263.特殊魔法スキルを求めて
十二天将の試射会というかお披露目が終わった後、俺とユキはクランホームに戻ってきた。
今日のノルマ分の販売用ポーションをまだ作っていないからだ。
ノルマと言っても誰かから決められたわけではなく、自分で決めた最低数というものだが。
夏休みイベントが終わって消耗品の補充が終わった頃、上級生産セットのアップグレードも終わらせてある。
なので、今では最高品質のポーションが100%の確率で作れるようになっていた。
★12の解禁と言う事で俺のポーションも店売りしているが、基本的に並べたそばから売れている感じである。
ユキの料理も同じような状況で、依頼されないと作らない装備品とは違い普通に店売りしているが売れ行きが鈍る気配はまったくない。
簡単には転売できないよう、購入数制限と購入後のトレード制限をつけているのだがそれでもお構いなしに売れている。
……消耗品についてはトレード制限をつけていても転売できるような抜け道はあるらしいが、そこまで気にしていたら販売できないので転売対策はその程度だ。
ともかく、作った分だけ売れる状況が続いているので販売用のポーションを毎日決まった分は作るようにしているわけだ。
作らなかったからと言って文句を言われる筋合いはないが、クレームをつけられないように最低数は販売している。
そう言う訳で、今日の分のポーションを作成していると教授が来たと連絡があった。
時間的にもさっき言っていたとおり30分ほどで来ているあたり、几帳面というかなんというか。
とりあえず談話室で待っていてもらい、今作っているポーションが出来次第、談話室に向かうことにする。
「やあ、トワ君。さっきぶりであるな」
「ああ、さっきぶり。それで、話ってなんだ?」
「うむ、本題の前に十二天将の情報を掲示板で公開した結果であるが、なかなか反響が大きいようである」
「……派手なスキルだからなぁ。それで、それが何か問題あったのか?」
「特にないのであるな。トワ君が取得した方法もあわせて公開してるので、普通のプレイヤーではそんな簡単に手に入らないことは理解してもらえるはずである」
「それで理解できないプレイヤーは?」
「……まあ、そこは自衛してもらいたいのである。トワ君は知り合い以外からメールやチャットを受け付けないようにしているのであろう? そこは何とかしてもらいたいのである」
教授にしては随分と対応がおざなりだな。
……まあ、使用できるプレイヤーが俺一人しかいない以上、隠しても調べればすぐにわかってしまうものか。
「なんというか、投げやりだな。まあ、いつもと変わらないといえば変わらない訳だし、バカが来たらこっちで対応するが」
「そこは任せたのである。トワ君ならば問題にならない……と言うか、運営を巻き込んで終わらせるという判断も含めての掲示板公開であるからなぁ。普通のプレイヤーであればもっと匿名性に気を使うのであるよ」
「俺の場合でも気を使ってもらいたいものだけどね?」
「今回の件について、トワ君の場合は気を使ってもどうにもならないのであるよ。防衛戦イベントで派手に使っているのは周知の事実であるし、トワ君が使ってるシーンの動画も何本もあるのである。トワ君がスキルを覚えてることも含めて掲示板でも公開されているので、今更情報提供者を隠したところで変わらないのである。せいぜい、トワ君以外にもスキル取得者が現れたかどうかが話題になる程度であるなぁ」
「その程度であっても多少の目くらましにはなる気がするんだけどな」
「さすがに難しいであろうなぁ。普通に試射の様子を生配信していたプレイヤーもいるわけであるし、掲示板だけ隠しても大差ないのであるよ」
「……そう言われるとそうか。それで、そっちの方はどうにかなりそうなのか?」
「興味のあるプレイヤーはジパンの方に向かうであろうな。もっとも、先日の公式放送を見る限りではジパン以外にも隠し高倍率スキルが眠っているらしいのであるが」
公式放送か。
俺だけじゃなくて周りのメンバー全員が見逃しているから、内容をまったく知らないんだよな
「ふーん。そう言えば、その公式放送を見てない訳なんだけど、どんなことを公開してたんだ?」
「そうであるな……まずは、物理系スキルの特殊流派スキルについて説明があったのである。もっとも、これについては上位陣にとっては既知の事実ではあったのであるが」
「だろうな。後はどこでどんな流派スキルを覚えられるかだろうけど」
「それについても一部公開されたのである。今いるセイルガーデン王国の王都では剣や槍関係の流派スキルが、ウルザスカイ帝国では斧のような重量級武器の流派スキル、エルフの国フォレスタニアでは弓の流派スキルを覚えられるらしいのである」
「なるほどね。でも、刀の流派スキルをジパンで覚えられることには言及してないのか?」
「それについてはコメントでネタバレしていたのでさらっと流されたのであるな。流派スキルが何種類あるかや覚える方法については非公開だったわけであるが」
「そこまで公開してしまうと探す意味がなくなってしまうからな……」
「そう言う訳で、物理系プレイヤーは流派スキルを覚えるための条件探しで必死であるよ。我々『インデックス』にも問い合わせが多いのである」
「そっか。そういえば、俺と霧椿が提供した刀系の流派スキルの情報はどうなんだ?」
「……言われて思いだしたのである。トワ君、今度済まないがドラゴニュートの隠れ里に連れて行ってもらいたいのである」
「うん? 行き方は説明しただろう? それでたどり着けなかったのか?」
「たどり着けなかったのである。トワ君達に聞いた付近に分かれ道などなく、そのまま一本道が続いていただけである。一本道の先もドラゴニュートの街であるので余計混乱したのであるよ」
へえ、あの先はドラゴニュートの街があったのか。
とは言え、隠れ里にたどり着けてないのは問題か。
「そうなのか。という事は、一度行ったことがあるプレイヤーが案内しないとダメなパターンか?」
「おそらくはそうである。あるいは、一度も行ったことがないプレイヤーが自力でたどり着くには、事前にフラグを立てておく必要があるか、であるな」
「そう言うことなら、今度案内するよ。ツキカゲ流刀術の情報を売った以上はアフターケアもしないとな」
「……まあ、話を聞いた限りでは普通のプレイヤーがツキカゲ流刀術を覚えるのは難しそうであるが」
「そうか? 普通にNPCと戦って認められればいいだけだぞ?」
「その認められるのが問題なのである。実際、オウカ流刀術の方はいまだ誰も試験を突破出来ないのである」
「そうなのか。俺は覚えてないからよくわかんないけど、そんなにきついのかね」
「きついようであるよ。特殊流派スキルも含めて、高倍率スキルは取得条件が厳しいほど攻撃力が高いらしいのであるからな」
「なるほどな。十二天将とか前提条件が厳しい上にSP80消費だからあの威力という訳か」
「それがさらに強化されたのであるから手に負えないのであるな。もっとも、スキルの性質から考えてPvPでは使いにくいスキルであろうが」
「PvPではきついなー。消費もそうだが、使用前後に隙があるからきっつい」
「まあ、そう言う意味でもバランスは取ってきているようである。特殊流派スキルも覚えるための試験や取得SP、取得後の修練方法など色々と縛りがあるらしいのであるよ」
「なるほどな。ちなみにツキカゲ流刀術はSP20だったけど、オウカ流刀術はいくら消費なんだ?」
「聞いた話ではSP40であるな。ジパンでは有名な流派らしいので試験まではたどり着きやすいのであるが、試験が非常に厳しいのである。その上で消費SPも多めという事で取得者がなかなか出てこないのである」
「ふむ、なるほど。まあ、俺は覚えるつもりないけど」
「その方が賢明であるな。DEXメインの参照値を取るはずの刀系装備で、STRメインのスキル攻撃力参照らしいのである。耐久値もかなり減るらしいので、使いどころの難しい必殺スキルと言った立ち位置になるであろうな」
「なるほど。……それで、教授。本題はなんなんだ?」
さすがに話も長くなってきたのでそろそろ本題に入ってもらおう。
この後もアイテム作りはしなきゃいけないし。
「そうであるな、本題に入るのである。実は魔法系スキルでも高倍率スキルは見つかっているのであるよ」
「ほう、そうなんだな。それで、それがどうかしたのか?」
「現在発見されている魔法系高倍率スキルは2種類、『精霊魔術』と『原初魔術』の2つである」
「ふむ、それで、それがどうかしたのか?」
「まあ、話をもう少し聞くのである。『精霊魔術』の方はエルフの国フォレスタニアで覚えられるのである。対して『原初魔術』の方は魔法王国マナリーフに行く必要があるのである」
「覚えられる国が違うのか」
「そうであるな。……さて、問題はここからである。『精霊魔術』と『原初魔術』であるが、どちらか片方しか覚えられないのであるよ」
「……そう言うシステムならそうなんじゃないのか?」
「うむ、私も最初はそう言うシステムであると思っていたのである。だが、調べていくうちに双方のスキルを同時に覚えられる可能性があることがわかったのであるよ」
「双方を覚えられる可能性って? 何か根拠になるような情報があったのか?」
「公式掲示板に双方のスキルを取得している
なるほど、確かにそれは偽物じゃなさそうだ。
「ふーん、それで、それを俺に調べてほしいと?」
「そう言うことであるな。我々も色々と調べているのであるが、先行していたメンバーは既にどちらかのスキルを覚えてしまっているのである。迂闊だったとしか言えないのであるが、『インデックス』でこれ以上の調査は難しいのであるよ」
「……とは言われてもなぁ。俺としても色々とやることがあるし、何より国家間移動となるとかなり時間がかかるだろう? そこまで余裕があるかどうかわからないぞ?」
「国家間移動については心配ないのである。9月のアップデートで国境まで自動で移動してくれる『竜車』というサービスが提供されるようになったのである。これを使えばログアウト中に国境まで運んでもらえるのであるよ」
「ジパンに行くときの高速船みたいなものか。……随分と便利なシステムが開放されたみたいだけど、何かあったのかね?」
「むしろ何もなかったからシステムを作ったようであるよ。夏休み期間中に別の国に移動したプレイヤーがかなり少なかったようである。イベント期間中とは言え、さすがに運営としてももっと便利な移動方法を作る必要があったのであるな」
「なるほど。ちなみに竜車に乗るにはどうすればいいんだ?」
「決められた街の竜車発着所から乗ることが出来るのである。もっとも、それなりの金額が必要なのであるが……」
「まあ、俺にはあまり関係ないな。
「そう言うわけである。調査に協力してもらえないであるかな?」
協力ねぇ……
正直、あまり興味がないんだよなぁ。
「ぶっちゃけ、それを調べるメリットが俺にはないんだよな。対価だってお金でもらっても困るし」
「そこについては考えているのである。対価は情報と現物で支給するのであるよ」
「情報と現物?」
「うむ、そうである。まずは情報であるが、トワ君も気になっているであろう9月のアップデートで追加された生産系コンテンツ、『特殊効果の追加』について調べた情報を渡すのである。トワ君もこれについてはあまり知らないであろう?」
「そうだな。特殊効果を追加するためには特別なアイテムが必要だってことくらいしか知らないな」
「その部分について我々『インデックス』が調べた情報を提供するのである。もちろん、触媒となるアイテムもあわせてプレゼントするのであるよ」
うーん、『インデックス』からの情報提供か……
俺達が一つ一つ調べていくよりは多くの情報が手に入るよな。
でも、こっちの調査も簡単に終わるとは思えないし。
「……とりあえず、この件は保留ってことでいいか? 情報が手に入るって言うなら、俺以外のメンバーも興味があるかもしれないし」
「構わないのであるよ。なんなら、今までの説明をもう一度してもいいのである」
「……それなら、今いるメンバーだけでも集まってもらった方が早いか。ちょっと集合をかけるから待っていてくれ」
「うむ、頼むのである」
さて、他のメンバーはどれだけログインしてるかな……って、全員ログイン中か。
ユキが工房で生産してるのは知ってたけど、全員それぞれの工房で作業中かな?
とりあえずクランチャットで集合をかけてみるか。
「皆、これから時間取れるか?」
『どうかしたのトワ? 教授と何か話をしていたんじゃなかったの?』
「その教授からちょっと依頼された事があってな。一度全員で話を聞きたいんだけど、時間取れるか?」
『わしは大丈夫じゃぞ』
『ボクもへいきー』
『おじさんも大丈夫かな』
『私も少し待ってもらえれば大丈夫だよ』
『私も問題ないわね。それで、依頼された事って何?』
「魔法系スキルについての調査。報酬は今回追加された生産系コンテンツの情報だって」
『なるほどね。それなら一度全員で話を聞いた方がいいわね。それじゃあ、少し待っててもらえるかしら。今やってる作業がキリのいいところまで終わったらそっちに向かうわ』
「了解。のんびり待ってるよ」
とりあえず全員大丈夫そうだな。
「トワ君、どうであったかな?」
「全員大丈夫だってさ。しばらく待てば全員集まるよ」
「それはよかったのである。では、私も待たせてもらうのであるよ」
さて、とりあえず話を聞くことにはなったけどどうなることやら。
多分受ける事になるだろうけど、どういう風に行動する事になるかね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます