第8章 新たなる知識を求めて

262.スキル調整確認

 夏休みシーズンが終わり、Unlimited Worldの中も落ち着きを取り戻し始めた9月の初旬。

 9月が始まって間もないというのに、いきなりアップデートという事になった。


 アップデートと言っても大規模な修正ではなくスキル調整がメインである。

 先日まで行われていた夏休みイベントで蓄積されたデータから、各種スキルの調整を行うことになったようだ。


 主にスキル強化をメインにした調整だが、一つだけ気になるものがあった。

【式神招来・十二天将】が大幅な修正対象となっていたのだ。

 修正内容としては、『消費MP・STの調整』『スキル効果の調整』『スキル範囲の調整』と言った三本立てである。


 イベント期間中は防衛戦でしか使用していなかったが、どうやら狙い撃ちで修正対象になったらしい。

 もっとも、事前に公表されたスキル修正内容を見る限り、単純な弱体化ではなく消費や効果も含めてかなり手が入ったらしいのだが。


「それでスキルの試射会という訳か。取得者1名って言うのも大変だな、トワ」

「まったくだ。俺個人としては、今回のアップデートで追加された生産系スキルの修正内容を確認したかったのに」

「そっちはそっちでいつでも出来るんじゃないか? それに新規に追加された素材も必要なんだろ。そう簡単に確認というわけにもいかねーだろ」

「うっさいぞ、リク。……まあ、素材がないと始まらないから、どこかで適当に狩りに行くつもりではあったんだが」

「それならここでも問題ないだろ。さあ、教授達の準備はできてるみたいだし合流するぞ」

「ああ、そうだな。……あまり気乗りしないけど」

「お前しか修正内容を確認出来るプレイヤーがいないんだから諦めろ。ほら、いくぞ」


 アップデート適用後の金曜日、【式神招来・十二天将】のスキル修正内容を確認すると言う事で、教授を筆頭とした検証系クランから内容の検証依頼……と言う名の実質的な呼び出しを受けていた。

 効果の修正については確かに確認しなくちゃいけないだろうけど、何も今日急いでやる必要もないと思うんだ。

 気乗りしないとはいえ自分しか覚えてないし、プラチナスキルチケットでも覚えられないらしいので、現状は実質俺専用のスキルな訳で。

 となると、検証するには俺が直接顔を出す必要があって……

 つまり、めんどくさい。

 ちなみに、今はリクが同行しているが、ユキは後から来るらしい。


 それからうちの妹様や白狼さんなども試射会に顔を出すそうな。

 俺はここ数日忙しくて見てないけど、アップデート内容に関する公式放送の中で【式神招来・十二天将】を含めた『陰陽術』系スキルの取得方法について説明があったらしい。

 その中で【式神招来・十二天将】も取得手順の初めの部分だけは言及があったらしく、大手の戦闘系クランを初めとした大勢のプレイヤーがスキル取得に向けて動き始めたらしい。

 ただ、イベントでは猛威を振るったとは言え、スキル調整が入った結果どうなったのかを知りたがってるプレイヤーは多く、情報系クランが俺のところに今回の試射会を依頼してきたわけだ。


 試射会の場所は王都から西にしばらく走った場所。

 狩り場的に距離的にも強さ的にも中途半端で、滅多に狩りをしてる人がいない場所が選ばれた。

 スキル調整が入ったとは言え、【式神招来・十二天将】は対レイド用スキルも含んでいる。

 下手に人のいる狩り場で使ってしまうと、他人の獲物まで巻き込んでしまいかねない。

 なので、狩り場的に人が寄りつかない場所がチョイスされたというわけだ。


「うむ、時間通りの到着であるな。今日はよろしく頼むのである」

「あまり気乗りはしないけど来たぞ、教授。それで、どうすればいいんだ」

「うむ、まずは簡単にスキルの効果説明をしてもらいたいのである。……ああ、全てではなくトワ君が使う範囲のスキルだけで十分であるよ」

「スキル効果の説明ね。まあ構わないけど……随分と人が集まったものだな」


 試射会の場所にはかなりのプレイヤーが集まっていた。

 元々は検証系クランだけという話だったが、それ以外のプレイヤーも見てみたいという話になって時間と場所を公開したらしいのだが……それにしても多くないか?


「検証結果についてはまとめが出来次第、掲示板で公開するとしているのであるがなぁ。やはり、生で見たいというプレイヤーが多いという事であるよ」

「まあ、構わないけど。それで、スキルって空撃ちすればいいのか? スキルの内容によってはターゲットがいないと発動できないものがあるけど」

「そこは心配しなくてもいいのである。我々が用意したタンクがモンスターを引き連れてくるのであるよ」

「そっか。それで、そっちの準備は大丈夫なのか?」

「開始の合図があれば最初のターゲットを連れてくる手はずである。それではまず、『騰蛇』の効果を説明してほしいのであるよ」

「了解、それじゃあスキル内容を確認してみるよ」


 俺は【式神招来・十二天将】の一覧の中から騰蛇の項目を選ぶ。

 ……あれ、スキル内容が大分変わってるな。


「……ふむ、スキル調整とは聞いていたけど、これほどか」

「何かあったのであるか?」

「うーん、騰蛇に関してはほとんど別物のスキルになってるな」

「ほう、それほどであるか」

「それほどだな。効果について説明するぞ」


 スキル調整の前は『任意地点を中心とする30×30メートルの範囲に対する範囲攻撃。神聖・火属性によるダメージを与える』だった。

 だが修正後の今は『使用者を起点とする前方170度の扇状・効果範囲40メートル範囲攻撃。神聖・火属性によるダメージを与える』に変わっている。

 追加効果として継続ダメージが入るところは変わってないみたいだな。

 後は……


「スキル使用時の消費がMP400・ST50からMP400・ST200に変わってる」

「ふむ、効果範囲は広がっているわけであるが、任意地点から術者起点に変わったのであるか。それに消費もSTが大幅増加されたと」

「……これ、スタミナが低い魔術士にはかなりきついんじゃないかな」

「そうであるなぁ。まあ、このレベルのスキルを扱おうとする術者であればSTも200程度は捻出出来ると思うのである。……ちょうどターゲットになるモンスターも引っぱってきたようであるし、まずはスキルを使ってほしいのであるよ」

「了解。……うん、効果範囲に入ったな。タンクの人に離脱するように伝えてくれ」

「わかったのである。……伝え終わったのであるよ。少し待てば離脱してくれるはずである」


 教授のセリフ通り、ここまでモンスターを引き連れてきたタンクプレイヤーはモンスターをスタンさせてから離脱していった。

 FFフレンドリーファイアがないんだから、諸共使ってしまっても問題ないと言えば問題ないのだが……さすがに余裕もあるのだから、無駄に巻き込む意味はないしな。


「さて、それじゃあいくぞ。騰蛇、発動!」


 俺がスキルを発動すると、俺の前方の地面が一気に赤く輝きだした。

 そして、おそらく効果範囲全体が赤く輝いたと同時に高さ数メートルの炎が立ち上り、効果範囲全体を焼き払った。

 スキル調整前の騰蛇では1メートル程度の高さまでしか炎が燃え上がらなかったし、この炎の高さまで攻撃できるようになっているなら、上空に対してもある程度は攻撃できるようになったかな。

 観衆の方でもどよめきが起きる程度には受けもよかったようだ。


 騰蛇の炎は数秒で消えたが、攻撃を受けたモンスターは……どうやら耐えることが出来ずに倒れたようだな。

 ドロップアイテムが俺のインベントリに入ったみたいだし。


「……演出からだいぶ変わったようであるな。それに威力も増している様子である」

「そうなのか? 一撃でモンスターを倒してしまったし、そこまでわかるものか?」

「今、連れてきてもらったモンスターはレベル55のモンスターであるよ。おそらくスキル調整前の騰蛇では、継続ダメージまで入っていれば倒せるであろうが、最初のダメージだけで倒せるとは思えないのである。実際のダメージ値を確認出来ないのが悔やまれるのであるな」

「まあ、それはこのゲームの仕様なんだから仕方がない。それで、騰蛇の効果については終わりでいいか?」

「うむ、十分である。と言うよりも、他のスキルも見せてもらいたい以上、同じスキルを何度も見せてもらう訳にもいかないのであろう?」

「そうだな。スキルのクールタイムは全スキルで共有して300秒のままだ」

「という訳で、騰蛇のお披露目は以上である。次は……使ったことがあるスキルでいくと朱雀あたりであるかな」

「だな。……こっちもスキル内容が結構変わってるな」


 朱雀の変更点だが、まずは効果範囲が『敵単体』から『敵一体を中心とした極小範囲』に変更になっている。

 極小範囲という事なのでほとんど単体攻撃と変わらないと思うが、目標のすぐそばに別の敵がいた場合は巻き込むことが出来るようだ。

 それから消費もMP400・ST250に変わっている。

 これはあれかな、消費コストを上昇させた代わりにスキル効果を強化した感じか?


「ふむ、至近距離での巻き込みが出来るようになったのであるか。……ああ、ちょうど新しいモンスターが来たのである。リキャストタイムは大丈夫であるか?」

「ん、今ちょうど使用可能になったところ。それじゃあ、また離脱してもらってくれ」

「わかったのである。……さて、準備完了であるな」

「それじゃあ、次。朱雀、行け!」


 朱雀が発動すると同時に、目の前に火の鳥が現れ上空へと舞い上がる。

 そして、ターゲットめがけて急降下攻撃を行い、ターゲットの周囲に爆炎を巻き上げる。

 修正前はターゲットだけを包み込むように攻撃していたから、あの爆炎が効果範囲なんだろう。

 ……ああ、ターゲットはもちろん倒してるよ。

 範囲攻撃の騰蛇に耐えられなかったのに、基本単体攻撃の朱雀に耐えられるはずがない。


「ふむ、あの爆発が効果範囲だとすると極小範囲というのも納得であるな。確かにあれでは複数の敵を巻き込むのは難しいのである」

「だな。基本的に単体攻撃と思った方が良さそうだ」

「であるな。さて、それでは他のスキルも検証であるな」

「わかった。とは言っても、騰蛇と朱雀以外は修正前の効果を知らないから比較は出来ないぞ」

「それはそれで仕方がないのである。さて、次はどのスキルを使うのであるか?」

「んー、STRやVIT参照系のスキルはまともな攻撃力がでないだろうから後回しにして、先にDEX参照の白虎あたりを試すか」

「……それは朱雀よりも攻撃力が出るのではないのであるか?」

「どうだろうな。DEXとAGI参照だからINTとMND参照の朱雀よりも弱いと思うけど……これも基本単体攻撃系だから一発で倒せるとは思うが」

「ふむ、攻撃力の比較は今日は諦めるのである。トワ君のステータスはかなり偏りがあるのであるからなぁ」

「生産職にステータスの平均化を求めるな。……さて、向こうの準備が出来たようだし、次行くぞ」

「うむ、わかったのである」


 この調子で十二天将全ての試し撃ちをする事となった。

 もっとも、STRやVITを参照元にする玄武・青龍と言ったスキルは、演出のわりに与えたダメージはかなりしょぼかったし、それ以外でもスキルごとの威力差が激しかった。

 まあ、今回の試し撃ちで俺自身もスキル効果を大体把握できたのはよかったかな。


 12種類全ての披露が終わった後はその場で解散となった。

 俺が取得したときの方法なども聞かれたが、「そもそも重要NPCと知り合うのが無理」と言う事で参考にはならなかったらしい。

 公式放送で公開された取得手順は『ジパンの陰陽寮で一定の功績を上げる』と言う事だけだったらしいので、俺からの追加情報もあまり役に立たなかったらしい。

 俺の場合の功績は、セイメイ殿を妖精郷に連れて行ったことかな?


 途中から来ていたらしいユキと合流し、ハルや白狼さんなどとも少し話をしてみる。

 白狼さんとしてはやはりスキル取得を目指すらしく、次の高速船がでるタイミングで主要メンバーを連れてジパンに渡ることを決めたらしい。

 ハルとしても興味はあるらしいが、取得に必要なSP80を捻出するのが難しいらしく、しばらくは様子見とのこと。

 やはり戦闘系メインで色々な上位スキルを覚えてしまっている状態ではSP80はかなり痛いらしい。


 観客も三々五々ばらばらに帰っていく中、俺達も帰り支度をしていると検証結果をまとめていたはずの教授から声をかけられた。


「トワ君達はもう帰るのであるか?」

「見ての通り帰り支度の途中だよ。これ以上ここにいても仕方がないしな」

「そうであるか。……ちなみに、この後の予定はどうなっているのであるかな?」

「本当なら少し狩りに行きたかったけど、時間が微妙だからな。帰って適当に生産して終わりかな」

「ふむ、それならば時間はあるのであるな」

「あるけどどうかしたのか?」

「少々依頼したいことがあるのである。クランホームに帰還してから詳細は説明するのであるので先に帰っていてほしいのである」

「……あまり遅くなるようなら落ちるぞ?」

「そんなに待たせるつもりはないのである。30分ほどで戻るので適当に生産活動をしていてもらえれば大丈夫であるよ」


 ……こういうときの教授は厄介事を持ち込んだりするからな。

 まあ、話を聞いてみてそれから対応を考えればいいか。

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