256.【防衛戦2日目】反撃開始!
『デバフによる移動速度の減少か……確かに効果があるかもしれませんね』
「はい、ある程度の効果はあると思います。そうすれば、なかなか攻撃が当たらない今の状況も改善できる可能性があります」
『ちなみに、その作戦を実行する上での問題点は?』
「直接デバフを撒くことになるので、無防備なユキが集中的に狙われる可能性があります。神楽舞はその特性上、攻撃を受けると強制的に解除される恐れもあります。ユキの守りを固めないと、デスがこちらに集まってくるだけになってしまいます」
『なるほど。前線的にはデスを引き寄せてくれるだけでもありがたいのですが、だからと言ってユキさんをおとりに使うだけでは、そのうちまたデスが戻ってきてしまう訳ですね』
「しかも今度は主に後方からの攻撃になりますからね。上空からの急襲攻撃は変わりませんが、余計混乱しやすくなるでしょう」
『確かに。効果も高いですがリスクも相当高いようですね。何とかしてユキさんを守り切れる体勢を整えないとダメでしょうね』
「そうなりますね。ただ、効果はかなりあるはずですが」
『現状、思いつく中ではそれが最良に思えますね。少し待ってください、今護衛ができる人選をするように伝令を送ります』
「わかりました。その結果が出るまではこちらは様子見とユキの護衛を続けます」
とりあえず作戦の伝達は終了、後は作戦本部や指揮官達がどういった判断を下すかだ。
その結果が出るまでは、俺達は大人しく散発的に襲ってくるデスの処理を続けよう。
「お待たせしました、トワさん! 増援に来ました!」
伝令を出すという話から10分程度経過した頃、俺達のところに20名ほどのプレイヤーが集まってきた。
「……アンタは確か、ロックンロールだったっけ? 都市ゼロにいたんだな」
「ええ、自分でも驚いてますよ。
「そうか。それで増援っていうのは?」
「ユキさんのデバフで敵を一網打尽にすると聞いて作戦本部から来た増援です。主にライフルを使えるプレイヤーがメインです」
「ちなみに、銃の腕前は?」
「それはそこそこと言ったところだと思います。集まったメンバーの中には、後方支援で援護射撃を行う生産職の人達も加わってますので」
「……とりあえず、人数が揃って一斉射撃すれば弾幕は張れるか」
「はい、作戦本部でもその予定で送り出されています。あとは……」
「後は俺達アタッカー陣がとどめを刺すってな」
ロックンロールのセリフを引き継いだのは、先程前線に向かったはずのホリゾンだった。
ホリゾンの後ろには『アビスゲート』のメンバーもいる。
「ガンナー部隊が弾幕を張ってデスを撃ち落とす。後は地上で俺達がとどめを刺すって作戦だ。もっとも、俺達も有効射程にデスが飛んできたら、遠距離攻撃技で狙い撃ちにする予定だけどな」
「そいつは心強いな。まさかプロゲーマーチームにも守ってもらえるとは」
「はっ、このゲームに関して言えばトワさん達の方が有名人だろうに。さて、そう言う訳だけど、作戦実行は可能か?」
「ちょっと待ってくれ。……ユキ、デバフの展開いけるか?」
「うん、バフの種類を減らせばその分をデバフに回せるよ。何をすればいいの?」
「移動速度低下と物理防御力減少だ。元々、防御力は低いようだけど、こちらの攻撃力も高いとは限らないからな。念には念を入れておかないと」
「わかったよ。いつでも切り替えできるけどどうするの?」
「……という事らしいので、配置についてもらえるか?」
「了解です! ガンナー部隊は全員ユキさんを囲むように配置につけ! 今回こそガンナーの本領を発揮するんだ!」
「遊撃部隊はその前に陣取るぞ! ガンナーが撃ち落としたデスどもを1匹残らず倒すんだ!」
おうおう、どっちも士気が高いねぇ。
かたや、ガンナーの実力を見せつけようとするもの。
かたや、本物のプロゲーマーチーム。
士気が高くなるのも当然か。
「トワさん、ガンナー部隊配置につきました! いつでもいけます」
「こっちもOKだ。いつでも始めてくれ」
追加された護衛部隊も準備ができたようだし、反撃開始と行きますか!
「ユキ、頼んだ」
「うん、それじゃあ行きます!」
ユキの神楽舞の内容が変更されて、バフが2種類減る。
代わりにデバフが撒かれているはずで……おお、効果範囲に入っているデスの移動、というか飛行速度が落ちて攻撃が当たり出したな。
デバフを撒き始めてすぐは、こちらに流れてくるデスの数も少なかった。
だが、デス自体はいまだに追加され続けている。
そして、後から追加されたデスは前線にいるプレイヤー達にはほとんどヘイトを持っておらず、逆に今現在デバフを使い続けているユキに対しては大量のヘイトが貯まっていく状況だ。
つまり、何が言いたいかというと……
「おう、後から追加されたデスどもが全部こっちに向かって飛んでくるぞ」
「そりゃそうだな。神楽舞のデバフは効果範囲50メートルだ。デスが湧き出している、あの場所すら効果範囲内だからな」
「つまり、
「そういうこと。期待してるよ、プロゲーマー」
「そりゃ、期待に応えなきゃな。全員戦闘態勢! こっからは俺達がデスを全部処理するぞ!」
「おう。任せろ、ホリゾン!」
「やっと俺達の出番だ!」
「さあ、かかってこいや、死神ども!!」
遊撃部隊の方は大丈夫そうだな。
後はガンナー部隊だが……
「ガンナー部隊の指揮はロックンロール、あんたか?」
「はい、俺が指揮をとることになってます!」
「じゃあ、基本的に俺が最初に撃ちこむから、その撃ち漏らしを撃ち落とすことにしてくれ。任せて大丈夫だよな」
「もちろんです! さあ、ガンナー部隊、実力を見せるぞ!」
「おうよ! これでガンナーが弱いなんて言わせないぞ!」
「ガンナーだってちゃんとした武器があれば他の職に負けないってところを見せないとな!」
「俺達生産職だって、ライフルだったら戦力になるってところを見せつけてやるんだ!」
うん、こっちの方も問題なしと。
後は、俺とイリスだが……そっちは気にしなくてもいいだろう。
「イリス、俺が先行してテンペストショットを撃ちこむ。その後に続いてアローレインを頼めるか?」
「りょうかーい。それじゃあ、第一陣のご到着だよ。気を引き締めていこー」
「そうだな、始めるとするか。テンペストショット!」
「アローレイン!」
俺とイリスの放った範囲攻撃は、密集状態で飛んできていたデス達のほとんどを撃ち抜いていく。
範囲攻撃の効果範囲外だったデス達は、迂回してこちらを目指して飛んでくるが……
「ガンナー部隊、一斉発射! ハイチャージバレット!」
「いけー!」
「落ちろ、骸骨!」
20名近いガンナー達による一斉射撃によって、迂回しようとしていたデス達も被害を受ける。
ただ、攻撃力はまちまちだったようで、それだけでは倒せなかったデスもかなり多い。
だが、そういったデス達も飛行能力を維持できなかったようで、ゆっくりとだが落下し始めた。
そこを待ち構えていたのは、言うまでもなく遊撃部隊の面々。
「来たぞ! デスがまた飛び去る前に一斉攻撃!」
「おりゃあ!」
「待ってました!」
「さあ、お掃除の時間だ!」
移動速度が低下している上、攻撃を受けたことで一時的に飛行能力を失ったデス達を遊撃部隊が確実に仕留めていく。
いくらかのデスはこれらの攻撃をかいくぐっており、こちらに攻撃を仕掛けようとしてくるが、それらは俺とイリスがメインとなって1匹ずつ確実に仕留めていく。
移動速度が低下していることでハイチャージバレットや瞬速の矢などの超高速攻撃だけでなく、チャージショットやチャージアローのような攻撃でも回避しきれなくなっているのだ。
俺達がデスの一団を倒したことで、再びデスの増援が姿を現す。
どうやら、デスは一定数以下になると増援が湧き出すみたいだな。
だが、せっかく湧き出してきた増援も、神楽舞のデバフに巻き込まれて移動速度は最初から低下状態だ。
そしてデバフを受けたことによるヘイトのせいで、俺達の方へとまっすぐ向かってくる。
後は同じ事の繰り返しだ。
俺とイリスが最初に範囲攻撃を行い数を減らす。
その後をガンナー部隊が一斉射撃をして、倒し切れていないデスを撃ち落とす。
撃ち落とされたデスは遊撃部隊によってとどめを刺される。
こちらとしてはほとんどリソースを消費しない上に、簡単確実な連携でデスが処理できるようになった。
前線の後衛陣を襲っていたデスも既に全ていなくなっており、増援で出てくるデスは全てこちらに引き寄せられる。
こうなってしまえば後は早い、前線はナイトメアリーパーの対処にのみリソースを傾け、デスは全て俺達が相手をする。
そんな体勢が整ってからはナイトメアリーパーに与えるダメージ量も段々増加していき、20分ほどで全てのHPを削りきることに成功した。
《ナイトメアリーパーが撃破されました。市街地の防衛に成功しました。市街地の損害率は29%です》
ワールドアナウンスが流れると同時に、こちらに向かってきていたデス達が引き返して、デス達の出現場所になっていたところから消え去っていく。
防衛成功のアナウンスも流れたし、これで市街地は完全に守られたって事かな。
「よっしゃー! 俺達の勝利だ!」
「見たか、これがガンナーの実力だ!!」
「今回はガンナーが輝けたぞ! ナイスだ運営!!」
「飛行系のモンスターなら俺達の独壇場だぜ!!」
……どうやらガンナー系のプレイヤー達って、俺が思っていたよりもずっとストレス? 劣等感? そう言うものを抱えていたらしいな。
そこまで気にすることじゃないと思うのは俺だけなんだろうかね?
「作戦成功したようですね。おかげでナイトメアリーパーがとても戦いやすくなりましたよ」
「ああ、十夜さん。そっちもお疲れ様です」
「ええ、お疲れ様です。今回のMVPはユキさんでしょうかね」
「さあ、どうでしょうね。ユキはどう思う?」
「え? ……うーん、どうでもいいかな?」
「だそうですよ」
「なるほど。なんとも『らしい』答えですね。それでは、ひとまず作戦本部に引き上げて今後の行動を確認しましょう」
「そうですね。行きましょう……」
《西門の防衛に成功しました。門の損傷率は48%です》
どうやら西門のグレーターデーモンが倒されたようだな。
今日は西門が一番早かったか。
それに損傷率も、昨日の引き継ぎを考えればかなり少ない方だろう。
「どうやら西門が終わったようですね」
「そのようですね。他の門も時間の問題かな?」
「多分そうでしょう。ひとまず、僕達は帰還ですね」
「わかりました。引き上げましょう」
ナイトメアリーパーを倒しきった俺達は作戦本部へと帰還する。
その途中、ワールドアナウンスが流れ、東門の防衛も成功したとのことだった。
「おお、戻ったようであるな。ナイトメアリーパーの討伐お疲れ様である」
「ああ、お疲れだよ、教授。こっちの方で何か変わったことはないのか?」
「変わった事と言えば、各門で死んでしまいリスポーンするはずだったプレイヤーが合流していないことであるな」
「あー、ひょっとしてナイトメアリーパーがいる限り、リスポーン不可だったとかか?」
「その可能性が高いのである。であるが、ナイトメアリーパーも倒し終わった事であるし、リスポーンできないでいたプレイヤーも直に合流するであろう」
「だといいが。それで、この後、俺達はどうすればいい?」
「現状では何も割り振る仕事がないのである。このまま戦闘終了まで待機であるかな」
「了解、それじゃあ適当に休ませてもらうよ」
「うむ、そうしてほしいのである。ただ、装備の損耗が激しいプレイヤーは生産職に修理してもらっておいてほしいのである。この先も運営が何か仕掛けてこないとは限らないのであるからな」
「わかった。俺は大丈夫だから休ませてもらうよ」
「俺達はそれなりに消耗してるから装備の修理からだな。じゃあ、お疲れさん」
「俺達ガンナー部隊も武器の手入れが必要ですね。俺達もこれで失礼します。お疲れ様でした、トワさん」
「前線組はもれなく装備修理でしょうね。後衛もデスによって少なくない被害が出てますし。それでは失礼します」
ナイトメアリーパーの討伐に関わっていたプレイヤー達がそれぞれ行動を起こす。
俺達は装備の消耗自体がほぼないから本当に休むだけだな。
休憩していると、残りの南門と北門の防衛成功アナウンスが流れてきた。
《南門の防衛に成功しました。門の損傷率は27%です》
《北門の防衛に成功しました。門の損傷率は32%です》
《全ての街門および市街地の防衛に成功しました。最終決戦に移行します。最終決戦の開始は30分後です。最終決戦には全てのプレイヤーが参加します》
……ほら、各所の防衛だけで終わりじゃなかった。
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