266.ブリーズウッドに向けて

 騎獣の準備も出来たし俺達は街道に沿って一気にかけ出した。

 国境警備兵に聞いた話だと、道なりに2時間ほど走ったところに中継地点である【ハイウィンド砦】があるらしい。


【ハイウィンド砦】は昔利用していた砦を改造し周囲に街を作った城塞都市らしい。

『ハイウィンド街』というのが本来的な名称らしいのだが、そちらの呼び名よりも昔からの名称である『ハイウィンド砦』の方が通りが良いらしい。


 何はともあれ、まずはこのまま2時間ほど騎獣に揺られての旅だ。

 街道付近を進んでいるのでそもそもモンスターと出くわすことも少ないし、護衛とかをしているわけではないので迂回する事も出来る。

 つまり何が言いたいかというと……暇である。


「安全な旅ってわかっていると、なかなか緊張感が続かないものね」

「同感だな。モンスターが襲ってくる距離よりも、こちらの索敵範囲の方が広いみたいだし、回避するも先制攻撃で潰すも自由だからな」

「さっきから回避しかしてないけどねー。強さを図るために一当て戦ってみる?」

「それも良いかもしれないですね。次に街道沿いにモンスターがいたらやってみますか?」

「そうね、そうしましょうか。ただ、騎獣の背中で揺られているだけって言うのも飽きてくるものね」

「了解。エアリルも頼んだぞ」

「はーい。でもボクが本気を出したら一撃で終わっちゃうよ? それでいいの?」

「……その程度の強さの敵しかいないのか。それなら最初は様子見だな」

「オッケー。まあ、撃ち漏らしがいたら対処するよ」

「わかった。……という訳だから、俺達からの初撃はなしだな」

「了解。先手は私とイリスで担当するわ」

「うーん、ボク達の攻撃でも一撃な気がするけどねー。まあ、試してみよー」

「そうですね。……ちょうど良いところに、モンスターの群れがいますね」

「ジャガータイプのモンスター3体ね。レベル的にも問題ないし、私が3匹全部に攻撃を仕掛けるわ。イリスも追加攻撃をお願い」

「おっけー。テンペストアローよりもアローレインの方がいいかな」

「スキル選択は任せるわ。……さて、射程内に入った。行くわよ、ラーヴァブラスト!」

「アローレイン!」


 2人が戦闘態勢に入ったことで騎獣が消えて戦闘開始となる。

 騎獣が消えても、こちらから攻撃を仕掛けた場合については、空中に放り出される訳じゃないから安心して攻撃開始が出来るよな。


「グガァァァ!」


 モンスターはと言うと……3匹とも倒し切れていないな。

 残り30%程度だけどHPが残ってる。

 とは言え、まだ動き出してないし、追撃で終わらせよう。


「それじゃ追撃だ。サンダーレイン!」


 雷鳴魔術の範囲攻撃を建御雷で増幅しつつ発動させる。

 攻撃対象付近に雷の雨が降り注ぎ……無事、全部のモンスターを倒し切れたようだ。

 そう言えば【看破】をしてないから敵のレベルとかを調べてなかったな。

 次に見かけたら、まずは【看破】をして敵の情報を調べるか。


「お疲れ、って程でもなかったわね。敵のレベルが低かったのかしら」

「うーん、多分レベル50前後だったんじゃないかなー。それなら、あのレベルの攻撃で倒しきれると思うし」

「多分そんな感じだろうな。俺のサンダーレインで倒しきれなくても、エアリルのサンダーレインも残してたし、この辺のザコならかなり余裕で倒せそうだ」

「となると、わざわざ相手をしながら進む必要もないわね。やっぱり、よほど邪魔になるモンスター以外はすべて避けて進んだ方が良さそうね。移動優先でレベル上げをする必要もないわけだし」

「そうだねー。キャンペーン中でレベル上げしやすくなってるとは言え、移動中まで倒してまわるほどじゃないからねー」


 そう、9月中は運営のイベントと呼べるものは特にない。

 あえて言うなら、各種経験値の取得量が普段より上昇するキャンペーン中というのがイベントか。

 取得経験値はレベル帯によって上昇幅も違うが、初心者と呼べる範囲では1.5倍、それを脱したレベルでは1.3倍、上級者と呼ばれる範囲になると1.2倍くらいだそうだ。


 俺達の場合は1.2倍だろうから、まばらに生息している格下狩りをしてもあまりおいしくない。

 戦闘の度にいちいち足を止めるくらいなら、目的地まで一気に駆け抜けた方が楽である。


「さて、そう言う訳だからここから先はボス戦までノンストップよ。ボスの情報は覚えてるわね」

「教授からのメールによると、確かヒュージキラーワスプだったか。レベルは55、虫系モンスターで火が弱点。あとは取り巻きとしてキラーワスプが無限沸き」

「そうなるわね。それで、基本戦術だけど、まずはプロキオンにタゲを取ってもらってユキはその支援ね。私とトワは火属性の攻撃で一気にダメージを与える。イリスとエアリルは遊撃として取り巻きの駆除をしてもらえるかしら」

「了解。せっかくだし朱雀の威力がどの程度なのか確かめてさせてもらうよ」

「わかりました。プロちゃんもお願いね」

「ワォン」

「ボクもりょうかーい。トワの攻撃でほとんど終わる気がするけど、油断しないでおくよー」

「そうだよねぇ。トワの攻撃で終わる気がするんだよね。まあ、ボクもトワで倒しきれなかったら援護射撃させてもらうよ」


 まあ、俺の火属性攻撃=朱雀だからな。

 弱点を突いた超高火力スキルがどの程度の効果を発揮するか、見物というものだ。


 打ち合わせを終えて、再度騎獣に乗り込み道なりに走って行くこと1時間あまり。

 どうやらボスエリアまで到着したようだ。


 騎獣を解除して、前衛にプロキオン、中衛に俺とユキ、後衛に柚月・イリス・エアリルとなるように隊列を組んでボスエリアに進入する。

 ボスエリアに進入すると、虫の羽音とともに3メートルほどの巨大な蜂が行く手を遮ってきた。

 こいつがボスのヒュージキラーワスプのようだな。

 取り巻きのキラーワスプは……全部で12匹か。


「ちょっと数が多いけど、予定通りに行くわよ。それじゃあ、戦闘開始!」

「プロちゃん、敵の気を惹きつけて! 神楽舞、始めます!」

「ウー……ウォン!!」

「それじゃあ、十二天将・朱雀詠唱開始と」

「ボク達は取り巻きの処理だねー。スナイプアロー!」

「うーん、細かいのを倒すのは得意じゃないんだけどなぁ。サンダージャベリン!」

「うんうん、その調子よ。さて、私も行きましょうか、フレイムトルネード!」


 俺達全員がそれぞれの行動に移る。

 ユキの神楽舞は、物理攻撃上昇・魔法攻撃上昇・物理防御力上昇・移動速度上昇の4枚のようだ。

 まあ、そこまで気を張らなくてもいいと思うけど。


 まずはイリスとエアリルの単体攻撃でキラーワスプの何匹かが撃ち落とされる。

 ボスの取り巻きとして出てきてはいるが、そこまでHPは高くないらしい。

 その代わり、倒しても30秒ほどで補充されてしまうので、ザコばかりに構っている余裕もない。


 プロキオンが広範囲挑発でターゲットを一心に引き受けている隙に、柚月が範囲型の火属性魔法を解き放つ。

 普段は溶属性しか使ってない柚月だが、実際には【炎魔術】もそれなりに鍛えているはずなんだよな。

 火と溶っていう、高熱系の属性2枚だから、耐性がかぶることも多いのだけど。

 一応、そういったモンスターに対応できるように水系魔法も鍛えてるとは聞いてる。


「ギィギィィィ!!」


 プロキオンに殺到しようとしていたヒュージキラーワスプやキラーワスプが、まとめてフレイムトルネードで焼き払われる。

 とは言え、範囲攻撃魔法である以上、キラーワスプを一撃で倒せるほどの威力はでてなかったようだ。


「さて、詠唱完了。朱雀。行け!」


 15秒ほどの詠唱時間の後、ヒュージキラーワスプに向けて朱雀を発動させる。

 朱雀は俺の狙い通りにヒュージキラーワスプに突撃を仕掛けて、その炎の中にヒュージキラーワスプを取り込んでしまう。

 そして、小規模な爆発を起こしてダメージを与えた。

 ダメージ量は……残りHP3割弱って事は7割近くの攻撃力があったって事だな。

 さすが、高コストスキル、コストに見合うダメージは与えられるわけだ。


「ギィ、ギィィ!!」


 ヒュージキラーワスプの爆発に巻き込まれた何匹かのキラーワスプが消滅する中、ヒュージキラーワスプのタゲをどうやら俺が取ってしまったようだ。

 うん、さすがにあの火力だもの仕方がないか。

 ヒュージキラーワスプのお尻の部分にある針……と言うか杭が何本か俺に向けて発射される。

 もっとも、羽根を焼かれてまともに飛べない敵からの攻撃で狙いも甘いので、全弾余裕を持って躱すことが出来た。


 この攻撃以降はプロキオンがしっかりとタゲを取り返してくれたので安定して戦うことが出来た。

 結果としては、2発目の朱雀を使う前にヒュージキラーワスプの討伐は終了し、残りのキラーワスプを処理する段階で十二天将が使えるようになったので、対空性能の調査もかねて、騰蛇で一気に焼き払ってみた。

 やはり、ある程度の高さまで騰蛇で攻撃できるようになったため、こう言った飛行型のモンスターにも効果を発揮出来るようになったのはおいしいところだな。


〈エリアボス『ヒュージキラーワスプ』を初めて撃破しました。ボーナスSP6ポイントが与えられます〉


 レイアボス討伐時のお決まりであるボーナスSPを入手した後は、改めて街道沿いに騎獣で走り抜けていく。

 すると、30分ほどで【ハイウィンド砦】へと到着する事ができた。

【ハイウィンド砦】に到着したとは言え、ここでやることもないので、転移門の登録だけ済ませたら、改めて出発してフォレスタニアの首都【ブリーズウッド】を目指す。


 今度は騎獣で4時間ほどの旅になるが、出てくるモンスターも先程までの街道に比べてレベルが低いものばかりなので、戦闘は避けてひたすら首都方向に駆け抜ける。

 砦を出てから一時間ほどで、エリアボスまで到着したが、こちらも事前情報を得ていたので難なく倒す事ができた。

 熊系のボスだったが、風・雷弱点と言う事で、十二天将・白虎の出番となった。

 今回は取り巻きもいなかったので、全員の集中攻撃で1分かからずに倒してしまった。


〈エリアボス『ハングリーグリズリー』を初めて撃破しました。ボーナスSP6ポイントが与えられます〉


 エリアボスを倒してしまえば、後は目的地に向けて一気に進むだけである。

 俺達は3時間弱の道程を走り抜けて、無事にフォレスタニアの首都に到着することが出来た。


 フォレスタニアの首都【ブリーズウッド】に到着した頃にはかなりいい時間となっていたため、全員で転移門の登録を済ませた後は解散という流れになった。

 今日は土曜日であり、いつも通り『白夜』と合同で『妖精郷の封印鬼』を攻略に行く日なのだ。


 最近ではめぼしい戦利品がなくなってきた封印鬼ではあるが、フェアリーブレスは集めておきたいし、ボスからドロップする素材もそれなりにおいしい。

 時間効率的な話をすると、普通に上位鉱石を掘りに行くよりも封印鬼を倒した方が早いそうな。

 あと、スペリオルスキルの類いも売るといい値段にならしい。

 実際には市場に流さずに『白夜』内で戦力増強に使っているという話だが、分け前としての対価をもらっている以上は関係の無い話だ。


 あと、ついでに言うならば現実の方で夕飯の準備もしなくちゃいけない時間でもある。

 俺達は転移門から、いつものクランホームの談話室へと戻り、そこで解散と言う事になった。


 ドワン達の方がどうなったか気にはなるが、それは後で聞けばいいことだろう。


 さて、おいしい夕飯を作るためにログアウトしなくちゃな。


**********



~あとがきのあとがき~



いまさら、この付近に出てくるエリアボスなんてトワ達の敵ではないです。

なんだかんだと毎週レイドに連れ出されている状態なので、戦闘を一番しない柚月でも結構な高レベルになってたりします。


……うーん、十二天将を覚えさせたのは(戦闘があっさり片付きすぎるため)失敗だったかも?

(多少MPやSTの消費が増えたところでトワには関係ない話ですし)

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