278.『白夜』からの調査依頼
土曜日の夜は、いつも通り『妖精郷の封印鬼』攻略だ。
もうすでにパターン化されていてクリアも楽勝であるが、報酬がおいしいためまだ続けている。
ここの攻略に参加する分には、戦闘が苦手な柚月も文句は言わない。
ハルやリク達も変わらずに参加しているので初期のクリアチームとの差は、『インデックス』が抜けたのと『白夜』のメンバーで入れ替わりがあるくらいである。
そう言う訳で封印鬼討伐まであっさりと終わらせた後、報酬の精算とトレードをしていると白狼さんから話しかけられた。
「トワ君、少しいいかな?」
「なんですか? 何か気になることでもありましたか?」
「いや、封印鬼の事じゃないんだけど、少し相談に乗ってもらいたいことがあって」
「うん? 装備の更新とかそう言った話でしたら柚月やドワンに直接話しをしてもらった方が早いですよ?」
「装備じゃないんだ。僕らは今ジパンにいて、少し気になる噂を聞いたからそれについて調べてるんだけど、トワ君達は何か知ってるかなと思って」
「うーん、まあ、話をする分には構いませんけど、あまり隠してる情報はないですよ?」
「それは予想してるよ。ともかく、ジパンで一番攻略が進んでいる、と言うべきか、一番重要な
「それならいいんですが。でも、一体どんな内容なんです?」
「それについては後で話すよ。この後、『ライブラリ』のクランホームに行っても大丈夫かな?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「それじゃあ、続きはそこで話そう。また後で」
この後で再度話をする約束を取り付けた白狼さんは、『白夜』のメンバーの方へと戻って行った。
「トワ、白狼さんと何を話していたの?」
「うん、柚月か。なんでも何か聞きたいことがあるらしい。この後、クランホームへ来るってさ」
「白狼さんがねぇ。何か厄介事でなければいいんだけど」
「白狼さんが、そんな厄介事を持ち込むとは思わないけどな。教授と違って」
「教授は私達が生産者集団だって事を気にしてないからね……」
「そう言う訳だから、この後、白狼さんと話をするけど柚月はどうする?」
「可能なら一応同席させてもらおうかしら。あまり難しい問題を持ち込まれても困るしね」
「教授からの依頼を調査中な事は知ってると思うけど……まあ、どんな内容か聞いてから判断しよう」
「そうね。『白夜』には素材の納品とかで色々とお世話になってるし、出来る範囲でなら相談に乗りましょう」
「決まりだな。報酬の精算は終わったのか?」
「それもバッチリ終わってるわよ。後は帰るだけね」
「わかった。それじゃあ、引き上げるとしよう」
柚月の言葉通り、全てのパーティが帰り支度をしている様子なので、俺達も残りのメンバーの元に向かい帰り支度を済ませてしまう。
全てのパーティの帰還準備が完了したところで、レイドクエストを完了させてレイドエリアから脱出する。
ハルやリク達、それに白狼さんと十夜さんを除く『白夜』のメンバーはポータルから帰還していった。
この場に残ったのは、俺達『ライブラリ』と白狼さんに十夜さんだけだ。
「済まないね、皆。時間を作ってもらって」
「お手数をおかけします」
「別にいいわよ。話を聞くだけなら大した事は無いし。ただ、私とトワ、それにユキは教授からの依頼で色々と調査中だからあまり時間がかかる依頼は請け負えないわよ」
「そこは大丈夫かな。話を聞いてもらって、心当たりがあればラッキーくらいの話だから」
「ふむ、そう言うことならばわしらも参加させてもらうとするかの」
「そうだねー。ジパンでは皆、別行動だからお互いが持ってる情報ってすりあわせてないものねー」
「そうだねぇ。おじさんも皆がどんなことをしてるのか聞いてないし、おじさんがしてることも話してないからね」
「……そう言う訳だから、全員で話を聞きますけど大丈夫ですか?」
「ああ、構わないよ。むしろ、情報源が多くなる分には大歓迎かな」
「話も決まったみたいだし、私達も引き上げましょう。ここで立ち話をしていても仕方がないわ」
「そうだね。ここで話すことでもないし、『ライブラリ』にお邪魔させてもらおうかな」
「わかりました。じゃあ移動しましょう」
この場でできる話は終わったので、全員で『ライブラリ』のクランホームへと移動する。
クランホームに移動したら、談話室で全員が席について話をすることに。
「さて、僕から聞きたいことなんだけど、今『白夜』では陰陽寮で色々と仕事をこなしている最中なんだよ」
「ほう、『白夜』でも陰陽術スキルを取り入れるのかの?」
「そのつもりだよ。どうやら陰陽寮の功績は、個人での蓄積の他にクラン単位での蓄積もあるらしくてね。手の空いているクランメンバーの中で陰陽術スキルに興味があるメンバーには、積極的に陰陽寮のクエストをクリアしてもらっているんだよ」
「陰陽寮の功績がクラン単位でもたまるって言うのは初耳かな。その情報って『インデックス』には?」
「もちろん話してあるよ。もっとも、『インデックス』の方も色々と検証……というか、裏を取る必要があることが多すぎて手が回らないって言われたけど」
「でしょうね。俺達にまで調査を依頼してくるんだから、新しい検証内容、それもクラン単位で行動しなくちゃいけないような作業は手が回らないはずですよ」
「まあ、そう言う訳で、情報は流してあるけど公開されるのはまだ先かな」
「私達でももう少し詳しく調べられればよかったのですが、とにかく急いでいたので検証らしい事をしないで進めてしまいましたからね」
「それで、白狼さんはボク達に何を聞きたいのー?」
「ああ、そうだね。本題に入ろう。実は、陰陽寮で色々と
「……確かに、陰陽寮トップのセイメイ殿とは面識がありますし、時々話をする間柄ではありますけど。一体何があったんですか?」
「そう身構えなくても大丈夫だよ。僕らが聞きたいのは、スレイプニルって言う神獣の話なんだけど心当たりはあるかな?」
スレイプニルかー。
大分昔だけど、心当たりはあるな。
「……一応、知ってはいます。ただ、入手経路とかは調べないとわかりませんが」
「そうか、心当たりはあるんだね。済まないけど、手が空いた時で構わないから少し調べてもらえないかな。急ぎの内容でもないから、『インデックス』の依頼が終わったあとでもいいんだけど」
さて、スレイプニルの事を聞くとなると、直接セイメイ殿に尋ねるしかないわけだけど。
どうしたものかな。
「とりあえず話だけは聞いてみますよ。それで、クエストとかをこなさなくちゃいけなくなったらまた相談ということで」
「ありがとう。僕らだけじゃ噂しか聞けなかったから助かるよ」
「そうですね、実際に存在はしているらしいのですが、噂以上の話を聞くことはできなかったので助かります」
「あまり期待しないでくださいね。話を聞く相手は陰陽寮のトップなので、情報の代わりにどんなクエストを依頼されるかわかったものじゃないですから」
「それでも十分だよ。それから、戦闘系のクエストだったら遠慮せずに声をかけてほしい。こちらから依頼しているわけだし、戦闘だったら得意分野だ。十分に力になれると思うよ」
「その時は力を借りますね。そういえば、柚月達ってジパンでは何をしてるんだ?」
「私? 私はジパンではあまり何もしてないわね。和服関係で調べ物をしたり実際に作って見たりしたくらいよ」
「ボクはアーチャーギルドで色々教えてもらってたかなー。その後、木工ギルドで和弓の作り方を学んできたー」
「わしも刀の作り方を教えてもらったのう。知識としては知っていたが、実際に経験したことはなかったのでな」
「おじさんも細工ギルドで色々小物作りについて学んでるところかな。ジパン独自のアクセサリーみたいなものもあって、なかなか面白かったよ」
「そういうトワ達はどうなのよ?」
「俺達か。俺達は……陰陽寮に行ってそこで色々とクエストをこなした後は、ジパンの屋敷でゴロゴロしたりスキルを覚えるために巻物を解読したりとかかな」
「そうですね。後は、珍しい場所を歩いてみたりとか、細かなクエストをこなしたりですね」
「ふーん。つまりは、いつも通りって事ね」
「そうなるな。それで、白狼さん。話っていうのはスレイプニルの件だけですか?」
「うーん、後は9月のアップデートで追加された装備の強化について、何かわかれば聞きたいんだけど……」
「それはわしらも聞きたい話じゃのう」
「そうだねー。何件か強化依頼は受けたけど、どういう結果になるかは運任せなところがなくならないからねー」
「追加結晶で上がるステータスやら属性やらがわからないのが痛いわね。完全にランダムなのか、何か調べる方法があるのか、それすらもわかってないもの」
「俺は依頼を受けてないからよくわからないけど、そんなにランダム性が強いのか?」
「強いなんてものじゃないわね。ステータスが上がるのか属性が付くのか、それだけはアイテム名が違うからわかるけど、それ以外の情報は今のところわかってないわよ」
「やっぱり『ライブラリ』でもそんな状態なんだね。『インデックス』に聞いても調査中としかいわれなかったから、もしかしたら程度だったんだけど……」
「さすがに、情報系クランですらわかってない情報を握ってはいないわね。それに、私とトワ、ユキの3人は『インデックス』の依頼で色々調べて回ってるから検証している余裕なんてなかったし」
「おじさんとドワン君もそうだねぇ。おじさん達はアイアンギウスで色々と調べて歩いてるからね」
「ボクも今はあまり生産活動をしてないかなー。フォレスタニアでちょっとクエストをこなしてるからねー」
「そうか。まあ、強化結晶についての話はもしわかれば程度だから気にしなくてもいいよ。それじゃあ、トワ君、済まないけどスレイプニルの件はお願いするよ」
「わかりました。何かわかれば連絡します」
「うん、よろしく。それでは、今日は失礼するよ」
「話を聞いていただきありがとうございました」
別れの挨拶を済ませた後、白狼さんと十夜さんは帰っていった。
残っているのは『
「それで、トワ。本当に当てがあるの?」
「ああ。
「随分曖昧ね」
「それなりに昔の話だからな。まあ、情報源としてハズレではないと思うけど」
「そう。……それで、教授の依頼との兼ね合いはどうするの?」
「とりあえず、明日の日中に時間があったらスレイプニルの件は聞きに行ってくるよ。それで、時間がかかりそうなクエストを受けなくちゃいけなかったらとりあえず保留にしておく、ってところかな」
「まあ、それくらいが妥当なラインかしらね。夜は教授からの依頼を続けるって事で構わないわね?」
「ああ、そうすることにしよう。ユキも構わないよな?」
「うん、それで大丈夫だよ」
「そちらはそちらで大事になってるようじゃのう」
「そうだね。おじさん達はのんびりやらせてもらってるけど、そちらは忙しそうだねぇ」
「ボクは早々にリタイアしたけど、やっぱり大変?」
「それなりに大変だな。今は壁にぶつかってるから尚更だけど」
「ふむ。まあ、手伝えることがあったら言ってもらえれば手伝うぞい」
「ええ、その時はよろしくね。じゃあ、今日は解散!」
柚月の号令でこの場はお開きとなり、それぞれの行動に移る。
俺も少しポーションの補充をして寝るとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます