254.【防衛戦2日目】市街地防衛戦
クエストの勝敗条件が変更となり、敗北条件に街の損害と教会の破壊が追加された。
これはつまり4つの門と同時に街の防衛を行う必要も出てきた訳であり、早急に対策を打たねばならない。
でも、門を越えてのチャットや防衛戦中の掲示板の利用などは制限されており、情報伝達の手段がない。
本来なら各門から市街地防衛のための戦力を出す必要があるのだが、各門の間で調整することは不可能だ。
こうなると、どの程度の戦力を市街地防衛に回さなければいけないのかは指揮官の判断にかかってくる。
南門の指揮官は白狼さん。
現状、南門は既に敵側の軍勢そのものは壊滅に近い状態であり、残すはグレーターデーモンだけと言っていい。
この状況で誰を残し、誰を防衛に回すのか。
その判断が問われる。
『僕の所属するレイドチーム各位。僕以外のメンバーは南門の戦線を離脱して市街地の防衛に回ってほしい』
……そう来たか。
一番繋がりの深い『白夜』のメンバーをメインとしたレイドチーム、白狼さんを除いた35人をまずは送り込む作戦のようだ。
『それは構わないが、白狼のダンナ。あたしら抜きで南門は支えられるのかい?』
『むしろそれができないとまずいよ。君達が抜けても120人は残ることになる。その人数でグレーターデーモンを撃破できないなら、どうしようもないよ。それよりも街に被害が出る方が問題だ。すまないけど、すぐさま移動を開始してほしい。そちらのチームの指揮は十夜に任せたい。構わないかな』
『特に問題はないぞ。むしろ、クラン外から参加してる身としてはそっちの指揮に入っていた方が動きやすい』
「俺も問題ないですよ。それでは早速ですが行動を開始します」
『トワは行動が早いね。あたしも今戦ってた敵を斬り捨てたところだ。すぐに街の中へと向かうよ」
『皆さんお願いします。我々もすぐに合流いたしますので、先行して市街地の敵を倒してください』
『それじゃあ、よろしく頼むよ。僕はこっちの指揮で手が回りそうにないからね。増援が必要そうならすぐに伝令を送ってくれ。後方支援部隊のメンバーも何人か同行させるから』
「了解です。それでは移動します」
俺とイリスは移動を開始するために武器を収納し櫓にいる他のメンバーに声をかけることに。
「すまないけど、指揮官から街の防衛に回るように連絡が来た。この場は任せるよ」
「よろしくねー」
「おう、了解した。行ってこい」
「こっちは残りの敵も少ないしまかせておきなさい」
「頼んだぞ、【魔銃鬼】、【サイレントシューター】!」
声をかけ終わったら櫓から飛び降りて、街門に向けて全力で走る。
俺達以外のメンバーは最前線で戦っていたはずなので合流には少し時間がかかるはずだ。
幸い、俺達のいた櫓の後方にはほとんどプレイヤーが残っていなかったので街門にたどり着くのはすぐだった。
街門では俺達とは別行動をとっていたユキが既に待っていてくれたようだ。
「お帰りなさい、トワくん、イリスちゃん」
「ああ、ただいま」
「ただいまー」
「それで、もう先に市街地に入った方がいいのか?」
「白狼さんからはトワくん達が先行するはずだから、そっちと合流したら街に入ってもらって構わないって言われてるよ」
「わかった。それじゃあ、皆よりも一足先に街に入らせてもらおう」
「うん、行こう」
「りょうかーい。さあ、急いで敵を倒すよー」
ユキと合流し街門をくぐり抜けると、そこでは既に戦端が開かれていた。
門のそばにもレッサーデーモンが既に来ており、街を破壊しようと攻撃を始めている。
「チッ、本当に余裕はないみたいだな」
「トワ、どうするのー?」
「仕方が無いから俺達3人だけでも戦闘を開始するぞ。ユキ、すまないがタンク役を任せていいか?」
「大丈夫だよ。それじゃあ始めよう!」
俺達3人は近場にいたレッサーデーモン2体に攻撃を仕掛ける。
最初にユキが挑発スキルで注意を引くと、レッサーデーモン達は建物への攻撃を止めてこちらに襲いかかってきた。
どうやら、攻撃を受けると街を破壊するのを止めて迎撃に入るようになってるらしいな。
……変なところがゲームくさいがこちらにとってはありがたい話なので利用させてもらおう。
襲いかかってきたレッサーデーモン達の攻撃をユキは難なくさばいて、反撃の一撃を叩きこむ。
すると、その反撃だけでレッサーデーモンのHPは2割ほど減ることになった。
「トワくん、レッサーデーモンってこんなにHPが低いの?」
「そんな事はなかったんだけどな。とりあえず試してみるか、テンペストショット!」
レッサーデーモン2体を巻き込むようにテンペストショットを発動。
レッサーデーモン達はその攻撃に巻き込まれ……HPを全損して消えていった。
「……ひょっとして市街地に出てきた敵って弱いのかなー?」
「どうだろうな。こいつらだけで判断するのは危険だと思うが」
「そうだねー。とりあえず近場のデーモン達は全て攻撃を仕掛けて見よう」
とりあえず最初の目標を撃破した俺達は、すぐさま次のターゲットを決めて戦闘を仕掛ける。
この辺に来ている敵は全てレッサーデーモンのようで、強さも最初に倒した敵と変わらない程度でしかなかった。
だが、レッサーデーモンを倒す事は容易なのだが、次から次へと増援が駆けつけてくるので戦闘は一向に終わらなかった。
「待たせたね、トワ! さあ、行くよ!」
「お待たせしました。これより加勢します!」
「気合い入れて行くぞ! こっからが第二幕だ!」
レッサーデーモン達と戦っている間に、他のレイドメンバーも到着したようだ。
人数が揃ったことで敵の処理速度が一気に上がる。
レイドメンバーが揃って数分で南門周辺にいたデーモン達の掃討は完了した。
「さて、とりあえずこの付近の敵は全滅できたようですね。次はどうするべきか……」
「まずは教会前に行ってみるのは? あそこが作戦本部の訳ですし」
「それも良いのですが、移動時間がもったいないですね。市街地の敵がどの程度広がっているのかがわかれば倒しながら進めるのですが」
「流石にそれは高望みしすぎだろう、十夜のダンナ。それともパーティ単位で散開して各個撃破していくかい?」
「……デーモンの強さがこの程度でしたらそれがいいのかもしれないのですが。圧倒的に情報が足りてませんね」
「下手な考え休むに似たり、とも言うだろ? まずは行動を起こそうじゃないか」
「……それもそうですね。ではまずは部隊を二手に分けましょう。それぞれが東側と西側に向けて進軍を開始。街の南東と南西の端までたどり着いたら引き返してきて合流。その後は教会に向けて進みましょう」
「了解した。他の面子もそれで構わないね?」
その作戦に異を唱える者はなく、十夜さんの指示に従い行動を開始しようとしたその時。
街の中心部側から一人のプレイヤーが走ってきていた。
「南門の防衛部隊の方々ですか!? 作戦本部からの伝令を伝えに来ました!」
「伝令ですか。どんな内容ですか?」
「はい、敵の増援は街の4隅にある門から送り出されているとのことです。各門の防衛部隊から救援に来ていただいた部隊は、それぞれ2方向に分かれて街中のレッサーデーモン達を撃破しながら門の破壊に向かってください!」
「了解しました。すみませんが、あなたはこのまま南門を抜けて指揮官に今の伝令を伝えてもらえますか」
「はい、了解です。それではよろしくお願いいたします」
どうやら、俺達がとろうとしていた作戦でよかったようだ。
この場に伝令役の後方支援部隊のメンバーを残し、俺達はすぐさま増援を出し続けている門へと向かう。
途中、大量のレッサーデーモン達が襲いかかってくるが、それらは範囲攻撃を重ねがけすれば倒せる程度のHPしか持っていないようなのでなるべく足を止めないようにして先に進む。
周辺の敵を広範囲挑発技で引き寄せながら駆け抜けること数分、増援を出しているという門までたどり着いた。
門のところでは既に何人かのプレイヤーが戦っている。
俺達が来たのは南東の門。
東門の防衛班が先着していたのか、それとも遊撃部隊が戦闘中なのか。
「どうやら先にきている仲間がいるようだね」
「そのようだ。ともかく、俺達も攻撃に参加するぞ」
「おっけー。それじゃあ、行くよ。テンペストアロー!」
遠距離部隊の攻撃を皮切りに、前衛アタッカー陣やタンク部隊が突撃を仕掛ける。
そのタイミングで先に戦っていたプレイヤー達が一度引いて、こちらに話しかけてきた。
「南門側からきたって事は、南門の防衛部隊だよな。助かったぜ」
「ああ、そっちは遊撃部隊? それとも東門?」
「遊撃の方だ。……って、【魔銃鬼】に【剣豪】が来てるのか。南門は精鋭を送り込んでくれたようだな」
「俺達がたまたま『白夜』のレイドチームに参加していたってのもあるけどな。それで、遊撃部隊はどう動いてるんだ?」
「主に街中に散ったデーモン達の撃破だ。数名が教会の防衛に残ってる以外は遊撃部隊全員が攻撃に出ている。教会の防衛は残っていた生産職をメインとしたプレイヤー達だな」
「……それって防衛力に不安がないか?」
「不安はあるが、街を破壊される訳にもいかなかったからな。既に街の損害率は20%を越えてるんだ。迷ってる猶予はなかったんだよ」
言われてクエスト詳細を確認してみると、確かに街の損害率が23%まで上がっていた。
防衛失敗の判断基準が60%だからもう許容範囲の4割近い被害が出ていることになる。
「街中に散っているレッサーデーモン達はかなり弱いんだけど、見ての通り、門の防衛にあたってるデーモンはそこそこ強くてな。流石に手をこまねいていたところなんだ。本当に助かったよ」
「それは何よりだ。情報共有はそろそろいいか?」
「ああ、問題ない。それでは俺達も攻撃に戻らせてもらう」
遊撃部隊の面々がデーモンへの攻撃に戻り、戦線はゆっくりとではあるがこちらの有利になっていく。
やがて、東門側からの増援も合流し、30人ほどで一気にデーモン達へと攻撃を仕掛けていく。
門の護衛にあたっていたデーモン達はドンドン数を減らしていき、やがて全滅させることに成功した。
後は、いまだにレッサーデーモン達を放出し続けている悪魔の門――看破するとそう言う名前が表示された――を破壊するだけなのだが、これが意外と手間取ることとなった。
「チッ、この門、斬撃耐性か物理耐性を持ってるよ!」
「魔法の効果も微妙だな。全種類の攻撃に対しての耐性持ちか?」
「打撃攻撃なら有効みたいだ! 打撃系の武器を持っているメンバーはそっちに切り替えてくれ!」
「打撃武器ねぇ。あたしは持ってないからせいぜい手数で稼がせてもらおうか!」
「俺も基本的には射撃と魔法が攻撃手段だからな。手数で押させてもらおう」
「皆さん、がんばってください!」
ユキの神楽舞で攻撃力をブーストしながら悪魔の門に攻撃を仕掛け続ける。
湧き出してくるレッサーデーモン達については範囲攻撃に巻き込む形で処理を続ける。
そんな攻撃を10分ほど続けて、ようやく悪魔の門を破壊することに成功した。
《南東側に出現していた悪魔の門が破壊されました。南東側からの増援が停止します》
ワールドアナウンスが流れたし、俺達のところは終了かな。
攻撃にあたっていたメンバーが小休止をとっていると、次々とワールドアナウンスが流れる。
《北東側に出現していた悪魔の門が破壊されました。北東側からの増援が停止します》
《北西側に出現していた悪魔の門が破壊されました。北西側からの増援が停止します》
《南西側に出現していた悪魔の門が破壊されました。南西側からの増援が停止します》
これで4つの門の破壊は全て終了した訳だ。
これで市街地の防衛は残っているレッサーデーモンの処理が終われば完了かと思いきや、次のワールドアナウンスが流れることになる。
《市街地にナイトメアリーパーが出現します。出現までの時間は5分です》
「おいおい、ボス戦開始まで残り5分かよ」
「正直きついが、急いで作戦本部まで戻った方が良さそうだな」
「そのようだね。動けるまで回復した連中だけでも帰還した方が良さそうだ」
「だな。急いで戻るとしよう」
「そうだな。行くぞ、皆」
休んでいたプレイヤー達全員が立ち上がり作戦本部がある教会前へと走り始める。
ナイトメアリーパーとやらがどんなボスかはわからないが、間に合うといいのだけど……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます