260.【防衛戦2日目】バトルリザルトと祝勝会

「よっしゃー!! 戦勝祝いだ!! 飲め食え!!」

「どうせ、今日のイベント終了でなくなる料理なんだ! この機会に食っちまえ!」

「お前ら乾杯行くぞ! それでは、都市ゼロ防衛成功を祝って乾杯!!!」

「「「乾杯!!!!」」」


 転移門広場は、戦闘が終了したというのにさながら戦場のような盛り上がりを見せている。

 何をしているのかと言えば、先程の誰かさんのセリフ通り戦勝祝いの祝勝会だ。

 イベントサーバーは、今日の24時でアクセス不可能になることが運営から通達済みで、料理系生産プレイヤーが用意していたうち使われなかった料理を持ち出しての大宴会となっている。

 なお、流石に夜遅くなってきているので年齢の低いプレイヤー達はログアウトしている。

 イリスも既にログアウトしてるからな。


「おう、トワ。楽しんでるか?」

「鉄鬼か。……俺はあまりこう言うバカ騒ぎが得意じゃないのは知ってるだろう?」

「そういやそうだったな。βの時の大宴会も途中で抜けてたな」

「あの頃はまだ中学生だったしな。あまり夜遅くまでゲームしてるわけにもいかなかったんだよ」

「そう言うモンか。まあ、いいさ。ほれほれ、食え食え」

「……ゲームだからって暴飲暴食はいかがなものかと思うぞ?」

「そうは言っても、料理の在庫が大量にあるからな。消費しちまわないともったいないだろう? それに、色々な料理人の料理を味わえて楽しいぞ?」

「そこは否定しないがな。ともかく、俺は俺で楽しんでるから気にするな」

「そうか? それならいいけどよ。……ああ、クランの連中に呼ばれたわ。またな」

「ああ、また」


 去っていく鉄鬼を見送った後、持っていたピザを口に運ぶ。

 ……うん、これは照り焼き風ピザだな。


 会場では戦闘終了後1時間は経過しているのに、熱気が冷めることはなさそうだ。

 今日はこのまま、集計結果が公表されるまで大騒ぎが続くんだろうな。


「いよぉ、トワ、楽しんでるかい?」

「今度は霧椿か。俺なりに楽しんでるから、大丈夫だよ」

「そうかい? ならいいんだけど。……ところで、あのユキってお嬢ちゃんはどこに?」

「飲み物系のアイテムを作りにクランホームに行ってるよ」

「飲み物ねぇ。そう言えば飲み物系のアイテムは、在庫が全然ないんだっけ」

「戦闘中でも補給しやすいから優先的に消費されたらしいな」

「ステータス補正的にも魔法職系の補正があるのが多いらしいからねぇ。飲み物系のアイテムが足りないのも、不思議ではないか」

「まあ、そういうことだ。それで、霧椿は何か用だったのか?」

「うん? ユキのお嬢ちゃんにお礼を言いたかったんだけどね。昨日今日、ずっとバフを貼り続けてくれたおかげで調子がよかったなんてものじゃないからさ。改めてお礼をと思ったわけさ」

「そうか。それなら、もうしばらく待っていれば戻ってくると思うぞ」

「それなら待たせてもらおうかね。……ところで、トワ。今日のランキングはどう思う?」

「そうだな。個人的には、ダメージランキングで【流星雨】が頑張ってくれてると嬉しいんだけど」

「負けたがってるって言うのは、ゲーマーらしくないね。ゲーマーは勝ってなんぼだろ?」

「俺はプロではないからな。自分的に楽しく遊べればいいだけさ。それよりも、霧椿こそ今日もプロに勝てそうなのか?」

「さて、どうだろうね? 戦ってた相手がナイトメアリーパーだったわけだし、ボスダメージランキングを分けられる可能性もあるしね。それに、『アビスゲート』のホリゾンだっけ? そっちはナイトメアリーパー戦ではサポートに回ってたらしいじゃないか。今日のランキングはそう言う意味でもあてにならないさね」

「そう言うものか。……それにしても、集計結果が出るのが遅いな」

「昨日だってこの時間じゃまだ出てなかったよ。意外とせっかちだね」

「個人的には、さっさと結果を見てログアウトしたいところなんだがな。……まあ、ユキが戻ってくるまではログアウトもできないが」

「まあ、気長に待つことだね。今日のランキングは、今までの準備期間の成果も含めたランキングも発表されるって話だしね」

「ああ、総合ランキングとかか。そっちも発表されるんだったな」

「むしろ、そっちの集計に時間がかかってる気がするけどね。……おや、あれ、ユキのお嬢ちゃんじゃないかい?」

「ああ、本当だ。おーい、ユキ、こっちだ!」

「トワくん、お待たせ。それに霧椿さんもこんばんは。防衛戦お疲れ様でした」

「ああ、お疲れさんだ。ユキの嬢ちゃん、昨日今日と神楽舞での支援、助かったよ。おかげでボスダメージランキングの1位を取れたからね」

「そう言ってもらえると嬉しいです。ちゃんとお役に立てたみたいですね」

「昨日の支援ランキング2位が役に立ってなかったら、ほとんどの支援職は役に立ってなかった事になるよ。まあ、ともかく、ありがとうな」

「いえいえ。あ、フレッシュジュースを作ってきたんですけど、霧椿さんも飲みますか?」

「いいね。いただくよ。……さて、それじゃあお礼も言えたし、もうしばらく会場を回って見ることにするよ。こんなにたくさんの料理を味わう機会なんて、この先あるかどうかわからないからね」

「ああ、それじゃあまたな」

「ああ、またね。……っていうか、あんたの特殊流派を教えてくれるって言う話、忘れるんじゃないよ?」

「わかってる。ただ、イベントが終わった後、多分生産で忙しいから落ち着くまで数日時間はくれよ?」

「ああ、了解だ。それじゃあ、時間ができたらフレチャで連絡を頼むよ」


 フレッシュジュースを受け取った霧椿は、片手をひらひら振りながら雑踏の中へと消えていった。

 残されたのは俺とユキだ。

 まあ、人混みから離れてるだけであって2人きりというわけではないんだけどな。


「トワくん、イベントお疲れ様。最後の戦いとか大丈夫だった?」

「ああ、あの天使との戦闘か。特に問題はなかったぞ。あえて言うなら、あのレベルの敵が出てくるとか考えたくないという事ぐらいか」

「あれはすごかったよね。トワくんやハルちゃん、リクもまともに攻撃を当てられなかったんだから」

「そうだな。まともに攻撃が当たったプレイヤーっていたのかねぇ」

「どうだろうね。みてた限りだと、誰も一撃すら当てられてなかったみたいだけど」

「運営も何を考えてあんな強い敵を持ってきたのやら。そもそも、あの戦闘AIはどうやって作ったのやら」

「強かったよね、あの天使。まるで私達のお師匠みたいだったよね」

「ああ、爺さんみたいな強さだったな。……流石に、爺さんの戦闘パターンではないと思うけど」

「もう死んじゃったものね。確か、道場を継いだ師範が、何かのゲームを作るときに師匠の戦い方をトレースさせて参考にしたことがあるって話をしてたけど」

「……それがあの天使の一部になってる可能性は否定できないか」

「うん、そうだね。ただ、構えとか太刀筋とかは記憶にある師匠の戦い方と違うから、本当に一部分だけかもしれないけど」

「どっちにしても、今後を考えると楽な話ではないよなあ。強さ的にはレイドボスクラスなのに、一対一じゃないと戦えないとか」

「体のサイズ的にも一斉に戦うのは難しそうだものね。今後、ああいう敵も出てくるって事なのかなぁ?」

「さあな。……どちらにしても、俺達には縁遠い話だと思いたいが。基本的に生産職なんだから」

「そうだね。ああ、でも、白狼さんや教授さんに助っ人を頼まれるかもしれないよ? あれだけ強力なスキルを使えることをばらしちゃったんだから」

「……その可能性はあるか。使ってしまったものは仕方がないし、諦めるか」

「そうそう。もう終わった事はあまり気にしても仕方がないよ」


 ユキと一緒に料理をつまみながら、今までのイベントの事や明日からの予定について話をする。

 ユキの方でも通常サーバーの商品は品不足になってるらしいから、数日はそっちの補充に専念するらしい。

 俺の方も品不足……というか、品切れになってるから、数日かけて補充だな。

 販売個数の制限をつけたとしても、補充したらすぐに売れそうだし。

 通常サーバーが平常運転に戻るまで何日かかるのやら。


《都市ゼロの防衛戦最終結果が出ました。これより集計結果を通知いたします》


 お、ようやく集計が完了したのか。

 さて、俺達はどうなったかな?


「トワくん、今日も通常モンスター相手のダメージランキングトップだね。2位との差がすごいよ」

「……そうらしいな。ユキも支援ランキング1位おめでとう」

「ありがとう。でも、支援ランキング1位になるほど働いてたかな?」

「戦闘開始からずっと神楽舞を使い続けていた訳だからな。それに、ナイトメアリーパー戦でデスを引きつけるのにデバフを使ってたのも大きいんだろう」

「……そう言うものかな」

「多分、そう言うことだぞ。それでないと、このランキング結果にはならないと思うし」

「そっか。……あ、イベント全体を通してのランキング結果も送られてきたよ」

「みたいだな。……まあ、防衛戦のザコダメージランキングは2日続けて1位だったから、当然1位だけど、サポートランキングも9位か。意外と高かったな」

「私はサポートランキング11位だね。柚月さんが7位で、イリスちゃんが8位、ドワンさんは3位だね」

「おそらく、このランキングはアイテム生産のランキングだろうな。俺とユキが微妙に低いのは、後半で学校が始まったから作成量が少なくなった結果だろうな」

「多分そうだよね。……まあ、結果はあまり気にしないし、これで防衛戦イベントも終了だね」

「そのようだな。まったく、12日間しかなかったのに本当に忙しかったな」

「そうだね。夏休み中は、毎日ゲーム内で8時間アイテム生産してたものね」

「まったくだ。いくら生産職だからって、ここまで働くと辛いぞ」

「ふふ、そうだね。……それも今日で終わりだし、お店の在庫補充が終わったらゆっくりできるよね」

「むしろ、ゆっくりさせてもらうぞ。本気で疲れた」

「そうだね。ジパンの屋敷でのんびり過ごすのも悪くないね」

「……結局はゲーム内の話になるのか」

「うーん、それじゃあ、ゲーム外でどこかに遊びに行く?」

「どうしたものかな。適当に街に繰り出してみるか?」

「……そうだね。たまには街に出かけてみよう。最近はゲーム内でばかり出かけてたし」

「正直、ゲーム内で出かける方が楽しめてたからなぁ……」

「ジパン巡りとか、結構楽しかったよね」

「そうだな。……どうせなら、現実リアルでも神社にお参りに行くか?」

「たまにはそれもいいかもね。初詣くらいしか普段は神社に行かないし」

「だよなぁ。たまにはそう言うところも悪くないか」


 そんな風に、ユキと現実リアルで出かける際のプランを考えていると、システムメッセージが表示された。


〈運営より称号【魔銃鬼】【双刀銃聖】【アルケミックファーマシスト】が与えられました。この称号が与えられたことを公表しますか?〉


 ……うん、称号が増えた増えた。

 と言うか、【魔銃鬼】ってプレイヤーがつけた二つ名だろうに。

 それを公式が称号としてつけるとかってどうなんだろうな?

 さっきもらった【黒翼に届きし者】も含めて、全部特別な効果のない称号か。


「あ、トワくん、新しい称号のメッセージが来てるよ」

「ユキのところにも来てたのか。ユキはなんて称号が与えられたんだ?」

「ええと、【神の舞姫】と【ファンタジックコック】だって。これって公表した方がいいのかな?」

「……まあ、どっちでもいい気はするが。あとあと追求される気がするし、実害はなさそうだから公表してもいいんじゃないか?」

「……それもそうだね。それじゃあ、公表っと」

「俺も公表するにしておくか」


 これで、今日のイベントはもう終わりだよな。

 というか、流石にそろそろ寝たいところだぞ。

 明日も学校なんだし。


 ……賞品については、明日以降に確認しても構わないか。


「ユキ、そろそろ落ちないか?」

「……そうだね、もういい時間だね。落ちる準備をしようか」

「準備?」

「リクがまだログイン中だから、そっちを捕まえてログアウトさせようと思って」

「……流石にこの人混みの中から見つけるのは無理だろ?」

「……仕方が無いね。メールだけ送って落ちるよ」

「そうした方がいいな。……ハルは既にログアウト済みみたいだし、俺の方は問題なさそうだな」

「……よし、メールの送信完了。それじゃあ、ログアウトしよう」

「そうだな。おやすみ、ユキ」

「お休みなさい、トワくん」


 こうして、長かった防衛戦イベントは終わりを告げた。

 明日からはいつも通りの日常が待ってる……はずだといいなぁ。

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