235.【2日目】都市ゼロの新たなクエスト

 夕食を食べ終えて寝る前のログイン。

 イベントサーバーでのアイテム作成は一段落ついたので、クランホームではなくジパンの屋敷の方にログインする。

 ジパンの屋敷にログインしたら巻物の解読作業の続きだ。


「ねぇねぇ、トワ、どこか遊びにいかない?」

「今日は忙しいからまた今度な」

「ちぇー、じゃあボクだけで行ってくるよ」

「構わないけど、あまりイタズラしないようにな」

「はいはい、わかってるって」

「……どうだかな」


 遊びに行きたいとせがむエアリルを適当にあしらい、巻物の解読作業を続ける。

 大体の解読が終わってる分、残りの部分の解読作業もスムーズに進むようになり、効率よく解読が進んでいった。


「そういえば、エアリル。お前達ってイベントサーバーには来られないのか?」


 あまり気にしていなかったが、イベントサーバーで眷属達を見かけた記憶はない。

 眷属召喚のスキルで呼び出している分には別だろうが、あんな面白そうな場所にエアリルが来ないはずはない。


「んー、あっちに行く事は出来ないんだよねー。何か妨害されててさ。だから自由行動で追撃を期待されても不可能だよ」

「そうなのか。……ま、自由行動自体、でてほしいタイミングで出てくるわけじゃないからあまり期待はできないんだけど」

「まあ、そういうものだよ。さて、ボクは遊びに出かけてくるよ。またねー」


 今度こそエアリルは遊びに行ったようだ。

 残されたのは俺一人な訳だが、巻物の解読作業をすると考えれば静かでいいか。


 解読作業を続けること1時間ほど、フレチャがかかってきた。

 相手は……柚月か。


『もしもし、トワ。あなた今時間ある?』

「あると言えばあるが、何かまた問題でも?」

『問題と言うほどでもないけど情報共有をしておこうと思ってね。あと、この後でクラン総出で狩りに行くわよ』

「……柚月から狩りのお誘いとは珍しいな。槍でもふるのか?」

『それなら良かったんだけどね。ともかくクランホームに来てもらえるかしら』

「わかった。準備ができたらすぐに向かう」


 緊急の呼び出しという事であれば、応じないわけにもいかないだろう。

 俺はクランマスターな訳だし、一応は。


 巻物を片付けたらホームポータルからクランホームへと移動。

 談話室にはおっさん以外の『ライブラリ』のメンバーが全員揃っていた。


「ああ、来たわね。早速打ち合わせを始めるわよ。席について頂戴」

「わかった。ユキもログインしてたんだな」

「お料理をしてたんだけど、柚月さんに呼ばれたからこっちにきたの」

「そうか。ところでおっさんは?」

「自分が割り当てられたイベントサーバーに行ってアクセサリーを作ってるらしいわよ。今日の集まりは都市ゼロの話だから、おじさんがいてもあまり意味がないからそっちに集中してもらってるわ」

「わかった。……それで、集まった理由は?」

「まずは都市ゼロでの★12品販売についての話ね。さっきまで生産系クランの代表者と情報系クランの代表者、それから戦闘系クランの代表者で話あってきたんだけど、明後日から★12装備の販売を解禁するわ」

「……想定以上に早い解禁だな。その理由は?」

「素材が想定以上に多く集まっているって言うのが理由ね。最初はほとんどのプレイヤーが自分達用に取っておいて市場に流してなかったんだけど、予想以上に手元に集まった結果、機能開放されたマーケットに余っている素材を流し始めたみたいなの。それが今日の騒動の理由ね」

「なるほどのう。イベント掲示板を見る限り、難易度ナイトメアと言われているが、今の話だけを聞くとイージーモードに聞こえるがの」

「問題はここからよ。掲示板情報が発端なんだけど、都市ゼロのイベントサーバーでは、いくらアイテムを作ってもスキルレベルが上がらないみたいなの。これは情報系クランも生産系プレイヤーに確認を取った内容だからほぼ確定事項ね」

「……そういえば、昼間にあれだけ大量の上位ポーションを作ってるのに調合スキルのレベルは一つも上がってないな」

「私も盲点だったわ。単純に裁縫スキルのレベルが高すぎて経験値が足りていないだけだと思っていたけど、実際には一切のスキル経験値が入っていないっぽいのよね」

「それってボクらに何か関係あるのー?」

「私達には直接関係ないわね。私達は竜帝装備のクエストでいいだけスキルレベルを上げさせてもらったわけだから」

「となると、問題はそういったクエストを受けていない一般の生産系プレイヤーか」

「そう言う事ね。一般の生産系プレイヤーも、どれだけ頑張ってもスキルレベルが上がらない事を不審に思ってたところ、掲示板で情報を出し合った結果がスキルレベルは一切上がらない、って事だものね。そっちのプレイヤー達の士気は大分失われているわ」

「……つまり、その分の穴埋めを俺達でしようという話か」

「大まかに言ってしまうとそんな感じになってしまうかしら。実際には私達が作った装備品を全て放出したところで、数十人分にしかならないわけだから、他の生産系プレイヤーにも頑張ってもらわないと厳しい訳なんだけど……」

「流石にすぐには難しい話じゃろうの。スキルレベルが上がらないのに馬車馬のように働けと言われても不満しか出ないじゃろう」

「そう言う事ね。とりあえず、明日は一日様子を見ることにして明後日から私達が作った装備品を市場に流し始めることにするわ」

「とりあえず、了解。それで、クラン総出で狩りに行くって言うのは何があったんだ?」


 柚月の口から戦闘に関する話が出るとは思ってもみなかった。

 うちのクランで一番戦闘が苦手なのは柚月なんだからな。


「クラン総出で狩りに行く理由は、都市ゼロで新しいクエストが発行されたからよ」

「新しいクエストね。それって俺達にも関係がある話か?」

「一応、関係があるわね。都市ゼロではイベントポイントをもらってもイベントアイテムと交換出来る場所がなかった訳なんだけど、今回発行されたクエストをクリアすれば、イベントポイントを使ってアイテムと交換出来るようになるらしいわ」

「なるほどね。確かに関係ないとは言えないな。それで、どうして狩りに行くんだ?」

「そのクエストのクリア条件が『イベントサーバー全体で5万個の魔封石を納品』だからよ」

「5万個とはまた大きく出たのう」

「確かに、すごい数だよねー」

「えっと、イベントサーバーってどれくらいの人がいるんでしょうか?」

「一応、一つのサーバーに割り振られているプレイヤーの数は千人ずつって言う話になっているわ。ただ、アクティブじゃないプレイヤーもそれなりにいるだろうし、何より生産系プレイヤーでモンスターを倒せるほど戦闘力がないプレイヤーもいるわけだから、戦えるプレイヤーとしては600人から700人程度いればいい方でしょうね」

「……それも結構希望的観測の気がするけどな」

「都市ゼロについては参加拒否された分のプレイヤーも補充されたって聞いてるわ。だからアクティブプレイヤーの数は他の都市より多いだろうという予想よ」

「そうか。それで、俺達に割り振られたノルマって何個くらいなんだ?」

「私達は生産系クランだからね。ノルマって言うのは存在していないわ。ただ、出来る限り多くの魔封石を集めてほしいとは言われたけど」

「わしらはレイド通いでそれなりにレベルが上がっておるからのう。所有しているスキルも計算に入れれば、他の生産系クランよりも戦闘力としては一枚以上上手という訳か」

「それでも、生産系クランであるのは変わりないはずなんだけどねー。どっちにしても断る理由もないし、そちらのイベントを先にこなした方がいいかな?」

「そうですね。イベントポイントの交換が開放されれば皆さんのやる気も戻ってくるかもしれませんし、頑張りましょう」

「流石にそれは希望的観測が過ぎる気もするけど。ともかく、私達も狩りに行くわよ」

「了解した。それじゃあ、準備を整えたら早速出発するとしよう」


 全員、装備や回復アイテム、その他消耗品などを確認してイベントサーバーの方へと転移する。

 都市ゼロでは転移門の周辺で熱心なパーティ募集が行われていた。

 やはり、イベントポイントのアイテム交換開放は一大イベントなのだろう。


 俺達は人混みを避けるように移動して東門の外側に出てみる。

 東門の近くではウサギ狩りをしているパーティが複数見受けられた。

 ただ、ある程度ウサギを狩ったら、一度東門の内側へと逃げ込んでおり、戦闘をしていたプレイヤー達が門の中まで逃げ込むとウサギも急に興味を示さなくなって帰っていくと言う行動が随所で見受けられた。


「……あれってなにをやってるんだ?」

「普通のプレイヤーだとウサギを全滅させるのは難しいのよ。だけど、ウサギはトレインしても戦闘中以外のプレイヤーには手を出さない。戦闘をしているプレイヤー全員が街まで逃げ込むと、ウサギたちもノンアクティブ状態になって元いた場所に戻っていくってことよ」

「……それはまた、ここの運営らしからぬゲーム的な動きな事で。ここの運営なら街中まで追ってきそうなものだけどな」

「とりあえず今のところはこの戦法で上手くいっているみたいよ。……それじゃ、私達はウサギの全滅も狙えることだし少し離れた場所で戦闘にしましょうか」

「……戦闘に積極的な柚月って言うのも、なんだか不気味だな」

「あら、せめて新鮮って言ってほしいわね」

「どちらでも良かろうて。……それでは戦闘を始めるぞい。準備を頼むぞ」

「眷属は……戦闘時間が長そうだからフェンリルの方がいいか。それじゃ、シリウスを呼ぶぞ」

「お願い。……準備は整ったみたいね。ドワン、お願い」

「うむ、では始めるぞい」


 ドワンが近くにいるウサギを攻撃することで戦闘が始まった。

 俺とイリスはテンペストショットとテンペストアローで全体を削り、柚月とシリウスが個別撃破を行う。

 ユキには基本的に神楽舞を維持してもらい、ドワンはタンクとしてウサギの攻撃を食い止める。


 昼間の間もかなり長い間ログインしていたため、俺達に残されているイベントサーバーへのアクセス時間は2時間を切っている。

 なので30分を1セットとして、30分ごとにウサギを一度全滅させつつ、それを3セット行うこととなった。

 魔封石は1セット毎におおよそ300個前後集まったため、3セットを終えた頃には900個ほどの魔封石が俺達の手元に集まった。

 魔封石は巫女さんのところに納品するらしく、納品に行ったときは神殿の前に沢山のプレイヤーが集まっていた。


 俺達が魔封石を納品した段階で、残りの必要魔封石の数は23,000個ほどになっていた。

 イベントサーバーへのアクセス可能時間が残りわずかとなってしまったため、俺達は通常サーバーへと帰還することに。

 今後の予定としては、明日も午前中は自由行動、午後からはイベントサーバーの市場にあるアイテム素材を加工、夜は魔封石集めがまだ必要だった場合はそちらの対応、その必要がなければ自由行動という事になった。


 それから、マナガンナーのレベルが今の魔封石狩りでカンストしていたようなのでハイマナガンナーへとジョブチェンジしておいた。

 これでいい時間となってしまっため、解散することに。

 これは明日も忙しくなりそうだなぁ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る