271.『精霊魔術』取得のための修練

「ほう、それでは『精霊魔術』の取得に一歩近づいたという訳か」

「そうなるわね。もっとも、最初の一歩をようやく踏み出せた、って感じだけど」

「なにはともあれよいことじゃろう。しかし紹介状が必要とはのう。わしが行っても意味はなかったわけじゃな」

「おそらくそうなるわね。イリスでも門前払いだったんだから、ドワンの魔術じゃレベル不足でしょうね」

「そうですね。これは私達魔法が得意な3人で進めるしかないと思います」

「そうだな。……ところでおっさんは? さっきから姿が見えないが」

「おっさんならばドワーフの国に残って新しい細工技術の習得に励んでおる。まあ、わしも金属加工について学んでいるから、同類と言えば同類じゃが」

「そっか。イリスはどうしてるんだ?」

「首都まで戻ってきて工芸の技術を学んでるよー。だから、こっちのことは気にしなくてもいいかな」

「それじゃあ、お言葉に甘えて俺達は俺達で『精霊魔術』の取得を目指すとするか」

「それもそうね。とりあえず出された課題を片付ける事にしましょう」


 簡単な打ち合わせを終えた俺達は、そのまま【第2の街】をでてあまり人気のないモンスターの生息域へとたどり着く。


「さて、今回確認することはエレメンタルショットの討伐数が、ザコ敵に対しても有効なのかを調べるわよ」

「だな、格下相手でもエレメンタルショットの討伐数を稼げるなら、クエストの時短になるからな」

「そうですね。十分な安全マージンを取ることもできますし、いい考えだと思います」


 さすがに【第2の街】周辺のモンスターであれば、スキル1発で倒す事も可能だ。

 ここは街から微妙に離れているだけあって、狩り場としては人気がない。

 なので、多少モンスターを乱獲したところで問題はないはずだ。


「あまり一部の場所だけでモンスターを倒し続けると、強モンスターが出現するらしいからそこだけは注意ね」

「強モンスターね。どの程度強いんだ?」

「さあ? 私も教授に少し聞いたことがある程度だもの。詳しくはわからないわ」

「……念のため、教授に問い合わせておくか」


 幸い、教授もログイン中だったので強モンスターについての詳しい説明を聞くことができた。

 ゲーム内時間で2時間ほど極端に狭いエリアでモンスターを倒し続けていると、狩り場の独占を防ぐためのプレイヤー排除用モンスターが出現するらしい。

 このモンスターは、レベル60のパーティであっても軽く全滅するくらい強いらしいので、戦わない事が推奨だそうだ。

 なお、このモンスターは極めて狭いエリアでしか行動せず、30分も経てば消えていなくなるらしい。

 なので、スキル修練で狩り場を独占するなら時間には気をつけた方がいいそうだ。


「ふむ、2時間が限界って訳ね。……さすがに100体倒すまでにそこまで時間はかからないと思うけど」

「そうだな、とりあえず時間にだけは注意を払っておこうか」

「そうね。それじゃあ、早速狩りを始めましょう」


 俺達は分散して手早く狩りを始める。

 2時間という時間制限もついたことだし、少しでも早めに狩りを終わらせられるようにしないと。


 『エレメンタルショット』の威力は、ここのモンスターを倒すには威力が大きすぎるようであった。

 特にバフの類いはかけていないのだが、『エレメンタルショット』1発でモンスターが吹き飛ぶ吹き飛ぶ。

 『エレメンタルショット』のリキャストタイムもほぼないことから、目についたモンスターを相手にエレメンタルショットを連発して、討伐数を稼いでいった。

 クエストで表示されている討伐数は、ここの弱い敵を相手にしていても問題なくカウントされており、結果として30分ほどで100体討伐を終える事ができた。


 チャットで確認を取ると、ユキや柚月も同じくらいに終了したという事なので2人と合流したあとで街まで戻り、転移門を使って『精霊魔術研究所』へと向かう事に。

 研究所の受付で用件を話すとすぐに応接間へと案内されて、少し待っていると昨日の研究員がやってきた。


「やあ、3人とも昨日ぶり。思ってたよりもかなり早くクリアしたみたいだけど、エレメンタルショットの使い方は慣れたかな?」

「さすがに100回も使えば慣れたわね。まあ、この指輪がないと使えないと思うけど」

「そこは仕方がないよ。その指輪は『精霊魔術』を覚えていない人間が『精霊魔術』を覚えるための練習用として作られているからね。ともあれ、第一段階の修練完了おめでとう。それで、第二段階にすぐに進むかい?」

「そうね。特に問題もないし、そうさせてもらうわ」

「わかった。それじゃあ、指輪を返してもらうよ」


 研究員は俺達が使った指輪を回収し、今度は別の指輪を手渡してきた。


「今度の指輪で使えるスキルは『エレメンタルインパクト』だよ。今度のスキルは攻撃用と言うよりも、敵に近づかれた時の緊急回避用スキルだね」

「へぇ、その効果は?」

「自分の前方にいる敵を弾き飛ばすという効果さ。一応、攻撃力もあるけど、微々たるものだから攻撃力には期待しないでほしいな」

「了解。それで、今度はこれを使ってモンスターを倒してくればいいのか?」

「さすがに、このスキルでモンスターを倒してこいとは言わないさ。……そうだな、スキルを150回くらい使ってもらえれば十分なデータが取れるだろう。それじゃあ、よろしく頼むよ」


 ―――――――――――――――――――――――


 チェインクエスト『精霊魔術の取得Ⅱ』


 クエスト目標:

  『エレメンタルインパクト』をモンスターに対し150回使用する 0/150

 クエスト報酬:

  次段階へのクエスト進行


 ―――――――――――――――――――――――


 クエストも次段階のクエスト表示に置き換わったな。

 このチェインクエストが何段階あるかは聞いてないけど、問題なく進行しているようで何よりだ。


 新しいクエストを受けて研究所をあとにした俺達は、そのまま【ノーザンブレス】周辺へとやってきた。

 『エレメンタルインパクト』はモンスターを倒す必要がないみたいなので、この付近のモンスターで終わらせてしまおうという話になったわけだ。

 都合よく【ノーザンブレス】周辺のモンスターのレベルは40台で戦いやすいというのも理由だな。


「さて、それじゃあ『エレメンタルインパクト』がどの程度のスキルなのか試しに使ってみるわよ」

「ああ、任せた」

「それじゃあ、『エレメンタルインパクト』!」


 柚月がスキルを使うと、柚月の前方に強力な衝撃波が発生した。

 どうやら、スキルとしてはこれで終了らしい。


「……使ってみた感想は?」

「うーん、かなり接近されてからじゃないと使えないから、使いにくそうね。普通、魔術士は接近される前に敵を倒してしまうものだし」

「それもそうか。まあ、今はスキル修練だから諦めて使い続けるしかないけどな」

「モンスターに当てなくちゃいけないって言うのも大事よね。今みたいに空撃ちじゃカウント数に入ってないし」

「クエスト目標が『モンスターに対し』ってなってる時点で空撃ちじゃ意味がないって言ってるようなものだけどな」

「一応試してみたかったのよ。それじゃあ、またばらけて回数を稼ぐとしましょうか」

「そうだな。ユキもそれでいいか?」

「うん、大丈夫だよ。それじゃあ、また後でね」


 再び3人で分散してモンスターを探し、『エレメンタルインパクト』を当てるという作業を始める。

 モンスターの数はまったく問題ない数がいるのだが、『エレメンタルインパクト』の仕様が回数を稼ぐには面倒だった。

 『エレメンタルインパクト』を当てると敵が10メートルほど吹き飛ばされ、さらにスタン状態になったためだ。

 ボスモンスタークラスになればノックバック耐性があるモンスターも多いが、さすがに街の周囲にいるザコではそれは望めない。

 なので、複数のモンスターをばらばらに弾き飛ばすか、弾き飛ばした相手を追いかけて移動して再度当てるということを繰り返す必要があった。

 結果として、『エレメンタルインパクト』の修練を全員が終えるには1時間以上かかってしまった。


「……さすがにこの仕様で150回使うっていうのはきつかったわね」

「そうですね。ちょっと大変だったかな?」

「まあ、スキル修練は終わったんだし良しとしよう。同じ事の繰り返しっていうのは生産修練も同じなわけだしな」

「……同じ修練をするなら生産の方がずっと楽ね。とりあえず研究所に行きましょうか」

「はい、行きましょう」


『精霊魔術研究所』へと戻った俺達は、改めて研究員と話をする事になる。


「いやあ、やっぱり異邦人のスキル修練はすごい早いね。普通の人なら早くても4日ぐらいはかけて修練を行うのに」

「あまりのんびりと修練をするのも趣味じゃないからな。それで、まだ他にも修練は残っているんだろう?」

「そうだね。でも次の修練で最後だから安心してほしいかな。まずは指輪を回収させてもらうよ」

「ああ、はい、これだ」

「うん、ありがとう。……さて、最後のスキルだけど『エレメンタルシールド』っていう防御魔法だ。自分の周囲を結界で覆って敵の攻撃を防ぐスキルだね」

「今までは攻撃スキルばかりだったのに、ここで防御用のスキルか」

「やっぱり攻撃系スキルの方が使ってて馴染みやすいんだよね。だから、『エレメンタルシールド』の修練は最後って事になってるんだ」

「とりあえず理由はわかった。それで、今度は何回使えばいいんだ?」

「そうだね。シールドを張った状態でモンスターの攻撃を200回ほど受けてみてほしいかな。そうすればどういうスキルか何となくでも理解できるだろう」

「200回だな。わかった。それじゃあ、早速行ってくるから指輪をもらえるか?」

「ああ、今度の指輪はこれだ。頑張ってきてくれよ」


 ―――――――――――――――――――――――


 チェインクエスト『精霊魔術の取得Ⅲ』


 クエスト目標:

  『エレメンタルシールド』を使った状態でモンスターの攻撃を200回受ける 0/200

 クエスト報酬:

  スキル【精霊魔術】の解放


 ―――――――――――――――――――――――


 新しい指輪と新しいクエストを受けた俺達は、再度【ノーザンブレス】周囲へと足を運んだ。

『エレメンタルシールド』の修練もここで行ってしまおうというわけである。


「さて、今度は防御系スキルの修練な訳だけど……分散して修練をしてみる? それとも固まってやってみた方がいいかしら?」

「そうだな……ここにいる全員が回復スキルを使えるわけだから、バラバラに修練しても問題ないと思うが……」

「とりあえず最初は3人で固まって行動してみませんか? スキルの効果もわかりませんし」

「……それが無難ね。バラバラに修練しても問題ないレベルだったら、改めて分散しましょう」

「了解。……ちょうどいいところにモンスターがいたな。俺から試させてもらっていいか?」

「オッケー、任せるわ」

「無理しないでね、トワくん」

「ああ、わかってる。さて、始めようか」


 ちょうど都合よく1匹だけでふらついていたモンスターに攻撃を加えてターゲットを取る。

 そのあと『エレメンタルシールド』を使って様子を見てみるが……


「うーん、これは確かにシールドだな」

「その大きさだとバリアとも言えるけどね」


『エレメンタルシールド』のスキルを使って出現したのは、自分の前方180度ほどを覆うシールドだった。

 さっき釣り出したモンスターもこのシールドに向けて攻撃を仕掛け続けているが、なかなかシールドを破ることができないでいる。

 そんな様子を眺めていると、シールドが消え去りモンスターの攻撃が直接俺に飛んできた。

 ……まあ、問題なくかわしてとどめを刺したけど。


「『エレメンタルシールド』はどうやら防御壁を作るスキルのようだな」

「そのようね。あとは、そのシールドが自分の動きに合わせて動いてくれるかだけど……」

「ちょっと待ってくれ。……うん、一緒になって動くな」

「それなら結構扱いやすいですよね」

「少なくとも動き回る相手にも対応できそうね。……これなら固まって行動する必要もなさそうね。またばらけて行動しましょう」

「賛成だ。それじゃあ俺はあっちに行くから」

「はい、それじゃあ私はこちらに行きますね」

「それじゃあ、修練が終わったら連絡をよろしくね」


 こうして、再度3人でばらけてスキル修練を行うことに。

 適当にモンスターを釣り出して、『エレメンタルシールド』を使って相手の攻撃を受け続ける。

 何回かこのパターンを繰り返しているうちに、『エレメンタルシールド』で攻撃を防げる回数が10回だと言う事に気がついた。

 この指輪で使う時限定の仕様なのか、それとも固定なのかは気になるところだが……その辺の検証は教授達が済ませてそうだから、気が向いたら今度聞いてみることにしよう。


 最終的には1時間あまりの時間を使って、全員のスキル修練が完了した。

 あとは研究所に戻って報告するだけである。

 ユキと柚月と合流した俺は、『精霊魔術研究所』に向かって足を進めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る