265.フォレスタニア入国

 竜車に乗った状態でログアウトしてから明けて土曜日。

 今週は病院もないので一日フリーである。

 とは言え、片付けなければいけない家事というのはもちろんあるわけで。

 午後からのログインに備え、午前中で済ませられる家事は全て済ませてしまう。


「それじゃあ、お兄ちゃんも『精霊魔術』と『原初魔術』について調べるんだ」

「ああ、そう言うことになった。遥華達は調べてないのか?」

「うーん、私達も話は聞いてるから覚えるかどうか悩んでるところかな。今の段階だとどっちかしか覚えられないらしいし、どっちのスキルについても圧倒的に情報不足だからね」

「まあ、確かにそうだよな」

「ここの運営的に、そう簡単に取り返しのつかないスキルを入れてくるとは思えないんだけどね」

「それも言えてるな。多分どこかでやり直しが効くようにはなってそうだが。消費したSPとかが戻ってくるかどうかはわからないけど」

「そこが大きいんだよねー。『精霊魔術』も『原初魔術』も消費SP40って話だからあまり迂闊に覚えられないかな」

「そうだろうな。ただ消費SPを考えればそこそこ強力なスキルではあると思うけど」

「そうなんだよね。だからこそ追加情報は欲しい! という訳で、お兄ちゃん、頑張ってね」

「はいはい。ただ、手に入れた情報は『インデックス』行きだし、どこまで手に入るかもわからんぞ」

「それでも、有益な情報が手に入る可能性があるなら十分だよ。それじゃあ、良い知らせを待ってるよ」

「了解。それじゃあ、また夕食の時にでもな」

「はーい。またね、お兄ちゃん」


 やっぱり妹様もスキルそのものには興味があったのか。

 ただ、二者択一という事なら覚えるのに二の足を踏むのもわからないではないかな。

 さて、もうすぐ合流予定の時間だし、そろそろログインするとしようか。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 ログインした先は事前に説明があったとおり竜車発着場の待合室だった。

 俺がログインしたときには既に他の3人もログインしていたようだ。


「悪い、遅くなったか?」

「あ、トワくん。こんにちは」

「別に構わないわよ。約束の時間よりも早いしね」

「そうだねー。ボク達は先にきて転移ポータルの登録をしてただけだから気にしなくていいよー」

「そう言えばポータルがあるんだったか。俺も登録しなきゃいけないけど、場所はどこなんだ?」

「竜車の発着場を出てすぐの広場にポータルがあるよ。フォレスタニアの入国審査場所はさらにその奥だから一緒に行っても問題ないよ」

「そう言う事ね。それじゃあ全員揃ったわけだし、少し早いけどフォレスタニアに向かうとしましょうか」

「そうだねー。早速行くとしよー」


 俺達は待合室を出てそのまま発着場の出口へと向かう。

 発着場前の広場には先程聞いたとおり転移ポータルがあった。

 他の3人は既に登録済みらしいので俺だけポータル登録を行いフォレスタニアとの国境へと向かう。

 国境自体はそこまで高い壁で仕切られているわけではなく、普通の街壁と同じような感じの壁がある程度続いているだけだった。

 この程度の壁だと、壁がなくなったあたりからこっそり密入国できそうなものだが、その辺はどうなってるんだろうな。


「トワ、ぼーっとしてないで入国審査に向かうわよ」

「ああ、悪い。今行く」


 入国審査の行列はそこまで長くはなかったので、そんなに待たずに俺達の番になる。


「ようこそ入国管理局へ。まずは身分証を見せてもらえるか」


 入国管理を担当している住人から身分証の提示を求められたので、それぞれ自分の身分証を提示する。

 全員、戦闘系ギルドではなく生産系ギルドの身分証をまず出すあたり、俺達らしいなとも思う。


「ふむ、全員生産系ギルドの関係者か。……そして、全員精霊の加護を得ているわけだな。それならばもう審査は十分なわけだが……念のため、入国の目的を聞いてもよろしいかな?」

「俺はまずは調合ギルドによって調合のレシピなどの買い付けだな。ここにフォレスタニアのギルド宛ての手紙も預かってるよ」

「私は魔術士ギルドと裁縫ギルドね」

「ボクはアーチャーギルドと木工ギルドかなー」

「私は紹介状などはもらってないですけど、料理ギルドに行ってみようと思ってます」

「なるほど、特に問題はなさそうだ。ちなみに、入国の目的はそれだけかな?」

「と言うと?」

「最近では異邦人達が『精霊魔術』を求めて訪れることが多いからな。精霊と契約してなければそもそも覚えられないというのに、精霊契約をせずに訪れるものがかなりいて困っているのだよ」

「なるほどね。ちなみに、私達が『精霊魔術』を覚える事に問題ってあるのかしら?」

「いや、特にないな。精霊契約も果たしているようだし、精霊魔術研究所に向かえば特に問題なく覚える事が出来るだろう」

「精霊魔術研究所ね。ちなみに、それってどこにあるのかしら?」

「ここからだと首都のさらに先にある街だな。首都に着いた後、それぞれのギルドで道を尋ねれば教えてくれるだろう」

「そう、わかったわ。……ところで、私達が精霊と契約している事はどうしてわかったのかしら?」

「私のかけているモノクルには精霊の加護が映るようになっているのさ。だから、妖精や精霊の加護を持っている人間ならすぐにわかるというものだ。おかげで入国審査の手間も減って助かるというものだよ」

「そうなんだな。ああ、あと一つ聞いてもいいか?」

「なんだね? 私で答えられることなら答えるが」

「国境を隔てている壁だけど、あまり遠くまで建ててないけど大丈夫なのか? あれだと密入国し放題のように思えるけど」

「ああ、その件か。確かによく質問されるな。答えられる範囲で教えると、壁のなくなっている部分には特殊な結界が張ってあるのさ。密入国しようと思っても、まずはその結界に阻まれることになる。もし結界を通過することが出来たとしても、いくつかの防衛網が敷いてあるから国境を無事に抜けられる人間などまずいないがね」

「なるほど。どっちかって言うと、モンスター向けの結界か」

「まあ、そうなるな。結界についてはこれ以上答えられないが大丈夫かな?」

「ああ、ありがとう。疑問は解消されたよ」

「それはよかった。それでは、ようこそフォレスタニアへ。我々は君達を歓迎するよ」

「ありがとう。それで、首都までの道程ってどうなってるのかな?」

「それについては、ここを抜けた先にいる者に聞いてくれ。あまり一組に時間を取られる訳にもいかないからな」

「それもそうか。それじゃあ、これで通過させてもらうよ」

「ああ。君達の実力なら問題ないだろうが、良い旅を」

「ありがとう。それじゃあ失礼するよ」


 無事、審査も終わり晴れてフォレスタニアに入国できた。

 フォレスタニアの首都までの道程は、フォレスタニア側の国境警備をしている警備兵が丁寧に教えてくれた。

 通常ルートで行こうとすると、大体騎獣を使って6時間ほどかかるらしい。

 2時間ほどで国境から一番近い街に到着し、さらにそこから4時間ほど移動したところが首都だと言う事だ。

 なお、こちらの国境からも竜車が用意されており、国境近くの街と首都、それぞれに行く事ができるようだ。


「さて、無事国境を抜けることが出来たわけだけど、ここからの移動はどうする? 金銭的には問題ないわけだから竜車での移動も有りだと思うけど」

「うーん、どうしたものかしらね。……ちなみに、普通に騎獣で走って行くだけの時間って皆はあるのかしら?」

「俺は大丈夫だな」

「私も大丈夫ですよ」

「ボクも大丈夫ー」

「なら、普通に騎獣で駆け抜けましょうか。途中の街にも寄ってみたいしね」

「わかった。多分、途中でエリアボスとの戦闘になると思うけど、眷属召喚はどうする?」

「タンク役としてプロキオンは外せないとして、もう一枠はトワに任せるわ。シリウスでもエアリルでもどちらでも大丈夫だと思うしね」

「それならエアリルを呼んでおくか。眷属召喚、エアリルっと」

「エアリル参上! 今日はどんな用事かな?」

「これからフォレスタニアの首都まで向かうから、その護衛だよ。倒す必要のないモンスターまで手を出さないようにな」

「了解。ボクの出番はボス戦だろうけど、しっかり頑張らせてもらうよ! 最近、戦闘で出番ってなかったしね!」

「……そもそも狩りに行ってなかったからな。まあ、今日はよろしく頼むよ」

「任せておいてよ! それで、もう出発?」

「ここの転移ポータルを登録したら出発よ。さて、早いところポータル登録を済ませて出発しましょう」


 国境付近のポータルを登録したら、全員が騎獣を出していよいよ出発だ。

 エルフの国フォレスタニア、一体何が待っているんだろうな。

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