276.【研究都市】
マナファウンテンを探索した翌日、俺達3人は【研究都市】へと向かうことになった。
道程としては国境側へと戻ることになるのだが、教授から届いたメールでは先にマナファウンテンで推薦状をもらっておかないと『原初魔術』取得のためのクエストが発生しないらしいので仕方がない。
道中ボス戦があるのでそこだけは気をつけることにし、それ以外のモンスターは全てスルーして走り抜けていく。
「そう言えば、ここのボスモンスターってなんて名前なんだ?」
「プロトタイプゴーレムαって名前らしいわよ。何でも研究段階だったゴーレムが誤作動を起こして暴走した結果、やがてモンスター化したとかなんとか」
「そうなんですね。ボスにも色々とあるみたいですね」
「まあ、教授の受け売りだけどね。物理攻撃にはかなり強いけど、魔法耐性は全体的に低め、特に雷弱点らしいからトワは一気に倒してしまって」
「了解。エアリルとも協力して一気に倒させてもらうよ」
「ところで、今の情報ってトワ達にはメールで伝えられてなかったのかしら?」
「俺のところに来たメールにはなかったな。手順として先にマナファウンテンに行って推薦状をもらってから【研究都市】に行くように指示されていただけだ」
「私も同じです」
「ふーん、まあいいけどね。教授も同じ内容のメールを送ってもいいと思うんだけどね」
「その辺は教授の方の判断だろう。……まあ、ボスモンスターの情報ぐらい送ってくれてもいいと思うんだけど」
「そうだね。ボスモンスターの情報は欲しいよね」
「どうせ3人セットで行動するんだし、それで書かれてなかったのかもね。……さて、それじゃあエリアボスまで飛ばすわよ」
「了解。さっさと進んでしまおう」
「そうですね。行きましょう」
騎獣の移動速度に任せてモンスターを振り切りながら移動することしばらく、エリアボスのフィールドまでたどり着くことができた。
「さて、ここがボスの出現場所ね」
「なんというか、荒廃した屋外研究施設って感じだな」
「ボスの暴走で廃棄されたとか、そんな感じの設定なんじゃないのかしら。それじゃあ、ボス戦を始めるけど準備はいいわね?」
「はい、大丈夫です」
「こっちも準備はできてる」
出発前の段階でパーティとしてエアリルを召喚済みなので、すぐに戦闘を始めても問題はない。
ユキの方もプロキオンを待機させてるし、柚月も自分の精霊を召喚済みだ。
「オッケー、始めるわよ」
ボス戦を開始すると地中から巨大な腕が飛び出し、やがて全身があらわになる。
大きさは……大体8メートルくらいかな?
さすがにこのサイズのボス相手だと、狙ったところに攻撃を当てるのも簡単そうである。
その分、HPは高いのかもしれないけど。
「さて、先手は取らせてもらうわ。共鳴増幅ラーヴァブレイク!」
「俺達も行くとするか。共鳴増幅サンダージャベリン!」
「プロちゃん、お願い!」
「ウォォン!!」
俺と柚月がそれぞれの精霊と魔力共鳴増幅を行い、強化された最大火力のスキルを使って攻撃する。
ダメージ量は……うん、2人の攻撃をあわせると残りHP1割強まで減っているな。
もちろん、ターゲットも俺達に来る訳だが、そこにプロキオンが割り込んでターゲットを奪いとる。
ゴーレムの動きは巨体のわりにはなかなか素早い動きを見せてくるが、プロキオンの方が一枚上手で全ての攻撃を躱している。
その隙に俺と柚月、それから精霊達による魔法の連射を浴びせかけることによって、ボスゴーレムは呆気なく沈黙した。
……さすがにレベル40台のボス相手にレベル60を越えてるプレイヤーが全力だとこうなるよな。
〈エリアボス『プロトタイプゴーレムα』を初めて撃破しました。ボーナスSP6ポイントが与えられます〉
「よし、ボーナスSPもゲットできたし先を急ぐか」
「そうね。早いところ【研究都市】とやらに行きたいところね」
「多分、中間地点くらいまではきてると思いますし、頑張りましょう」
「それもそうね。それじゃあ、先を急ぐわよ」
「了解。さっさと目的地に向かって用件を済ませてしまおう」
再び騎獣を用意して走り続けること1時間ほど、遠くに街壁が見えてきた。
どうやら、【研究都市】に到着したみたいだな。
「あれが【研究都市】か」
「おそらくそうでしょうね。道を間違ってはいないはずだから【研究都市】であってもらわないと困るんだけどね」
「ここまで来ればもう少しですね。急ぎましょう」
「そうだな。それじゃあ、最後のもう一踏ん張りといきますか」
街壁が見えてから数分で、街壁の元までたどり着く。
門の中に入って、すぐそばにいた衛兵に聞いてみたがここが【研究都市】で間違いないみたいだ。
「ようこそ【研究都市】へ。君達も『原初魔術』を学びに来たのか?」
「ええ、そうだけど、そんなに多いのかしら『原初魔術』を覚えに来る異邦人は」
「ここ最近はかなり増えたな。少し前までは、【学術都市】の方で魔術を学んでいた異邦人が多かったのだがな」
「へぇ、【学術都市】なんて場所もあるのね? そこだと何が学べるの?」
「簡単に言えば上位魔術のさらに上のスキルを学ぶことができる。通常の魔術やその他の技術の研究は【学術都市】で行われていて、ここ【研究都市】で行われている研究は『原初魔術』だけに特化しているな」
「なるほどね。そもそもこの都市に用事がある異邦人は『原初魔術』を学びに来るくらいしかないのか」
「まあ、そういうことだ。そんな簡単に学べる訳でもないんだけどな」
「推薦状ならもらってきてるけど、それでもダメなの?」
「ああ、推薦状があるなら大丈夫だな。逆を言えば、推薦状がなければ門前払いなんだが」
「そうなのね。それで、どこに行けば『原初魔術』を教わることができるの?」
「中央にある、青い屋根の大きな建物に向かうといい。あそこが『原初魔術』の研究所だ」
「わかったわ。色々教えてくれてありがとう。……トワ、ユキ、行きましょう」
「ああ、そうするか」
「色々教えてくれてありがとうございました」
「いや、これも仕事だからな。そちらもこれから大変だと思うががんばってくれよ」
衛兵に見送られて、研究所とやらに向かう。
研究所の近くにいくにつれて、プレイヤーの数が増えてきてる気がするな。
何やら、パーティ募集をしているようだけど。
「……衛兵さんが言っていたけど、本当にプレイヤーが多いんだね」
「そのようね。なんのためのパーティ募集かもわからないけど、とりあえず研究所に行きましょう」
「そうだな。それが良さそうだ」
パーティ募集をしているプレイヤー達を迂回して、俺達は研究所へとたどり着いた。
研究所の入口で門番の衛兵に止められるが、推薦状を見せるとあっさりと奥へと通してくれた。
後は受付で推薦状を見せればいいらしい。
「ようこそ、『原初魔術研究所』へ。推薦状をお願いいたします」
「ああ、ちょっと待ってくれ。……はい、これだ」
「……はい、確かに受け付けました。それでは中を案内いたしますので、付いてきてください」
受付の係員に案内されて研究所の中へと進んでいく。
研究所の内部は特に変わった様子は見受けられないな。
「それでは担当の者が参りますので、この部屋でお待ちください」
「わかった。案内ありがとう」
案内された部屋の中で待つこと暫し、ドアがノックされて一人の男が入ってきた。
「ようこそ『原初魔術研究所』へ。私はここの研究員をしているリバウトだ。よろしく頼むよ」
「トワです、よろしく。こっちは柚月とユキ」
「ああ、よろしく。それでは早速だが、『原初魔術』の研究について簡単に説明しよう。どういったものであるかを理解してもらわないと先に進めないからね」
「わかったわ。でも手短に頼むわよ」
「ああ、わかってる。『原初魔術』だが、この研究の始まりは『精霊魔術』がどういったものであったかと言うところから始まったんだ」
「『精霊魔術』から?」
「ああ、その通り。詳細は省くが、『精霊魔術』は人の奥底に眠っている魔力を引き出すものだという事が判明した。そして、それと同じ事を精霊の力に頼らないで行おうとした。それが『原初魔術』だ」
「……つまり、『原初魔術』と『精霊魔術』はほとんど一緒って事か?」
「簡単に言ってしまうとそうなるね。どちらの技術も、人が元々持っている力を引き出すものだ。それ故に、相性が悪く双方の力を扱う事は今のところできない事になっている」
「今のところね。……とりあえず、『原初魔術』の取得方法を聞いてもいいか?」
「そうだね、基本的な知識はそれだけで十分だしそちらの話しをしようか。『原初魔術』を覚えるためには、その力を自力で引き出してもらう方法が一番簡単だ。我々としてはそれを手助けするための道具を貸し出す事になっている」
「自分の力を引き出すための道具ですか?」
「ああ、そうだ。簡単に言ってしまえば、『原初魔術』のもっとも基本的な魔術を使えるようにする道具だね」
「……『精霊魔術』の取得でも似たようなことをしたな」
「おや、『精霊魔術』も学んできたのかね。ここに来ているということは『精霊魔術』を覚えてはいないと思うんだけど?」
「ちょっと理由があってな。両方を同時に覚える方法がないか探ってるんだ」
「ほう、それは興味深いな。……だが、まずは『原初魔術』を覚えるところから始めよう。『精霊魔術』を学んでいるのならわかると思うが、この指輪をつけてモンスターを倒してきてほしい。そうすれば『原初魔術』を覚える事ができるようになるだろう」
「わかった。それじゃ、よろしく頼むよ」
「こちらこそ。それでは、これがその指輪だ。頑張ってきてくれよ」
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チェインクエスト『原初魔術の取得Ⅰ』
クエスト目標:
『ソリッドショット』を使用してモンスターを1,000体倒す 0/1000
(同一クエストを受けているプレイヤーとパーティでの累計が可能)
クエスト報酬:
次段階へのクエスト進行
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『精霊魔術』の10倍、1,000体もモンスターを倒さなくちゃいけないのか。
そして、パーティでの累計が可能って事はパーティの人数が多ければ多いほど楽な訳だ。
外でパーティ募集をしてたのはこのためか。
「それでは、私はこれで失礼するよ。頑張ってきてくれ」
リバウトが部屋を出て行ったが、俺達は固まったままだ。
「……さて、さすがに1,000体は楽じゃないわよね。どうするの?」
「やるしかないだろうな。時間を見て少しずつやっていこう」
「そうだね。頑張ろう」
……これはしばらく時間がかかりそうだな。
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