226.【1日目】集う猛者達

「さて、今日の打ち合わせだけどどうなると思う?」


 生産ギルドに向かう道の途中、柚月と今日の打ち合わせについて話してみる。

 柚月はたまにだけど生産系クランの会合にも参加しているらしいので、何となくではあってもどんな内容を話すかわかるかもしれない。

 普段の打ち合わせとはまた異なるから、参考にしかならないだろうけど。


「そうね……基本的には顔合わせと現時点で確認出来ていることの共有くらいにしかならないんじゃないかしら?」

「ふーん、そっか。……それって俺達まで参加する必要があるのか?」

「都市防衛戦は全体で協力し合って初めてクリアできるイベントだと思うわ。いつも通りのスタンドプレイじゃ上手く行かないと思うわ」

「そんなものか。……まあ、『ライブラリ』がいきなり周りにあわせろって言われても困るのは確かだけど」

「そう言う事よ。……まったく、たまにはあなたも生産系クランの会合に顔を出しなさいよ。顔を出したからと言って、特に困るような事は無いはずよ。……あなたの場合、銃の増産を依頼されるだろうけど」

「……そういうのが面倒だから参加しないんだけどな。俺にとってはゲームは楽しくプレイしたいものであって、他人に強要されるようなことはしたくないから」

「だとしても、もう少しオーダーの数を増やしてもらえると助かるのだけどね。トワの魔力なら一日あたり3~4人のオーダーをこなすぐらい余裕でしょ?」

「確かに余裕かもしれないが、俺が個人的に使える時間も結構削られるからな。そこまで大量に受けるつもりはないよ」

「そうは言ってもねぇ。最近追加されたレベル70以上のレイドって、装備品質が最低でも★11以上を想定してるらしいのよね。だからどこのクランもオーダーメイドの受注数を増やすって言ってたし、銃の生産に関しては★11以上を安定して作れるのってまだトワぐらいなのよね。だからそう言う意味でも増産してもらえるとありがたいんだけど」

「……考えておくよ。正直、それだけに時間を取られるのは、あまり好きじゃないんだけど」

「とりあえずは頭の片隅にだけでも入れておいてちょうだいな。……さて、生産ギルドに着いたわね。場所は大会議場って聞いてるけど、それってどこにあったかしら?」

「俺だって使ったことがないからわからんよ。とりあえず中に入ってみよう」


 この街の生産ギルド自体、訪れるのは久しぶりだ。

 基本的に生産ギルドに向かわなくてもいいようにクランホームの設備を整えてしまったからな。

 生産ギルドに顔を出す理由自体がないので足を運ぶ機会がないのだよ。


 生産ギルド内に入ると、普段とは違い多数のプレイヤー達がギルド内にいた。

 基本的にギルド内などの建物内部についてはチャンネル化されているから、そこまで混み合うことはないはずなのだが……

 これも今回の打ち合わせに関係あることなのだろうか。


「おい、今度は『ライブラリ』の【魔銃鬼】に【姐御】だぞ……」

「やっぱり、今回の打ち合わせには『ライブラリ』も参加か……」

「……って事は『ライブラリ』にも装備依頼ができる可能性があるって事か?」

「別に『ライブラリ』に限る必要はないだろ。他にも有名な生産系クランが結構来てるらしいし……」

「……普段『ライブラリ』が重宝されてる理由って、他の大手クランよりも高品質品を頼みやすいからだからな……」


 聞き耳を立てずとも、俺達が生産ギルドに入ったことで色々と話をされているみたいだ。

 さて、このままだと埒があかない訳だけど、どうしたものかな。


「お待ちしてました、『ライブラリ』の皆さん。『インデックス』のものです。大会議場まで案内させていただきます」

「あら、随分と気がきくのね。教授からの指示かしら」

「そうなりますね。大会議場も複数のチャンネルに別れているため、どのチャンネルに入らなきゃいけないかを教えないといけないので、こうして案内役が何人かいるんですよ」

「そうか、なら案内をお願いするよ。……ちなみに、入口付近でたむろしていたプレイヤーって一体何なんだ?」

「彼らは招待外の一般プレイヤーですね。一般プレイヤーからもある程度の人数が参加できるように抽選で参加者を選んだんですが、その抽選から漏れたプレイヤーがそのまま残ってる状態です」

「……別にここに残ってたところで特にいいことなんてないだろうにな」

「そうですね。今日の打ち合わせについての注意事項、と言いますか確認事項はこの後、クラマスから説明されると思いますのでそちらで確認してください」

「ええ、わかったわ」

「それではここが大会議場の入口になります。アクセスするチャンネルは1番を選択してください」

「了解。案内ありがとう」

「いえ。それではよろしくお願いします」


 案内役のプレイヤーから指示されたとおりに、大会議場の中に入ってみる。

 大会議場は普通の打ち合わせスペースとは違い楕円形の作りとなっており、中心部分からひな壇形式で段々と高くなっているのがわかる。

 中央部分がメインとなるクランの席と言った感じだろうか


 会議場内にはまだ開始10分以上前なのに大勢のプレイヤーがいた。

 近くのプレイヤー同士で話あっている者や、椅子に腰を下ろしている者、緊張してるのかウロウロと歩き回っている者などそれぞれの行動はバラバラだ。

 この部屋にどれくらいの数のプレイヤーが集結しているかはわからないが、とにかくかなりの数のプレイヤーが集まっていることは間違いない。


「さて、トワ。どの辺に場所を取りましょうか」

「別に目立つところにいる必要もないだろう? 端の方に座って待ってよう」

「……そう上手く行くとは思えないけどね。まあ、とりあえず移動しましょうか」


 いつまでも出入り口付近で立ち止まっているわけにも行かず、場所を移動する。

 大会議場の中でも後列の方で空いてる席を見つけてそこに座ることにする。


「今日のメインクランの一つが何を隠れようとしているのであるか」

「……ああ、教授か。別に俺達が前列に行かなくても問題ないだろう?」


 端の方でやり過ごそうと考えていたところを教授に見つかってしまう。

 ……これは前列に行かなきゃいけないパターンかな。


「『ライブラリ』が最前列でなければ、他のクランももっと後ろに座ってもらう必要が出てくるのであるよ。2人の席は既に確保済みなのである。大人しくついてくるのである」

「……わかったよ。それじゃあ移動しますか」


 やっぱり俺達には指定席が用意されていたらしい。

 結局のところ都市ゼロサーバーに参加している人数は5人しかいない零細クランなんだから、そんなに発言力は持っていないと思うのだけどな。


 教授に案内された場所は大会議場の上座と下座の中間よりも上座よりと言った場所だ。

 いつの間に作ったのか『ライブラリ指定席』と書かれたプレートが机の上に置かれている。

 教授に案内されるまま、俺達は指定された席に着く。


「ここが『ライブラリ』の席なのである。先にお願いであるが、今日の打ち合わせはライブ映像で他のプレイヤーにも公開する予定である。すまないのであるが、オプション設定でSSスクリーンショットやライブ映像に映らないように設定しているのであれば、その設定を解除してもらいたいのであるよ」

「……よくそんな設定を俺がしている事を知っているな」

「トワくんがその設定をしていることは一部のユーザーの中では有名であるからな。今日の打ち合わせ配信の間だけでいいので撮影許可の設定にしてもらいたいのである」

「わかったよ。……よし、設定完了したぞ」

「了解である。それでは打ち合わせが始まったらよろしく頼むのであるよ」

「わかった。ところでここにいるメンバーは全員都市ゼロの参加者なのか?」

「クラン関係については間違いなく都市ゼロの参加プレイヤーなのである。それ以外の一般プレイヤーについては、確認が出来ないのでわからないのである」

「……それでいいのかしら」

「基本的に情報が漏れたところで問題ないので構わないのであるよ。それに、いちいち都市ゼロのプレイヤーなのかを確認することの方が面倒なのである。都市ゼロ以外のサーバーではサーバー間でのランキングが決まるらしいのであるが、都市ゼロだけはランキングから除外されているのである」

「それってどういうことかしら?」

「何とも言えないのであるな。ただ、都市ゼロだけは色々と他のサーバーと違うことも確認済みである。今日のところはそのあたりの情報共有と現時点で判明しているイベントなどの確認が主な内容であるよ」

「了解。それじゃあ、打ち合わせが始まるまで待たせてもらうわ」

「そうしてもらえると助かるのである。それではさらばである」


 教授は伝えたいことだけ伝えると足早に去って行った。

 この打ち合わせのホスト側という事で他のクランにも説明する必要があるのだろう。


 周りを見回してみると俺達以外にも様々なクランが参加していることがわかる。

『白夜』や『百鬼夜行』ももちろん参加しており、俺達よりも上座側の席に着いている。

 二段目以降の席を見回してみるとハルやリクのパーティがいるのを見つける事ができた。

 ハルと目が合ったときにあちらが大きく手を振ってきたので、こちらも軽く手を振り返す。


 他にも一部知っているプレイヤー達がこの会議に参加しているようだ。

 見渡す限り、かなりの数の二つ名持ちプレイヤーが参加しているようである。

 軽く見渡しただけでも【剣豪】に【流星雨】の姿が確認出来た。

【流星雨】はどこかのクランに所属しているらしく、席の前にプレートが用意されていたがクラン名までは読み取れない。

 あとは……ああ、武闘大会の時にMCを務めていたミオンもいるな。

 あちらもクランとしての参加らしい。


 それから待つこと数分、最前列の席は全て埋まり、二段目以降もほとんどの席が埋まっていた。

 会場全体がかすかにざわめく中、ブザー音が鳴り響いた。

 ……というか、ブザーなんてあったんだな。


「それでは時間になったのである。これから第1回都市ゼロ攻略会議を開始するのである」

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