220.輝竜装備納品

 土曜日の夜はいつも通り『妖精郷の封印鬼』を攻略した。

 現状、スペリオルスキルは俺達には必要が無いが他のパーティにはまだまだ需要がある。

 なので俺達の分については基本譲ってしまい、有効なスキルがあるときのみ交換、それ以外は換金という事になっている。

 今回の攻略については【マジックブレイク】のスキルがでていたので、それを交換して手に入れた。


「お兄ちゃん、【マジックブレイク】なんて使うの?」

「んー、一応使うかな。刀を扱うようになったし」

「……ああ、あれ飾りじゃなくて実戦用だったんだ」

「最初は飾りだったんだけどな。刀術の道場に通うことになってそれで覚えた」

「刀術の道場かー。魔法剣の特殊流派もどこかにあるといいんだけどなー」

「魔法王国あたりに行けばあるんじゃないか? 魔法の研究とかは一番進んでいるらしいし」

「んー、それが一番だろうけど、遠いんだよね。今度皆で行くタイミングがあるか聞いてみるよ」

「まあ、そうしてくれ。魔法王国に何か面白いものがあったら教えてくれよ」

「はーい。行くのは夏休みイベント明けになりそうだけどね」


 今回のクエスト報酬も分配が終わりクランホームへと帰還。

 減っているアイテムがないか確認し、補充をしたらいい時間になっていたのでログアウトして就寝した。


 翌日曜日、今日は白竜帝から頼まれている輝竜装備の納品期日だ。

 俺の方は作れる装備品は全て作ってあるから問題ない。

 装備品が完成しているかどうかと言うのは、ドワンだけだろうな。

 何せ作れる装備の数が違う。

 実際にどの程度の数を作っているのかはわからないが……十種類じゃすまないんだろうな。


 とりあえず午前中に家事を済ませてしまい、午後からログイン。

 ログインすると『ライブラリ』のメンバーは全員ログインしていた。

 俺はジパンの屋敷にログインしていたため、屋敷からクランホームに転移する。

 転移先の談話室に着くとクランメンバーが全員揃っていた。


「あら、トワも来たの? 昼間に全員揃うなんて珍しいわね」

「そう言われればそうかも知れないな。輝竜装備は全員完成してるのか?」

「うん。私の料理は完成しているよ」

「ボクの分も完成してるよー」

「私も完成済みね。後はおじさんとドワンだけど……」

「おじさんは結局何も作れなかったよ。流石にスキルレベルが全然足りなかったみたいだね」

「わしの方もおおよそ完成かのう。これ以上、装備の種類を増やしてもどうにもなるまいて」

「そうか。なら、今のうちに輝竜装備の納品に行かないか? 夜まで待つ必要が無いなら、今のうちに納品してしまっても構わないだろう」

「……それもそうね。それじゃあ納品に行きましょうか」


 話はまとまったので早速イベントマップである浮遊島へと移動する。

 浮遊島に着いたら以前通ったとおりの道を再度行く事で、白竜帝が住んでいる岩山へとたどり着く。

 岩山の頂上付近では予想通り白竜帝が待ち構えていた。


『よく来たな、人間達よ。頼んでいたものは完成したのか?』

「ああ、完成したぞ。完成したものはどこに置けばいいんだ?」

『しばし待て。……よし、準備は出来た。今から台座を作るのでそこに並べてもらえるか』


 周囲の空気というか雰囲気というかそう言ったものが変わった気がする。

 どうやらインスタンスフィールドに移動したようだ。

 少し待っていると白竜帝が言ったとおり台座が現れたので、そこに完成した装備品などを並べていく。

 数が多いので並べきれるか不安だったが、台座の大きさは十分なスペースがあったので、それぞれ作成したアイテムを次々と並べていった。


『ほほう。これだけの数を揃えてきたか。……うむ、装備の質も予想以上だ。まさかこれほどのものが出来るとは思ってもみなかったぞ』

「褒めてもらえてありがとう。それで、この後はどうすればいいのかしら」

『うむ。まずはそれらの装備を我が取り込み力を与えるとしよう』


 白竜帝が台座に力を込めると俺達が作った装備が光り輝き、台座の中へと吸い込まれていった。

 そして台座自体が光りの球となり、白竜帝に吸い込まれていく。


『うむ。我が素材を使った装備、確かに受け取ったぞ』


〈ユニークシークレットクエスト『白竜帝の頼み事』をクリアしました〉


 どうやら、白竜帝にアイテムを渡したことでクエストクリアとなったようだ。

 問題は報酬の方なんだが……流石に報酬無しはないだろう。


『さて、依頼も無事達成したことだ。報酬の話に移りたいのだが……アクセサリーがなかったようだが、作れなかったのか?』

「流石にスキルレベルが足りなくてね。申し訳ないけどアクセサリーは作れなかったよ」

『そうか。そうなるとお主には報酬が渡せないが問題ないか?』

「問題ないねぇ。むしろ、結局何も出来なかったのに報酬だけもらったらそれはそれで遠慮してしまうね」

『わかった。それでは残りの者達への報酬だが、先程お前達が作った装備品の中から3つまで装備を渡すとしよう』

「3つ? ずいぶんと気前がいいな」

『こちらの予想よりもかなり質がいいものを作ってくれたからな。そのお礼だ。遠慮せずに選ぶがいい』


 白竜帝のセリフにあわせて俺の前に仮想ウィンドウが開く。

 そこには先程俺達が納品した装備品やアイテムがずらりと並んでいた。

 ただ、気になることが1つ。


「なあ、名前の後に『オリジン』ってついてるけどこれってなんだ?」

『今回だけの特別サービスだ。普段よりも強い力を込めて作った言わば原典よ。我が魔力を大量に込めてあるので壊れる心配も無い。ただし、渡した時点でお前達の魔力にあわせて調整させてもらうため、他人には使えなくなるがな。そこを考えて慎重に選ぶといい』


 ふむ、つまり耐久値無限、つまり破壊不可な代わりに譲渡不可か。

 誰かに渡すつもりはないし問題は無いか。

 さて、何を選ぶかだが……どうしたものかな。


「あら、防具は全身装備まとめて1つなのね」

『流石に各パーツごとにもらっても仕方があるまい。防具類はまとめさせてもらったぞ』

「それは話が早くて助かるわね。でも何を選ぼうかしら」


 防具類はシリーズセットで1つの扱いだが、はっきり言って強いことは強いが今の装備に比べてそこまで変わるものでもない。

 むしろ、単純な物理防御DEF魔法防御MDEFで見れば下がってしまう。

 ステータスボーナスも低いのでその点も含めたらマイナスだろう。

 ただし、『受けたダメージの10%をカットする』という特殊効果が付いているため、総合的に受けるダメージがどうなるかはわからないのだが。

 少なくとも防具に関しては俺が選ぶ必要はなさそうだ。


「あの、この料理ボックスってなんですか?」

『先程納品してくれた料理が手に入るアイテムだ。一日に手に入る数とストックしておける数には制限があるがな』

「なるほど……わかりました。ありがとうございます」


 ユキが作った料理も一定個数まで手に入るタイプのアイテムに変換されているらしい。

 流石に消耗品を1つと数えてしまうと使いどころが難しいから当然か。


「ふむ、わしは重鎧にタワーシールド、ハンマーの組み合わせでいいかの」

「ボクは弓に魔導弓、それから革鎧かなー」

「私は短杖に長杖、魔術士向けの服装備一式にしようかしら。ユキとトワは?」

「私は薙刀と料理ボックス2種類にしようと思います」

「俺は……どうしたものかな」


 普通に考えれば銃から3種類選べばいいのだが……ライフルはともかく、他の銃種は中途半端なんだよな。

 攻撃力が物理と魔法に散らばってしまっているから、総合的な攻撃力は高くてもそれぞれの攻撃力で見ると低い方になってしまう。

 貫通ダメージの特性があるからそこまで攻撃力が低くなることはないのだが、どうしたものか。


「トワくん、何で悩んでいるの?」

「うん? 防具は必要なさそうだから銃から3種類選ぼうと思っているんだけど、どれもイマイチ決め手に欠けてな」

「そうなの? どれを選ぶかは決めたの?」

「うーん……ライフルは選んでも問題ないと思うんだけど。他の銃種が攻撃力的に微妙でな……」

「そっか……それなら刀とか選ぶのはどうかな?」

「刀? スキルをとったから確かに使えるようにはなってるけど……」

「せっかく覚えたんだしもっておいてもいいんじゃないかな? 銃だけだと接近戦がきついわけだし」


 確かに一定以上の使い手相手だと、接近戦で銃のみの戦闘はきついんだよな。

 それを補うためのサブウェポンとしての刀か……悪くはないかな。


「ちなみに、刀って作ってたっけ?」

「うむ、作ってあるぞい。脇差、打刀、大太刀の3種類じゃ」

「そうか、脇差と打刀を作ってあるのか。……それなら脇差と打刀を選ぶのもありかな」


 装備品一覧の中から脇差と打刀を確認してみる。

 どちらも攻撃力は多少低いが、貫通ダメージがそれなりについているので攻撃力的には問題なさそうだ。

 何より魔法攻撃力がついているので、そちらの数値が高い俺との相性はかなりいい方だろう。


「決めた。ライフルに脇差、打刀の3つだ」

『ふむ、決まったようだな。それではお前達の選んだ装備を渡すとしよう』


 白竜帝から光の玉が俺達の元へと飛んできてそれぞれが選んだアイテムと変わる。

 俺が選んだ装備はこれだ。


 ―――――――――――――――――――――――


 輝竜銃 イニアスナイプ・オリジン ★12


 白竜帝レイゴニアの素材から作られたライフル

 魔力の力も持ち合わせており、その輝きを持って敵を撃つ

 相手の防御を一部無効化する力を持つ


 装備ボーナスDEX+120

      STR+40

 攻撃属性:物理・光・神聖

 攻撃力の5%を追加貫通ダメージとして与える


 ATK+432 MATK+186 STR+40 DEX+120


 破壊不可

 譲渡不可


 ―――――――――――――――――――――――


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 輝竜刀 朔月・オリジン ★12


 白竜帝レイゴニアの素材から作られた脇差

 魔力の力も持ち合わせており、その輝きを持って敵を斬る

 相手の防御を一部無効化する力を持つ


 装備ボーナスDEX+100

      STR+60

 攻撃属性:物理・光・神聖

 攻撃力の8%を追加貫通ダメージとして与える


 ATK+160 MATK+112 STR+60 DEX+100


 破壊不可

 譲渡不可


 ―――――――――――――――――――――――


 ―――――――――――――――――――――――


 輝竜刀 望月・オリジン ★12


 白竜帝レイゴニアの素材から作られた打刀

 魔力の力も持ち合わせており、その輝きを持って敵を斬る

 相手の防御を一部無効化する力を持つ


 装備ボーナスDEX+100

      STR+80

 攻撃属性:物理・光・神聖

 攻撃力の8%を追加貫通ダメージとして与える


 ATK+226 MATK+132 STR+80 DEX+100


 破壊不可

 譲渡不可


 ―――――――――――――――――――――――


『納品されずに残った装備や素材箱、および素材箱から取り出した素材類はこちらで消去してしまうが構わないな?』


 どうやら納品しなかったアイテムについては、全部消去してくれるらしい。

 イベントアイテム扱いで使うことのできない装備や素材だし、システム的に一気に消去してくれるならむしろ助かると言うものだな。


「わかった。そっちは消去してくれて構わないよ」

『了解した。……よし、消去は完了したぞ』


 インベントリを確認してみると、中に入れっぱなしだった未提出品がなくなっていた。

 言葉通り消去してくれたのだろう。


『さて、これで依頼は完全に終わったな。最後に我が真の姿を見せてやろう』

「うん?」


 白竜帝が咆吼を放つとその巨体が光り輝き、一回り巨大化した。

 全身も白一色だった鱗は光輝く白銀にかわり、背中の翼も一対増えている。

 何より竜の名前が変わっていた。


『これが我が真の姿、輝竜帝レイゴニアだ』

「……ずいぶん強くなってるような気がするが、その姿で戦うこともあるのか?」

『これまではなかったがな。この状態の我に挑みたいという者達が来るのであれば受けて立つのみだ』

「……それはまたご苦労なことで」

『どうだ、試しに手合わせしてみるか?』

「遠慮しておくよ。戦っても勝ち目はなさそうだし」

『そうかそうか。それではまた我が魔力で転送してやろうか?』

「ああ、お願いするよ。それじゃあ、また会う機会があったらな」

『うむ。そうだ、流石にオリジンは渡せないがイベントポイントと引き換えに先程の装備も渡してやろう。もしその気があるなら来るといい』

「わかった。それじゃあな」

『うむ。それではさらばだ』


 白竜帝、いや輝竜帝に中央キャンプまで転移してもらう。

 これで、俺達が直接関わるようなイベントは終了かな。


「それにしてもあの装備が手に入るとは思わなかったわ」

「そうですね。私も納品だけして終わりだと思ってました」

「よくてイベントポイントだと思ってたからねー。嬉しい誤算だよ」

「そうじゃのう。使い勝手はクセがありそうじゃが強い装備には間違いない」

「そうだね。自分も何か作れればよかったんだけど残念だね」

「ともかくクエストは終了したんだ。この後どうするかは帰ってから考えよう」


 俺達はイベントマップにある転移ポータルからクランホームへと帰還した。

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