240.【6日目】始業式

「ふわぁぁぁぁ、なんだかまだ眠い気がするな」


 レイドクエストを終えて一夜明け、月曜日。

 今日から俺達の住んでいる地域では学校が始まる。

 要するに始業式な訳だけども、今まで夏休みだった分、起き抜けが辛い気がしないでもない。


「……さて、いつまでも呆けてないで着替えて学校に行く準備をするか」


 学校は今日から始まりではあるが、始業式とホームルームが終わった後は普通に授業である。

 昔は始業式の日は授業がなかったと聞くけど……うん、そんな事をうらやんでいてもしょうがないか。


 携帯端末のメッセージ履歴を見ると、雪音からのメッセージが届いていた。

 俺と遥華の分のお弁当も作って持ってきてくれるそうだ。

 今は料理中だろうが、返信をきちんとしておいて、顔を洗いに部屋を出る。

 弁当を作らなくてよくなった分、時間に余裕ができてしまったが早めに準備を終える分には問題ないだろう。


 顔を洗ったりして身だしなみを整え、制服に袖を通してからリビングに向かう。

 それから、カバンをリビングに置いて、キッチンに向かい朝食の準備だ。

 今日は簡単にトーストとスクランブルエッグくらいでいいか。

 完全に手抜きメニューだけど、弁当を作らなくていいと考えたら手の凝った料理を作るのが手間になってしまった。


「お兄ちゃんおはよー。今日はトーストとスクランブルエッグだけ?」

「おはよう。そのつもりだが、他に何かほしいか?」

「んー、そう言われるといらないかな。お弁当は雪姉が作ってくれるんだよね。メッセージ確認したよ」

「どうもそう言うことらしいからな。悪いけど手を抜かせてもらったぞ」

「別に構わないよ。わたしも今日は少しのんびりしたい気分だし」

「……やっぱり長期休み明けって言うのは、憂鬱な気分になるよなぁ」

「……だよねぇ。わたし達は休み中も生活リズム崩さないように気をつけてたけど、陸斗さんとか大変そう」

「……陸斗が起きないと雪音も大変だろうがな。まあ、自力では無理でもきちんと起きてくるだろ、多分」

「だといいけどね。……トースト焼き上がったみたいだね。朝ご飯にしよう」


 こんがり焼き上がったトーストにマーガリンとジャムを塗って口に運ぶ。

 休み期間中は朝起きる時間は決まっていても朝食の時間はまちまちだった。

 これからはそう言う訳にもいかないから気をつけないとな。


 朝食を食べ終わって後片付けを済ませた後、学校に行くにはもう少し早いという事でリビングでゆっくり過ごす。


「ねえ、お兄ちゃんの方ではイベントの進捗具合はどうなの?」


 イベントの具合か……そうだなぁ。


「可もなく不可もなくと言ったところか。ここ数日はイベントサーバーにいられる時間をフルに使って、ひたすらポーション作成に明け暮れてたな」

「うーん、お兄ちゃんだとやっぱりそうなっちゃうか」

「そうだな。ポーション作りがなくても、今度は銃を作らなきゃいけないだろうし。結局、生産にしか時間を取れない状況は続くだろうな」

「だよねぇ。わたし達も戦闘ばっかりで決して楽じゃないし」

「戦闘か。そう言えばモンスターの様子はどうなんだ?」

「うーん、また一段階強さが増した、と言うか、凶暴さが増したかな? 少し前までならノンアクティブとアクティブが混ざってたような場所でも、全部のモンスターがアクティブになってきてるよ。おかげで素材の回収も大変になってきてるみたいだね」

「そうか。その割には市場に流れてくる素材の量が減っていない気がするが」

「モンスターが増えた分、モンスタードロップの中に素材アイテムが含まれるようになってきたんだよねー。森の中にもプラント系の魔物が出没するようになって、それを倒すと木材や薬草を落とすからね」

「……つまり、戦闘が激しくなったけど、採取で減った分はモンスターからドロップするようになった訳か」

「そうだね。後は……そうだね、レンタルタイプのイベント装備を使う人がかなり増えてきてるかな」

「そうなのか?」

「うん、そう。モンスターの討伐数が増えてポイントが余りだしたんだけど、その余った分のポイントで竜帝装備をレンタルする人が増えてるんだよね。本命をどれにするか決めかねている人や高ランク装備を持っていない人がレンタル装備を使って具合を確かめている感じかな」

「そうか。都市ゼロにいるんだから、ある程度は高品質装備を持ってると思ったけどそうでもないのか」

「それはそうだよ。都市ゼロにいる戦闘職なんて600人以上いるはずなんだから。本当のトップ層は生産トップとも繋がりがあったりするけど、そうでもない人にとっては都市ゼロにきてる人であっても★8装備が最高って人もいるんだから」

「……そんなものか。それならもっと装備の生産量を増やした方がいいのかな?」

「うーん、どうなんだろうね。情報系クランからの情報として、既に高ランク生産者には限界ギリギリまで生産力を上げてもらってるって言うのは流れてるし。そう言うのもあって、イベント装備をレンタルしてでも装備を調える人が増えてきてるんだよねぇ。防衛戦本番まで待っても自分達の装備ができるかわからないからって」

「まあ、そうだろうな。……さて、そろそろ時間だな。学校に向かうとするか」

「はーい。……ああ、始業式がもう1週間遅ければなぁ」

「そんな事、文句を言ったところで始まらないだろう。ほら、さっさと行くぞ」

「はーい。それじゃあ、今日も一日頑張りますか」


 気合いを入れ直した遥華とともに家を出て学校に向かう。

 行く途中で雪音と陸斗に合流したが……やっぱり陸斗はかなり眠たそうだった。

 雪音曰く「最終的にはたたき起こした」らしい。

 ……やっぱり、こいつは昨日も夜更かししたんだな。


 眠たそうな陸斗を教室まで送り届け、俺達も自分のクラスへと向かう。

 およそ1ヶ月ぶりの学校ではあるが、あまり様子は変わらないのかな。

 ……まあ、俺がクラスの様子に興味がないというのもあるだろうが。

 雪音も自分の席について大人しくしているし、俺ものんびりさせてもらいますか。


 教室に着いた後、しばらく待っていると担任が教室に来て、始業式、ホームルームと続き、3コマ目からは普通の授業が始まった。

 まずは夏休みの課題についての話のようだが、提出率はそこそこらしい。

 ……うん、全員じゃなくて『そこそこ』なんだそうな。

 未提出の人間には後ほど個別で呼び出しがかかるとか。


 俺はきちんと提出済みだから問題ない。

 雪音は当然提出済みだろうし、陸斗も終わらせてある以上は提出してあるだろう。

 宿題を提出していない人達は頑張ってくれ。


 夏休み明け初日の授業を受け、お昼休みになったので雪音と一緒に昼食を取る事に。

 そこに2人ばかり合流してきたメンバーがいる。

 片桐と鈴原の2人である。

 ……そう言えば、夏休み前に封印鬼で会った後はゲームでも一切会わなかったよな。


「2人とも久しぶり。活躍は聞いてるわよ」

「お久しぶりです。そっちは結構大変らしいですね」

「ああ、久しぶり。こっちの様子を聞いてるのか?」

「少しだけだけどね。私らのクランのトップメンバーが都市ゼロそっちに行ってるのは知ってるし、そこでの様子も伝え聞いてるわよ」

「何でも最初から生産設備がなかったり大変だったって聞いてます。実際のところはどうだったんですか?」

「あー、大体その通りだな。生産設備は自力で開放しないと使えないし、素材は妙に高ランクな物ばかりが集まるから扱える人数が制限されるし。それにイベントポイントは大量に手に入るけど、それを使う先が最初はなかったわけだからな」

「そこまでだったんだ……。私らは普通のイベントサーバーだけど、そんな事はなかったからね」

「そうですね。都市ゼロ以外はそこまで厳しくないと言うのが共通認識ですね。もっとも、最終日に戦うモンスターがサーバーによって違うような話なんですが」

「……そうなのか? 他のサーバーの情報なんて一切聞かないから、どうなってるのか全然知らないんだよな」

「聞いた話だと、ゴブリン、オーク、オーガ、ジャイアントと言った種族のモンスターの中から一種類が襲ってくるらしいですね」

「もっとも、どのサーバーでどの種族が襲ってくるのかまでは調べないとわからないけどね」

「……話を聞くだけだと、襲撃相手によって有効な手段が変わってきそうだな」

「そうなのよね。でも、私らのサーバーっていまだにまとまって行動が取れなくってねぇ……」

「本当に大変だよね……。自分達の都合ばっかり押し付ける人が多くて、生産職の人達はあまり協力的じゃないし。そのおかげでイベントサーバーだと、装備も消耗品も満足に揃わないもんね」


 どうやら他のサーバーも色々大変なようだな。

 都市ゼロは色々大変だったけど、全体として団結してるからまだ楽な方、なのか?


「それで、そっちのサーバーの様子はどうなのよ? そっちはランキング対象外らしいし情報をくれても問題ないでしょ?」

「そうは言われてもな。基本的に俺達のサーバーはまとまった行動が取れてるな。戦闘系も生産系も大手クランのリーダークラスが集っているわけだし、それ以外のプレイヤーだって基本的にトップ層が集まっているらしいからな。会議で行動方針を決めたら、それに逆らって行動する人間はほとんどいないみたいだぞ」

「何それ羨ましい」

「逆を言えば、団結していないと色々と手が回らないという事でもあるけどな。俺も雪音も基本的に生産だけでイベントサーバーの滞在時間を使い潰してる訳だし」

「……ずっと生産作業ばかりやってて辛くないの?」

「いえ、特にそんな事はないですよ?」

「俺も辛くはないな。生産以外の事は通常サーバーでやってるし」

「……それくらいはできないと生産系のトップにはなれないって事かしらね」

「うん、私達と同じゲームをしてるとは思えないよね」


 ……なかなか言ってくれるな。

 だが、実際問題、生産活動ばかりで8時間も使い潰しているんだから、同じゲームじゃないというのも一理あるか。


 俺達4人は適当に情報交換をしつつ昼食を食べ終えた。

 その後は午後の授業を受け、放課後となり雪音や陸斗と一緒に帰宅する。


 さて、夕食の材料は揃ってるし下準備を済ませたらゲームにログインするか。

 クエストの完了報告も必要だし、銃の製造数についてもまとまってると思う。

 夏休みが終わってもやることは沢山残ってるな。

 ……夏休みが終わったからこそ、やることがあふれてるんだろうか?

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