267.現状の封印鬼討伐

 夕食を済ませて寝る準備を整えたら、先程たどり着いた【ブリーズウッド】の散策……という訳にもいかない。

 今日は土曜日、いまだに続けている『妖精郷の封印鬼』クエストの実施日だ。

 準備自体は既に出来てるから、後は現地に向かうだけである。


 早速、封印鬼のクエスト開始場所までポータル移動をしたが、相変わらずこの時間帯は人が多い。

 一度クリアしたプレイヤーも、他のプレイヤーの手伝いで参加したり、フェアリーブレスを目的に周回していたりと何回も来る理由がある。

 特にフェアリーブレスは、既存のアクセサリーに比べて非常に高い性能を誇るから狙っている人数も多いのだろう。

 実際、最近フェアリーブレスのアクセサリー製造依頼を頼まれることが多くなってきたし。

 柚月から「受けられる範囲で受けること」と言われてるので、一週間に10個ぐらいのペースで最近は受けている。

 持ち込み依頼なので技術料以外は取っていないが、それでもそれなりの数を作ってるわけで、収入源としてはそこそこになる。

 いや、これ以上ゲーム内通貨エニィを貯めても仕方がないんだけど。


「ああ、トワ君。こっちだよ」

「こんばんは、白狼さん。今日もよろしく」

「こちらこそ。……『ライブラリ』の皆はまだ来てないみたいだね」

「……ああ、そう言えばそうですね」

「ホームでは会わなかったのかい?」

「そう言われれば、ホームでも会ってないですね。……ログイン自体はしてるみたいですから、そのうち来るでしょう」

「まだ集合時間まで時間があるしね。……ところで、トワ君。『精霊魔術』と『原初魔術』について調べ始めたって言うのは本当かな?」

「どこからその情報を……って、教授ですよね」

「うん、そう。それについての情報を買おうと思ったら、教授が今トワ君に依頼してるところだって言うからさ」

「確かに調査を始めてますね。ただ、まだ【ブリーズウッド】に到着したばかりで『精霊魔術』にすら届いてませんけどね」

「なるほど。それじゃあ、調査はしばらくかかるのかな?」

「うーん、それはなんとも。教授から教えられている情報も断片的なものが多いですし、どこまで調査するかにもよりますね」

「そうか。じゃあ、しばらくそっちはお預けという事にしておいた方が良さそうだね」

「『白夜』としてもやっぱりこの2つは気になりますか?」

「超級魔術のさらに上位スキルらしいからね。それは気になるさ。でも情報が出揃ってないなら、まずはジパンに行って陰陽術系統のイベントを進める方が先かな」

「気になりますか、陰陽術スキル」

「分類としては魔法系統らしいけど、参照ステータスがSTRやVITのものもあるんだからね。下位の術でも、同じ仕様になっていれば、僕達のような物理職が有効な魔法ダメージを与える手段になり得るんだ。当然、覚えられるなら覚えたいよね」

「スキルチケットを使って覚える事は出来ないんですか?」

「スキルチケットで覚えるにも、陰陽術スキルの取得イベントをこなす必要があるみたいなんだよね。スキルチケットの仕様も大分わかってきたみたいだし、夏休みイベントのポイント交換が締め切られる前に陰陽術スキルを覚える前提条件だけでもクリアしないとね」


 スキルチケットの仕様?

 スキルチケットに何か法則性があったのかな?


「白狼さん、スキルチケットの仕様ってなんです?」

「ああ、トワ君は知らないのか。どうやらスキルチケットで覚えられるスキルには一定の法則があるらしくってね。例えば、ブロンズスキルチケットでは『取得条件を満たしている消費SP10までのスキルを取得可能』とかね」

「……よくそんな事、調べられましたね」

「本当だね。情報系クランが、夏休みイベントで各種チケットを集めて色々検証したらしいよ。それによると、ブロンズはSP10前後、シルバーはSP20前後、ゴールドはSP30前後、プラチナはSP40前後くらいのスキルまで覚えられたらしいね」

「……よくもまあ、あのスキル一覧の海から規則性を見つけたものですね」

「そこは色々頑張ったんじゃないかな? もっとも、プラチナチケットについてはSP40を越えるスキルをアンロック出来ていないだけって話もあるよ」

「なるほど……。あれ、でも、ユキが【神楽舞】を覚えられたのは何でなんでしょう?」

「どうも、スキルは最初からアンロック状態のスキルと、前提スキルを覚えるとか住人から使い方を教えてもらうとか条件を満たさないとアンロックにならないスキルに分けられてるらしいんだよね。前提スキルが必要なスキルは、【片手剣】や【両手剣】のような派生スキル、【雷鳴魔術】や【氷雪魔術】のような複合スキル、それから生産スキルみたいに上位に進化していくタイプのスキルもこのタイプなんだとか」

「へぇ……。住人に教えてもらうスキルって言うのは、流派スキルのようなスキルの事でしょうね」

「そうなるね。それで【神楽舞】の場合、初期からアンロックされているスキルらしいんだよね」

「……話を聞くと、住人に教えてもらわないと覚えられないスキルのような気もしますが」

「その辺の分類はかなり謎らしいんだよね。実際、剣聖に転職するのに必須になる【マスターオブソード】もプラチナチケットなら覚えられるし、住人から学ばないといけないスキルの中でも色々とあるんじゃないかな?」

「……まあ、その辺は運営じゃないと仕様かバグかなんてわからない事ですね」

「そういうこと。……それにしても、【神楽舞】は便利だね。『白夜』のバッファーも覚える事が出来たけど、レイドでの戦闘効率が段違いに上がったよ」

「『ライブラリ』だと、『妖精郷の封印鬼ここ』以外のレイドクエストをやる機会が無いからありがたみがよくわかりませんけどね」

「普段使いしてるから効果に気付かないだけで、このスキルの有無でかなり効率が違うよ。『白夜うち』以外でもいくつかの戦闘系クランが夏休みイベントの報酬で覚えたらしいからね」

「そうですか。……あ、皆来たようですね」

「そうだね。もう少しで予定時間だ。今日もよろしく頼むよ」

「ええ、よろしくお願いします」


 俺は白狼さんと別れて、他のメンバーと合流する。

 今週もおっさんは参加出来るようで、張り切っているようだ。

 なお、おっさんにもフェアリーブレス製アクセサリーは作って渡してある。

 おっさんが今後周回して入手したフェアリーブレスを現物で返してもらうって事で話もつけてある。


「トワ君が先にきているなんて珍しいねぇ。何かあったのかい?」

「特に何もないよ。たまたま早く準備が出来たから早く来てただけさ。……それよりも、おっさん、そろそろ武器の更新じゃないか?」

「うーん、確かに今のステータスならもっと上位のハンドガンを扱えるかな?」

「おっさんはハンドガン以外は使わないのか?」

「うーん、盾があるから両手装備のライフルは扱えないし、魔法系ステータスも低いからマナカノンとマギマグナムもあまり意味がないからねぇ。物理攻撃が効きにくい相手には苦労するけど、そこは何とかやりくりするさ」

「それなら構わないけど。装備更新するなら教えてくれよ。ちゃっちゃと作ってしまうから」

「本当に『ライブラリ』にいると装備に困ることがないから楽だよねぇ。それなら、新しい装備を作ってもらおうかな。素材を渡せば構わないよね?」

「もうレベル50近いんだろ? だったら、俺の方で素材も見繕っておくから大丈夫だぞ。材料費だけ用意してもらえれば」

「了解だよ。それじゃあ、今度見積もりをもらえるかな」

「わかった。近いうちに調べて連絡するよ」

「よろしく頼むよ」

「さて、そっちの話は終わったかしら。それじゃあ、パーティを組んで白狼さん達に合流しましょう」

「それもそうだな。合流するとするか」


 パーティを組んだ後、白狼さん達と合流してレイドチームを結成、レイドクエストを受領する。

 なお、レイドクエスト自体はかなり余裕を持ってクリアできるようになった。

 それぞれが色々と高火力スキルを覚えたことや、全体的に流れを覚えたことが理由かな。

 実際、『白夜』からは毎回数名新顔を連れてきているが、問題なくクリアできている。

 なんでも、レベル50を越えたクランメンバーの中から妖精がほしいプレイヤーを抽選して連れてきているそうな。

 レベル的には問題ないし、新顔のプレイヤーもクリア手順は熟知しているようなのでさほど心配はしていない。

 ……まあ、妖精入手希望者はまだまだいるらしいけど。


 そう言う訳で、何の問題も無く『妖精郷の封印鬼』をクリアして報酬の分配も終わった後、来週も同じ時間に攻略することを全参加パーティで確認して解散となる。

 クランホームに戻った後は、これからの行動確認だ。


「さて、レイドは終わった訳だけど、これからどうする?」

「ボクはもう寝るよー。明日の昼間、用事があるからねー」

「そっか、それじゃあ、お休みイリス」

「うん、皆おやすみー」


 ログアウトしていったイリスを見送って、残り5人で打ち合わせだ。


「さて、俺達はどうしたものか」

「まずはドワン達がどこまでたどり着けたのか聞いてみたいわね」

「うむ、わしらか。わしらは無事ドワーフの国アイアンギウスの首都にたどり着けたぞい」

「それからは分かれて別行動だったねぇ。おじさんは細工ギルドで細工技術を見せてもらう事ができたねぇ」

「わしも鍛冶ギルドでドワーフの国に伝わる製法というのを見せてもらったわい。特殊な製法があるらしいので、しばらくはそちらを教えてもらう事になるかのう」

「おじさんも似たような感じだね。ログインしていてホームにいなかったら、そっちに行ってると思うよ。それで、柚月さん達はどうなんだい?」

「私達もエルフの国フォレスタニアの首都にたどり着いたところね。竜車を使わずに騎獣で走って行ったから、首都で転移門を登録した段階で終わりだけど」

「という事はこれから探索と言う事か。どれくらいかかるものなのじゃ?」

「それもまったくわからないわね。何せ、ギルドにも顔を出してないもの」

「そういうことだ。この後にでもギルドには挨拶に行く気だったけどな」

「ふむ、了解した。それならば、もうしばらくは別行動じゃの」

「そうなるわね。そっちも頑張ってね」

「ああ、それではわしはアイアンギウスに向かうのでな」

「おじさんはログアウトするよ。それじゃあ皆、お疲れ様」

「ああ、お疲れ様」

「お疲れ様でした、おじさん」


 アイアンギウスに向かうドワンとログアウトするおっさんを見送り、俺とユキ、柚月はこれからのことを相談する。


「さて、とりあえずこの後はどうする? イリスがいないなら今日はこれ以上移動しない方がいいと思うけど」

「だな。移動は明日にしてとりあえずギルドに顔を出して話を聞いておこうか」

「そうですね。私はイベントが発生してないですけど、ギルドには行ってみる予定でしたし」

「それじゃあ、今日のところは解散して各ギルドに行ってみるって事で良いかしら」

「それでいいと思うぞ」

「私もそれでいいと思います」

「じゃあ決定ね。……トワはギルドへ挨拶に行く前におじさんの武器の見積もりを送っておきなさいな」

「それもそうだな。それじゃあ、2人とも気をつけて」

「うん、それじゃあ、トワくん、また明日」

「それじゃあね」


 ユキと柚月はホームポータルから転移していった。

 それを見送った後、マーケットボードからおっさんの武器に使う魔石を探して購入しておく。

 もう★12装備を使えるだろうし、魔石は雷獣のもので大丈夫だよな。

 魔石の魔力値が最も高いものを購入して、おっさんに見積もりを送っておく。

 それなりに高額ではあるけど、おっさんなら支払えるだろう。


 さて、俺もフォレスタニアに向かうとするか。

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