224.【1日目】都市ゼロ
「それじゃ、お兄ちゃんも都市ゼロになったんだ」
朝のログインから時間が過ぎて昼食中、遥華と割り当てられた都市の話になった。
「俺もって事は遥華も都市ゼロか」
「うん、そう。もっとも、わたしだけじゃなくて、パーティ全員が都市ゼロだったけどね」
「それで、参加申請は出したのか?」
「もちろん。全員分の参加申請を出してあるよ」
「そうか、それなら良かった」
「あ、あと、陸斗さんのパーティも全員都市ゼロに決まったって言ってたよ」
どうやら遥華だけじゃなく陸斗も都市ゼロに決まったようだ。
これで、ある程度は知り合いがいる状態になったな。
「それで、お昼ご飯を食べたら早速都市ゼロに向かうの?」
「その予定だな。一日あたりのログイン時間が制限されている以上、初日から行っておいて状況確認はしておくべきだろう」
「まあ、その通りだよね。わたしたちも全員揃ったら行ってみようかな」
「その方がいいだろうな。装備が封印されるって話だし、どうやったらその封印が解除されるかも調べておかないとな」
「だよね。わたしは使う装備の数が少ないからいいけど、お兄ちゃんの場合はかなりの数を使うもんね」
「そのとおりだな。最悪、普段使いが多い装備だけでも開放できればいいんだが……それでも、一般的なプレイヤーに比べれば多いだろうからな」
「そうだよね。さて、それじゃあ、ごちそうさまでした。わたしは先にログインしてるね」
「ああ、俺も後片付けが終わったらログインすることにするよ」
昼食の素麺を食べ終わった後、俺と遥華はそれぞれ自室に戻りゲーム内へとログインしていった。
時間的には少し早いけど、先に行って待ってても問題ないからな。
――――――――――――――――――――――――――――――
ゲームにログインして談話室で待つこと暫し、ユキや柚月、ドワンにイリスがやってきた。
「お待たせトワくん」
「待たせてしまったかしら? 一応、約束の時間には間に合ってるけど」
「ああ、構わないぞ。俺の方が早めにログインできただけだからな」
「ふむ、それでは全員揃ったことじゃし、早速都市ゼロとやらに向かうとするかの」
「そうだねー。それじゃあ早速張り切って行こー」
都市防衛戦イベントの舞台となる都市に移動するためには、転移門などのポータルから転移する必要があるらしい。
ホームポータルからも移動できるのは確認してあるので、俺達はパーティを組んだ後にホームポータルから都市ゼロに移動しようとする。
だが、移動する前に封印解除する武器の選択画面が出てきた。
「ふむ、封印解除する装備の指定は最初に都市に移動する前か」
「そのようね。私は武器を1種類しか使わないから問題ないけど、トワはどうするの?」
「あー、俺の場合、ひたすらに多いからなぁ……」
普段使いの武器でハンドガン2つ、ライフル3つ、マナカノン2つ、マギマグナム2つ、聖霊武器1つ。
その上、サブウェポンとして刀が2つだ。
封印対象の武器は合計11個、その中から1つを選ばなければならない。
俺以外のメンバーは聖霊武器以外の装備は多くても2つ程度しか持っていないから、選ぶのも楽だろう。
パーティとして見た場合、前衛が足りていないのだがハンドガンやマナカノンを1つだけ封印解除しても片手分にしかならないので攻撃力は落ちてしまう。
そう考えると最適解は……ライフルのうち1つを解除することかな。
さて、解除するライフルは……
「うん、イニアスナイプを封印解除しよう」
「無難じゃのう。なぜそれを選んだ?」
「単純に遠距離攻撃ができて攻撃も物理と魔法両方が使えるからかな。どちらかの耐性が高い相手でも、貫通ダメージとあわせてそれなりに高いダメージを期待できるし」
「確かに輝竜武器なら何かと便利ね。それじゃあ封印解除する武器も選び終わった事だし、都市ゼロに向かいましょう」
「はい。頑張りましょうね、皆さん」
「おー、がんばろー」
封印解除処理が済んだことで都市ゼロへの移動が可能となった。
ホームポータルから都市ゼロを選択して移動すると、そこは城壁に囲まれた城塞都市だった。
ポータルである転移門は街の中央部にある広場に設置されていた。
そこから東西南北に向けて大通りと呼ぶべき道が整備されており、都市を囲む外壁に設置された門まで一直線につながっている。
門を抜ければフィールドに出られるんだろうが、何から始めるべきか……
「ここが都市防衛戦の舞台になる場所ね。どうやらかなりの人数が既にこの都市に来ているみたいね」
「そのようだな。それから視界の端に表示されているのが、このサーバーにアクセス可能な残り時間か」
「8時間からカウントダウンされていっておるしそのようじゃの。さて、まずは何から確認する?」
「うーん、ボクらは生産職だしまずは生産設備の有無から確認しなきゃいけないんじゃないかな?」
「そうですね。まずは生産設備があるかどうかを調べた方がいいと思います」
「それもそうだな。他のことは後で教授に聞いても問題ないし、まずは拠点となる生産設備の有無から確認するか」
最初の予定が決まったので手分けして生産拠点となるような場所がないか調べて回ることになった。
俺はユキと一緒に街を歩いているが、30分ほど歩き回ってもこの手の街に多く存在しているであろう
「……これだけ街中を歩き回っても一切住人に出くわさないなんておかしいな」
「そうだね。イベントに関係してることなのかな?」
「どうだろうな。どちらにしても聞くべき相手が見当たらないというのも困った物だな」
街中をグルグル歩いてみたが住人の姿は発見できず、外壁にある門のところまでたどり着いてしまった。
まっすぐここに向かえば数分でつく距離だが、街中を歩き回りながらだったのでかなり時間がかかってしまった。
門のところまでたどり着くと、門番をしている住人を発見できた。
どうやら、俺達にとっての最初の住人は彼のようだ。
「すみません。ここの街の住人はどこに行ったんですか?」
「うん? そう言う質問をしてくると言うことは君達は異邦人か。今までも異邦人らしき人達が門を抜けて外に出て行く事はあったが話しかけられるのは珍しいな」
「あー、どうもすみません。それで、街中に誰もいないのはなぜでしょう?」
「ああ、まずはその件から話すべきだろうな。この街は数日後、デーモンの襲撃に遭うという神託があってな。俺達のような警備兵以外は全員避難しているというわけだ」
「デーモン……つまり悪魔ですか」
「ああ、そのデーモンだ。実際、街の外にはデーモンの尖兵であるモンスター達がうようよいるからな。戦うことのできない住人には避難してもらっているんだよ」
「そうですか……俺達は職人なんですが、生産拠点として使える場所ってどこかにありませんか?」
「ふむ……済まないが俺はあくまでも警備兵だからな。そう言うことには詳しくないんだ。普段だったら街の住人達に聞いてもらえればすぐにわかるのだろうが……」
「そうですか……わかりました。もうしばらく街の中を探してみます」
「街のことを調べるなら教会に行くといい。街の顔役である司祭様が残っているはずだからな。司祭様なら何か知っているかもしれない。教会はあの屋根の上に鐘のついた建物だから迷うこともないだろう」
「わかりました。ありがとうございます」
「ああ、それでは気をつけてな。もし他にわからない事があったら北門にある兵舎に行くといい。俺のような門番や、街中を警邏中の警備兵以外はそこにいるはずだから、色々と相談に乗れるかもしれないからな」
「はい、色々ありがとうございます」
「なに、気にすることはない。俺達にとっても異邦人がいないとこの街を守り切る事なんて到底無理な話だからな。まあ、仲良くやっていこうや」
「ええ、それでは」
「ああ、街中なら大丈夫だと思うが気をつけてな」
警備兵と別れて俺達は教会の方へと歩き出す。
パーティチャットでも今仕入れた情報を共有する。
どうやら柚月達も同様の情報を入手したという事で、教会前で落ち合い一緒に教会を訪ねてみることとなった。
教会までは歩いて数分でたどり着き、先に到着していた柚月達と合流して教会へと入っていく。
教会内はがらんとしており、初老の男性と若い女性の2人だけが建物内にいた。
「教会へようこそ、異邦人の皆様。私はこの教会の責任者のアレスと申します」
「私はユーノと申します。異邦人の皆様、歓迎いたします」
「初めまして。私は柚月。こっちから、ドワン、イリス、トワ、ユキよ。それで、早速で悪いんだけどこの街の状況を教えてもらえるかしら?」
「はい、わかりました。一ヶ月ほど前になりますが、この街がデーモンの群れに襲撃されるという神託がありました。そのため、街の住人達は一時避難という事で別の街へと避難しております。そして、神託には異邦人の方々がこの都市を訪れともに戦ってくださると言うものも含まれておりました」
「神託ね。それなら街の住人達も残っていてもよかったんじゃない?」
「この都市を襲撃してくると言うデーモンは強力です。身を守るすべを持たない住人達がいても邪魔になるだけ、という領主様の判断でした」
「なるほどね。それで、あなたたちはなぜ残っているの?」
「街に残されるのはある程度以上の実力を持った警備兵のみです。それだけではあまりにも無勢というもの。そして、神託通りに異邦人の皆様が来てくださったとしても、そちらをサポートできる人員がいなければどうにも出来ないであろうという判断で私達は街に残ることといたしました」
「この街を守ってくださる異邦人の皆様に何も出来ないというのは心苦しいこと。私達に出来る事があればお手伝いいたします」
「手伝いか。具体的には何が出来るんだ?」
「はい。まずは異邦人の皆様が持つ装備の封印を解除するサポートをいたします。封印解除には『魔封石』と呼ばれる石が一定数必要となりますが、そちらを用意していただければ私が装備の封印を解除いたします」
「魔封石ね。聞いたことがないアイテムなんだけど、それはどうやって手に入れればいいのかしら?」
「魔封石はデーモンの尖兵達が持っています。正確に言いますと、デーモンの尖兵を形作っている核が魔封石なのです」
「つまり、街の外にいるモンスターを倒して魔封石を集めればいいんだな。それで、俺達からのお願いなんだが、俺達は職人なんだけど、この街での生産拠点がないんだ。そう言った設備を用意してもらう事は可能かな?」
「そうですね……確認なのですが、皆様は自分達の生産拠点というのはお持ちでしょうか?」
「生産拠点というかホームは持っているわね。それがどうかしたの?」
「それでしたら、魔封石の魔力を利用して皆様の生産拠点のコピーをこの都市で扱えるようにいたします。そうすればご要望にお応えすることができますが、いかがでしょうか?」
「それは構わないけど、色々なことに使えるんだな魔封石って」
「魔封石とは、大量の魔力が込められた魔石です。なので、その魔力を使いサポートすることが可能なんですよ」
「ユーノは神託を受けることができる巫女の一人です。彼女でしたら魔力と引き換えに神の力を借りることも可能です。私達がこの街に残ったのはそう言う理由もあるのですよ」
つまり、このユーノという
都市周辺にいるモンスターを倒して魔封石を集め、彼女のところに持ってくることで装備の封印解除や拠点の整備が可能になると。
そうなるとまずは拠点を作るための魔封石から集めるべきかな。
「とりあえず拠点の事についてはわかったわ。それで、具体的に魔封石をいくつ集めればいいのかしら?」
「そうですね……。40個ほどの魔封石があれば皆様の拠点を再現することが可能かと」
「40個ね。了解したわ」
「はい、私もお手伝いできればいいのですが……戦いについてはあまり得意ではありませんので……」
「そこは役割分担として割り切るよ。それじゃ、まずは拠点を整備したいから俺達はこれで失礼するよ」
「はい。それでは魔封石の用意をお願いいたします。私は魔封石を受け取りましたらすぐに拠点を用意できるように準備いたしますので」
「では皆様、申し訳ありませんがよろしくお願いいたします」
「ああ、それじゃ、また後で」
〈クエスト『クランホームを用意せよ』を受注しました〉
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『クランホームを用意せよ』
クエスト目標:
魔封石を指定個数集める
0/40
クエスト報酬:
都市ゼロにおけるクランホームの使用権限
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