225.【1日目】デーモンスレイブ

「この! ハイチャージバレット!!」

「クキュゥゥ!!」


 俺のスキルを食らってウサギ型をしたモンスターが吹き飛ばされる。

 だが、その目からはまだまだ戦意は失われていない。

 もっとも、今までの経験上、瀕死まで追い込んでも構わず突撃してくるのだけど。


「ええい、これではキリがないわい!!」

「ちょっと街を出たところにいるモンスターに手を出しただけなのに、最初から強すぎるよー」

「私の魔法もそこまできいていない様子だし、どうするのトワ?」

「どうするもこうするも、とりあえず今戦っている分だけは何とか倒して、これ以上リンクしないようにしながら、撤退するしかないだろう」

「うん、わかったよ。それじゃあバフの内容を変えるね」

「頼んだ。シリウスもあまり動き回らないように気をつけながら敵を倒してくれ」

「ウォン!!」


 なぜこんな事態に陥っているかというと、始まりは30分以上前まで遡る。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「とりあえずクエストは受けたわけだけど、これからどうするの?」

「そうだな。とりあえず北門のところにあるって言う兵舎に行ってみよう」

「そうじゃの。モンスターの情報や採取物の情報も欲しいからのう」

「街がこの状態じゃ住人からも聞けないからねー」

「そうですね。私も食材がないとお料理できないですし……」

「どちらにしても情報不足よね。まだ教授が指定した時間までは余裕があるし、とりあえずその兵舎とやらに行ってみましょう」


 兵舎があるという場所は街の中でも北門側という話だ。

 教会は街の南側大通りに面しているので、反対側に向かって歩くことになる。

 大通りを歩いていると、町の中央広場付近には他のプレイヤー達が大勢いることがわかる。

 彼らは彼らで臨時パーティを募集したり、ソロだったり色々なようだが、街の外に繰り出して行っている。

 一部、生産系と思しきプレイヤーもいるようだが、彼らはウィンドウとにらみ合いながら右往左往していたり、何かを探すように行ったり来たりしている。

 ウィンドウを見ているプレイヤーはおそらく掲示板を見ているのだろうが、まだ始まったばかりだしそんなに詳しい情報があるとは思えない。

 情報の独占をするつもりはないが、今の段階では他人に教えられるほど詳しい情報も持っていないんだよな。

 こちらに話しかけてくるプレイヤーもいないことだし、早いところ兵舎に向かおう。


「やあ、異邦人の方々。我々警備隊に何かご用かな?」


 警備隊の兵舎にたどり着くと警備隊の住人NPCと話すことができた。


「こんにちは。東門の門番の人からここを紹介されたんだけど」

「まあ、今のこの街で機能しているところなんてこの兵舎に警備隊の本部、それからかろうじて教会ぐらいだろうからね。この街を守るために力を貸してくれるなら我々も協力を惜しまないよ。何か聞きたいことや困った事があるのかな?」

「聞きたいことは山ほどあるけど、まずはこの街の周りで取れる素材について聞きたいな」

「この街で手に入る素材か……ちょっと待ってくれ。……あったあった、この街の周囲で手に入る素材だけど、街の北門を抜けた先にある岩山では鉱石が採れるらしいね。同じく東側の森では木材や薬草類が、西側の湖では魚を釣ることが出来るね」

「南側では?」

「南側だと少し離れたところにいるモンスターから皮や角といった素材を入手できるはずだよ」

「入手できるね。今は入手できない可能性もあるのかしら?」

「そこをつかれるとちょっと厳しいかな。街を出てみればわかるんだけど野生動物すらデーモンの力でモンスター化してるんだよ。我々も街に向かってくる分は対応してるけど、その先にいるモンスターがどうなっているかは確認出来ないんだ」

「なるほどのう。それで、北にある岩山で手に入る鉱石の詳細はわかるかの?」

「うーん、手元にある資料だとミスリルやダマスカスも手に入るらしいけど……。デーモン達のせいでモンスターが活発化してる影響を受けているかもしれないから具体的な情報は出せないかな」

「そうか……それでは自分達で調べる他あるまい」

「すまないけどそうしてもらえるかな。他には聞きたいことがあるかい?」

「えっと、普通の食材とかは手に入りませんか?」

「食材か……基本的に食料とかも我々のように街に残った警備隊や教会関係者の分以外は、住人の避難の時に一緒に持って行ってしまっているからね。提供できるほど余裕はないかな」

「そうですか……わかりました。食材は他を探してみます」

「そうしてもらえるかな。他に何か聞きたいことはあるかい?」

「モンスターが活発化してるって話ですけど、具体的にはどれくらい強くなってるんです?」

「具体的な強さか……正直、君達がどれくらいの強さなのかはわからないけど、街に向かってくるモンスターを我々警備隊が数人がかりで追い払っている、と言う風にしか言えないかな」

「そうですか、こっちも自分達で確かめて見るしかないと」

「そのほうがいいと思うよ。ただ、普通のウサギですら手こずるぐらいの強さになってるんだ。油断はしない方がいいと思う」

「わかりました。誰か、他に聞きたいことはあるか?」

「うーん、今のところはないかなー」

「そうか。それじゃ、聞きたいことができたらまた来てくれ。よろしく頼むよ」

「ええ、わかったわ。それじゃあね」


 警備隊の人と別れた後、北門の近くに移動してこれからのことを話し合う。


「さて、とりあえず情報を手に入れたけれど……あまり詳しい情報はもらえなかったわね」

「最低限の情報って感じだよな。あくまでも自力で情報収集をしろって言うスタンスなんだろうな」

「ええと、これからどうしますか?」

「ふむ、わしとしては岩山に行って採掘をしてみたいところじゃが……」

「まずは岩山まで行けるかどうかだよねー。この分だとモンスターも相当強いだろうし」

「まずは外に出て戦ってみるか」

「それが良さそうね。パーティの残り一枠は誰を呼び出すの?」

「うーん、プロちゃんやシャイナちゃんよりトワくんの眷属の方がいいと思います」

「そうだな。とりあえず様子見という事でシリウスを呼ぶことにするか」

「まあ無難でしょうね。それじゃあお願い」

「わかった、眷属召喚・シリウス」

「ウァフ」

「さて、それじゃとりあえず北門から出て戦ってみましょうか」

「そうだな。まずは街の近くで戦ってみよう」


 まずは一戦交えてみるという事で北門から出てすぐの平原に行ってみることに。

 北門を出てすぐのところで戦闘をしているプレイヤーは見当たらず、俺達以外に北門から出て行くプレイヤー達は門の周辺ではなく遠くの方まで向かっているみたいだ。

 周囲を調べてみるとウサギ型や小鳥型のモンスターがそれなりの数存在している。

 動きを見ていると、複数のモンスターが一つの集団になって行動しているみたいだな。


「……どうやら単独行動しているモンスターはこの近辺にはいないみたいね」

「そのようだな。ちょっと【看破】を使ってモンスターの情報を調べてみるよ」

「任せたわ。それじゃあ、私達はいきなり襲ってきた場合に備えて準備ね」

「よろしく頼む。……それじゃ、調べるぞ」

「いつでもどうぞ」


【看破】スキルを使って手近なところにいるウサギ型モンスターの情報を調べる。

 モンスター名は『デーモンスレイブ・ラビット』、レベルは……60!?

 こんな街の近辺のモンスターですらレベル60なのか?


「キュイキュイ!!」

「ちっ、【看破】しただけでも襲ってくるタイプか!」

「ドワン、タンク役よろしく。トワ、モンスターのレベルと弱点は?」

「モンスター名、デーモンスレイブ・ラビット。レベルは60で弱点は無しだ」

「こんな近辺のモンスターですらレベル60!?」

「どうもそうらしい。で、5匹ほどリンクして襲ってきたぞ」

「うむ、では受け止めるとしよう。ウォークライ!」


 ドワンの範囲挑発スキルによって襲ってきたウサギたちのターゲットはドワンに固定される。

 さて、まずは俺達の攻撃だな。


「神楽舞、始めます!」

「始めるとするか。テンペストショット!」

「テンペストアロー」

「イラプション!」


 まずは俺とイリスの攻撃で足止めをしつつ体力を削りにかかる。

 そしてまとまったところを柚月の魔法で一気に仕留める、それが俺達のパターンなのだが……


「うそ、全弾ヒットしてるのにHPが半分ちょっとしか削れていない?」

「最近だと格下か同格しか相手にしてこなかったからな。感覚が鈍ったかな?」

「多分、防具の封印のせいでステータスが落ちてるのも関係あるんじゃないかなー?」

「うむ、わしもダメージ量がちと多いのう。戦闘開始そうそうでスマンが回復を頼む」

「わかったわ。私がヒーラーに専念するからトワとイリスは攻撃に集中して」

「了解。行くぞシリウス」

「すぐ数を減らすからちょっと頑張ってねー」


 戦端が開かれてしまった以上、のんびりやっている余裕はない。

 俺とイリス、それからシリウスは1匹ずつ集中攻撃して敵の数を減らしていく。

 1匹ずつ確実に減らしていくことで、時間はかかってしまったが残り2匹まで数を減らした。

 そして、残りを処理しようとしたその時。


「キュイキュイ!!」

「え、何?」

「ちょっと待て、増援を呼んだぞ!?」


 モンスターの呼び声にあわせ、新たなウサギたちがどこからともなく出現する。


「ちょっと、増援を呼ぶとか聞いてないわよ!?」

「そりゃ、初めて戦うわけだしそう言うこともあるだろうよ!!」

「ともかく、増援も引き受けるぞい。トワ達は攻撃に集中じゃ」

「りょうかーい。でもこれ、最悪無限ループじゃない?」

「危険なことは考えないの! ともかく戦闘を続けるわよ!」

「フラグじゃなければいいんだけどな。ともかくおかわり行くとしますか」


 そんな感じで戦闘が継続することになり、出だしへとつながるのだ。


「……一体何匹くらい倒したかしら?」

「1分1匹以上倒してるから50匹ぐらいは楽に倒してるんじゃないかな」

「しかし、この数で来られると逃げることも叶わんぞ。それにそろそろキツくなってきたわい。どうするのじゃ」

「イリス、シリウス、敵のHPを平均的に削っていくぞ。それで最後にまとめて倒す!」

「うーん、それしかないよねー。わかったよ」

「ワォン!」


 今襲いかかってきているウサギ4匹のHPを均等に削っていき、瀕死の状態に追い込んでからテンペストショットとテンペストアローの重ね撃ちでまとめて仕留める。

 テンペストショットとテンペストアローの効果中はノックバックにより行動不能のため、これ以上増援を呼ばれることもなく戦闘は終了した。


「……とりあえず街の中まで逃げるわよ。街の近辺で戦って開始早々無限ループとかたまったものじゃないわ」

「そうじゃの。装備の耐久値もかなり減っておる。ドロップの確認も含めて、一度街まで下がるべきじゃな」

「わかった。幸い、街までの間にモンスターはいない。早いところ引き上げだ」

「うん、了解」

「わかったー」


 30分以上戦闘を続けたおかげでクタクタになりながらも俺達は無事街まで帰還できた。

 とりあえず北門を抜けたところで休憩しながらドロップアイテムを確認することに。


「……魔封石が48個ほどあるのだけど、どうしたらいいのかしら?」

「わしの方は45個じゃの」

「ボクは47個だね」

「私は57個あります」

「俺は49個かな。……とりあえずクランホームは開放できそうで何よりじゃないか」


 どうやら俺達が思っているよりも魔封石とやらのドロップ率は高かったらしい。

 少なくとも2匹に1個以上は落ちていただろう。


「魔封石は揃ったし、教会に行くとしますか」

「そうね、そうしましょう。教授との待ち合わせの時間も近くなってきたし早く行きましょう」


 再び南大通りの教会まで戻ってくるとユーノさん達が出迎えてくれた。

 もっとも、ここまで早く魔封石が揃うとは思っていなかったらしいが。

 ともかくクエストクリアは完了して、イベントサーバー上でもクランホームを使えるようになった。

 ログインポイントとしては使えないが、生産設備などは通常通り使えるらしい。

 ただ、クランホームに入れるプレイヤーは同じクランのプレイヤーに限られるとのこと。

 他のクランや未加入のプレイヤーを招き入れて生産設備を使わせるといった事はできないようだ。


「それから皆さんの装備の封印ですが、魔封石をお持ちいただければ私の方でまとめて解除できますよ」

「……それは助かるな。ちなみに、何個必要なんだ?」

「……ええと、言いにくいのですが、トワさんだと100個ほど必要になります」

「……随分と多いわね。ちなみに私は何個でいけるの?」

「柚月さんでしたら20個ほどで足ります。申し訳ありませんが、トワさんは封印されている装備の数が多いので、魔封石もかなりの数が必要で……」

「……いや、装備の数が多いのは認識してるからしょうがない。とりあえず他のメンバーで封印解除できるならお願いできるか?」

「わかりました。……トワさん以外は全員、既にお持ちの魔封石で足りますね。それでは封印解除をいたします」


 俺以外のメンバーについては20個から30個程度で封印解除に足りたそうだ。

 それなら持ち込む装備の数を減らす事も考えたが、それでは俺の強みを生かせないと言われて断られてしまった。

 他の皆の残った魔封石を譲ってもらい、何とか100個を集めることができたので、俺も全装備の封印解除をまとめて行うことができた。

 ちなみに個別に封印解除を行おうとした場合、装備1つに付き6個ほど魔封石が必要らしく、まとめて解除した方がかなりお得らしい。


 一悶着あったが、装備についても万全の状態になった俺達は、ひとまず通常サーバーに戻り休憩することになった。

 休憩中に教授から集会についての連絡も届き、集会場所は【第2の街】の生産ギルド内、大会議場に決まったようだ。

 集合時間も間近になってきたし待たせるわけにも行かないので、俺と柚月は生産ギルドへと向かうことに。


 さて、打ち合わせがすんなり終わるといいんだけど……多分無理だよな。

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