212.ジパン観光 2

 生産ギルドで案内された神社仏閣などの施設はまんまお寺や神社だった。

 確かに年季の入った作りではあったが、個人的にはそこまで深く感動はしなかったな。

 性格的なものもあるんだろうが、こればっかりは矯正のしようもないので気にしないことにする。


「これがジパンの神社かぁ。思ったよりも普通の神社だよね?」


 ユキも似たような感想を持っているのか、そこまで感じ入っている気配はない。


「京都の千本鳥居みたいな場所でもあればよかったのに」

「千本鳥居って言うと伏見稲荷大社か。流石にそこまでは再現できなかったんじゃないのか?」

「でも、せっかくならVRで旅行した気分になりたいよね?」

「それはそうだが……今の時点でも時代劇村と京都を足して2で割ったような場所にいるんだから勘弁してやれよ」

「うーん、それはそうなんだけど、イマイチ物足りない」

「観光名所と言うよりも普段から住人NPCが利用する施設っぽいからな。こんなものだろ」

「……それもそうだよね。うちの近くの神社も似たような感じだし」

「そういうことだ。他にも何カ所かあるみたいだし色々回ってみよう」

「うん、行こう」


 ユキと一緒に紹介してもらった各所を巡る。

 その大半はこぢんまりとしたお寺や神社だったが、中にはかなり大規模な寺院や神社もあった。

 中でも五重塔ごじゅうのとうを備えた寺院では実際に五重塔の中に入って登ることが出来た。


「うわぁ、やっぱりこの高さだと都の街並みがよく見えるね」

「確かに。あれが星見の都の城だから、その横に見えるのが陰陽寮か? かなり大きな建物だったんだな」

「そうだね。他に高い建物はほとんどないから外壁まで見渡せてすごいよね」

「高くてもせいぜい3階建てだからな。この五重塔自体一つの階層が高い建物だから遮るものがないんだろう」


 リアルの五重塔って確か一層目以外はかなり狭い作りになってるって話を聞いた気がするが、この五重塔は1階ごとの広さがかなり広い。

 いざというときは物見櫓にでもするんだろうか?


 五重塔の見学を終えた俺達は次に行った神社で参拝をして、お土産にお守りを買って行くことにした。

 ゲーム内でお守りなんてフレーバーテキストのみの存在でしかないが、そこは気分というものだ。

 ……ただ、ユキが買っていたお守りに『安産祈願』と書いてあった気がするのは気のせいだろうか?

 このゲーム、全年齢対象だからそう言うことは出来ないはずなんだが……


「お薦めされたところってこれで最後だよね。これからどうしよう?」

「そうだな、アカネさんに薦められた茶処にでも行ってみるか。ここからかなり近いみたいだし」

「わかったよ。それじゃあ早く行こう」


 俺の手を取りはしゃぐように先を促すユキ。

 そう言えば夏休みに入ってからはリアルの方で一緒に出かけた記憶がないな。

 落ち着いたら、今度どこかに遊びに行こうかな。


 神社から歩くこと暫し、目的の茶所が見えてきた。

 うん、見た目も至って和風な喫茶店と言ったところか。

 ここだけ江戸時代というより、大正モダンな雰囲気になっているところはどうかと思うが。

 ともかく、入口のドアを開け店内に入っていく。

 入口のドアにかけられたベルが軽やかな音を弾ませる。


「いらっしゃいませー」

「いらっしゃいませ。お二人ですか?」


 店内から出てきたのは桃色と青色の髪をした女性二人。

 どことなくアカネさんに似た雰囲気があるが……


「はい、二人です」

「それではそちらのお席にどうぞ。こちら、お品書きになっています」

「あ、ありがとうございます」


 青色の髪をした女性に促されて窓側の席に座ることにする。

 店内は、他のお客さんも多くて繁盛しているようだ。


「トワくん、みてみて。結構いろんな種類のメニューが書かれてるよ」

「かき氷なんてのもあるんだな。どうやって作ってるのか見てみたい気もするが……まあ、いいか」

「トワくんは何を頼むの?」

「うーん、俺はみたらし団子と抹茶のセットかな」

「それじゃあ私はぜんざいと抹茶のセットにしようかな。すみませーん」

「はいはーい、少々お待ちをー」


 注文が決まったので店員を呼ぶと明るい声が帰ってきた。

 少しすると桃色の髪をした女性が注文を取りに来た。


「お待たせしましたー。ご注文はお決まりですか?」

「えーと、みたらし団子と抹茶のセットが1つとぜんざいと抹茶のセット1つください」

「かしこまりましたー。少々お待ちくださーい」


 注文を書き留めると店の奥へと戻っていく店員さん。

 ……やっぱりアカネさんやクロにどことなく似てるよな。


「トワくん。さっきから店員さんの顔を見てどうしたの?」

「うん? ああ、何となく顔立ちがアカネさんやクロに似てるよなと思って」

「……そう言われてみればそうかも。姉妹なのかな?」

「どうなんだろうな。……注文した品を持ってきてくれたときにでも聞いてみるか」

「そうだね、そうしてみよう」


 そして少しの間待っていると、青髪の店員さんが注文した品を持ってきてくれた。


「みたらし団子と抹茶のセット、それからぜんざいと抹茶のセット、お待たせしました」

「ああ、ありがとう。……ところで店員さん、アカネさんやクロの知り合い?」

「え、アカネやクロ姉さんの知り合いですか?」

「うん? アオちゃん、どうしたの?」

「モモ姉さん。この人達、アカネやクロ姉さんのお知り合いみたい」

「え、そうなんだ! ちょっと待っててね、私もそっちに行くから!」


 どうやら、青髪の店員さんがアオで、桃髪の店員さんがモモと言うらしい。

 安直な名前だけど……そう言えばアカネさんは茜色の髪だったし、クロは黒髪だったな。

 そう言う姉妹なんだろうかね。


「お待たせー。ねえねえ、アカネちゃんは元気にしてる? クロ姉さんは相変わらず無愛想?」

「モモ姉さん、そんなにいきなり質問しなくても……」

「えー、アオちゃん。せっかく二人の知り合いなんだからさ、色々聞いてみようよ?」

「まあ、私も二人のことは気になりますけど……すみません、姉がかしましくて」

「いや、気にしてないさ。アカネさんは……元気というか暇をしてたな」

「うん、ガンナーギルドで元気に受付してるよ」

「そっかー。ガンナーギルドなんて人の来ない場所にいるのは知ってるけど、暇をしてるかー。それは仕方が無いよね」

「元気なようで何よりです。最近はあまり顔を合わせなかったので」

「クロは……無愛想というか、凜々しい感じではあったな」

「セイメイさんに振り回されてる感じだったけどね。でも、元気そうだったよ」

「クロ姉さんは大変そうですね」

「一番大変な役職に就いちゃったから仕方ないんじゃないかなー? 私達みたいに喫茶店をやってもクロ姉さんには似合わないし」

「モモ姉さん……」

「だって、似合わないでしょ?」

「……それは……まあ」

「何事も適材適所ってヤツだよ。クロ姉さん強いんだし」

「それもそうですね。病気や怪我をしてないなら大丈夫でしょう」

「すみませーん、注文お願いします」

「あ、はーい、少々お待ちをー。それじゃあ、またアカネちゃん達の話を聞かせてねー」

「ごゆっくりしていってください。それではまた」


 モモさんとアオさんはそれぞれの仕事へと戻っていった。

 やっぱりアカネさんの姉妹だったのか。


「アカネさんやクロさんって姉妹が沢山いるんだね」

「ああ、そのようだな。……さて、それじゃあいただくとするか」

「そうだね。……あ、このぜんざい美味しい」


 とりあえず俺達はそれぞれ注文した料理を食べることにした。

 うん、このみたらし団子も美味しいな。

 俺達はそれぞれの注文した料理を食べ比べしたりしながら食事を終えた。

 食事を終えたところでモモさんがやってきて先程の話の続きとなった。


「ふーん、それじゃあアカネちゃんがこのお店を勧めてくれたわけだ。うんうん、姉思いのいい妹だよ」

「なかなかいい雰囲気のお店ですよね。どうやって建てたんですか?」

「ああ、このお店? 外つ国の大工さんがジパンの大工さんと一緒に建てたお店だよ。他のお店と違って目立っていいでしょ」

「明らかにジパンの建築様式とは違いますからね。それなりに費用もかかったんじゃないですか?」

「まあねー。そっちはもう支払い済みだから問題ないけど、それなりにお金がかかったな?」

「でしょうね。……さて、それじゃあそろそろお暇しますね。お会計お願いします」

「はーい。……そう言えば、なんでアカネちゃんはこのお店を勧めてくれたの?」

「ジパンを観光して歩いてるんです。今は、お寺や神社を見て回った後にここに立ち寄った訳で」

「ふーん、ジパン観光かー。それだったらカンモンとかも楽しいかも。ジパンの街並みとはまた違ってるから」

「……そう言えばカンモンもセキも素通りだったな。そっちも見て回ろうか」

「そうだね、そっちにも行ってみよう」

「セキの街はあまり名所と呼べる場所はないけどねー。……はい、お会計300Eになります」

「ああ、ありがとう。また機会があれば寄らせてもらうよ」

「はーい。その時はまたアカネちゃんの様子を教えてくださいね。あ、あと他の姉妹にも会えたらよろしくお願いします」

「……他にも姉妹の方がいるんですか?」

「私達、結構姉妹が多いんですよ。お二人ならそのうち他の姉妹にも会えるかも?」

「会えたら伝えておきますよ。会えるかどうかはわかりませんが」

「ですよねー。ではまたのご来店をお待ちしてまーす」


 モモさんとアオさんの喫茶店を後にした俺達は、転移門からカンモンへと移動してみる。

 前回来たとき……というか通過したときは深夜の時間帯だったためまったく気がつかなかったが、カンモンの街並みは星見の都とはまったく異なり異国情緒あふれる街並みだった。

 木造家屋の他にもレンガで作られた家や店舗、倉庫なども建ち並び、ここがジパンの玄関口だと言うことがよくわかる。

 港の方に目を向ければ大きな帆船や小型の漁船など、大小様々な船が係留されている。


「前来たときは気がつかなかったけど、カンモンの街って潮風の匂いが強いよね」

「港町だからな。……潮風は苦手だったっけ?」

「ううん、そんな事ないよ? でも、あまり嗅いだことのない匂いだから新鮮かも。現実でもこんな感じなのかな?」

「うーん、俺も港町、というか海に行ったことはあまりないからよくわからないな」

「そうだよね。……カンモンも一通り見て回ったし、これからどうしよう?」

「そういえば、ホームエリアの様子を見てきてほしいって頼まれてたな、ハルに」

「そうなんだ。それじゃあそっちに行ってみよう」

「すまないな、俺の用事に付き合わせるみたいで」

「ううん、気にしないでいいよ。私達もホームを買ったけどホームエリアって見てないわけだし」

「それもそうだな。じゃあ、星見の都に戻ってホームエリアの見学に行きますか」

「うん、行ってみよう」


 カンモンの観光を切り上げて俺達は星見の都に戻り、ホームエリアへと転移する。

 星見の都の異邦人向けホームエリアは、海に面した丘陵地帯を切り開いたようなエリアとなっている。

 建っている建物も純和風の古民家と言った感じで日本人としては趣深い。

 俺達はポータル側に建っているホーム屋に足を運ぶことにした。

 ホーム屋のやりとりは録画しておいて、後でハルや教授に渡そう。

 ……いや、教授ならもう調べてあるかな?


「いらっしゃいませ。物件をお探しでしょうか?」

「ああ、いや。ジパンのホームエリアってどうなっているのかなと思って来てみたんだけど」

「左様でございますか。……お客様は特区にお屋敷をお持ちのようですが、増築などのご要望ですか?」

「あー、そっちの予定もあまりないな。……ちなみに、あの屋敷って工房とかを作る事は可能なのか?」

「工房を作るのでしたら、離れを建てていただく必要がありますね。ジパンの家は、あまりそういった用途には向きませんので」

「そうか。……ちなみに普通の家だとどんな感じになるんだ?」

「……まだ他のお客様も訪れていないですし、どのような家があるかもわかりませんよね。ご案内いたしますのでこちらへどうぞ」


 店員さんに案内されて店の奥へと入る。

 そこで店員さんに部屋の間取りなどを教えてもらった。

 一番広い家だと、リビング……と言うより居間と台所の他に8部屋ある家が150万と言う値段だった。

 うん、俺達の買った屋敷がどれだけ高いかって言う話になるよな。

 ホームポータルや対戦などができる道場付きとは言え、800万というのはやっぱりかなりなお値段だろう。

 普通に買えたけど。


 ハルはパーティで買うかも知れないらしいし一番大きな家の間取りを見せてもらった。

 2階建ての住宅は、2階に6部屋と1階に居間と台所の他に2部屋と言う内容だった。

 その他、庭付きで工房などを作りたい場合は離れを作る必要があるらしい。

 離れは50万から作る事が出来るとのことだ。

 一番小さい家は30万で購入できて、こちらは居間と台所を除くと2部屋しかないらしい。


 ホーム屋に来たついでなのでログイン先の選択機能を機能拡張でつけておく。

 俺とユキしか使わない機能なのでポケットマネーから出したが、他の機能拡張関係に比べても安い値段だったのでお得感はあったな。


 とりあえず、ホームエリアの様子と家の様子を録画した動画をハルに向けて送信。

 あと、リクもほしいって言ってた気がするのでリクにもついでに送っておく。

 するとハルからすぐに返信が来て、気に入ったからすぐにジパンに向かうことに決めたそうな。

 何でも今日セイルガーデンからの高速船がでるらしく、それに飛び込み乗船出来そうだと言うこと。

 相変わらず決めると猪突猛進な妹様に呆れつつ、昼間の活動はこの程度にしてユキと一緒に自分の屋敷に戻ってログアウトすることにした。

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