255.【防衛戦2日目】ナイトメアリーパーとデス

 ボスであるナイトメアリーパー登場まで残り1分を切った頃、俺達は作戦本部までたどり着くことができた。

 なお、東門から合流した部隊については、残っている可能性があるレッサーデーモンの索敵と掃討にあたってもらっている。

 作戦本部には、南西に向かっていたレイドメンバーも既に到着していた。


「おお、トワ君達も間に合ったのであるな」

「ああ、教授か。時間がないから手短に状況説明を」

「わかっているのである。現在、ナイトメアリーパーが出現すると思われる黒い球体が、市街地中心部転移門広場に存在しているのである。それが段々と大きくなっているゆえに、そこからボスが出てくるであろう事は間違いないのであるよ」

「それがミスリードだったら流石に運営に苦情だな」

「違いない。それじゃあ、その球体を囲むように配置につけばいいのか?」

「その通りである。長距離を移動してきたばかりで申し訳ないのであるが、防衛準備をよろしく頼むのである」


 ボス出現まで残り30秒あまり、もはや猶予はない。

 合流したレイドメンバーとともに急いで転移門広場へと向かう。

 転移門広場の方には確かに黒い球体が存在しており、遠目にも確認することができた。


 流石に教会から転移門広場まで30秒で移動することはできず、途中で時間切れとなる。

 すると、膨らんでいた球体が突如小さくなっていき、その中から巨大な6本の腕を持つカマキリが現れた。

 どうやらこいつがナイトメアリーパーらしいな。

 看破してみたところ、レベルは70。

 HPバーは3本しかないが、果たしてどの程度の強さなのか。

 ナイトメアリーパーは甲高い声で泣き叫ぶと、教会方面に向けて進行を開始した。


「どうやらナイトメアリーパーの狙いは教会のようですね。このまま進んで現在包囲している部隊と合流しましょう」

「そうだな。あたしもその案に賛成だよ。それじゃあ、早く合流しようかね」

「そうですね。トワさん達はこの場で待機して状況確認をお願いします。ユキさんは神楽舞でサポートを」

「了解、気をつけて」

「わかりました。それでは始めますね」


 ユキは早速、神楽舞での支援に入った。

 移動速度上昇も含んでるから合流しに行ったメンバーも早めに合流できるだろう。

 この場に残ったのは『ライブラリ』のメンバーである俺とユキ、イリス、それからユキの護衛としてタンクと近接アタッカーが1名ずつだ。

 状況がどう動くかわからない現在、全員が前線に出てしまうと思わぬ打撃を受ける恐れがある。

 そのため、俺達は後方支援としてこの場に残ることになった。

 ……俺達の場合、超長距離攻撃ができるというのもあるが。


 前線の方ではナイトメアリーパーと遊撃部隊、および各門から集まった増援部隊が激しい戦闘を始めていた。

 派手な魔法やスキルのエフェクトが飛び散る中、ナイトメアリーパーのHPは順調に削られていっている様子である。

 ……もったいぶって出てきたわりには簡単すぎやしないか?


「……トワー、なんだか嫌な予感がするよー」

「ああ、奇遇だな。俺も嫌な予感しかしてないぞ」


 イリスと軽口を叩きあうが、気は抜かずに戦況の推移を見守る。

 HP自体はHPバー3本分しかないし、巨大とは言えカマキリ型、そこまで苦戦するような姿形はしていない。

 そもそも、このゲームの最初のエリアボスはカマキリだし。


 俺達が警戒する中、ナイトメアリーパーの最初のHPバーが砕け散る。

 それと同時にナイトメアリーパーの体が漆黒に染まり、黒い液体となって溶けていった。


「……HPバーも残ってたし、これで終わりじゃないよねー?」

「流石にこれで終わりはないだろう。実際問題、アナウンスも流れてないしな」

「だよねー。楽できるといいなと思ったんだけどなー」

「そこまで楽が出来るはずもないさ。……どうやら第2形態になったようだぞ」


 黒い液体が集まって、今度はカマキリとは別の形を作り出す。

 その姿は巨大なデーモンにも似ていて、腕の数は溶ける前と同じ6本。

 しかし、その6本の腕にはそれぞれ巨大な鎌が握られていた。


「どうやらここからが本番みたいだな」

「そうだねー。……トワ! 空に黒い門が出てきたよ!?」

「門って事は増援か? でも、なんであんな高い場所に?」


 地上から10メートルくらいの高さに出現した黒い門。

 その門が少しずつ開き、その中から黒い鎌を持ったスケルトン達が飛び出してきた。

 そのスケルトン達は薄汚れたローブを着込んでいたが、地上に落ちることなく空中を飛び回っている。


「トワ、あいつら何?」

「ちょっと待ってくれ。……個体名称『デス』、レベルは50? 随分と低いな」

「そうだねー。って、あいつら空中から直接後衛を狙って攻撃を始めたよ!?」


 この場に来てヘイト無視の敵が出現したのか!?


 後衛陣を直接狙い始めたデスは、空中を自在に飛び回り攻撃を躱しながら攻撃を仕掛けてきている。

 三次元的なその軌道を読み切ることは難しく、プレイヤーからの攻撃はなかなか当たらない。

 それに対して、デスは確実にプレイヤー達を攻撃している様子で……かなり旗色が悪いな。


「トワ、増援に行く?」

「そうしたいところだが……こっちにも来たぞ!」

「本当だね! いくよー!」


 話をしている間に数匹のデスがこちらに向かって飛んできた。

 狙いはおそらく神楽舞でバフをまいているユキだろう。

 タンクのヘイトは無視するけど、それ以外のヘイトはしっかり判定しているようだな。

 めんどくさいな、本当に!


「さて、こちらの攻撃があたるかどうか……まずはチャージショット!」


 近づいてくるデス達に向けてチャージショットを撃ちこむが、難なく躱されてしまう。

 真正面から正直に撃ちこんだだけだし、当たるはずもないのだけど。


「今度はボクから行くよー。アローレイン!」


 イリスは点での攻撃ではなく面制圧タイプの攻撃に切り替えた。

 だが、これもほとんどの攻撃は躱され、何発かは当たるが……ダメージはそこそこ以上に入っているようだが、動きを鈍らせるほどには至っていない。


「もう! めんどくさい敵だよ!」

「仕方が無いだろうさ。今度はこれだな、テンペストショット!」


 デス達の進行方向に向けてテンペストショットを発動させる。

 後方にいた何体かのデスは軌道を急激に変えて躱していったが、前方にいたデス達はテンペストショットの効果範囲に突っこんでしまった。

 テンペストショットをその身に受けたデス達は、呆気なく塵に帰っていく。

 どうやら高機動の代わりにかなり防御力やHPは低いようだな。


 とはいえ、前線の方でも大量のデス達が空中を飛び交い、後衛陣を直接攻撃している。

 何名かの近接アタッカーやタンクがデスの牽制に入っているが、タンクのヘイトコントロールは無視されているようで効果を発揮していない。

 近接アタッカーたちは、デスが攻撃に降りてきたところを狙ってカウンターを仕掛けており、こちらはそこそこの戦果を上げている様子だ。

 俺達の方でも先程倒しきれなかったデス達が再び突撃を仕掛けてきたが、そちらはイリスがテンペストアローで妨害しているので大した影響はない。

 ユキの支援のために残った2人も果敢にデス達に斬りかかっていく。


 最前線のタンクやアタッカー達の様子はと言うと、そちらはそちらで攻めあぐねている様子だ。

 カマキリ型から悪魔型に体型が変わったことで攻撃パターンが変化したことと、後衛陣がデスによって攻撃されているため十分な支援が受けられない状態になっているのが膠着状態に陥っている原因だろう。

 それならば、後衛陣をせめているデスを何とかすればいいのだが、簡単には倒せていない。


「何だ!? 何で前衛部隊が後衛陣への直接攻撃を許してるんだ!?」

「うん、ホリゾンか?」

「アンタはトワさんか。この状況はどうなってるんだ?」


 東門の要であった『アビスゲート』のホリゾンが合流してきたらしい。

 まあ、後からきてこの状況じゃ何が何だかわからないよな。


「飛び回ってる骸骨ども……デスって言うんだが、あいつらはタンクのヘイトコントロールを受けないらしいんだ。それでいて、後衛の回復や攻撃によるヘイトはしっかり見ているようでね。後衛陣がダイレクトに狙われてるんだよ」

「なるほど。トワさん達の攻撃は当たらないのか?」

「俺達の攻撃ね、見てもらえばわかるが……ああ、ああいう風に空中でいきなり軌道を変えられてな。なかなか当たらないんだよな」

「……割とまずい状況か?」

「後衛陣が崩れたら前線も崩れるからまずい状況だね」

「ちっ、どうしたもんかね……」

「とりあえず後衛のサポートに入ってもらえると嬉しいかな。ボスへの攻撃よりもデスの攻撃を防ぐ方が優先度が高そうだ」

「その様子だな。俺達は後衛陣のサポートに向かう! 少しでも後衛に被害を出さないようにしろ!」


 ホリゾン達増援部隊の他にも、街の四隅にあった門を破壊した部隊やレッサーデーモンの掃討に当たっていたプレイヤーも加わり、後衛陣の護衛が増えていく。

 だが、空中を自在に飛び回るデス達を相手に地上からの攻撃はなかなか当たらず、被害の軽減はできているが戦況をひっくり返す事はできていない状況だ。

 前衛陣も一進一退と言った様子だし、早めに次の対処をしないとまずいか?


 積極的な対処方法を思いつかないまま、時折こちらに飛んでくるデス達を攻撃して蹴散らす。

 チャージショットより弾速の速いハイチャージバレットならデス達も躱せないようで、テンペストショットとあわせて確実にこちらへの被害を減らすことに成功している。

 とはいえ、俺とイリスの2人で斬り込んでも倒しきれるような数ではなく、こうして時々襲ってくるデスを相手するだけで積極的に斬り込む事はできていない。

 いや、正確には一つだけ案が浮かんではいるんだけど、それを実行するにはこちらの火力が足りていないと言うべきで踏ん切りがつかない。


「十夜さん、今大丈夫ですか?」

『どうかしたのかな、トワさん。何か妙案でも?』

「妙案と言えば妙案なんですが、実行するにはこちらの火力が足りてません。何かいい方法はないですか?」

『ちなみにどんな方法ですか?』

「ユキに神楽舞でデバフを撒いてもらいます。移動速度減少のデバフを付与出来れば攻撃を当てやすくなるかと」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る