初クリアの報酬はトワ君達に行くように調整すること、いいね」

「了解です、マスター」

「それじゃあ、マスターたちから出発ですね」

「白狼さん、ダンジョン攻略でワールド初攻略の報酬って手に入るんですか?」

「場所によるけどね。おそらくここなら初攻略報酬が手に入るだろうし、このあたりの初攻略報酬ならシルバースキルチケットだと思う。せっかく案内してもらってるんだから報酬はしっかりとあげないとね」


 これはここで議論していても仕方がないパターンだ。

 大人しく、うまくクリアできた場合は報酬を受け取ることにしよう。


「それじゃあ、準備は出来たかな? あまり遅くなるわけにもいかないし早速出発しよう」

「そうですね。行きましょう」


 俺達のパーティがまず最初に『ヒヒイロカネの坑道』へと足を踏み入れる。

 周囲がヒカリゴケで覆われていて、わずかな光ではあるが先が見通せないという事も無く、割と見晴らしのいい坑道である。


「うーん、内部もヒカリゴケで覆われているか。どこに敵が待ち伏せているか見当が付かないな」

「おそらくは曲がり角やポケットなどの小さい穴でしょう。一先ずはガイスに前に出てもらって、慎重に進むしかないでしょうね」

「そう言う訳だから、ガイス。先頭を頼めるかい?」

「ええ、大丈夫ですよ。殿しんがりは誰が務めるんです?」

殿しんがりは私が務めます。隊列的には……ガイス、白狼、トワさん、ユキさん、ドワンさん、私の順でしょうか」

「隊列とかの判断はそちらに任せますよ。経験的に俺達じゃ不足してますからね」

「わかった、それじゃあこの隊列で進むとしよう」


 隊列を組んで坑道の中を進んでいく。

 先程、指摘があったとおり、モンスターの襲撃は曲がり角で待ち伏せや、通路脇に隠された小さな穴からの攻撃が目立っていた。

 モンスターの構成としては小鬼やワームなどがほとんどで、たまに広い部屋に出たときは鬼が相手になることもあった。

 そして広い部屋にはモンスターだけでなく、採掘ポイントも多く配置されており、今もドワンと手分けして掘り返しているところだ。


「ふむ、さすが『ヒヒイロカネの坑道』じゃの。名前にヒヒイロカネが含まれているだけあって、ヒヒイロカネが採掘出来るわい」

「こっちもだ。もっとも、ヒヒイロカネが掘れる確率は10個に1個のペースだけど」

「わしの方は3個に1個じゃのう。おそらく【採掘】スキルのスキルレベルの差じゃろう」

「あー、それはあるかも。……ってなると、白狼さん達は大丈夫ですか?」

「ああ、【採掘】スキルか。そっちはある程度鍛えられてるから大丈夫だよ。なにせ、アダマンタイトは自力で採掘に行ってるからね」

「ああ、そう言えばそうでしたね。それならここも周回出来そうですか?」

「うーん、難しいところかな。さっきからモンスターに【看破】を仕掛けてるんだけど、全てはじかれていてね。おそらくレベル不足だと思うんだけど」

「【看破】ですか。……そう言えば試してなかったですね。次に戦闘になったら試してみます」

「よろしく頼むよ。……さて、そろそろ採掘ポイントも掘り終わったかな?」

「うむ、待たせたの」

「構いませんよ。それじゃあ、先に進みましょう」


 坑道は一本道で分岐ポイントは一切なかった。

 途中出現したモンスターに【看破】を仕掛けて回ったが、なんとレベル67や68といった格上ばかりであった。

 白狼さん達に伝えても特に慌てた様子はなかったから、白狼さん達はそのレベルのダンジョンを攻略しているようだけど。


 さらに、このダンジョンはボスモンスターが存在しているのが地下3階という狭さだったのだ。

 ……夕飯を作る時間とかを考えればありがたいんだけどね。


「どうやらあれがここのボスモンスターのようだね。トワ君、【看破】で情報を引き出せるかい?」

「……ダメですね。ボスの名前とレベルしかわかりません」

「ボスの名前とレベルは?」

「ボスの名前は『緋緋色の亡霊武者』、レベルは69です」

「……まあ、雑魚敵のレベルが67や68の時点でボスのレベルがそれくらいなのは予想してたけどね」

「さすがに楽な戦いにはならないでしょうね」

「……マスター他のパーティもボスまで辿り着いたようです」

「とりあえず、他のパーティは戦闘を開始しないで待機してもらっていて。僕達の戦闘結果が出てから戦闘を開始してもらおう」

「わかりました。そのように連絡しておきます」


 ボス戦を前に否応なしに緊張感が高まってきた。

 白狼さん達の様子だと、ボスを倒さずに引き返すと言う選択はなさそうだし、覚悟を決めてボス戦へと挑むとしようか。

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