230.【1日目】『白夜』メンバーのアップグレード

 俺達に依頼があるという事で『白夜』の白狼さんと『アビスゲート』のホリゾンを連れてクランホームに戻ってきた。

『白夜』からの依頼は、都市ゼロサーバーに参加している『白夜』メンバーの装備品をアップグレードしてほしいと言うものだ。

 こちらについては封印鬼を周回しているだけあって、素材・資金ともに余裕があるため柚月の方で時間調整などを行っている。

『白夜』で都市ゼロに参加している人数は22人とのこと。

 第4パーティの一部までが都市ゼロに参加しているらしい。


 そして、『アビスゲート』の依頼は『現在使っているレイド産装備をアップグレードできないか?』というものだった。

 こちらについては取り扱ったことがないため、まずはホリゾンが持っていた『熱砂の炎剣』という装備をドワンに調べてもらっているのだが……


「ふむ、調べ終わったぞい。結論から先に言えば、レイド装備のアップグレードも可能じゃの。ただし、必要な素材は汎用素材ではないのでそちらで集めてもらわねばならぬがのう」

「素材か……。ちなみにどんなものが必要だったんだ?」

「この武器を鍛えるには『熱砂の剣の欠片』が3つ、『大砂蟲の皮』が2つ、『熱砂の王の魔石』が1つ必要らしいのう」

「その素材ならクランの倉庫に山のように残ってるぜ。『砂漠の巨影』のボスから得られる素材ばかりだ」

「なるほどの。おそらくは装備のアップグレードに必要な素材は、レイドクエストで集まる素材ばかりじゃろうな」

「そうか、わかった。俺はこのことを仲間に伝えてくる。おそらく仲間の装備もお願いすることになると思うが大丈夫か?」

「大丈夫じゃ。少なくとも輝竜装備に比べれば難易度はかなり低いからのう」

「そうなのか? ちなみに、輝竜装備もそうだが五竜帝の装備を鍛え直す事も可能なのか?」

「可能じゃよ。ただし、今と同じようにそれぞれの竜帝素材が必要になるがのう」

「……ちなみに、作業費用はおいくら?」

「装備1つにつき1Mと言ったところかのう。それで問題ないよな、柚月」


 ドワンが柚月に確認を取ると、柚月の方は頷き返している。

 それで問題ないという事だろう。


「それなりにするだろうと思っていたが、やっぱり装備1つにつき1Mか……」

「あまり技術料を値引いてしまうと、他のプレイヤーの仕事まで根こそぎ奪いかねないのでな。これ以上は値引きできぬぞ」

「ああ、いや。とりあえずその程度の資金はあるから、皆も問題ないとは思うんだが……。ちなみに、素材の買取ってしてもらえるのか?」

「ふむ。レイドクエスト産の素材は取り扱ったことがないのでな。何とも言えないところじゃ。ああ、輝竜素材ならば買い取るぞ?」

「輝竜素材は俺達も在庫に余裕がないからな……。ちなみに、輝竜素材から輝竜装備が作れるんだろう? あれっていくらなんだ?」

「ものによるが、1つにつき2~3Mの技術料をもらっておる。素材は全て持ち込みと言う前提でな」

「素材は持ち込みじゃないとダメなのか?」

「市場で買い集めるのは大変じゃからのう。必要な数量を集められるとは限らぬし、素材は全て持ち込みのみでの対応じゃ」

「そうか。それについても相談に乗ってもらうかもしれないが構わないか?」

「まあ、出来る範囲でなら相談に乗ろう。どうも、今回のイベントについての打ち合わせで可能な限り手を貸すという事になったようじゃしな」

「恩に着るよ。早速だけど仲間に確認して装備強化の準備をさせてもらうよ。この後はずっとクランにいるのか?」

「それは何とも言えぬのう。正直な話をすれば、時間に余裕があるのならイベントサーバーにある採掘場に行ってみたいところでもある」

「わかった。それじゃあ、今日の夜にでもまた来させてもらうよ。その時は仲間も連れてきたいが構わないか?」

「まあ、良かろう。とりあえずフレンド登録しておくぞい。来るときは事前にチャットかメールで連絡を頼む」

「了解した。じゃあこれで失礼する」


 ホリゾンはドワンに礼を言った後、クランホームから出て行った。

 ……そう言えば、同盟を結んでいないとホームポータルは使えないんだっけ。


「そっちの話は終わったみたいね。ドワン、こっちの話し合いにも参加してもらいたいけど大丈夫かしら?」

「構わんぞい。トワはどうするのじゃ?」

「うーん、俺って居る必要があるか?」

「正直言ってあまり必要はないわね。ただ、強化したい装備の中に銃も含まれているから、強化するときは居てもらわないと困るけど」


 おや、『白夜』にもガンナーがいたのか。

 普段のレイドクエストでは見かけなかったから、上位勢にはいないと思ってた。


「そう言うことなら、俺はひとまず上位ポーションの作成に回らせてもらうよ。師匠のところに行って素材を買い込んでくる」

「わかったわ。『白夜』の装備強化は、準備ができ次第すぐに行うからそのつもりでいてね」

「了解。でも、そんなすぐに準備なんてできるのか?」

「実を言うとね、装備のアップグレードを行う準備は既にできているんだ。後は、クランホームから素材を持ってきてもらって、それをアップグレード用に加工してもらえば、すぐにでも強化できるようにね」

「つまり、強化が必要な装備を持った人員も既にスタンバイ済みと」

「そうなるかな。会議に参加していた僕と十夜以外はイベントサーバーで素材集めをしていたんだけど、今はもう帰還してもらっているからね。トワくんが帰ってくる頃には皆がこっちに来ていると思うよ」

「それなら、俺も急いで買って帰ってくる必要がありますね」

「そうじゃの。鍛えたい銃はハンドガンとライフルらしい。強化用素材は、クラン倉庫にある素材を使えばよい。使った分の素材は後から補充するので気にせんでいいぞ」

「わかった。それじゃ、ひとっ走り素材を買ってきますか」


 あまりのんびりしている余裕もなさそうなので、急いでワグアーツ師匠の元に移動する。

 ワグアーツ師匠から素材を売ってもらうと、不思議そうな顔をした師匠から話しかけられた。


「時にトワよ。お主、いまだに上級錬金術士になっていないと聞いたが本当か?」

「え? ……ああ、そう言えばもう中級クラスの錬金術士は全てマスターしてるんだった」

「それならば早いうちに錬金術ギルドに行って上級錬金術士になるための手続きをしてくるといい。上級錬金術士なるための試験もあるが、今のお主なら簡単に突破出来るだろう」

「そうですか? ちなみに、上級錬金術士になるための試験内容を聞いても大丈夫ですか?」

「試験内容については、受験者に応じて異なる。だが、おそらくお主の場合だとハイポーションの★12を作る事になるじゃろう」

「なるほど、それなら確かにそんなに難しくはないですね」

「そう言う訳じゃ。早めに上級錬金術士になっておけ」

「わかりました。上級錬金術士になった後は何か課題があるんですか?」

「ないとは言わんが準備が必要な内容になっておる。しばらくはこれまで通りに銃の作成や薬作り、それから余裕があるならゴーレム作りもやっておくと良いだろう」

「了解です。今日は時間がないと思うので、余裕があれば明日にでも錬金術ギルドに行ってみます」

「そうするといい。それでは修業に励めよ」

「はい。それでは失礼します」


 上級錬金術士か……すっかり忘れてたな。

 輝竜装備をひたすら作っていたから、中級錬金術士のジョブでさえレベルマックスになってたんだった。

 忘れないうちに上級錬金術士になっておいて、スキルポイントを稼げるようにしておかないともったいないな。


 上級錬金術士になるという予定をメモしておいてクランホームに帰還する。

 すると、談話室には『白夜』のメンバーが勢揃いしているようだった。


「ああ、トワ、帰ってきたのね。あなたの出番もできてるわよ。彼がガンナーらしいから、彼の装備を強化してあげて頂戴」

「了解。それで対価の方は受け取ったのか?」

「全員分まとめて支払い済みよ。どうやら今回のような事に備えて、全員が資金を貯め込んでいたらしいわね。おかげでクランとしての所持金も個人の所持金もかなり増えたわ」

「それは良かった。でも、今後に備えて素材を買うから出て行く分もそれなりにあるんだろう?」

「まあ、それはね。ただでさえそれなり以上にお金を持っている私達がこれ以上ため込んでいても経済に悪影響でしょ?」

「否定はしないけど。……さて、それじゃ自分の仕事に取りかかりますか」

「お願いね。ドワンとイリスも頑張っているし、私も自分の持ち分を仕上げさせてもらうわ」


 柚月も自分の受け持ちである布と革製の装備を持って工房へと向かっていった。

 俺も、柚月から紹介されたガンナーを連れて工房へと向かう。

 俺の工房ではオッドが調薬作業をしていたが、そちらには錬金セットを使うことだけ伝えて作業を続けてもらう。


『白夜』のガンナーからの依頼は、現在使っているハンドガンとライフルのアップグレード。

 現在使っている装備を確認させてもらうと、ダマスカス製の★10装備だったのでどのようにアップグレードするかを確認させてもらう。

 要望としては攻撃力をとにかく上げてほしいという事だったので、一度談話室に戻り訓練所に向かうことにする。

 そこで俺の装備や試験用の装備を使って問題なく銃を扱えるか確認してもらう。

 結果としては、俺が扱う銃と同じレベルの装備品を作っても問題ない範囲で扱える様子だったので、俺の装備を作ったときと同じ素材を使ってアップグレードを行うことに。

 工房に戻った後、倉庫から素材を取り出してアップグレード作業を行うと、問題なく★12装備が完成した。

 完成した装備を持って訓練所にもう一度向かい、扱うのに問題がないか確認したが、流石『白夜』のメンバーと言えるほど照準などのブレもなく十分にアップグレード後の武器を扱う事ができた。


 その後、彼から輝竜装備も作ってもらいたいという依頼があったので、素材を受け取った後ドワンとイリスにお願いして輝竜装備の中間素材を確保、それらを使って輝竜装備も作ってしまう。

 輝竜装備の品質は安定の★12だ。


 時間が余ったので話を聞いてみると、彼が『白夜』に加入したのは割と最近のことらしい。

 最近と言っても実のところ2回ほど封印鬼にも参加しているらしく、俺の事も知っていたらしい。

 今現在使っている銃は、他のところで作ってもらった銃らしく、元の予定では製作者に依頼してアップグレードをしてもらうつもりだったのだが、製作者側から「今の自分の腕前ではこれ以上のアップグレードは難しい」と言われていたらしい。

 なので、今回の装備更新の話はまさに渡りに船と言ったところだったとか。


 談話室でしばらく話をしていると、柚月にドワン、イリスも談話室に戻ってきた。

 どうやら、全員分のアップグレード作業が終わったらしい。

 装備を一から作るのに比べるとアップグレードはすぐに終わるので、22人分の作業でも問題なく終了できたようだ。

 これから装備を受け取った面々は、訓練所に行って装備に問題がないか確認するらしい。

 俺の受け持ち分については既に確認済みなので、俺は訓練所には向かわずに自分の工房へと戻る事にした。

 工房にはユキもいて、何か料理を作っていた。


「ユキ、いつの間に帰ってきてたんだ?」

「うーんと、それなりに前かな。ログアウトして家の用事を片付けてから再ログインしたから、談話室を通らずにここに来たの。それで、『白夜』の人達が来ているみたいだし簡単なものでも差し入れしようかなと思ってジュースを作ってたの」

「……差し入れをするのはいいが、今は新しい装備の調整中だからな。料理にバフがついているだろうし、差し入れは調整が終わった後の方がいいと思うぞ」

「それもそうだね。……トワくんはもう終わったの?」

「俺の作業は1人分だったからな。もう終わってるぞ」

「それじゃあ、葛餅を作ってみたんだけど一緒に食べない?」

「そうだな、いただくとするか」


 ユキと一緒に葛餅を食べた後、ユキと一緒に談話室に戻って『白夜』のメンバーを待つことに。

 10分ほどで訓練所から全員が戻ってきて、調整も完了したという事だったのでユキの差し入れを振る舞うことに。

 訓練所でそれなりに運動してきたと言うことで、ユキの差し入れはとても感謝された。

 その後、柚月と白狼さんの間でいくつか相談していたが、そちらは急ぎではないという事で後日また話し合うことにしたらしい。


 装備のアップグレードが完了して大満足の『白夜』の面々を見送り、俺達もそろそろ夕飯の時間という事で解散となった。

 あとは、夜に来る予定となっているホリゾン達とミオン達の対応が終われば今日の作業は終わりだろう。

 俺とユキはそれぞれ夕飯の支度のため、早めにログアウトすることとなった。

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