211.ジパン観光 1

 午前中は家事や宿題、いつもの日課をやって昼食を食べて午後からログイン。

 ログイン先はジパンにあるマイホームだ。


 マイホームで起き出すと台所の方から物音が聞こえた。

 現時点でこのホームには入れるのは俺とユキしかいないからユキかな?

 この家の台所は中級料理セットと同等の生産設備になっているらしいから、そっちで何かを作っているのだろう。

 とりあえず布団を片付けて台所の方に顔を出す。

 そこにはクロユリに料理を教えているユキがいた。


「こんにちは、ユキ、クロユリ。料理中か?」

「こんにちは、トワくん。クロユリちゃんに料理を教えてたの」

「こんにちはですニャ、トワ様。ここの調理器具は使いやすいですニャ」

「それはよかった。……オッドは一緒じゃないのか?」

「オッドニャらおそらくクランホームの方ですニャ。こちらにはオッドが使える器具がニャいのでクランホームで修行するって言ってましたニャ」

「そうか。……こっちにも生産セットを用意するべきか?」

「必要ニャいと思いますニャ。わざわざこちらの家で修行をする意味がニャいですニャ」

「クロユリの料理はどうなんだ?」

「……そこはそれですニャ。せっかく調理設備が整っているニャら使ってみたくニャりますニャ」

「だって。あまりクロユリちゃんをいじめちゃダメだよ?」

「いじめてるわけではないんだがな。ユキ、今日の予定はどうするんだ?」

「うーん、さっき煮込んでいた竜骨スープの様子を見てきたんだけど、普通に煮込むだけじゃダメみたい。直接私が煮込まないとスープにならないみたいなんだよね。だからそっちの作業に取りかかろうと思って」

「そうか、わかった。それじゃあ、俺はクランホームに顔を出した後、ジパンの街を観光してみるから……」

「あ、なら私も一緒に行くよ!」

「そうか? 別に生産の方を優先してくれても構わないんだけど」

「大丈夫だよ。生産は夜でも間に合うから。ほら、早く行こう。クロユリちゃん、後は大丈夫だよね?」

「はいですニャ。お気をつけてですニャ」

「うん、ほらトワくん、早く行こう」

「わかったから引っぱるなって。それじゃあクロユリ、またな」

「またですニャ。ユキ様とニャかよくですニャ」


 クロユリに見送られて、玄関から外に出る。

 ホームポータルは玄関を出た先、門のところにあるからそこまで行かなきゃならないわけだ。

 面倒ではあるし再設置もできるが、今のままの方が『家に帰ってきた』感があるのでそのままにしている。

 ……そのうち、2つ目のポータルを買ってどこかに設置するかもだけど。


「あっれー、トワ、ユキ。どこかに行くの?」


 頭上から声をかけられたので上を見上げるとエアリルとシャイナがいた。


「クランホームに行ってから、ジパンの街を見て回ろうと思ってるんだが」

「そっか。それじゃあボク達も……」

「ダメ。私達は私達で別行動」

「うん、シャイナが自己主張って言うのも珍しい……ああ、そっか。うん、邪魔しちゃ悪いよね。二人で行ってくるといいよ」

「なんか引っ掛かるが、それじゃあ二人で行くことにするよ。……そう言えば、この家も眷属は自由に出入り出来るのか?」

「もちろん。というか、召喚されてなくてもマイホーム内なら自由に出入り出来るよ。ほら、あっちでシリウスとプロキオンが寝てるでしょ? マイホームだと、召喚されてなくても自由に出来るからねー」


 指さされた方を見ると、確かにシリウスとプロキオンが木陰で一緒になって昼寝をしていた。

 ちなみに幼体化した状態で寝てるので、子犬が寝てるような感じになっている。


「そう言うものか」

「そういうことだよ。それじゃあ、行ってらっしゃい」


 どうやらマイホーム内では眷属達はかなり自由に行動できるらしい。

 クランホームだと自立行動が出来る妖精や精霊、それからケットシー達しかでられなかったからな。

 ユキがシリウスにおやつをあげるときに毎回召喚してたし、それは間違いなさそうだ。

 今度その辺のこともエアリルに聞いてみるか。

 ヘルプで調べられることは大抵エアリルが説明してくれるし。


 とりあえずマイホームでの用事はもうないのでクランホームへと移動。

 転移先の談話室では柚月にドワン、イリスが休憩していた。


「あら、トワにユキ。ポータルから出てきたって事はマイホームからログインしてきたのかしら?」

「ああ。せっかく買ったんだし使わないのももったいないからな」

「柚月に聞いたよー。ジパンにマイホーム買ったんでしょー? 今度、招待してねー」

「ああ、構わないぞ。……と言っても、今はまだ家具類が何もないからただ家があるだけなんだが」

「それでも構わないよー。ボクが買うときの参考になるからね-」

「うん? イリスもマイホームがほしいのか?」

「うーん、今はその予定はないけど、家を買うなんてゲームの中でもないと機会がないと思うからねー。気分だけでも味わってみたくて」

「そうじゃのう。現実で家を買う機会などあるかどうかわからんからのう」

「あったとしても一生で一度きりでしょうからね。その点、自由に買い替えられるゲームは便利だわ」

「……ゲーム内でもそんなに頻繁に買い替えるものじゃないと思うけどな」

「そこはそれよ。それで、トワ達は何をしに来たのかしら?」

「これからジパン観光に行こうと思ってるんだが、何かないかと思ってな」

「ジパン観光ねぇ。……特にこれといって連絡事項はないわね」

「そうじゃの。……ああ、銃のパーツは適当に100個ずつ作ってあるから好きに使うといい」

「素材箱の中身はまだまだあるからねー。数に限りがあるって言ってたけど、普通に万単位で入ってたから日曜まで全力で使っても使い切れないかなー?」

「……そんなに入ってたのか、あれ。魔石を取り出すのに使ったけど、残りの数なんて見てなかったから気付かなかった」

「まあ、そう言う訳だから素材は浪費しても問題ないわよ。……ああ、ただ、白竜帝素材以外と組み合わせると作成失敗になるから気をつけなさい」

「それがわかるって事は試したのか」

「いけるかどうか、試すだけは試したのよね」

「じゃが、普通に失敗してのう」

「ボク達全員が同じ結果だったから、間違いはないだろうって事になったんだよね」


 俺の方でも試してみないとわからないけど、イベント装備だし他の素材と組み合わせるのはNGという訳か。

 ……はて、それって料理にも共通するんだろうか?


「ユキ、料理の場合はどうなんだ?」

「うーん、骨だけを煮込んだ事がないからよくわからないかな? でも、普通に考えてガラスープだけで料理とは呼ばないから料理は別だと思うよ」

「それもそうか。とりあえず情報ありがとう。……そう言えばおっさんは?」

「工房に篭もってアクセサリーを量産中。せめて★10の装備が作れないか頑張ってみる、って事らしいわ」

「……流石に難しいと思うけどな」

「時間はあるんだし、ダメだったらダメだったときでしょ」

「それもそうか。それじゃあ、ジパンに行ってくるから後はよろしく」

「ああ、待ちなさい。せっかくユキが着物を着てるんだしあなたも着て行きなさいな」

「……そんな事を言われても着物装備なんて持ってないぞ?」

「大丈夫、作ってあるから」

「……何でそんなの作ってあるかな?」

「午前中に裁縫ギルドに行ったのよ。そうしたら着物のレシピを売ってたから買ってきたわけ」

「着物か。ならばわしが作った刀も持っていくがよい」

「それもジパンのギルドで?」

「うむ。大太刀に打刀、脇差と一式全て揃っておるぞ。他にも薙刀のレシピも売っていたのう」

「ボクも和弓のレシピを買ってきたよー。トワの方は何もなかったの?」

「調薬ギルドで丸薬、ガンナーギルドで短筒と種子島のレシピを手に入れたな」

「ふーん、売るなら後で実物を見せてね? 値段を考えないといけないから」

「わかった。……それで、着物はどこにあるんだ?」

「あら、素直に着ていくのね?」

「抵抗するだけ無駄だろうからな。別にそれでどうにかなるわけでもないし」

「そう、それじゃこれが一式ね」


 渡された着物は薄紫色で菱形の文様がついた着物に袴がセットになった衣装だった。

 はて、この菱形の文様はなんと言ったっけ……


「ユキにはこっちね」

「うわぁ、ありがとうございます!」


 ユキの方も新しい着物をもらったようだ。

 早速装備を変えたようだが、桜色の生地に矢羽根型の文様か。

 俺の方も装備を変えるか……アバター扱いで構わないよな?


「ふむ、トワもユキも似合ってるわね。流石、私」

「そうじゃの。どれ、トワ。この刀も装備するといい」


 渡されたのは打刀と脇差が一振りずつ。

 ……あまり刀は装備したくないんだけど、性能的にもアバター装備程度だし装備するか。

 刀を装備状態にすると左腰に差した状態になった。

 きちんと刃が上向きになるように差しているあたり細かい。


「ふむ、こうして装備してるところを見ても違和感がないのう」

「当然ですよ。トワくん、実際に刀を扱った事ありますし」

「ふむ? それはリアルでかのう?」

「はい。私も薙刀を習っていますが、トワくんは刀術を習っていますよ」

「それは初耳ね。なら、刀も装備として使えるんじゃないの?」

「使えるけどな。あまり実戦では使いたくないんだよ」

「そう。今は格好だけだし別にいいんじゃない?」

「使う機会がなければいいんだけどな」


 とりあえず衣装は整ったんだ、早いところ出かけることにしよう。


「それじゃあ、俺達は出かけてくるから。後の事はよろしくな」

「はいはい。それじゃあごゆっくり」


 柚月達に見送られながらポータルから星見の都に転移する。

 さて、観光とは言ったものの今日は完全にノープランなんだよな、どうしたものか。


「ユキ、行ってみたい場所ってあるか?」

「うーん、今のところ特にないかな。トワくんは?」

「そもそも何があるかよくわかってない」

「だよね。うーん、誰かに聞きに行く?」

「誰かといってもな……誰に聞きに行くよ?」

「クロさんとか詳しそうじゃないかな?」

「かも知れないが……会いに行くとセイメイ殿にも捕まりそうでな……」

「そっか。……それじゃあアカネさんは?」

「……そこら辺が妥協点か。それじゃあガンナーギルドに行ってみるか」


 ひとまずサブポータルを経由してガンナーギルドへ顔を出す。

 そこには暇そうに机に突っ伏しているアカネさんの姿があった。

 アカネさんも入ってきた俺達に気がついたようで、こちらに声をかけてくる。


「いらっしゃいませ。……って、トワさん!? まさか、ガンナーから別の職業に乗り換えですか!?」

「……ああ、装備の話か。身内から着物を着るなら刀も持って行けって言われてだよ」

「ああ、よかった。……それで今日はどのようなご用件で? 銃を作っていっていただけるととても助かるんですが」

「……それはまた今度にするよ。星見の都で観光するならどこに行けばいいかなと思って」

「はあ、観光名所ですか。……うーん、これといって思いつきませんね。そう言うことは生産ギルドとかの方が詳しいですよ?」

「ふむ、そう言うものか」

「それはもう。何しろ物流を支えている一大組織ですからね。観光地とかの情報だって持ってると思いますよ」

「それなら、そっちをあたってみるか」

「その方がいいですね。……ああ、でも一カ所。美味しい茶処を知ってます」

「ふむ、それじゃあそこを教えてもらおうか」

「いいですよ、地図を貸してください。……はい、これがその場所です」

「ありがとう。それじゃあもらっていくよ」

「いえいえ。次は銃を作りに来ていただけると助かります。それではまた」

「ああ、それじゃあな」

「また来ますね、アカネさん」


 俺達はガンナーギルドを後にして生産ギルドに向かう。

 そこで勧められたのは神社仏閣などの建造物だった。

 アカネさんから教えられた茶処もそれらの近くにあるようだしそれらを回ってから行ってみるか。

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