248.【防衛戦1日目】初日・グレーターデーモン戦

「さあ、ボスが動き出した! あと一息だ! 頑張ろう!」


 白狼さんの激励の声が聞こえてきた。

 敵の最奥にいたグレーターデーモンが遂に動き始めたのだ。


 グレーターデーモン自身は3メートルほどの体躯を持った悪魔。

 その両脇にはグレーターデーモンよりも小さいとは言え2メートル以上の悪魔が2体ともに行動を始めている。

 看破を使用してみると、グレーターデーモンのレベルは70、グレーターデーモンの両脇にいる悪魔、デーモンジェネラルはレベル68だった。


「伝令! これよりタンク部隊は3班に分かれてグレーターデーモン達を引きつけてください! アタッカー陣は、まず残ったデーモンを掃討してからボスに挑んでください!」


 伝令がきてタンク部隊が3班に班分けされて行く。

 そして、タンク達はグレーターデーモンとデーモンジェネラルの動きを封じるために行動を開始した。


 俺達アタッカー陣はまばらに残っていた残りのデーモンを片付ける事に。

 タンクも1匹に対して1人は残るようにしているようだが、先程までのような密集陣形ではないので反撃には十分に注意しなければならない。

 ……とはいえ生き残っているデーモン達はほとんど瀕死状態だ。

 それほど時間をかけずに1体ずつ各個撃破されていく。

 ザコデーモン自体はそれほどHPが高い訳でもなかったしな。


 5分ほどで残っていたデーモン達の掃討が終わり、ターゲットはグレーターデーモンと2体のデーモンジェネラルへと向けられる。

 タンク達の布陣はグレーターデーモンを手厚く足止めし、デーモンジェネラルについてはグレーターデーモンよりも街側に引き寄せて足止めしている。

 位置取り的にもそれぞれのデーモン達の攻撃が重ならないように上手いこと離れている。


「掃討戦が終了したらアタッカー陣はデーモンジェネラルから討伐に向かってください! まずは右手側のデーモンジェネラルを先に倒せるようにお願いします!」


 伝令から新しい指令が届く。

 デーモンジェネラルの討伐は右手側にいる方を優先か。

 アタッカー陣もその指示にしたがって攻撃を開始する。

 近接アタッカー陣は7割ほどが右手側のデーモンジェネラル、残りが左手側のデーモンジェネラルへと向かっていく。

 3割ほどが左手側に向かうのは指示を聞いていない訳ではなく、近接アタッカーの人数が多すぎて邪魔にならないようにするためだろう。

 遠距離アタッカー陣は右手側のデーモンジェネラルに対して集中攻撃を行う。

 俺とイリスもそちら側に加わることにする。


 後方からは魔導バリスタによる援護射撃がデーモンジェネラルを攻撃する中、デーモンジェネラルとの攻防は終始プレイヤー側の優勢で進んでいた。

 デーモンジェネラルはレベルに見合った攻撃力や防御力、それにボスクラスのHPを持ってはいたがそれだけらしい。

 実際、攻撃を受けるタンク達は割と余裕があるし、時々状態異常にかかっているようだが即座にヒーラーによって回復されている。

 いくらレベルが高くHPも高いとは言え、攻撃に参加しているプレイヤーの人数も半端ではない。

 後衛から見ていると面白いようにHPバーが減っていき、10分程度で1匹目のデーモンジェネラルが倒れることとなった。


「よし、アタッカーはこのままもう1体のデーモンジェネラルに向かうぞ! タンクやヒーラーはグレーターデーモンを相手にしている連中の援護に向かってくれ!」

「了解! しくるんじゃねーぞ!」

「そっちこそ!」


 1体目のデーモンジェネラルを倒せた俺達は、そのまま2体目のデーモンジェネラルへ向けて攻撃を開始する。

 2体目のデーモンジェネラルの方も既にある程度はダメージが通っている状態だ。

 1体目のデーモンジェネラルに攻撃していたアタッカー陣のほとんどが2体目へと移ったことで、DPSが一気に上昇してHPバーを削る速度が加速する。

 結局、2匹目のデーモンジェネラルも1匹目を倒されてから10分弱で倒されることとなった。


 これで、残すはグレーターデーモンだけになった。

 だが、問題はここで起こることとなった。


「我が副官まで倒すとは。どうやら少々侮りすぎていたようだ。ここからは全力で行かせてもらおう!」


 グレーターデーモンのセリフとともにグレーターデーモンの周囲に黒いオーラのようなものが巻き起こる。

 それと同時にグレーターデーモン自身の様子も変化していた。

 今までは普通の人と同じように腕は2本1対しかなかったが、2本の腕が生えてきて4本2対になったのだ。


「なんだ、何が起きた!?」

「知るか! それより最終決戦モードのようだぜ! これでトドメにいけるぜ!」

「おい、迂闊に手を出すな! 何が起こるかわからんぞ!」

「ここで手をぬく必要はないだろ! さあ、全力で行くぞ!」

「くっ……タンク陣、気合いを入れろよ! 何が起こるかわからん!」

「おう! さあ、かかって……」


 タンク陣が気合いを入れ直していたようだが、その声は途中で途切れることとなった。

 グレーターデーモンの巨腕から繰り出された一撃でタンク陣の一角がまとめて吹き飛ばされたためである。


「おい、大丈夫か!?」

「ああ、ダメージ的には問題ない! だが、ノックバック効果が強すぎる!」

「クソ……ノックバック耐性が上がるスキルを持っているタンク陣はそれを使え! 前衛アタッカーは前面から攻撃しようとするな! 側面か背後に回り込め!」


 グレーターデーモンの常軌を逸したノックバック攻撃を見たタンク陣は、ノックバック耐性上昇系のスキルを使い出す。

 アタッカー陣もタンクが吹き飛ばされるのに巻き込まれるのを避けるため、側面や背後に回っての攻撃に移行した。


 だが、グレーターデーモン自身の行動パターンも変化していた。

 街門がある方向にいるタンク達だけを吹き飛ばしつつ、ゆっくりと街門に向けて歩き始めたのだ。


「くそったれ! グレーターデーモンの進行が止まりやしねぇ!」

「タンクは前面に回り込んで少しでも足止めだ! アタッカーは限界までDPS上げろ! このままじゃ街門に貼り付かれるぞ!」

「わかってるよ! ここが踏ん張りどころだ、気合い入れていくぞ!」


 タンク陣は何度も吹き飛ばされながらも、グレーターデーモンの足止めを行う。

 アタッカー陣もそれぞれができる最大火力を繰り出し続けることとなった。

 外壁上の魔導バリスタも全力で攻撃をしている様子だ。

 ユキによる神楽舞のバフ効果も復活している。


 俺の方でもポーションの節約のために使用を控えていた十二天将の使用を解禁して少しでもダメージを与えることにする。


「行くぞ、式神招来・十二天将、朱雀!」


 十二天将のうち、純粋な魔法系ステータスを参照する攻撃で単体攻撃力が最も高い朱雀を呼び出して攻撃を行う。

 騰蛇がもっとも広範囲にダメージを与えられる魔法系攻撃なら、朱雀はもっとも単体攻撃力が高いスキルだ。

 その攻撃力はレイドボスにもしっかりとダメージを与え、HPを削っている。

 どうやら火傷かそれに類する継続ダメージ効果もあるらしい朱雀の攻撃は、じわじわとであるが確実にダメージを与えていっているようだ。


「ボクも負けていられないねー。テンペストアロー!」

「【魔銃鬼】にばかり美味しいところを持っていかせるな! DPSもっと上げろ!」

「これが精一杯だっつーの! 何で生産系プレイヤーの【魔銃鬼】があんな高火力スキル持ってるんだよ!」

「知るか! とにかく攻撃だ!」


 その後も何度もタンクが吹き飛ばされながらも進行を最小限に押さえつつ、アタッカー陣がHPを削っていく。

 そしてHPバーの1本を破壊したとき、グレーターデーモンが膝をついて動きを止めた。


「なんだ!? 特殊ダウンか!?」

「なんだっていい! この機会に全力攻撃だ!」


 動きを止めたことで攻撃しやすくなったアタッカー陣がさらに攻撃密度を増していく。

 そんな中、一人のプレイヤーが一気に距離を詰め、グレーターデーモンすら足場にし高く舞い上がっていた。

【剣豪】霧椿だ。


「チャンスをありがとうよ、デカブツ。オウカ流刀術、塵桜!」


 グレーターデーモンの頭上まで飛び上がった霧椿は、そこから自分の眼下にあるグレーターデーモンの頭部や首筋に向けて斬撃の雨を叩きこんだ。

 その一撃だけでもHPバーの1割ほどが削れることになる。

 ……やっぱり、霧椿も特殊刀術を学んでいたか。


 30秒ほどでグレーターデーモンは立ち上がり、再度歩き始めたが、足止めしている間にHPバー1本のうち2割ほどのダメージは稼げた。

 後はこの調子で削っていくだけだが、グレーターデーモンの足はなかなか止まらない。


 時折、特殊ダウンによって足止めすることはできたが、それ以外ではほとんど足を止めることなくプレイヤー側の防衛陣地まで到達されてしまった。


「フン!!」


 防衛陣地には新たにバリケードが増設されていたが、グレーターデーモンの攻撃力の前では2~3回の攻撃で破壊されてしまう。

 支援部隊のメンバーが残っていたバリケードを随時追加していくが、焼け石に水と言ったところである。

 進路上にあった櫓なども破壊され、遂に外壁および街門前までたどり着かれてしまった。


「ガァッ!!」


 グレーターデーモンは街門に攻撃を始めて、その攻撃は1発で門の耐久力を2%ちょっと削り取っていた。


「まずいぞ、遂に門に攻撃を始めやがった!」

「残りHPはあとわずかなんだ! とにかく削れ削れ!!」


 事実、グレーターデーモンのHPは残りHPバー1本の30%程しかない。

 ここまで来ると残りはとにかく攻撃を続けて早めに倒しきることだけだ。

 ノックバック攻撃やスタン攻撃が通用しないのはここまでの間に散々試しているが、それでも何人かのプレイヤーは一縷の望みをかけてそういった攻撃を繰り出している。

 そんな中、一人のプレイヤーがグレーターデーモンの正面に回り込んでノックバック攻撃を行う。

 すると、わずかではあるがグレーターデーモンを門から引き離すことに成功した。


「正面からならノックバック攻撃が効くようになってるぞ! ノックバックできる連中は手を貸してくれ!」

「了解した! いくぞ!」


 プレイヤー達のノックバック攻撃によってジリジリと門から引き離されるグレーターデーモン。

 その間もプレイヤーによる全力攻撃は続けられ、やがてHPが0となりグレーターデーモンは光の粒子となって消えていった。


《南門の防衛に成功しました。門の損傷率は16%です》

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