215.夏休みの日常 2
待ち合わせ場所として転移門広場を指定されたので、ホームポータルから星見の都の転移門広場へと移動する。
まだまだ異邦人の数が少ないジパンではハルやリク達の姿はすぐに見つかった。
「やっほー、お兄ちゃん。さっきぶり。星見の都に着いたよ」
「見ればわかるよ。それにしても意外と早かったな」
「んー、高速船が予定よりも早く着いたから。入国審査で少し時間がかかったけど、セキの街は転移門の登録だけして全力で駆け抜けてきたからこんな物だよ。ボスも弱かったし」
「確かにな。あれだったらクラウドベアの方が強かったぜ」
「それは俺も思ったが、何か理由があるんだろうよ。それで、これからどうするんだ?」
「はいはーい! ジパンのホームエリアが見たい!」
「……先にギルドに顔を出してきたらどうだ?」
「んー、それはお兄ちゃんの案内じゃなくても出来るから後回しでいいかな? それよりもホームエリアだよ」
周りを見回しても全員反対意見は無いみたいだ。
仕方が無いのでホームエリアの案内と行こう。
「わかったよ。……とは言ってもそんなに案内する場所はないぞ?」
「えー。そんな事無いと思うけどなぁ」
「ホームエリアって言ったって決まった家しかないんだから、見て回るようなものでもないだろう。せいぜいどのサイズの家がほしいかとか、どの場所の家がいいかとかそれぐらいしか差はないぞ」
「それが大事だと思うんだけどなぁ」
「ぶっちゃけ、その辺のことはホーム屋に行った方が早いしな。まあ、ついていってはやるからそこから先は自分達で決めてくれ」
「はーい。それじゃあ、ホームエリアに移動しよう」
俺達は全員でホームエリアへと移動する。
ジパンのホームエリアは相変わらずのどかな光景である。
「これがジパンのホームエリアかぁ。なんというか田舎町っぽい?」
「否定は出来ないな。のんびりしたいならいい環境だと思うけど」
「そうだな。のんびりしたいなら良さそうだ」
「うーん、セイルガーデンのホームエリアはなんというか住宅街って感じだったけど、こっちは大分違うね」
「そう言えばセイルガーデンのホームエリアは行ったことがないな。どんな場所なんだ?」
「さっきも言ったけど、住宅街としか言いようのない場所かな。ああでも、工房を設置できるらしいし住宅街と言うよりも工房街とでも言えばいいのかな?」
「……言いたいことはわかった気がする。どっちにしてもこんなのどかな場所じゃないんだな」
「うん。完全に王都の一部って感じの場所だよ」
「そうか。俺には関係ないけど一度行ってみるかな?」
「うーん、あまり行っても面白味のない場所だよ? 普通に王都の中を歩いてる感じだし」
「機会があれば行ってみるさ。……さて、ここがホーム屋だな」
「ポータルのすぐ側なんだね」
「離れてても仕方が無いだろう。それで、お前は家を買うことにしたのか?」
「うーん、一度実際に見てからかな。皆でシェアする予定だし、それなりに高い買い物だから慎重に選ばないと」
「それがいいだろうな。リクはどうするんだ?」
「俺達も一度見てからだな。俺達の場合はあまり必要でも無いんだが……」
「あたし達がほしいんだよね。やっぱりハウジングってのにも興味があるし」
どうやらリク達の方ではシノン達女性陣が家に興味があるらしい。
リク達の方は……そこまで興味があるって訳じゃなさそうだな。
「……って訳で女子が張り切っててな」
「まあ、いいんじゃないか? 三人だったら中サイズの家でも収まるし」
「ふーん、そうなんだ。じゃあその家を見せてもらうとしよう」
「そうするといい。それじゃ、中に入るぞ」
「はーい。どんな家なんだろう」
こらえきれないと言った様子でワクワクしている妹様を先頭に全員でホーム屋へと入った。
その後は、それぞれのパーティごとに別れて色々説明を聞いている。
俺とユキもついでだから説明を聞いていて初めて知ったのだが、ホームエリア内の移動のためのサブポータルも用意されているらしい。
俺達の屋敷は特殊エリアに属しているようで、そもそも歩いてはたどり着けないらしい。
一通り説明を受けた後、ハルのパーティ、リクパーティの女性陣、リクパーティの男性陣、これら3つのグループに分かれて家を案内してもらう事になったようだ。
さて、俺はどうしようかな。
「お兄ちゃん達はどうするの?」
「うーん、これといってやることはないな。屋敷を拡張する必要も無いし」
「ふーん、それじゃあ一緒に来る?」
「さて、どうしたものかな」
「一緒に行こうよ。せっかく誘われてるんだし」
「まあいいか。それじゃあハル達についていくとするか」
「わかった。それじゃあ俺達は俺達で見学させてもらうわ」
「そうしてくれ。それじゃあな」
「おう、またな」
リク達とは別れてハルのパーティと一緒に家を見学に行くことにする。
ハル達のパーティが見学先として選んだのは、海の近くの高台にある家である。
サイズから考えて最大サイズ、8部屋の家かな。
「おー。地図で見せてもらったときも思ったけど、なかなかのオーシャンビュー」
「地図だけでは細かい所までわかりませんから、見に来てよかったですね」
「でも、なんでまだこんないい条件の物件が残ってるんだろ?」
「まだ人があまりジパンにきていないからだと思いますよ。ジパン行きの高速船も私達が乗ったのが2本目だという話ですし」
「まあ、いい家が手に入るなら何でもオッケー! さて、中も見せてもらおうよ」
「それもそうですね。行きましょうか」
ホーム屋の店員に案内されて家の中へ入っていくハル達。
俺とユキも一緒に家の中へと入っていく。
家の内装は……前に見た家と同じだな。
「ふむふむ、1階が2部屋で2階が6部屋か。お兄ちゃんに教えてもらった家と同じ間取りかな?」
「そのようですね。2階からの眺めもよかったですし、ここに決めてもいいんじゃないでしょうか」
「そうだね。この家以外で確認したい家って誰かあった?」
ハルの言葉に対して全員が首を振って答えとする。
どうやら、ハル達の家はここで決まりのようだな。
「それじゃあ、ここをわたし達の拠点としよう! 店員さん、契約ってどうすればいいの?」
「はい、契約は店舗に戻ってからお願いいたします」
「了解、それじゃあ戻ろうか」
ハル達の方はすんなりと家が決まったようだ。
ホーム屋に戻るハル達と一緒に俺とユキもホーム屋へと戻る事にする。
「ねえねえ。お兄ちゃんの家ってどこにあるの?」
「どうやらこことは切り離されたエリアにあるらしいな。ポータル経由でないと行けないみたいだ」
「そうなんだ。というか、お兄ちゃんは今までどうやって行ってたの?」
「普通にログインするときにログイン先を選択できるからな。クランホームに用事があればクランホームでログインするし、屋敷の方に用事があればそっちにログインすればいいから」
「つまり普段は普通に移動したことはないんだね」
「そうなるな。そもそも、家から出歩く理由がなかったし」
「うーん、発言だけ聞くと完全に引きこもりだよ?」
「そう言われてもな。最初からホームポータルつきの家だったから門のところにホームポータルがあるんだよ。そこからどこでも自由に移動できたから出歩く理由がなかったし」
「そう言うものなんだ。……今更だけど、着物着てるけどどうしたの、それ?」
「本当に今更だな。柚月が作ってくれたんだよ。ユキのと一緒に」
「そうなんだ。頼めばわたしのも作ってくれるかな?」
「どうだろうな。今、難しい依頼を受けてるから忙しいかも知れないし、逆に気分転換に引き受けてくれるかも知れないし」
「ずいぶん曖昧だね。でも『ライブラリ』で難しい依頼ってどんな依頼?」
「んー、ちょっとしたアイテム製造の依頼だよ。全員それを受けてるから俺もやってるんだけどな」
「そうなんだ。それじゃあ後でお願いに行ってみようかな」
「好きにしてくれ。それで、まだ案内は必要か?」
「お兄ちゃんはつれないなぁ。もう少しカワイイ妹に優しくしてもいいと思うよ?」
「自分でカワイイとか言うな。……それで、他に用事は無いのか?」
「んー、お兄ちゃんの家に行ってみたいかな」
「わかった。とりあえずポータルの前で待ってるから契約を済ませてこい」
「はーい。それじゃ少し待っててね」
ホーム屋に入っていくハル達を見送り、ユキと一緒にポータルの前でハル達を待つ。
ハル達は数分で戻ってきた。
全員で戻ってきてるあたり、全員で俺達の屋敷に来るみたいだな。
「お待たせお兄ちゃん。それで、お兄ちゃんの家はどこにあるのかな?」
「ちょっと待て。……『特別区画1』って場所だな」
「名前からして特別そう。……えーと、うん、移動先にあるね」
「それじゃあ、そこに移動してくれ。道案内はそっちに行ってからする」
「おっけー。それじゃあ、皆行くよー」
先にハル達がポータルから移動していき、俺とユキも後を追うように移動する。
移動した先は……うん、屋敷のすぐ近くだ。
「ここが特別区画かぁ。それで、お兄ちゃんの家ってどこ?」
「どこというか、あれだ」
ポータルすぐ側の屋敷を指さしてハルの質問に答える。
それを見たハル達は、驚いた顔をしているな。
……実際、この立派な屋敷を見たときは俺も驚いたし。
「うーん、これは家というよりも屋敷だよね」
「そうですね。ここまで立派だとは思ってませんでした」
「俺も初めて見たときは驚いたからな。それで、中も見ていくのか?」
「うーん、どうしようかな。中も見てみたい気がするけど、柚月さんに着物も頼んでみたいし」
「……それなら、俺が柚月の予定を聞いてくるか? 案内はユキに頼んで」
柚月がログイン中なのはフレンドリストから確認済みだ。
そして、柚月がクランホームにいることもフレンドリストで確認出来る。
「わたしはそれでも構わないけど、いいの、ユキ姉?」
「私も構わないよ。家を案内すると言っても大したものはないんだけどね」
「家具一式、今日揃えたばかりだからな。ハル達がそれで構わないなら、俺が柚月の予定を聞いてくるぞ」
「じゃあ、お願い。わたしもせっかくだし着物が着てみたい!」
「わかった。ちなみにサリー達はどうする?」
「ええと、私達もお願いしていいんでしょうか?」
「聞くだけならタダだしな。柚月の裁量次第だが聞くだけなら問題ないだろう」
俺の答えを聞いてサリー達はお互いの意見を確認する。
「……それじゃあ済みませんが、私達の分も作れるか確認してきてもらえますか?」
「了解。それじゃあ、こっちの案内は頼むぞ、ユキ」
「うん、それじゃあまた後でね」
「ああ。それじゃあ、また後で」
俺は屋敷の前で皆と別れてクランホームへと転移する。
転移先の談話室には都合がいいことに柚月が休憩していた。
「柚月、ちょっといいか?」
「ああ、トワ。どうかしたの?」
「ハル達のパーティが着物がほしいそうなんだけど作る余力はあるか?」
「着物ね。トワやユキに作ったのと同じで、防御力のほとんど無いアバター装備としての着物なら作れるわよ。というか、それでいいなら是非作らせてほしいわね」
「……やっぱり輝竜装備が上手く行ってない感じか?」
「最初の頃に比べれば結構よくなってきてるけどね。いいスキルのレベル上げになってるわ」
「なるほど。それじゃあ、これからハル達を連れてきても問題ないか?」
「構わないわよ。……ああでも、そろそろ夕飯の時間じゃないの?」
「そう言えばそんな時間か。それなら夜とかの方が都合がいいか」
「そうね。夜10時ぐらいに来てもらえるように伝えてくれるかしら」
「わかった。それじゃあ伝えてくる」
俺は屋敷の方に戻り、縁側で休憩していたハル達に柚月からの伝言を伝える。
ハル達も問題ないようだったので、後はハル達と柚月の間で話し合ってもらえばいいだろう。
「それじゃあ、俺はそろそろ一旦落ちるぞ。晩ご飯の支度をしないとな」
「あ、もうそんな時間なんだ。私もログアウトして夕飯の準備しなきゃ」
「ああ、もうそんな時間なんだね。それじゃあ、今日は解散しようか」
各自、夕飯の時間が近いと言うことでこの場で解散と言うことになった。
ハル達はせっかくなので買った家に戻ってログアウトするそうだ。
俺とユキも夕飯の準備があるのでそのままログアウトすることとなった。
さて、今日の夕飯の献立は何にするかな。
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