216.輝竜装備 3
夕食を食べて寝る支度まで調えたら夜のログイン。
まずは王都のガンナーギルドと星見の都のガンナーギルドで銃製造、その後薬草を仕入れてクランホームに戻りポーション製造。
これだけで大体3時間かかる。
その後は、店で販売しているポーションの在庫を確認して在庫を補充する。
そこまで終わったら、ようやく輝竜装備の製造だ。
しかし輝竜装備のパーツ、かなりの在庫が貯まってるな。
どうやらドワンにしろイリスにしろ、装備作りの合間にスキル経験値稼ぎも含めて大量に作ってくれているようだ。
パーツの品質もどんどん上がってきており、★11のパーツもいくらか混じり始めている。
これは本腰を入れて作り始めないと、パーツの生産量と消費量が釣り合わなくなってしまうな。
現状、既に釣り合わない状態になってるし。
「トワくん。私はそろそろ落ちるけど、トワくんはどうするの?」
「んー、俺は輝竜装備の作成かな。パーツも大量にあるし、いい加減消費していかないと期日までに最高品質品を作れなくなりそうだから」
「そっか、わかったよ。あまり無理しないでね」
「そこは弁えてるから大丈夫だよ。それじゃあおやすみ、ユキ」
「おやすみなさい、トワくん」
ユキがログアウトした事で工房内には俺一人しか残っていない状態になった。
ケットシー達を今日は見てないが、里にでも戻っているのだろう。
用事も無いしサクッと輝竜装備作りに取りかかろう。
――――――――――――――――――――――――――――――
輝竜装備を作り始めて4時間。
それぞれの装備を1時間ずつ作っているのだが、やっぱりまだまだ納得できる品質には届かない。
素材の品質が低い方から消費して行ってるのは事実だが、まだまだ素材は残ってるし、品質が低いものを残してもしょうがないという理屈から高品質素材ではまだ製造を試していない状態だ。
とりあえず、★8か★9の素材から★9の装備を作る事には安定して出来るようになっている。
だが、★10の素材をいくつか試したが★10にはならなかった。
おそらくはスキルレベルが足りないためだろうが、そうなるとひたすら生産してスキル修練を積むしかなくなるわけで……
今日も【上級錬金術】のスキルレベルは4も上がってるし、★12装備を作るにはどれだけのスキルランクを要求されるやら。
とりあえず流石に400近い銃を作って気疲れしてしまったため、今日の作業はここまでにして談話室で少し休憩してからログアウトすることにする。
談話室に行くと柚月とドワンも休憩していた。
「お疲れ、二人とも。休憩か?」
「ああ、トワ。休憩というか、ログアウト前のクールダウン?」
「流石に生産を続けて疲れているからのう。すぐにログアウトするというのも落ち着かないわい」
「そうだろうな。俺もそんな感じだし」
「そう言えばユキは?」
「ユキは4時間くらい前に既にログアウト済みだよ。あっちはあっちで大分進んでいるようだけどな」
「それならいいんだけどね。そっちの方はどうなの?」
「★10が出来ない。おそらくスキルレベルの不足」
「スキルレベルは?」
「10かな」
「それなら無理もないわね。私は13だけど★11を何とか作れるようになったところだから」
「わしも似たようなものじゃの。イリスも同じような感じじゃからスキルレベルを上げねばどうしようもなかろうて」
「……やっぱりそうなるよなぁ。明日からは日中も生産に充てないとダメかな……」
「そうした方がいいんじゃないかしら。大分スキルレベルの差が開いているしね」
「そうじゃの。見たところ銃のパーツ自体は余裕があるわけじゃし、生産ペースを上げないと間に合わないぞい」
「そうだな。それじゃあ、明日からは昼間もある程度は輝竜装備に時間を割くか……」
「そうしなさいな。……夏休みの宿題は順調かしら?」
「そっちはもう大方片付いた。だから心配しなくても大丈夫かな」
「ならいいんだけど。学生の本分は学業だからね」
「そう言う柚月達だって大学生だろう? そっちは大丈夫なのかよ」
「そっちは平気よ。きちんと単位は取ってるからね」
「単位を落とすような愚かな真似はせんよ。これでも成績優秀な方じゃ」
「そうなのか。……俺も2年後には大学受験か。早いうちから備えておかないとなあ」
「そうね。難関大学って呼ばれてるところを目指すなら、早いうちから対策をしておいた方がいいわね」
「目指してるのはそこまで難関な訳ではないけど。あまり手を抜ける場所じゃないのは事実だな」
「無理しない程度に頑張る事じゃて。ギリギリになってから慌てても手遅れじゃからのう」
「そうそう。私達みたいに推薦合格を勝ち取っていてβの時期に遊べるプレイヤーなんてわずかなんだから」
「それはそうだろうな。……ところで、ハル達って結局どうなったんだ?」
「ああ、それなら着物一式と浴衣を作る事になったわよ。生地は普通の素材でいいって事になってるし、それなら時間もそんなに取られないからサクッと作ってしまうつもり」
「なんか悪いな、手間をかけさせて」
「このくらい構わないわよ。いい息抜きになるし」
「ならよかった。無理をしない程度でよろしく頼む」
「了解。さて、それじゃあぼちぼち落ちさせてもらうわ」
「わしもそろそろ落ちるとしようかのう。トワはどうするんじゃ?」
「俺はもう少しゆっくりしてから落ちるとするよ。それじゃあ、お疲れ様」
「うむ、お疲れ様じゃ」
「お疲れ。あまり遅くならないうちに落ちなさいよ」
「わかってるって。それじゃあな」
二人がログアウトするのを見送り、俺はジュースを取り出してそれを飲み干す。
さて、今日のところは俺もログアウトするとしよう。
――――――――――――――――――――――――――――――
あれから3日、午前中は勉強に費やし、午後からは銃製造と輝竜装備作成によるレベリング、夜はそれに加えてポーション作成という日々を過ごした。
【上級錬金術】のスキルレベルも順調に上がっており、今では15となっていた。
【上級調合術】は未だに3にしかなってないのに、スキルレベルの差は歴然としたものになってしまった。
サブジョブもとっくに魔法錬金術師をカンストして、中級錬金術士もカンスト寸前まで来ている。
大量のスキル経験値が入ったおかげであるが……それはいいとしよう。
輝竜装備の品質もようやく安定して高いレベルのものが出来るようになってきており、★11までなら作れるようになっていた。
だが、未だに★12は出来ていない。
他の皆も★11止まりらしく最高品質の壁が立ちはだかっている状態になってしまった。
他の皆もそうだが、俺の方でも気晴らしの名の下に通常装備の★12装備を作ったりして遊んでおり、店の方では迂闊に販売できない在庫が増えて行ってる状態だ。
「さて、どうしたものかしらねぇ……」
全員が同じ状況で足踏みしている以上、何かしらの原因があるはず。
その見解に基づき、全員で集まって相談しているわけだが……なかなか糸口は見いだせない。
「トワの特殊ポーションにユキの料理のダブルブースト状態でも★12に届かない。かといって、ブースト無しだとどうなるかと言えばこっちでも★11が完成する。つまりは何かが足りてないって事なのよねぇ……」
「問題は何が足りていないかじゃのう。スキルレベルは15になっておる。この状況でも足りていないとなると、お手上げだぞい」
「スキルレベルも15になってからなかなか上がらなくなってきたしねー。極意スキルも50でカンストしちゃって上位スキルに進化できないしお手上げだよねー」
「うーん、皆さんが同じ状況って事は原因があるはずなんですが、何かがまったくわかりませんよね」
「そうだな。俺もようやくスキルレベルが15まで到達したけど、13ぐらいから★11にはなっていた。そう考えると別の原因があると思うんだが……」
「おじさんにはわからない話だねぇ。……おじさん、まだ【中級細工】の段階で輝竜装備の加工が出来ない状況だしね」
「おじさんはしょうがないわよ。そもそもプレイ期間が違うわけだし」
「そうなんだけどね。βの時は同じレベルで話が出来てたことを考えるとねぇ……」
「そっちは、スキルレベルを上げてもらうしかないな。あと、ギルドランクを上げて上級生産セットを買えるようになってもらうのと」
「そっちもコツコツやってるけど、なかなか上がっていかないね。βの時と大違いだよ」
「おじさんはおじさんで頑張ってもらうとして。どうすればいいと思う?」
「いい考えが浮かばんのう」
「同じくー。どうすればいいか見当がつかないよー」
「ですよね……どうしたらいいんだろう?」
「うーん、こうなったら依頼者に聞きに行くか?」
「依頼者って……白竜帝?」
「ああ。依頼してきたのはあっちだし何か妙案なり解決策なりを知っているかも知れないだろう」
「……それもそうね。白竜帝のところに行ってみましょうか」
「それもいいかもしれんな。少なくとも気晴らしにはなるじゃろう」
「そうだねー。行ってみようか」
「わかりました。それで、いつ行きますか?」
「これからでもいいんじゃないか? まだ夜遅い時間じゃないし」
「善は急げって言うところかしら。急ぎの依頼も入ってるわけじゃないし行きましょう」
「それじゃあ、おじさんは留守番かな。アクセサリーは間に合いそうにないって伝えてもらえるかな?」
「了解。それじゃあ行きますか」
柚月の言葉通り、善は急げというわけではないが俺達5人はパーティを組んでイベントエリアである浮遊島へと移動する。
そこから白竜帝のいる岩山まで走るわけだが、まっすぐ行こうとすると森林地帯を抜けなければいけないので、前回と同じ道程で向かうことになった。
深林の中を馬で走るのは大変だからな。
しばらく移動して岩山を駆け上がり、白竜帝の元へとたどり着く。
白竜帝は相変わらず岩山の上に陣取っていた。
白竜帝との交渉は柚月が代表して行うことになっている。
『来たか、人間達よ。依頼の品は完成したのか?』
「完成ね。それについて相談があるのだけど」
『何か問題でもあったのか?』
「ええ。これを見てほしいのだけれどいいかしら?」
柚月が取り出したのはレザーアーマーだった。
所々を白竜帝の鱗らしきもので補強してあるその装備は、現状でも十分な防御力を持っているらしい。
『ふむ、なかなか見事な出来栄えだ。それで、これのどこが問題なのだ?』
「品質が一定以上に上がらないのよ。全員が同じ状況だから、何か原因があると思うのだけど」
『なるほど。それで我の元に来たという訳か』
「そう言うこと。何か心当たりがあるなら教えてもらいたくてね。ああ、それからアクセサリーは間に合わないって言う話よ」
『アクセサリーの件は了解した。それで品質が上がらないという話だが、お前達は【気力操作】と【魔力操作】は覚えているか?』
「それなら覚えているわ。それがどうかしたの?」
『おそらくは作るときに装備に込められる気力と魔力が足りていないのだろう。それらの装備からは、我の欠片から作られたにしては感じる力の量が少ないように感じる』
「……これでも結構な気力と魔力を注ぎ込んでいるつもりなんだけどね」
『それでも足りていないのだろう。それから込めるときは魔力の方を多めに込めるのだ。我の欠片は魔力との親和性が高いからな』
「……なるほどね。わかったわ。帰ったら試してみるとするわ」
『話はそれだけか? 用件が済んだのならまた湖の側まで転送してやるがどうする?』
「他に聞きたいことがある人っているかしら?」
「わしはないのう」
「ボクもー」
「私もありません」
「俺もないな」
「……という訳だから転送をお願いできるかしら?」
『わかった。それではよろしく頼むぞ』
白竜帝に転送されて中央キャンプに戻ってきた俺達は、すぐさまクランホームに戻り生産を試してみることに。
全員で別れて試すのもなんなので、試しに俺が作ってみることになった。
「さて、それじゃあハンドガンを作ってみるが、どうしたものかな」
「素材自体は昨日から★12が出来ておるからのう。それを使う以外にあるまい」
「中間素材は今までのやり方で足りてるあたりがめんどくさいよなぁ。ちなみにこれを作るときにどれくらいの
「50の50と言ったところじゃのう。普段からそれくらいは消費してるからあまり気にしておらなんだ」
「ボクも同じくらいかなー」
「そうか。さて、それじゃあ、どのくらい込めたものか」
どの程度込めるかを考えつつも素材を並べていく。
……魔力多めの方がいいという話だし、MP300のST200ぐらいでやってみるか。
いつもの手順に従い銃の作成を始める。
その時に過剰とも思えるくらいの魔力と気力を注ぎ込む。
目の前でバチバチと火花とも電光とも取れるエフェクトが飛び交い、やがて一つの銃に収束していった。
完成した銃はいつも通りの外観ではあったが、そこに込められた力は見た目でわかるほど強い圧力のようなものを感じた。
完成したハンドガンを鑑定してみると★12で完成していた。
「……どうやら成功したようね」
「そのようだ。かなり大量のMPとSTを注ぎ込んだけどな」
「どれくらい消費したの、トワくん?」
「んー、MP300にST200かな」
「……普通に1回の作成で枯渇しそうな値ね」
「……ああ、柚月は魔術士だからSTが少ないのか」
「そうね。装備補正でその程度だったら何とかなるけど、かなりきつい値ね」
「それじゃあもう少し低い値で試してみるか」
ハンドガンとライフルで試してみた結果、ハンドガンはMP200とST150でもいけたが、ライフルはMP400とST200じゃないとダメなことが判明した。
これは作る装備でかなりの差が出てるな……
「とりあえず実験としてはこんな物か」
「そうね。これはいざとなったら料理でステータスを引き上げないとダメかしらね」
「そうじゃのう。わしだとMPがきついわい」
「ボクはどっちも何とかなるけど、1つ作る度に休憩かポーションかが必要かなー」
「……わしは作る装備の種類が多いから、今日から作り始めないと日曜日の完了まで間に合うか怪しいのう」
「ポーションは多めに共有倉庫に入れておくから頑張ってくれ」
「ありがたくいただくとしよう。それではわしも自分の装備を作成に行く。それではな」
「じゃあ私も行こうかしら。実験、ありがとうねトワ」
「トワ、またねー」
柚月達3人は工房を出て行った。
ユキの方も自分の生産設備で料理を始めている。
俺も残りの2種類を★12で作るのを目標に頑張るとしよう。
だが、結局この日はマナカノンとマギマグナムの★12は完成しなかった。
まだ1日余裕があるし大丈夫だろう、きっと。
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