234.【2日目】イベントサーバーの異変

「柚月、きたぞ……って、なんだこのメンツは」


 柚月の呼び出しに応じて、『ライブラリ』のクランホームへとやってきた俺とユキ。

 そこで待ち構えていたのは、『クラフター連合』『ノワール商会』『オリハルコンハンマー』『鮮烈庵』と言った生産系クランの代表者達であった。


「来てくれたか。とりあえず話を聞いてくれないか?」

「それは構わないけど……一体何があってこのメンバーが『ライブラリ』に集まってるんだ?」

「とりあえずそこを説明しねーとな。実は都市ゼロ、つまりイベントサーバーの方なんだが、素材の供給過多になっているらしいんだわ」

「……昨日の今日で供給過多? 何でそんな事に?」

「どうやらモンスター討伐だけでなく、採取や採掘でもかなり大量のイベントポイントが手に入るようなのです。それを知ったプレイヤー達が大勢で素材集めに走ったらしく……」

「結果として、大量の高ランク素材が出回る結果となったんだよな。……イベントポイントの使用が出来ない状態なのにな」

「……それって問題じゃないか?」

「ああ、問題だ。他のプレイヤーによってイベントサーバー上でマーケットボードが使えるようになったようなんだが、そっちも素材であふれかえってるんだよ」

「極めつけはイベントサーバーでイベントサーバーの素材を使ってアイテムを作成すると、それだけでもイベントポイントが手に入るって事かな。おかげで、一般プレイヤーでも取り扱えるレベルの素材については、活発に取引が成立している」

「それはいいことなんじゃないか?」

「ここからが問題だ。中級クラスの素材は活発にやりとりされて、市場にも加工済みアイテムが流れるようになった。だが、上級アイテムについては流通が滞っていてな。素材として採取することはできても、それを加工できるプレイヤーがいないんだ」

「そう言う訳で、俺達があっち側に行ってそういった上級素材を消費しなければいけない状況に陥っててな。急ぎで集まってもらったわけだ」


 確かにそれは問題だろうな。

 中級クラスでも扱える素材は活発に取引されるが、本来はそれよりもレアリティの高い上級素材が取引されないんじゃどうにもならない。

 そこで俺達が向こうに行って、そういった上級素材を使ったアイテムを作成するってわけか。


「それで、そちらのクランはどう動く予定なんだ?」

「『オリハルコンハンマー』は既に動いている。俺だけが調整のために残っている状態だな」

「『ノワール商会』も同じだぜ。ログインしてる連中は皆向こうに行ってるぜ」

「『クラフター連合』も同様ですね。自分がこちらに来る前は準備をしていましたが、もう向こうに到着していることでしょう」

「『鮮烈庵』も同様だ。とは言っても自分達はログインしているメンバーがほとんどいなくて、あまり手が回っていないというのが現状だけどな」

「そうか、ちなみに『ライブラリ』はどんな感じなんだ?」

「ドワンとイリスにはもう向かってもらってるわ。あちらで生産作業に入っているはずよ」

「そうか。それなら俺達もすぐに向かった方がいいんじゃないか?」

「……その前に決めておきたいことがあるのよ」

「決めておきたいこと? 一体何なんだ?」

「作ったアイテムをどうするかって事だよ。俺達が作った装備や消耗品は、他の連中のに比べて一段階以上上の性能のはずだぜ。そんなアイテムが大量に出回ったら市場がさらに混乱しちまうぞ」

「……そうは言っても作ったアイテムをため込んでいても仕方が無いんじゃないか?」

「そこが難しいところなんですよ。我々としては作ったアイテムは売りに出したい。しかし、一般プレイヤーの商品を駆逐するわけにもいかない。どこで落としどころをつけるかが問題なのです」

「ちなみに、取引に使うのってイベントポイントだけか? 現金エニィで取引することは出来ないのか?」

「イベントサーバーではイベントポイントでの取引しかできないみたいなんですよ。だからこそ困っているとも言えるし、助かっているとも言える。微妙なところですね」


 取引はイベントポイントのみか。

 普通の現金で取引できると余計混乱に拍車がかかりそうだが、それは防げるようでありがたいかな。

 だけど、やっぱり上級素材で作ったアイテムを市場に流すのは色々と大変そうなんだよな……


「現時点で決まった事は、イベントサーバーでだぶついている素材を回収して生産活動に充てるという事くらいですね。その先の販売についてはまったく決まっていない状態です」

「ちなみに、トレードとかの仕様は通常サーバーと一緒か?」

「そうですね。そちらについてはまったく同じ仕様となっているようですよ」

「そこまで違ったらやってられねーからな」

「ともかく、まずはイベントサーバーの素材をある程度片付ける事が先決でしょうね」

「違いない。完成したアイテムを売りに出すのは少し様子を見てからという事で構わないか?」

「賛成だ。今の状態じゃどう動けばいいか想像もつかない」

「同じく賛成。情報系クランや戦闘系クランも含めてまた話し合いがしたいところかな」

「それじゃ、この場はこれで解散って事で。わりいけど『ライブラリ』もよろしく頼むわ」


 打ち合わせが終わり、各クランの代表者達はクランホームを後にする。

 彼らもこの後、イベントサーバーでのアイテム作成に取りかかるのだろう。


「そう言う訳で、悪いけど2人もアイテム作成に加わってもらうわよ」

「わかった。でも、ユキの扱う素材はあるのか? モンスターの肉類ばかりじゃ大してレパートリーがないだろう」

「そっちも大丈夫みたいよ。モンスタードロップの中に各種食材が含まれているんですって。小麦粉とかお米とかをドロップすることもあるらしいから、食材が足りないって事は無いと思うわよ」

「わかりました。でも、私達のイベントポイントで素材を買い集めることはできるのでしょうか?」

「そこについても問題ないわ。昨日の昼間にウサギを乱獲したでしょう? その時にかなり大量のイベントポイントが手に入っているから問題ないわ」

「そうだったのか。イベントポイントなんて確認してなかったな……」

「相変わらずそういったところは抜けてるわよね。ともかく、先立つものについては問題ないはずだから私達もイベントサーバーに移動するわよ」


 柚月に促されるまま、俺達もイベントサーバーへと移動する。

 移動した先の転移門広場は昨日の混み具合が嘘のように人の数が減っていた。

 それでもパーティ募集の声が聞こえる辺り、まだまだ熱気は冷めていないというところか。

 ……12日間続くイベントの2日目で熱気が冷めていたらやってられないけど。


「さて、私達はクランホームに移動するわよ。こっちのクランホームでもマーケットボードが使えるようになってるから、そこから素材を買い集めて生産に移りましょう」

「はい、わかりました」

「了解。どれだけの素材があるのか楽しみだな」


 転移門からイベントサーバー上にあるクランホームへと移動する。

 転移した先は通常サーバーと同じようにクランホーム内の談話室だった。


「ここは何も変わらないんだな」

「ここだけじゃなくて他の部屋も変わらないわよ。ただし、オブジェクトの配置や壁紙の変更なんかのハウジング機能は一切使えないけど」

「それじゃあ店舗販売も出来ないのか?」

「できないわね。と言うよりも、クランメンバー以外がクランホームに来ることができない以上、店舗販売ができる設定になっていても意味がないでしょう?」

「……それもそうか。それじゃ、俺もポーション作りを始めるとしますかね」

「私も料理の準備を始めますね」

「私は先に工房に行ってるわ。何かあったら呼んで頂戴」


 一足先に工房に向かう柚月を見送って、俺達は市場の様子を確認してみる。

 するとそこは、かなりの魔境となっていた。


「……これはまた値段の上下が激しいな」

「そうだね。小麦粉でも一番安いのと一番高いのの差が1,000ポイント以上あるよ」

「とりあえずは安い方から買っていって、様子を見てみるか」

「そうだね。あまり沢山買っても使い切れないと困るから、ある程度の量ずつ買っていけばいいよね」


 上級素材という事で、ハイポーション以上の素材を選んで買い込むことに。

 しかし、ハイポーション用の素材なら通常サーバーでも採取できるのは知っているが、カラーポーション系の素材が採取できたという話は聞いたことがない。

 蘇生薬の素材も売っているし、まずはこれらの素材を優先して確保だな。


 素材の確保が終わったら工房へと移動してアイテム作成に取りかかる。

 ユキの方も高ランク料理になる食材を確保出来たらしく、既に料理を始めている。

 ただ、薬膳料理を作るための薬草が入手できなかった様子で、そちらを用意できないのが残念なようだ。


 俺の方もハイポーションの作成を始めるが、ジョブを変更した影響で最大MPが減っており、一度に作れるポーション数が減ってしまっていた。

 なので、まずはMPポーションから作り始めた訳だが、上級錬金術士になった影響で今までよりも楽にポーション作成ができている。

 あとは、MPとSTの残量に気を配りつつ数をこなしていけば問題ない。


 そして、アイテムを生産することでイベントポイントが手に入り、そのイベントポイントでさらに素材を買い集めるというループを2時間ほどこなした結果、大量のポーション類が完成していた。

 なお、ポーション作成で手に入るイベントポイントは、ハイポーションが100ポイント、カラーポーションが250ポイント、蘇生薬が400ポイントだった。

 品質については★11と★12しか作れていないので、それ以下の品質だった場合にイベントポイントがどうなるかはわからないが、少なくとも★11と★12では同じイベントポイントだった。


「トワくん、お疲れ様。少し休憩しよう?」

「そうだな、そうするか。それじゃ、談話室にでも向かうとするか」


 ユキと一緒に談話室に移動すると、ドワンとイリスも休憩していた。

 流石にこの2人もかなりつかれた様子で椅子に座っている。


「おお、トワ達か。そちらの調子はどうじゃ?」

「まあまあかな。そっちはどうなんだ?」

「正直、イベントポイントがかなり手に入るせいで無限ループじゃ。装備を1つ完成させるだけで5,000ポイントも手に入るからのう」

「どこかキリのいいところで止めないと、制限時間いっぱいまで作れちゃうからねー。作った装備も売りに出せないから、倉庫に貯まっていくばかりだし」

「ちなみに、今のところイベントサーバーでの装備の値段ってどれくらいなんだ?」

「★10の装備が5,000~10,000ポイントといったところじゃの。だからこそわしらも値段をつけにくい訳なんじゃが」

「普通に原価から値段をつけると★12装備でも20,000ポイントにならないからねー。装備を作る時点で5,000ポイントも手に入るから素材代を考えてもかなり安売りになっちゃうよ」

「そうか……それは面倒だな」

「トワはどうなんじゃ?」

「あー、俺も値段をつけようとするとハイポーションで500ポイントぐらいか。ミドルポーションってどれくらいの値段なんだろうな?」

「確か★10で300ポイントくらいじゃのう。そう考えると、ミドルポーションを一気に駆逐してしまうのう」

「やっぱり迂闊には売れないよな。ユキも似たようなものか?」

「えっと……うん、私も同じような感じかな。料理だと原価の差が出にくいから、余計ポイントが貯まっちゃうね」

「そこについての問題は全体会議で打ち合わせてみるしかないよな」

「そうじゃの。……さて、わしらはそろそろ戻るぞい」

「また後でねー」


 工房に戻っていく2人を見送り、俺とユキは休憩に入る。

 途中、ハルやリク達がポーション素材や食材を持ち込んできた事でさらに作業量が増えてしまったが、俺達は時間が許す限りアイテム作成をすることになってしまった。

 2日目でこの様子だと、これ以降の状況について先が思いやられるな。

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