214.夏休みの日常 1
一夜明けて火曜日、今日も朝の支度、つまりは刀術の形稽古や朝食の準備等を済ませて午前中からログインして輝竜装備の続き……とは行かなかった。
陸斗が雪音とともに宿題を抱えてやってきたのだ。
「……それで、何でまた急に宿題を抱えてやってきたんだ?」
「いや、今日の昼過ぎまで俺のアバターは船の中なんだよ。イベントマップには行くことが出来るけど、今日の午前中は各自自由行動って事になってさ。それなら宿題を少しでも進めておきたくて」
「それで、なんで俺の家に来ることになるんだよ」
「いいじゃねーか。……一人だと宿題あまり進まないし、雪姉だとあまり宿題教えてくれないんだよ」
「自分で解ける範囲は自分でやるようにいつも言ってるよね、陸斗?」
「いや、そうなんだけどさ」
「はぁ……来てしまったものはしょうがないから、一緒に宿題をやっても構わないけどどこまで終わってるんだ?」
「えーと……こんだけかな?」
「……このペースで行って夏休み中に宿題終わるのかよ」
「……だからこうして助っ人を頼みに来てるんだろ」
「はぁ……まあ、いい。それなら早いところ宿題始めるぞ」
「おう! ……ところで遥華ちゃんは?」
「遥華ならゲームをしてるんじゃないか? あいつ、もう宿題ほとんど終わったらしいし」
「……相変わらず、遥華ちゃんは学業も優秀だな」
「お前みたいにゲームばかりやってると、すぐに両親から指導が入るからな。その辺は弁えて行動してるよ、あいつは」
「……それでいて俺と同じか少し上ぐらいの腕前なのが羨ましいぜ」
「お前の場合はリアルスキルで劣っているって言うのが大きいと思うぞ?」
「……うるせー。それは理解してるから言うな」
「でも遥華ちゃんって勉強も出来るし、運動神経もいいよね。私もちょっと羨ましいかな?」
「代わりに球技関係は大分苦手らしいけどな。曰く、『あんな細かいこといちいちやってられない』そうだ」
「……遥華ちゃんって結構勢い任せなところあるからね」
「そう言うところも含めてらしいんだけどな。……さて、時間がもったいねーし、早いところ宿題始めようぜ」
「……それもそうだな。始めるとするか」
「うん、始めよう。私ももうすぐ宿題終わるし」
「そうだな。俺ももうすぐ終わりだな」
「……なんで、俺と同じくらいゲームをやってる二人がもう宿題終わるんだよ……」
「単純に宿題に割いてる時間の差だと思うぞ? 俺も雪音も午前中は基本的に宿題をやってるわけだし」
「……だとしても納得いかねー」
「ほら、いつまでもぼやいてないで手を動かす」
「はいはい。わかってるよ」
それからはしばらく、三人で宿題に取りかかった。
……基本的に陸斗が詰まったところを俺か雪音が教えるという形ではあったが。
そのまま午前中は宿題で時間を潰すことになり、宿題があらかた片付いた俺と雪音は陸斗の宿題を見ることに専念することになった。
陸斗の宿題が遅れれば、その影響をもろに受けるのは俺達だからな。
陸斗に宿題を教えながら時間が過ぎていき、やがて昼食の時間が近くなってくると雪音が昼食の準備のためキッチンに向かった。
雪音も俺の家のキッチンは勝手知ったるなんとやらと言うヤツで、どこに何があるのかはよく理解している。
なので、昼食については雪音に任せることにした。
ちなみに、パスタを作る予定らしい。
「そう言えば、悠と雪姉ってジパンで家を買ったんだっけか? どうなんだ、使い心地は?」
「悪くはないな。まあ、ジパンの屋敷はまだまだ手を加えてないから何もないけど」
「家じゃなくて屋敷なのかよ……」
「あの規模になると家じゃなくて屋敷だな。個室が10部屋に畑と道場がついてるから」
「何その豪華な屋敷。いくらしたんだよ?」
「んー、合計で800万かな。雪音と半分ずつ出し合って共同購入って形になってるけど」
「……つまり400万ずつ出し合ったってことか。そんな金額をポンと出せる懐具合が羨ましいぜ」
「ま、最上位のポーションと料理販売をほぼ独占してるわけだからな。仕入れ値を考えても利益はかなり大きいさ。リアルと違って人件費やら税金やらがないから」
「そう言えば、クランホームで直接販売すると市場で取引した場合の手数料さえないんだっけ。それなら儲けも大きいよな」
「その他にもオーダーメイドの装備品も最近は取り扱うことが増えたし」
「それは、お前が元々サボりすぎてただけだろ。最上位の銃を作れるのはお前ぐらいなんだから需要が多くて当然だ」
「そうなんだろうけどな。いちいちオーダーを受けるのが面倒だったんだよ」
「……それで生産を止めるなよ……」
「一応、自分の武器とかで腕が鈍らないようには気をつけてたんだけど」
「その分を周りに流せって話だよ」
「注文があれば流してたんだけど」
「それはお前が滅多に注文を受けないせいだろ。知ってるぞ、掲示板でツチノコ扱いされてたこと」
「……別に隠れてたわけじゃないんだけどな。表に出るのが面倒だっただけで」
「クランホームで引きこもりしてるんじゃねーよ。……しかし、家か。俺も買おうかな」
「ジパンだと工房持とうとした場合は大変だけど、そうじゃなければそこまで高くないからな。買う事も考えていいんじゃないか?」
「ログアウト場所とログイン場所を考えなくてもよくなることは利点かもな。問題は行き来をどうするかだけど……」
「そこはホームポータルを買えとしか言えないな。それなりの値段はするけど」
「そこなんだよなぁ。せめて150万ぐらいで収まればいいんだけど」
「うん? ジパンで家を買うなら普通にその範囲で収まるぞ」
「マジか。……これは午後に皆が集まったら真面目に購入を考えるべきか」
「まあ、その辺は好きにしてくれ。……ほら、手が止まってるぞ?」
「ああ、わりい。……それで、家を買うメリットって他に何かあるのか?」
「うーん、明確なメリットはないよなぁ。個人倉庫、と言うか収納? と共有倉庫はあるけど、それってパーティで使うのはあまり使わないだろうから」
「あー、確かにあまり使わねーな。必要なモノはその場で分配してるし」
「そもそも、一人で家を買うなんてハウジングを楽しむ以外に使い道がないし」
「……そうなるよな、結局。ともかく、家を買うかどうか皆に聞いてみるか」
「あれ、陸斗さん。来てたんだ。ってことは雪姉も来てるのかな? キッチンから物音がしてるけど」
自室から出てきた遥華がリビングにやってきた。
確かに昼間は俺と遥華しかいないのが普通だし、その俺がここにいて陸斗がいるんだから、雪音も来てるって考えるのが普通だよな。
「雪音なら昼食を作ってるぞ。パスタにするって言ってたから、もうすぐ出来るだろ」
「昼食は雪姉かぁ。なんのパスタなんだろ?」
「さてな。ある食材から作るって言ってたし、簡単なものだろ? 常備してるパスタソースなんて割と種類少ないし」
「そこを一手間加えてくれるのが雪姉だからね。お兄ちゃんだと、簡単に作って終わりだし。それでも美味しいけど」
「それなら構わないだろ。……午前中は何をしてたんだ?」
「んー、船旅を満喫したらイベントマップに行ってポイント稼ぎかな? 高速船から見る海の景色ってなかなかよかったよ」
「それはよかった。宿題の方はどうなんだ?」
「そっちはもうすぐ終わるよ。お兄ちゃんは?」
「俺も終わるな。終わってないのは陸斗ぐらいだ」
「陸斗さんだからね。仕方が無いよね」
「……遥華ちゃんからの評価が低い……」
「いつもの行いの差だろ」
「うんうん」
「この兄妹は……」
「ご飯できたよ、皆」
「あ、雪姉。パスタだって聞いたけどメニューは何?」
「たらこパスタのソースがあったからペペロンチーノ風たらこパスタにしてみたよ」
「さっすが雪姉! それじゃあ早くお昼にしようよ」
「ちゃんと手は洗ってきてね?」
「はーい」
「それじゃあ、俺達も昼食にするか」
「ああ、そうだな。大分、宿題も進んだし」
「宿題くらい自分で出来るようにならないとダメだよ、陸斗」
「はいはい、わかってるって。それで、午後からはどうするんだ?」
「んー、午後からはやりたいことがあるから家に帰るよ」
「やりたいこと?」
「とりあえず、ご飯にしよう。パスタがのびちゃうよ」
「それもそうだな。食べ終わってから続きにするか」
「そうだな。さて、メシにしようぜ」
話を一旦区切って昼食にする。
やっぱり、料理の腕前ではどう足掻いても雪音には勝てないよな。
昼食を食べ終わった後、先程の話の続きに戻った。
「それで、雪音のやりたい事ってなんだ?」
「うん、悠くんにも手伝ってほしいけど。そろそろお屋敷の方をきちんと手入れしないとダメかなって」
「……それもそうだな。屋敷の管理用に式神がいるって話だけど使ってないし」
「だよね。あと家具も買いそろえなきゃ」
「それもそうだな。夜は生産作業で潰れるし、日中は屋敷を整えることにするか」
「うん、お願いね」
「それじゃあ、わたし達はジパンについたら星見の都を目指すね」
「そうだな。途中にボスがいるんだったか?」
「ああ、と言ってもレベル45だから今更そこで苦戦することはないと思うけど」
「だね。ジパンについたら色々案内お願いね」
「案内って言っても俺達だってそこまで詳しくはないんだけどな」
「そこはそれだよ。ついたら連絡するからお願いね」
「まあ、わかった。それで、ジパンに船が着くのは何時頃なんだ?」
「うーんと、リアルで午後3時頃だと思う。予定通りなら」
「そっか。だったら星見の都に着くのは早くても5時かその辺りだな」
「そうだね。それじゃあ、わたしは部屋に戻るから。その時はよろしくね、お兄ちゃん」
「わかった。それじゃあな」
「……さて、それじゃあ昼食もごちそうになったし、後片付けをしたら帰るとするか」
「食器は俺が洗っておくから、流しに置いておいてくれれば問題ないぞ」
「片付けも私がするよ?」
「後片付けぐらい俺がやるさ。その間に雪音は家に戻って色々準備しておいてくれ」
「うん、わかった。それじゃあ、よろしくね」
「ああ。気をつけて帰ってくれよ」
「うん、ありがとう、悠くん」
「おう、それじゃあ、またな」
宿題を片付けて帰っていく二人を見送り、食器を洗って片付ける。
調理器具の類いは雪音の方で片付けてくれていたし、これで問題はないな。
俺も支度をしてゲームを始めるとしますか。
――――――――――――――――――――――――――――――
ログイン先はジパンの屋敷にする。
屋敷に色々手を加えるのにクランホームでログインする意味はないし。
ユキの方はまだログインしていないみたいだな。
とりあえず屋敷の管理メニューを開いて未稼働状態だった式神5体を起動する。
起動コストとしてMPを持って行かれたが気にしない。
式神は見た目を色々いじれるみたいなので、とりあえず座敷童子型にしておいた。
見た目の変更はメニューからいつでも出来るし、ユキが来てから正式に決めれば問題ないだろう。
「さて、式神を起動したはいいが何が出来るんだ?」
「屋敷の管理とか色々出来ます」
「……式神ってしゃべれるんだな」
「屋敷の管理に必要な事は色々出来ます。何をすればいいですか?」
「……ちなみに屋敷の管理ってどうすればいいんだ?」
「お掃除とか荷物の整理とかお庭の管理とか出来ます。あと、畑の管理とか」
「畑の管理か。……それって使えるようになるまでどれくらいかかるんだ?」
「まだ畑が手入れされていない状態なので、使えるようになるまで式神二人がかりでそちらの時間で2日ぐらいかかります」
「ふむ、それじゃあ、そっちはお願いしていいか? 残りの式神達は家の掃除かな。荷物自体何もないし」
「わかりました。それでは行ってきます」
座敷童子達は一礼するとそれぞれの作業に向かっていった。
窓から外を眺めると、畑の区画で座敷童子達が
見た目が小さい子供なので少々違和感があるが、なんの苦もなく畑を耕して行ってる。
そんな様子をしばらく眺めているとユキがやってきた。
座敷童子を一人抱えながら。
「トワくん、この子達どうしたの? 可愛いけどいつの間に家に住み着くようになったの?」
「あー、それ、屋敷を購入するときにもらった式神だ。とりあえず畑の手入れと家の掃除を頼んでるから、離してやってくれ」
「あ、うん、わかった」
ユキの拘束から逃れた座敷童子は一礼すると屋敷の掃除に戻っていった。
屋敷の主人の前では毎回一礼をしてから立ち去るのかな?
「でも、屋敷の掃除って必要なの?」
「ああ、それか。屋敷の管理メニューを開くと清潔度って項目があるぞ。実際、どんな意味があるのかはよくわからないけど」
「……ああ、ほんとだ。それであの子達に掃除をお願いしたんだね。それで、式神ってあの子達みたいな姿にしか出来ないの?」
「いや、色々なパターンがあるけど、あれが一番無難かなと思って。屋敷のメニューから一覧を確認出来るからそれを見て変えてもいいぞ」
「……うん、座敷童子が一番無難だね。普通の町人とかよりも座敷童子のほうがいいよ」
「気に入ってもらえたようで何より。さて、それじゃあ家具を買いに行くか」
「うん、わかった」
俺とユキは前に布団を買いに行った家具屋に改めて出向き、色々な家具を物色して歩いた。
家具選びのセンスはユキの方がいいので基本的にはお任せだが、俺の方でも自室におくタンスなどを買っておく。
細かい家具がユキ任せになるのは申し訳ないが、こればっかりはセンスの差なのでどうしようもない。
ユキは屋敷の雰囲気に合わせて古風なデザインの家具をいくつか選んで購入することにしたようだ。
流石に購入費用まで出してもらう訳にはいかないので俺の方で会計は済ませておく。
家具を購入して帰ってきたら、後は設置するだけだ。
家具を設置するのはユキの指示の元俺が作業するのだが、このときも座敷童子達は役に立った。
見かけによらないパワーで重たい家具でも楽々設置していくのだ。
背が低いので高いところの家具には不安があったが、浮かぶことが出来るようで楽々設置していった。
家具の設置が終わったら、個室の整備だが個人の私室をどこにするかで少し揉めた。
揉めたというか、ユキがクランホームと同じように二人部屋にしたがったのだが。
流石に自分の屋敷でまで相部屋をするのもなんだか気恥ずかしいので、ここは別の部屋と言うことにしてもらった。
……実際には襖越しの部屋なので、襖を開けてしまえば広い一部屋になってしまうのだが。
ちなみに、私室は今までの1階ではなく2階にすることにした。
1階の方が移動は便利だが2階の方がやっぱり眺めがよかったからな。
作業が全部終わったらユキと一緒に縁側でのんびりとお茶にする。
縁側から見える畑では座敷童子がザクザクと畑を耕しているが、それもまた風景の一つとしてあまり深いことは考えないことにした。
縁側からは海まで遮るものが何もないので、海を見渡すことが出来る。
塀などを作ることも出来るが……今はこのままでいいだろう。
海を眺めながら何となく休んでいたらハルからメールが届いた。
どうやら星見の都までたどり着いたらしい。
リクのパーティも一緒のようだし、まとめてジパンの案内をするとしよう。
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