279.スレイプニルを求めて

「ふむ。スレイプニルの情報が欲しいのか」


 『白夜』から依頼を受けた翌日の午後、ログインする時間が取れたのでジパンに行きセイメイ殿と面会することにした。

 この反応からすると、スレイプニルの事を知ってるのは間違いなさそうだな。


「スレイプニルの情報か。……まあ、教えても構わないか」

「本当ですか。それは助かります」

「しかし、スレイプニルの事を知ったのはかなり昔のことであろう。何故、今その情報を求める?」

「あー、俺の知り合いがスレイプニルの事を知りたがっていてね」

「なるほどの。まあ、悪用するには難しい試練が待ち受けているし問題ないだろう」

「助かります。それで、スレイプニルはどこにいるんですか?」

「ふむ、どこにいるかと聞かれれば天界にいるとしか答えられぬな。クロもスレイプニルを連れているが、あれは分体なのでな」

「分体……フェンリルと一緒か」

「そうなる。つまり、スレイプニルの分体がほしければ相応の試練を乗り越える必要がある」


 なるほど、スレイプニルはフェンリルと同格の眷属って訳だ。

 実装されたのは、ジパンを含めた各国が実装された時と同じタイミングかな?


「それで、スレイプニルを入手するための試練はどこに行けば受けられるんです?」

「そう慌てるな。スレイプニルの試練を受けられる場所は世界中に点在している。妖精郷への道が複数あるのと同じようにな。私が知っているのはジパンにある試練の間くらいだが」

「ジパンでも入手は可能なんですね?」

「うむ、可能ではある。そう簡単に挑めるものでもないがな」

「その場所を教えていたただくことは?」

「もちろん、構わんよ。ここまで話しておいて、場所だけ教えぬのでは意味がなかろう」

「まあ、そうですが」

「ただ、試練の間に入るためには特別な鍵が必要になる。その材料までは用意してやることはできないがな」

「鍵の材料の入手方法は?」

「それは教えよう。まあ、簡単にはいかぬだろうがな」

「そこは本人達に頑張ってもらいますよ。それで場所なんですがどこですか?」

「うむ。場所だが、ここ【星見の都】より騎獣に乗って北西に2時間ばかり進んだところに古い洞窟が存在している。その中に試練の間に続く転移装置と、その転移装置を動かすために必要な鍵を作るための素材が入手出来るダンジョンがあるわけだ」

「転移装置とダンジョンは別々に存在してるんですか?」

「左様。転移装置が入口付近に存在し、その奥がダンジョンとなっている」

「ふむ……それで、鍵を作るために必要な素材ってなんですか?」

「鍵を作るのに必要な素材はヒヒイロカネ鉱だ。そのダンジョンは昔よりヒヒイロカネの産地として使われてきた場所だからな」


 ヒヒイロカネか……。

 ゲームではおなじみの鉱石だけど、このタイミングで登場とはね。


「もちろん、ヒヒイロカネを使って装備を作るのもよかろう。ただ、転移装置を動かすための鍵を作るにもヒヒイロカネは必要でな。そこについてどうするかは、そちらに任せよう」

「ありがとうございます。ちなみに、そのダンジョンってボスは存在するんですか?」

「むしろ、ボスがいるからこそダンジョンと呼ばれるのだよ。……まあ、ボスの情報まで教えてしまっては面白くなかろう。そちらについては自分で見て確かめるといい」

「調べても情報は見つからないと?」

「調べて見つかる情報などたかが知れているよ。せいぜい、そのボスには近づくなという事しか書かれていないであろう」

「そうですか……。わかりました、それについても話してみますよ」

「それがいい。……ところで、少し変わった魔力の気配を感じるが、何か調べているのか?」

「変わった魔力の気配……ああ、『精霊魔術』と『原初魔術』について色々と調べていますね」

「ふむ、そうか。ただ、その魔力の気配、おそらくは奥底に眠っている力を無理矢理引き出すものだろう。覚えるなとは言わぬが、覚えるのであればそれ相応の覚悟を持って覚えるといい」


 おや、こんな会話が用意されてるのか。

 ひょっとしてセイメイ殿なら何かわかるかも。


「実はこれらについて調べてるのですが、何かわかる事ってありますか?」

「いや、私にはわからぬ。そのような術を研究したことはないのでな。ただ、魔力の流れが微妙に揺らいでいることだけはわかったが」

「そうですか。何かわかったことがあれば、教えてもらいたかったのですが」

「私も研究したことがない術まではわからんよ。……ただ、それらを研究しているものであれば何かわかるやも知れないが」

「そうですか……。わかりました。ありがとうございます」

「礼を言われるほどのことでもない。ヒヒイロカネを精製して鍵にする事については、下にいる者達に後で聞いてみるといい。対応するように連絡をしておこう」

「わかりました。それでは失礼します」

「うむ、またそなたの家に遊びにいこう。その時は茶でも用意してくれ」


 セイメイ殿との面会を終えて陰陽寮から退出する。

 さて、必要な情報は手に入ったけど、この後どうするかな。

 ヒヒイロカネとかドワンも手に入れたいだろうし。

 ……一度、クランホームに集まってもらってそこで話をするか。

 幸い、ドワンも白狼さんもログインしてるし。


 白狼さんとドワンに連絡を取った結果、すぐにでも話を聞きたいという事なのでクランホームに集まってもらう事に。

 俺もクランホームへ急いで戻ると、そこにはユキの姿があった。


「あれ、ユキ。昼間にログインとは珍しいな」

「あ、こんにちは、トワくん。夕飯まで時間が空いたから、少し生産でもしようかなと思って」

「そうか、それならいいんだけど」

「トワくんは昨日頼まれたことを調べてたの?」

「ああ。それで、これから白狼さん達に調べた結果を話すことになっているんだけど」

「そうなんだ。それじゃあ、お茶を用意してくるね」

「ああ、頼む。ユキも話を聞いてみるか?」

「うーん、そうだね。あまりわからないと思うけど、一応話を聞いてみようかな」

「わかった。多分すぐに集まると思うからよろしく頼む」

「うん、すぐに飲み物を用意してくるね」


 飲み物を用意するために談話室を出て行ったユキを見送る。

 すると、ユキと入れ替わりにドワンが談話室へとやってきた。


「トワよ。今ユキとすれ違ったが何かあったのかの?」

「いや、時間があったからログインしていただけらしい。これから白狼さん達が来るって話をしたら飲み物を用意するって」

「なるほどの。それならばいいのじゃが。それで、ヒヒイロカネが手に入るというのは本当か?」

「おそらくは間違いないと思うぞ。どの程度の数が手に入るのかはわからないけど」

「ヒヒイロカネといえば、オリハルコンやアダマンタイトと並ぶファンタジー金属じゃからのう。オリハルコンの情報も見つかってはおらんが、ヒヒイロカネが実装されているのであれば期待ができるのう」

「まあ、そっちの情報まではないけどね。とりあえず、白狼さん達が来るまで席について待っていてくれ」

「わかった。期待しておるぞ」


 ドワンが席に着き、ユキが飲み物を持って戻ってきたところに白狼さんがやってきた。

 ただ、やってきたのは白狼さんだけで、十夜さんも含めて他のメンバーは一緒じゃないみたいだ。


「待たせたかな。急いで戻ってきたんだけど……」

「いえ、大して待っていないので大丈夫ですよ。それよりもどこかに行っていたんですか?」

「ああ、レベル上げのためにダンジョンに潜っていたんだ。連絡が来たからすぐに帰還したんだけどね」

「他のメンバーは大丈夫なんですか?」

「他のメンバーも一緒に帰還しているよ。情報次第ではすぐに動けるようにね」

「そうですか。……まずは席についてください。すぐにわかったことを教えますので」

「ああ、よろしく頼むよ」


 白狼さんとユキも席に着き、準備が整ったところで調べてきた内容を全員に話す。

 白狼さんもドワンも興味津々と言った様子だ。


「なるほど、スレイプニルを手に入れるための試練を受けるには、そのダンジョンに潜ってヒヒイロカネを集めてこなくちゃいけない訳か」

「そうらしいですね。ボスについては教えてもらえませんでしたが」

「まあ、ボスの情報まで教えてもらっては攻略する楽しみがないからね。……ただ、そんなところにダンジョンがあるなんて聞いたことがないけど……」

「隠しダンジョンかも知れんの。トワが前に発見したドラゴニュートの隠れ里のように、事前に情報を入手していないとたどり着けない場所とかのう」

「その可能性はあるな。……ってなると、最初の一回は少なくとも俺が案内しないとダメな訳か」

「そうなるね。手間をかけさせて申し訳ないけど、案内してもらっても大丈夫かな?」

「ええ、構いませんよ。……今からならダンジョンを攻略する時間もあるだろうし、これからすぐに向かいますか?」

「そうだね。そうさせてもらえるかな」

「わしも一緒に行くぞい。スレイプニルには興味がないが、ヒヒイロカネには興味があるからのう」

「私も一緒に行って大丈夫かな?」

「ああ、大丈夫だ。……それじゃあ、俺達3人と『白夜』のメンバーという形で大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だよ。十夜の方で同行するメンバーの人選も済んでいるはずだからね。それじゃあ、急かすようで済まないけど、早速案内してもらえるかな」

「時間があまりないのは一緒ですからね。……まずは陰陽寮から行きましょうか」

「わかった。それじゃあ、ジパンの陰陽寮前で待ち合わせだね」

「ええ、よろしくお願いします」


 話がまとまるとすぐに白狼さんは去っていった。

 俺達ものんびりはしていられないんだけどな。


「さて、ダンジョンという事は戦闘もあるじゃろう。装備の方は大丈夫かの?」

「はい、大丈夫です」

「俺の方も大丈夫だ。……ところで、ドワンって陰陽寮には行けるのか?」

「物見遊山で陰陽寮前までなら行った事がある。サブポータルも使えるので大丈夫じゃよ」

「わかった。じゃあ、移動しよう」


 準備が整っていることを確認したら、ジパンの陰陽寮前まで転移だ。

 これからダンジョンに向かうわけだけど、そんなにきついダンジョンじゃなければいいのだがな。

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