218.ドラゴニュートの里

 昼食を食べてから家事をこなして午後のログイン。

 まずは王都のガンナーギルドと星見の都のガンナーギルドで銃製造を行ってから薬草を仕入れてクランホームに戻ってくる。

 自分の工房に戻ってみるとユキが料理をしていた。


「ユキ、料理の補充か?」

「あ、トワくん。うん、レイド用の料理の数が微妙な数になっていたからその補充だよ」

「そうか。……そうだ、この後ポーションを作り終わったらセイメイ殿の依頼でドラゴニュートの里まで行くんだけど、ユキも一緒に行かないか?」

「うん、わかった。それじゃあ一緒に行かせてもらうね」

「それじゃあポーションを作り終えたら声をかけるよ」

「うん、お願いね」


 ユキの同行も決まったので、俺は急いでポーション作成に移る。

 とは言っても作業としてはかなり慣れたものなので、いつも通り8割ちょっとが★12になる。

 全部を★12にするにはおそらくスキルレベルが足りてないんだろうけど、スキルレベルを上げるのにちょうどいいポーションってのがないからしょうがない。

 ひたすら数をこなして、ポーション作成を1時間程度で終わらせてしまう。

 ユキの方は……既に料理を終わらせて机に向かって何かをしているな。


「ユキ、終わったぞ。何をしてたんだ?」

「えっと、大したことじゃないよ。それでもう行くの?」

「ユキの準備が出来てるなら出発する予定だけど、どうする?」

「それじゃあ、出発しよう。準備は出来てるから」

「わかった。それじゃあ陰陽寮に行くぞ」


 ホームポータルから陰陽寮へ移動。

 陰陽寮でセイメイ殿への取り次ぎをしてもらい、セイメイ殿と面会する。


「ほう、早速来てくれたか。ユキ殿も同行するのか?」

「その予定ですが問題ですか?」

「いや、むしろこちらとしてはありがたい。それではこの書簡をドラゴニュートの里まで届けてほしい。届け先はクロが知っているのでそちらに聞いてくれ」

「わかりました。では書簡はお預かりします」

「うむ。頼んだぞ」


 ―――――――――――――――――――――――


『セイメイからの依頼』


 クエスト目標:

  セイメイからの書簡をドラゴニュートの里まで届ける

  ???

 クエスト報酬:

  ???


 ―――――――――――――――――――――――


 クエスト画面が表示されたが、書簡を届けた次の段階が謎になってるのが不安だな……

 セイメイ殿の事だから、そこまで悪い扱いは受けないだろうけど不安だ。

 セイメイ殿の書簡をクロ経由で預かり、俺達とクロは陰陽寮を出て星見の都北門へと移動する。

 流石に道中では着物アバター装備だと戦闘になったときに都合が悪いので、いつものコート姿に戻しておく。

 ここからは騎獣に乗って移動するらしく、クロは自分の騎獣を召喚した。

 クロの騎獣は8本足の馬、スレイプニルだった。


「それってスレイプニルか。また珍しいものを騎獣にしているな」

「そうか、異邦人にとってはまだ珍しいか。……まあ、スレイプニルを従えるには相応の力を示す必要があるから無理もないか」

「そうなんだね。ちなみにどこで仲間に出来るの?」

「ふむ……済まないが簡単に教えるわけにもいかない。長の許可が出れば別の話だが」

「なるほど。それじゃあ、今度聞いてみるか」

「構わないが、代わりに難題を押し付けられても知らないぞ。……もっともそちらのフェンリルに比べれば大人しいものだが」

「そうなんだね。でも、スレイプニルの方が強そうだよ?」

「そこは普段の鍛え方の差だろう。そちらはまだ育ちきってないようだからな。……さて、そろそろ出発するとしよう」

「わかった。それで、俺達はどっちに向かえばいいんだ?」

「まずは北東の方角だな。少々走りにくい道を行くことになるが……フェンリルならば問題ないか。では行くぞ」


 クロに先導されてドラゴニュートの里を目指して移動することに。

 北東の方角には山が見えてるしそこを登ることになるのかな。

 移動速度としてはフェンリルとスレイプニルで同等、あるいはスレイプニルの方が上と言ったところか。

 北東方向へしばらく進むと山道となり、あまり道としては整備されていない。

 だが、フェンリルにしろスレイプニルにしろ多少の悪路は気にせずに駆け抜ける。

 山道をしばらく行ったところで、クロが山道からそれて森の中の獣道のような細い道へと向かっていった。

 俺とユキもそれに続いて行くが……確かにこれは走りにくそうだ。


「クロ、この先に本当にドラゴニュートの里があるのか?」

「ああ。こんな辺鄙な場所に住むような変わり者達だが里は存在しているぞ」

「なんだってまた、こんな山奥に?」

「さあな。私だって知りたいところだ。もうじき崖道に出る。間違って転落しないように注意してくれ」

「わかった。フェンリル達は賢いし問題ないだろうが気をつけるよ」

「ああ、そうしてくれ」


 クロの言葉通り、森を抜けるとそのまま崖道へと進んでいく。

 馬が何とかすれ違える程度の幅しかない崖道を、俺達はスピードをさほど落とすことなく駆け抜けていく。

 しばらく進むと崖道から開けた広場のような場所に出て……そこでクロがスレイプニルを止めた。


「クロどうした……って、モンスターのお出ましか」

「そのようだ。以前はこのような場所に化生の類いは生息していなかったのだが……」

「2匹いますね。どうしますか?」

「1匹は私が引き受けよう。済まないがもう1匹は頼めるか? 倒せなくとも時間稼ぎをしてくれればいい」

「倒せるかどうかは試してみないとわからないけど、無理そうだったらよろしく頼むよ」

「ああ、任せておけ。では行くぞ!」


 現れたモンスターの1匹にクロがスレイプニルに乗ったまま突撃していく。

 さて俺達も戦闘準備は出来てるし、このまま戦闘開始と行こう。


「ユキ、まずは一当て試してみるぞ」

「うん、わかったよ。それじゃあプロちゃんお願い!」


 パーティに組み込まれていたシリウスとプロキオンに乗ったままモンスターへと攻撃を仕掛ける。

 モンスター名は岩蜥蜴、レベルは30か、これくらいなら俺とユキでも倒せそうだ。


 プロキオンはユキを乗せたまま岩蜥蜴へと飛びかかり、岩蜥蜴を押さえ込むように爪で斬りかかる。

 爪による攻撃は岩蜥蜴の皮膚に弾かれてあまり効果を発揮しなかったようだが、その動きを制限することには成功した。

 ユキはプロキオンの背から飛び降りながら岩蜥蜴に薙刀で斬りかかるが、こちらもあまりダメージを与えられていない。

 改めて看破を使い弱点や耐性を調べてみるが、物理攻撃そのものに耐性があるらしい。


「ユキ、岩蜥蜴は物理耐性持ちだ! 魔法攻撃主体に切り替えろ!」

「うん、わかったよ! シャイニングランス!」


 俺もシリウスから飛び降りてマギマグナムへ持ち替えて魔法攻撃を加えていく。

 ボスモンスターであったようだが、流石にレベル30しかないモンスターにはさほど苦戦せずそのまま倒してしまう。

 ボスモンスターではあったけど、特殊戦闘扱いのようでドロップアイテムやボーナスSPなどは手に入らなかった。

 クロの方を確認すれば、クロも既に岩蜥蜴を倒し終えておりこちらの様子を見ていたようだ。


「ふむ、流石にこの程度の魔物であれば苦労はしないか」

「この程度ならな。さて、それじゃあ先に進むか」

「そうしよう。ではついてきてくれ」


 岩蜥蜴を倒した広場から騎獣に乗って10分ほど進むと、開けた盆地に出た。

 盆地の中には町というか村というか、そう言った場所が広がっている。


「ここがドラゴニュートの里だ。先程、獣道に入ったがあの道をまっすぐ進んでもドラゴニュート達が多く住む街にたどり着く」

「わざわざこっちに来たと言うことは、それだけの用事があるのか?」

「ここに住んでいる住人に用事があったからな。それではまずは転移門に行こうか。異邦人としては転移門で移動できた方が便利だろう?」

「それは助かるな。よろしく頼む」


 クロに案内されて転移門を登録した後、書簡の届け先へと向かう。

 届け先は、なんというか立派な道場としか表現できない場所であった。


「ここが届け先か?」

「ああ、ここが届け先だ。この里のまとめ役をしているツキカゲ殿の屋敷だ」

「屋敷というか、ほとんど道場なんだが」

「……この里はドラゴニュート達の修行場所でもあるからな。ここの他にも様々な道場があるぞ」

「……なんというか嫌な予感しかしないんだが」

「そう言うな。長の事だから、その予感はあたっているだろうが、諦めてくれ」

「……わかったよ。それじゃ、中に入ろう」

「ああ、そうしてくれ」


 クロに先導されて屋敷の門をくぐる。

 屋敷ではドラゴニュート――見た目はヒューマンとほぼ一緒だが頭部に角が生えていて、体の一部に鱗がある――の男に案内され、道場へと足を運ぶことになった。

 道場では沢山のドラゴニュート達が木刀を使って稽古をしている。

 俺達が道場に入ると、初老のドラゴニュートがこちらに歩いてきて話しかけてきた。


「おお、クロ殿か。今日はどのような要件かな?」

「ツキカゲ殿、ご無沙汰しています」

「堅苦しい挨拶など抜きでいい。……それで後ろのお二方はクロ殿の連れかな?」

「はい。異邦人のトワ殿とユキ殿です。今日は長より書簡を預かって参りました」

「セイメイ殿からか。……という事は頼んでいた件か。まずは書簡を見せてもらえるか」

「承知しました。トワ、書簡を」

「ああ。これがセイメイ殿からの書簡になります」

「……ふむ。やはり頼んでいたことか」


 ツキカゲと呼ばれていた男はこちらを品定めするように視線を向け、それが終わると俺に話しかけてきた。


「実はセイメイ殿には1つ頼み事をしていてな。それでお眼鏡にかなったのがお主となる訳だが……この儂と手合わせ願えないかな?」

「……やはりそう来ましたか。書簡にはなんと?」

「うむ。『ツキカゲ殿に頼まれていた異邦人の戦士を一人向かわせる。この書簡を持っている男がその相手だ。後はツキカゲ殿に任せる』だな。それで、手合わせ願えるのかな?」

「……俺は戦士ではなくて職人なんですがね。……刀使いの剣士でしたら知り合いがいますのでそちらではダメですか?」

「ダメだな。儂はセイメイ殿が見込んだ相手と試合がしたい。セイメイ殿の紹介だ、そこまで弱いというわけではあるまいて。すまんが爺の道楽に付き合ってもらえないだろうか?」


 ……クエストの続きはこれか。

 断ってもいいけど、受けたところで問題は無いだろうし戦ってみるか。


「わかりました。ですが、あまり期待はしないでくださいよ」

「おお、受けてくれるか。それで、武器は何を使うのだ? この道場には特殊な結界を使っているから真剣でも構わんぞ」

「……基本的に俺はガンナーなので銃になりますが」

「ほう、ガンナーか。珍しいな。セイメイ殿の書簡には刀も使えるとあったが?」

「そちらは本職じゃないですね。嗜み程度ですよ」

「ふむ……ではすまぬが銃と刀、両方で手合わせを願えるか? 異邦人の技、どの程度か興味が尽きないのでな」

「わかりました。それでは先に刀を使った勝負から始めましょうか」

「承知した。刀は自前のものを使うか?」

「そうですね……木刀を借りても構いませんか?」

「よかろう。壁に掛かっている木刀の好きなものを使うがいい」


 俺はお言葉に甘えて壁に掛かっている木刀から、打刀と脇差程度の長さをした二振りの木刀を選ぶ。


「ほう、二刀流か。しかし、刀を両手に持ったからと言ってすぐに強くなるわけではないぞ?」

「それは十分に心得てますよ。小さい頃から二刀流で鍛えていたので、こちらの方がしっくりくると言うだけです」

「なるほど。それならばよい。では早速始めようか」


 俺が武器選びを終えたのを見て、ツキカゲ殿は待ちきれない様子で声をかけてくる。

 既に道場で稽古をしていた他のドラゴニュート達は道場の端によって座り、観戦する体勢になっている。

 俺とツキカゲ殿は道場の中央付近で向かい合う。

 ……こうして向き合うと、ツキカゲ殿がどの程度の腕前かというのがよくわかる。

 はっきり言って俺よりも遥かに上、クロとも戦えるレベルだろう。


「それでは準備はよいな。ツキカゲ流七代目ツキカゲ、推して参る!」

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