217.セイメイからの依頼

 明けて土曜日。

 今日は午前中からゲームにログインして、昨日の輝竜装備製作の続きを行う。

 俺の担当している装備で残っているのはマナカノンとマギマグナムの2つだけだ。


 クランホームにログインするとすぐにアイテム作成の準備に取りかかる。

 昨日の夜に比べて★12のパーツが増えているあたり、ドワンとイリスも頑張っているのだろう。

 俺は早速マナカノンの材料を取り出して作成を始める。

 昨日はMP300のST200までしか試していなかったが、今回はそれ以上の消費も試してみよう。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 あれこれ試行錯誤、と言うかMPとSTの配分を変えてみた結果、マナカノンとマギマグナムの★12も完成した。

 結果としてはMP450のST250と言う膨大なMPを注ぎ込むことで★12が完成した訳だ。

 正直、かなりの疲労感があることは否定できないが、とりあえず目標の品は完成したので良しとしよう。


 休憩に談話室へと向かうとそこにはドワンがいた。

 ドワンは様々な武器や防具を作っているはずなので俺達の中では一番忙しいはずだが、適度に休憩を取らないと疲労感から来る失敗やポーション中毒の可能性があるから仕方が無いだろう。


「お疲れ、ドワン。休憩か?」

「トワか。見ての通り、休憩じゃの。半分くらいは★12に出来たのじゃが、残り半分がまだなのでな」

「大変だな。どれくらいの種類を作っているんだ?」

「そうじゃのう。片手剣に両手剣、特大剣、打刀、脇差、大太刀、片手槍に両手槍、薙刀、ウォーハンマー、メイス、モーニングスター、バトルアクス、ツーハンドアックス、ポールアクスにハルバート、他にも武器数種類に防具じゃからのう」

「……それまた大量に作っているな」

「作れる武器はほとんど作っておるからのう」

「程々にな。それで休憩が終わったら続きの作成か?」

「うむ、その予定じゃ。……ああそうそう。トワよ、これを持っていけ」

「これは……打刀と脇差か」

「うむ、練習用に作った習作の一つじゃ。★12の装備になっているから死蔵するのももったいなくての。お主が刀を使えるのであれば持っていくがいい」

「……リアルではそれなりにかじってるけど、こっちで通用するかは別問題だぞ?」

「それでも死蔵しておくよりはよかろう。ミスリル銀とメテオライトの合金製だからの。それなり以上の強度を誇るはずじゃ」

「……それならもらっておくけど。使うかどうかはまた別問題だぞ」

「使わなければ使わないで構わんよ。……さて、そろそろ休憩も終わりにしようかの。それではな」

「ああ、頑張ってくれ」


 談話室を出て工房へと戻っていくドワンを見送り、俺はこれからの予定を考える。

 ……考えるが予定らしきものはまったくなかった。

 あえて言うなら、午後から薬草を仕入れたりレイドの準備をするぐらいか。

 午前中は元々ログインする時間じゃないからユキもいないし、やることはまったくないんだよな。

 とりあえずジパンの屋敷に行ってのんびりしてるか。


 ジパンの屋敷に転移して屋敷の門をくぐると見慣れない鳥が屋敷の玄関口のところにいるのを見つけた。

 見た目は確かに鳥なんだが……どう見てもこれは普通の鳥じゃないよな。

 鳥は俺の姿を見つけると、俺の方に飛んできて手の上に止まる。

 すると鳥の姿が変わり、1通の手紙と変わっていた。

 ……こんなことができるのはセイメイ殿ぐらいだろうな。

 手紙を開くと『退屈してるので会いに来てくれ』と言った内容の文章が書かれていた。

 ……それでいいのか、陰陽寮の責任者よ。

 ともかく呼び出された訳だし、用事も無いことだから会いに行くか。


「あれー、トワ。どこかに行くの?」

「うん? エアリルか。ちょっと陰陽寮にな」

「陰陽寮って事はセイメイって人のところ?」

「そうなるな。どうする、ついてくるか?」

「うーん、ボクも暇だし着いて行こうかな」

「わかった。それなら早く行くぞ」

「りょうかーい。それじゃしゅっぱーつ」


 俺の肩の上に座ったエアリルを連れて陰陽寮へと向かう。

 陰陽寮前のポータルも自由に出入り出来るようになっていたので、陰陽寮へと転移してそのまま陰陽寮の中へと向かう。

 途中門番がいたが、特に足止めされることもなく素通り出来た。

 おそらくセイメイ殿が手を回してくれているのだろうが、それでいいのかとも思ってしまう。

 そして陰陽寮の入口を入ると待っていたのはクロだった。


「来たか、トワ」

「クロ、なんでここに?」

「お前が来たようだから向かえに行けと長からの命令だ。……しかし、今日はジパンの服に帯刀か。なかなか堂に入っているじゃないか」

「それはありがとう。もっともこの着物は見た目だけで防御力は皆無だがな」

「それはわかるが、仕立ては見事なものだ。どこで手に入れたのだ?」

「俺の仲間が作った着物だな。俺の仲間には服飾専門の職人がいるからな」

「なるほど。それならば納得だ。……さて、あまり長を待たせるわけにも行かない。早速だがついてきてくれ」

「構わないけど、武器はそのままでいいのか?」

「異邦人にとっては装備を預けたところで大した差はないのだろう。ならば預かるだけ無駄というものだ」

「そうか、わかった」


 クロに先導されて俺はセイメイ殿の部屋へとたどり着く。

 セイメイ殿は俺が到着するのを待ちわびていた様子だ。


「来てくれたかトワ殿。精霊殿も一緒か。最近は忙しかったようだな」

「少々生産依頼が入ってまして。俺達の腕でもかなり難しい依頼でしたのでね」

「そうか。そちらの方は終わったのか?」

「俺の方は後は納品するだけですね。俺の仲間は作る種類が多いので、まだ終わっていませんでしたが」

「そうかそうか。それにしても今日はジパン風の衣装なのだな。なかなか様になっているぞ」

「それはどうも。個人的にはイマイチ着慣れていないのですがね」

「そうか? 似合っているのだがな。それに差している刀もなかなかの業物と見た。それもトワ殿の仲間が?」

「ええ、さっき渡されました。確認してみますか?」

「そうだな。せっかくだ、見せてもらおう」


 俺は側で備えていたクロに打刀と脇差を渡す。

 それを受け取ったクロはセイメイ殿のところへと刀を運んでいった。


「ふむ、見事な乱れ刃の刃文だな。実戦でも十分に使えそうだ。かなり腕のいい鍛冶士が作った刀だな」

「それはもう。うちの自慢の鍛冶士ですからね。もっとも、それは受けた依頼の刀を作るための習作らしいですが」

「これで習作か。完成品も是非みたいものだな」

「完成品を持ってくることが出来るかどうかは何とも言えませんね。依頼で作っている品なので」

「ふむ、それは残念。……そうそう、話を戻そうか。ここに呼び出した理由だが、少し頼み事があってな。出来ればトワ殿に頼みたかったのだが」

「依頼の内容にもよりますが、なんでしょうか?」

「うむ。この星見の都から暫し離れたところにドラゴニュート達の里があるのだ。そこに届け物を頼みたい」

「構いませんが……今日は俺一人なので、そんな簡単にたどり着けますかね? 最近はモンスターの活動も活発になってきていると言いますし」

「そこは心配には及ばん。クロを護衛としてつけよう。どうだ引き受けてはくれぬか?」


 届け物の依頼か。

 俺一人で行くのは厳しいし、何より午前中はこれ以上長時間ログインしている時間を取るのが難しいんだよな。


「……そうですね。今すぐには無理ですが、また後でなら大丈夫です」

「そうか。急ぎの品というわけでもない。よろしく頼むぞ。届け物は届けに行くときに受け取りに来てもらいたい。クロに渡しておくゆえ、クロに同行してもらえればそのまま届けられるだろう」

「……1つ聞きたいのですが、クロにそのまま頼めばいいのでは?」

「それもそうなのだがな。たまには先方にクロ以外のものを紹介したい。トワ殿であれば申し分ないのでな」

「そう言うことでしたら構いませんが。それではまた今度受け取りに来ます」

「うむ、よろしく頼む。……ところで、その刀はただの飾りとして挿しているのか?」

「……その気になれば実戦でも使えますが、それが何か?」

「いや、どの程度使えるのか気になってな。どうだろう、一戦クロと手合わせしてはもらえぬか?」

「手合わせですか……」


 さてどうしたものか。

 ゲーム内では【刀】スキルはおろか【剣】スキルすら持っていないのだ。

 つまりゲーム的なシステムアシストは一切受けられないわけで……

 まあ、セイメイ殿の頼みだし引き受けてもいいか。

 クロ相手ならは起こらないだろう。


「わかりました。でも、あまり期待しないでくださいよ」

「よいよい。どの程度使えるのか確かめたいだけだからな。それでは中庭に向かおうぞ」


 セイメイ殿とクロが立ち上がり歩き出した。

 俺も後を追いついて行く。

 たどり着いた場所はセイメイ殿の言葉通り中庭だった。


「ここでならば思い切り戦っても大丈夫であろう。では、クロ。よろしく頼むぞ」

「はい。では始めようか」

「わかった。お手柔らかに頼むよ」

「わかっている。では始めるぞ」


 クロはレイピアを取り出して構える。

 クロは刀を挿してなかったが、レイピア使いなのか。

 それに対して俺は刀を抜き下段の構えをとる。


「……ほう、防御重視か。ならばこちらから行かせてもらうぞ!」


 俺が構えたことを確認したクロは、一気に間合いを詰めて素早い突きを放ってくる。

 俺はその突きを刀で絡めるようにして払い、カウンターの突きを放つ。

 クロにはその動きも読まれていたらしく、突きの軌道上から体を反らす事で回避する。

 俺はそのまま水平切りに移行するが、クロはすぐさまバックステップで距離をとりこちらの攻撃範囲から外れてしまう。


「ふむ、素人ではないと思っていたがなかなかだな。では次、行くぞ!」


 クロは先程よりも素早い動きで接近し、突きを放ってくる。

 俺は先程と同じように受け流そうとするが、こちらがレイピアを払う前にレイピアが引き戻されて二段目の突きが飛んでくる。

 俺はその突きを体を回転させることで回避するが、すぐさま三段目の突きが俺に向かって放たれる。

 この体勢では躱すことは出来ないため、刀を使い三段目の突きを受け止める。

 クロは三段突きを放った後、すぐさまバックステップで距離を開ける。


「ほう、今の三段突きを全て受け流すか。見事なものだ」

「それはどうも。それじゃあ、次はこちらから行くぞ!」


 俺は下段の構えのまま一気に距離を詰め、切り上げから突き、水平切り、袈裟切りへと連続して攻撃を繰り出す。

 だが、どの攻撃もクロを捉えることは出来ず、躱されるか受け流されるかのどちらかだった。


「攻撃もなかなかだ。……だが、妙な違和感があるのは気のせいか?」

「……気のせいじゃないさ。それじゃあ、今度はでいかせてもらう」


 俺は刀の握りのを入れ替えて構える。

 そして構えを下段から霞の構えに変え、間合いを詰めると同時に突きを放つ。

 クロは予想通り受け流してくるが、そのまま体ごと回転して水平切りへと移行する。

 流石に回転の勢いも乗った一撃を受けるのは不利とみたのか、クロはその一撃をバックステップで躱して、反撃の突きを放ってくる。

 クロの突きはそのまま刀で受け流して、こちらもカウンターで斬りかかる。

 その一撃もクロには躱されてしまうが、構わず連撃で追撃を放つ。

 流石にこの攻撃はクロもかわすのが間に合わないのか、レイピアの刀身を盾にして斬撃を受け止める。

 数秒のつばぜり合いの後、お互い後ろに飛び下がり構えをとる。



「そこまでだ。二人とも見事だったぞ」


 そこでセイメイ殿から終了の合図がかかり、クロとの手合わせは終了となった。

 ……正直、このまま続けていたらスタミナSTがそこをついていたな。

 スキルは使用していないけど、かなりのスタミナSTを持って行かれていた。


「ふむ、想像以上に使えるな。どこかで剣術を習っていたのか?」

「ええ、まあ。昔から刀術を少々。では剣を使って戦ったことはありませんが」

「なるほど、異邦の世界の剣術か。それならばなおのこと都合がいいな」

「都合がいいとは?」

「なに、こちらのことだ。手合わせ、見事だった。では、都合のいいときにまた来てくれ」


 セイメイ殿は陰陽寮の中へと引き返していった。

 後に残されたのは俺とクロだが……


「なかなかの腕前だったぞ。……ただ、まだ本気ではないな?」

「んー、ではあれで本気だったけどな」

「……なるほど、二刀流の使い手か。今度はそちらで手合わせ願いたいものだ」

「まあ、機会があったらな。それじゃあ俺は引き上げさせてもらうぞ」

「ああ、わかった。それでは届け物の件、よろしく頼むぞ」

「了解。都合がつけば午後にでもまた来るよ」


 こうして想定外の手合わせという一件はあったが、無事陰陽寮での用事を終えることが出来た。

 さて、それじゃあ午後はセイメイ殿の依頼をこなすことにしようか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る