246.【防衛戦1日目】初日・開戦

 俺達が南門の外に出たときには既に数多くのプレイヤーが集まっていた。

 作戦概要としては、それぞれの門に150名近くのプレイヤーを配置することになっているのだから当たり前ではあるが、これだけの人数がこの狭い範囲に集まっているとそれだけでも威圧感がある。

 集まっているプレイヤーの多くは似たような装備を身につけている。

 ドワンや柚月が作っていた装備もあるし、おそらくは竜帝装備シリーズなんだろう。

 高品質装備の配備が間に合わなかったプレイヤーは竜帝装備を選んだと聞いているし、それがこの状況につながっているのだろう。


「それでは集まってくれた皆、少し聞いてほしい」


 俺が周りの様子を窺っている間に、白狼さんは櫓のような建物の上に登って声をかけていた。


「もうすぐ防衛戦イベント本番が開始される。僕達が戦うことになるであろう相手はデーモン、つまりは悪魔系モンスターであると思われる。情報系クランが調べてくれたことだけど、他のサーバーでは悪魔系モンスターは確認されていないらしい。おそらくは、この都市ゼロのみが戦う相手だろう。どんな特性を持っているかもわからない。それでも僕達はこの10日間しっかりと準備をしてきた。今日と明日、この2日間はその総仕上げだ。皆、準備はいいな?」


 白狼さんの言葉に対して返される叫び声。

 戦う相手の情報はほとんど存在していないが、士気は非常に高いようだ。


「すごい雰囲気だね、トワくん」

「うん、まあ、そうだな」

「でも、β最後のイベントの時もこんなノリだったよねー。懐かしいな」


 こう言ったイベントが初めてのユキには耐性がないだろうが、俺とイリスはβの時も似たような経験があるため、懐かしいとは思うが気後れすることはない。

 あの時は今よりももっと勢いがあったからな。

 あの経験があればこの程度は何とかなるだろう。


「それでは皆、配置についてほしい。配置については事前に連絡したとおり、まず最前列にタンクが並ぶ形に。その後ろに近接アタッカー。さらに後ろに遠距離アタッカーと回復職がついてくれ。回復職は最前列のタンクから離れすぎないように注意するように」


 白狼さんの指示に従い、参加者達が続々と隊列を組んでいく。

 敵の布陣がわからない以上、どういった形で攻めてくるのかわからない。

 プレイヤー側の選択した布陣は、鏃のように中央部が突出した形の布陣だった。


 整然と隊列を組んでいくプレイヤー達。

 さすがはこのサーバー都市ゼロの参加者だけあって、反発も少なくスムーズに陣形を形成していく。


「それじゃ、あたしも行かせてもらうよ。お互い頑張ろうじゃないか」

「ああ、霧椿も気をつけてな」

「あたしを倒せるぐらいのモンスターとやり合いたいところなんだけどねぇ……」


 なかなか物騒なことを言いながら、プレイヤーの輪に加わる霧椿。

 アイツを倒せるくらいのモンスターなんて出てきたら、プレイヤーは総崩れになるんじゃないかな?


「トワくん。私は後方支援部隊のところだからそろそろ行くね」

「ああ、わかった。そっちまで攻撃が行く心配はないと思うけど注意はしていてくれよ」

「うん、ありがとう。じゃあ、戦闘が終わったらね」


 手を振りながらユキは後方支援部隊の方に下がっていく。

 ユキの神楽舞はレイドチームに加わっている限り距離無視なので、最後尾の後方支援部隊のところからバフをかけ続ける予定だ。

 あそこなら攻撃が届くことはまずないだろうし、念のため『白夜』から2人ほど護衛を出してくれている。

 ユキの心配は今のところ必要ないだろう。


「さて、イリス。俺達もそろそろ移動するか」

「そうだねー。そろそろ移動しよう」


 最前列の方はもう陣形を組み終わったようで、今は近接アタッカー達が陣形を整えている最中だ。

 俺とイリスはそんなプレイヤー達を横目に、およそ3メートルくらいの高さがある櫓の上に登る。

 ここは、長距離攻撃ができるプレイヤー用に作られた場所で、俺達の他にもライフルを持ったプレイヤーや魔術士系のプレイヤーが陣取っている。

 それなりの人数が同時に攻撃できるようにかなり広めに作られているので人数がいても狭さは感じないかな。


「おお、この櫓は【魔銃鬼】に【サイレントシューター】も配備か。どうやらアタリのようだな」

「むしろ外れじゃない? この2人がいるって事は私達の出番が減りそうなんだから」

「それを言いだしたらどの櫓でも一緒だろ? ともかく今日は同じ目的で戦う仲間なんだし仲良くやろうぜ」

「そうだな。よろしく頼むよ」

「よろしくねー」

「ああ、よろしく頼む」


 同じ櫓にいたプレイヤー達と挨拶を交わした後、俺とイリスは戦場となる平原の様子を確認する。


 平原には黒い炎で引かれたような線が張り巡らされている。

 正確には、南門から等間隔で南側に向けて線が2本張られているのだ。

 運営からの発表によれば、この2本の線の内側がバトルフィールドになるらしい。

 フィールドの幅は……大体、20メートルから30メートルってところか?

 奥行きは数百メートルはあるみたいだけど。

 戦闘開始5分前になるとこの線の内側以外のフィールドは進入禁止となり、その時に進入禁止の範囲にいたプレイヤーは都市内部まで強制転移させられるとか。

 戦闘開始まではあと8分程度なのでまだ隔離は実行されていないが、ここから見渡す範囲では隔離されるフィールドに出ているプレイヤーはいないみたいだ。

 俺達がいる櫓の他にも3カ所ほど遠距離攻撃用の櫓は存在してそちらにもプレイヤーが配備されている。

 櫓自体は移動できないため、もし前線が押し上げられる形になったら櫓から降りて先に進まなければならない。

 逆に前線が押し戻される事態になった場合は、櫓が破壊される可能性が高いためこの場を放棄する必要がある。

 この辺の判断は各プレイヤーに任されているが、判断ミスで攻撃の機会を逃さないように気をつけないとな。


 準備をしていると開戦まで残り5分となり、フィールドの隔離が行われる。

 黒い炎で描かれていた線が燃え上がり、闇色の炎となってフィールドに壁を作る。

 炎の壁の高さは10メートル以上はありそうで、他の門の様子をうかがい知る事はできない。

 まったく、面倒な事をしてくれる。


 戦闘フィールドが隔離された後も着々と準備は進んでいき、やがて全てのプレイヤーが配置についた。

 戦闘開始までは残り1分30秒ほど。

 ギリギリ間に合ったと思うべきか、よく規律が守られているなと感心するべきか。

 悩ましいところではあるが、上から整列したプレイヤー達の様子を窺うと各自やる気がみなぎっている様子だった。


 プレイヤー側の戦闘準備が整い、やがて戦闘開始の時間になる。

 すると、正面に戦闘フィールドの横幅一杯まである巨大な門が出現して大きな音を立てて地面に降り立つ。

 扉にはグロテスクな装飾が施されており、まさに悪魔の門と言ったイメージだ。

 門の様子を静観しているとゆっくりと門が開き始め、中から悪魔の軍勢が姿を現し始めた。

 先頭は身長1メートル程度の小型の悪魔達がわんさか、その後ろにそれよりも大きくがっしりした体型の悪魔達が続いている。

 悪魔達はそれぞれ色々な武器で武装しており、中には魔術士系と思しき悪魔も存在していた。

 看破でステータスを見破ろうとしても抵抗されてしまうため、詳細はわからないが油断はしない方がいいだろう。

 なにせこちらも密集態勢をとっているため、広範囲魔法を撃ちこまれたら被害が大きくなることは確定なんだからな。


 やがて、悪魔の軍勢が門から出揃うと、悪魔が出てきた門が消え去っていった。

 門が消え去った場所には、一際大きな体格の悪魔が陣取っていた。


「愚かな人間達よ。我々の邪魔立てをするならば容赦はしない。潔く塵へと返るがいい!」


《防衛戦イベント1日目が開始されます。防衛目的はクエスト通知を確認ください》


 ―――――――――――――――――――――――


『都市ゼロを悪魔の軍勢から防衛せよ』


 クエスト目標:

  都市ゼロに攻め込んでくる悪魔の軍勢を撃退する

 勝利条件:

  グレーターデーモンの撃破 0/4

 敗北条件:

  街門の破壊 0/4

 クエスト報酬:

  イベントポイント(報酬ポイントは戦闘内容によって変化)


 ―――――――――――――――――――――――


 クエスト通知が送られてくるとともに悪魔の軍勢が進軍を開始する。

 衝突まではまだ少し余裕があるので、先頭にいるデーモンだけでも看破を仕掛けて見る。

 するとモンスター名とレベルだけは看破することができた。


「先頭のモンスター名はレッサーデーモン、レベルは60だ!」

「げぇ、一番弱そうなヤツでもレベル60かよ。想像はしてたけど」

「本当に手をぬいてくれない難易度ね!」

「そろそろタンク達とデーモンが接敵する。俺達も攻撃準備に移るぞ!」

「りょうかーい。……戦闘開始を確認、それじゃあいくよー」


 俺達の櫓で初手はイリスが攻撃することになった。

 イリスが放った矢が上空に放たれてデーモンの前衛達の中に突き刺さる。

 すると、その周囲のデーモン達を巻き込みながら不可視の嵐がダメージを与えていく。

 イリスが初手に選択したスキルはやはりと言うべきかテンペストアローだった。


 他の櫓からも様々な攻撃が浴びせかけられていく。

 このゲームはFFフレンドリーファイアでダメージを受けないため、前衛プレイヤーを巻き込むことを気にせずに攻撃できる。

 そのため、どの櫓からもお構いなしの攻撃が浴びせかけられている。

 俺の櫓からも様々な攻撃が放たれている中、俺自身はまだ攻撃に移っていない。

 というよりも、まだスキルが発動していないのだ。


 俺が初手に選んだスキルはもちろん十二天将である。

 だが、このスキル、詠唱時間が非常に長かった。

 使用するスキルによって詠唱時間は異なるのだが、俺が使おうとしているスキルの詠唱時間は20秒。

 普段の戦闘ではおいそれとは使えない詠唱時間だ。

 詠唱時間が長いとはいえ、今のところこの櫓の上は安全地帯なので詠唱妨害される恐れはない。

 そして長い20秒の詠唱が完了すると同時に、俺はスキルの効果範囲を設定、スキルを発動させる。


「式神招来・十二天将、出でよ騰蛇!」


 スキルの使用と同時に効果範囲に指定した場所の地面に罅が入る。

 そこから吹き出すのは白色の炎。

 不浄なるものを焼き尽くす浄化の炎だ。

 騰蛇の効果は『30×30メートルの範囲に対する範囲攻撃。神聖・火属性によるダメージを与える』である。

 効果範囲が非常に広い分、敵一体ずつへのダメージは大したことがないようだが、全体としてはそれなりに削れただろう。

 実際、この攻撃でひるんだ隙を突いて前衛攻撃部隊が一気に斬り込みをかけ始めた。


「うん、つかみとしてはまずまずだな」

「……どこがまずまずだよ」

「やっぱこえーわ。【魔銃鬼】って」


 同じ櫓のプレイヤーからは呆れられているようだが、とにかくダメージは稼げたのでよしとする。

 十二天将は300秒のリキャストタイムに入ったので、俺もライフルを取り出して追い打ちをかけよう。

 戦闘はまだ始まったばかり、開幕はこちらが優勢だけどこの先どう転ぶかは予想できないし注意して攻撃をかけるとしよう。

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