247.【防衛戦1日目】初日・中盤戦

 防衛戦開始から30分ほどが経過した。


 俺達プレイヤー側の軍勢は多数のレッサーデーモンを撃破することに成功している。

 実際、戦闘開始直後は山のようにいたレッサーデーモン達が今では残りわずかとなっている。

 後方からの魔導バリスタによる援護射撃も有効に働いている。

 レッサーデーモンに関しては、既にメインの相手ではなくなっており、残りのレッサーデーモンも直に倒されるだろう。


 問題はレッサーデーモンの後ろに控えていたデーモン達だ。

 何が問題かというと……


「チクショウ! やっぱり純粋な物理攻撃じゃ通りが悪い!」

「属性付与セットを持ってないやつらは一度街中まで下がって交換してこい!!」

「前衛タンク! 攻撃部隊が戻ってくるまで凌ぎきるぞ!」

「後衛アタッカーも純粋物理攻撃しか出来ないやつらは属性付与セットを交換してこい! 魔術士系プレイヤーと属性攻撃を持ってるやつらはその間DPS上げろ!」


 という訳である。


 なんとレッサーがつかないデーモン達は物理耐性持ちなのである。

 削られているダメージは2割から3割だがデーモン達のレベルは62~64であり、はっきり言って減少しているダメージの差が大きく響いている。


 武器に属性付与できるアイテムを街中で交換出来ることを知っていたプレイヤーが街中まで戻り、戦闘中でもポイントとアイテムの交換が出来る事を確認してきた後は、属性攻撃ができていないプレイヤー達が一度後退しアイテム補充に走ることとなった。

 この属性付与用のアイテム、面倒な事にトレード不可らしいのだ。

 そのため、街中に残っている補給部隊や後方待機している後方支援部隊が交換に行くという方法は使えず、前線で戦っているプレイヤー自身が交換に行くという事になっている。


 最前線のタンク部隊やそれを支えるヒーラー部隊、それから魔術士部隊はその場に残り戦線を支えている。

 その他、竜帝装備をメイン武器として使っていたプレイヤー達も交換に行かずに戦場で戦い続けている。

 竜帝装備は全て物理以外の属性が付与されている装備なので、この状況に対応できているのだ。


 ……とはいえ、少なくない人数が属性付与アイテムの確保に向かってしまったため、ダメージ効率DPSはかなり下がっている。

 与えられるダメージが減ればそれだけ戦闘が長引く事になり、タンクやヒーラーの消耗が激しくなってくる。

 現実問題としてタンク達が支えている最前線は、戦闘開始直後よりも街側に押されており攻撃の激しさがわかるというものだ。


「そら、サンダーレイン!!」

「ブリザードスピア!!」

「テンペストエッジ!!」


 同じ櫓に控えていたプレイヤー達も2割ほどが街へと補給へ向かい、残っているメンバーは魔術士系プレイヤーが多い。

 魔術士系プレイヤーとしては前線が近くなった分、奥の方まで攻撃が届く訳だが……


「ちっ、この櫓まで敵の遠距離攻撃が届くようになりやがった!!」

「耐久値は大丈夫なの!?」

「今回復中だよー。少なくとも、この櫓は死守するから攻撃頑張ってー」


 敵が近付くという事は敵の攻撃も届くようになるという訳で、櫓自体にダメージが入るようになってしまった。

 ただ、櫓のダメージは工芸系スキルで回復出来るらしく、イリスが懸命に回復処理を行っている。


「さて、俺もリキャスト開けたし行きますか、式神招来・十二天将、騰蛇!!」


 俺自身も攻撃をサボっている訳ではなく、基本的な攻撃はテンペストショット、リキャストが開ける度に十二天将を叩きこんでいる。

 テンペストショットも輝竜装備のライフルで行っているため、デーモン達にダメージ減衰を受ける心配はない。

 それどころか、神聖属性が弱点の敵が多いらしく、それなり以上のダメージをたたき出してもいた。


「そうだよな。敵がデーモンってのはわかってたんだから、神聖属性が付く輝竜装備がよかったんだろうな」

「俺達魔術士系はどの装備を持ってても変わらないだろ。まさか接近戦をする訳にもいかないし」

「アーチャーとしては輝竜装備を用意しておけばよかったと思うところね。DPSがかなり違うみたい」

「今から交換に行くのも問題だしなぁ……。明日に備えてこの戦闘が終わったらレンタルしてこよう」

「だが、神聖属性ばかりが弱点でもないみたいだぞ。剣持ちには神聖属性が効いてるが、斧持ちには氷が有効みたいだ」

「あー、なんかあの斧持ちデーモン、燃えてるからな。見たまんまの弱点ってことか」

「そうなると槍持ちは弱点なんだ? 情報だと雷属性攻撃みたいらしいが」

「とりあえず雷属性以外で攻撃してみるしかないだろうよ」

「あ、今連絡が回ってきたわ。槍持ちの弱点は樹属性ですって」

「樹属性かよ。流石に覚えてねーよ」

「あの属性は攻撃魔法少ないからな。覚えてる人間は少ないだろ」

「そんなあなたに樹竜装備! という訳で、樹竜弓で槍持ち狙撃するわ!」

「樹竜装備とかレアなもん持ってるな」

「弓に猛毒がついてくるのはとてもお得です! と言う訳で、スプレッドアロー!」

「ともかく、話は終わった後だ。攻撃、攻撃!」

「おう!!」


 櫓の上も活気づいてきた。

 有効属性が色々ある事が判明した以上、明日の戦闘に備える意味でも色々試す必要があるのだろう。

 ……俺も余ってるイベントポイントで別の竜帝装備レンタルしてきた方がいいだろうか?


 膠着状態に入ってから15分ほど経過、その間に攻撃用櫓が1カ所壊されてしまった。

 他の戦場でも同様に攻撃を受けているらしく、回復要員が行き渡らなかったためだ。

 もっとも、破壊された櫓は一番激しい攻撃に晒されていたため、早い段階で放棄することが決められていたのだが。


「トワ、MPの方は大丈夫ー?」

「うん? ああ、まだ何とかいけるかな。ただ、あと30分維持するのは厳しいな」

「だよねー。あと20分くらいで倒してしまいたいよねー」


 配給されたポーション以外に、個人で持ち込んだポーションが多い俺達でも補給が厳しくなってきた。

 俺達以外のプレイヤーは、後方支援部隊からポーションの補給を何度か受けているものが多い。

 後衛アタッカー陣はSTやMPの消費が激しく、その辺りのポーションがどんどん消費されていっている。

 今のところ補給ができているが、明日も戦闘が続く以上はポーションの配分を考えないといけないだろう。

 その辺の話は情報系クランと各門の指揮官が連絡を取り合っているはずだが……ポーションを作ってきた側としては心配になってくるところだ。


「……さて、敵の数も大分減ってきたな」

「そうだねー。そろそろ広範囲攻撃よりも単体攻撃の方が効率よくなってくる頃かなー」

「まあ、俺達はテンペストアローとテンペストショットの方が効率いい訳だが」

「このスキルは別格だからねー」


 5分ほど前に属性付与アイテムを取りに戻っていたプレイヤー達が戦線復帰してからは、押されていた前線を押し上げ直すことができていた。

 属性攻撃が出来るようになった前衛プレイヤー達は、まさに水を得た魚のようにいきいきと敵陣に斬り込んでいった。

 その結果として、デーモン達を大量に倒す事に成功して、デーモンの配置もまばらになってきた。

 範囲攻撃をする側としてはまとまってくれた方がやりやすいが、近接戦闘をする側としては、まとまりすぎているとやりづらいのかもしれないな。


 俺達、櫓の上からの攻撃班も単体攻撃が届く距離にいるデーモンを攻撃して行っているが、そろそろ攻撃範囲に敵がいなくなってきたところだ。

 今のところはちらほらと残っているデーモンに対して、単体攻撃をしているがそろそろ櫓から打って出るタイミングかもしれないな。

 外壁から発射される魔導バリスタの攻撃も攻撃する相手が減ってきたことから一時停止している。


「伝令! 櫓上の攻撃班は櫓から出て敵の掃討戦を展開してください!」

「おっしゃっ! 待ってました!」

「よし、行くぞ!」

「さあ、最後の詰めの時間よ!」


 櫓上にいたプレイヤー達は伝令が来ると同時に櫓から飛び出して前線へと向かう。

 俺も近場に残っていた死にかけのデーモンに1発当ててから、櫓を飛び出して前線方面へとかけだした。

 そんな時、レイドチャットから白狼さんの報告が飛んできた。


『レイドチームに通達。ユキさんの残りポーション数が少ない。グレーターデーモンという大ボスが残っている以上、そこにバフは残しておきたい。すまないけど神楽舞によるバフは一度打ち止めだ』

『了解、お疲れさん。それじゃ、大ボスの時はまたよろしく頼むよ!』

『はい、すみませんが少し休ませてもらいます。グレーターデーモン戦ではまたバフを展開しますのでよろしくお願いします」

『ユキ、お疲れさん。ゆっくり休んでくれ』


 どうやらユキに渡していたポーションの在庫がなくなりそうらしい。

 明日の分も考えて、作ったポーションの一部を在庫として残していたけどそれが裏目に出たかな?


 連絡から数秒後、かかっていた神楽舞のバフ効果が消滅した。

 バフ効果が消滅したとは言え、やることは基本的に変わらない。

 俺とイリスは、前衛が開けた穴から敵を狙撃したり、確認出来る範囲で固まっている敵がいたらテンペストショットやテンペストアローを撃ちこんでいく。


 櫓を飛び出して残った敵を倒しながら進む事、10分ほど。

 遂に敵の総大将が動き始めたようだ。


「人間達にしてはなかなかやるようだ。我が直々に相手をしてくれようぞ!」


 デーモンの群れが倒されてもその場を動かずにいたグレーターデーモンが遂に前線に向けて動き出した。

 さあ、ここからが決戦開始のようだな!

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