206.星見の都散策 4
「あの、これ、粗茶ですがどうぞ」
「ああ、ありがとう」
「いただきます」
兵舎に銃を納品した後、クロという女性が来るまでガンナーギルドで待つことになった。
もっとも、あちらはあちらであの男達が襲ってきた事情を説明しなければならないので時間がかかりそうなものだが。
「クロお姉ちゃんでしたら、そんなに待たずに来ると思います」
「うん? よく考えてることがわかったな?」
「状況が状況ですので、何となくわかります。お姉ちゃんは結構えらい人なのでそんなに時間は取られないかと」
「お姉ちゃんね……身内なのか?」
「はい、上から2番目のお姉ちゃんになります」
「なるほどね。まあ、ここに来るらしいしそれまで待たせてもらうよ」
「はい。それでは、その間に説明しきれてなかった銃の依頼について説明させてもらってもよろしいですか?」
「そうだな。説明してもらおうか」
「はい。今、このガンナーギルドでは都の守備隊から短銃1,000丁、種子島1,000丁の合計2,000丁を納めるように依頼を受けています。最初のうちは何とかなっていたのですが、途中から仕事を請け負ってくれていた錬金術士の方々が来てくれなくなってしまい……」
「それで納品が滞り始めたと。……ちなみに、あと何丁製造すればいいんだ?」
「ええと、ちょっと待ってくださいね。……うん、短銃500丁、種子島500丁の合計1,000丁です」
「……つまり半分しか終わってなかったと。錬金術ギルドに錬金術士の追加派遣は要請しなかったのか?」
「それはしましたが……何でも急ぎの案件が錬金術ギルドの方でも発生しているらしく追加の人員は難しいとゲンゾウさんから断られてしまい……」
「ギルドマスターから直で断られたってことは無理なんだろうな」
「はい、それでどうしようもなくなってセイルガーデン王国のガンナーギルド本部に助力を頼んでいたのですが……」
「つまり、俺がアリシアさんから派遣されてきた追加人員って訳か」
「はい、そうなります。申し訳ありませんが、残りの製造作業をお願いできませんでしょうか?」
「乗りかかった船だしな。それは構わないが、この先は大丈夫なのか?」
「流石に1,000丁も目の前で作っていただければ、作り方を覚えられるはずです。あとは私一人でもなんとか出来ると思います」
「ふうん、それならそれで構わないが。……本当に大丈夫か?」
「大丈夫ですってば。これでも錬金術の腕前はそこそこなんです!」
「でも、銃は作れてないんだよな?」
「……銃はコツがあるので難しいんです。それさえわかってしまえば何とかなりますよ」
「だといいんだが。……ちなみにマナカノンは取り扱わないのか?」
「うぅ……本当は取り扱いたいのですが、流石にそこまで手を広げる余裕がなくて……」
「それから、ジパンではガンナーのなり手が少ないのさ。守備隊にはそこそこの人員がいるのだがな」
俺とアカネの会話に背後から割り込んできた声。
この声の持ち主は……
「クロお姉ちゃん!」
「待たせてしまったかな。外つ国の異邦人、トワ殿、ユキ殿」
「いや、そんなに待ってはいないさ。いま、このギルドの現状説明を受けていたところだしな」
「そうか、それはよかった。アカネ一人ではまだまだ無理があるところだからな」
「もう、お姉ちゃんはまだ私のことを半人前扱いして!」
「実際に半人前だろう。銃の依頼は十分な納品期間があったはずだ。それをこなせていないと言うことは、まだまだ未熟という証だ」
「うぅ、それは……」
「ふむ、これ以上アカネをいじめても仕方が無いか。それでトワ殿、今後もこの不肖の妹を手伝ってくれるのかな?」
「ガンナーギルドの話ですからね。手伝わなかったらアリシアさんに何を言われるかわかりませんし」
「ふむ、今回の件はあくまでこのギルドの不始末。その尻拭いをさせてしまうんだ。何もしなくても咎められたりはしないだろうよ」
「まあ、その辺は気分の問題と言うことで。それで、残り1,000丁の納品はいつまでなんです?」
「ええと、週最低100丁ずつ納品すれば構わないとのことですので、そこまで急ぎではないんです。でも、できれば急いでほしいとも言われてますが」
「そう言うことなら暇な時間に作りにきますよ。アカネさんはできたものを都度納品してもらえれば構わないかと」
「はい! ありがとうございます!」
―――――――――――――――――――――――
ユニークシークレットチェインクエスト『星見の都の銃事情』
クエスト目標:
『短銃』の納品 0/500
『種子島』の納品 0/500
―――――――――――――――――――――――
クエスト詳細が表示されたな。
これで正式受注という訳か。
「それにしても『短銃』に『種子島』か。ずいぶん独特の銃になったものだな」
「そこは色々と工夫してますから。連射ができない代わりに単発の威力が上がるように調整してます」
「……それで使いやすくなってるかは別問題だがな。普通のハンドガンなども置いておけば、もう少しガンナーの人数も増えるだろうに」
「……そこは追々という事で。それよりもお姉ちゃんもトワさん達に用事があったんじゃないの?」
「ああ、そうだな。そっちの用事は済んだのか?」
「ガンナーギルドの依頼の話は終わったかな」
「そうか、ではこちらの話に移らせてもらおう」
クロと名乗る女性は改めてこちらに向き直る。
「改めて名乗らせてもらおうか。私の名前はクロ。この星見の都でとある組織に所属している身だ。ああ、名前は呼び捨てで構わないぞ。敬称をつけられるのには慣れていなくてな」
「とある組織?」
「ああ、何も後ろ暗い組織というわけではないぞ。治安維持や行政などを行う機関の一つに所属していると言うだけだ」
「そんな人が俺達になんの用があるんだ?」
「ふむ、まずは確認したいのだが、君達は妖精、ないし精霊と友誼を結んでいるか?」
その言葉に俺とユキの警戒度が跳ね上がる。
「……よくわかったな」
「星見の都に着いてからは召喚してないはずなのにすごいですね」
「ああ、勘違いしないでほしい。何も君達と敵対したいというわけではない。我々の組織に所属している人間にそう言ったことに詳しい方がいるのだ。その方から都の中に精霊の気配を伴った者が入ったと聞いてな、私達のような者がその人物を探して歩いていたという訳だ」
「……どうして、それが俺達であると?」
「……これでも特殊な訓練を受けている身だからな。近くに精霊の気配を感じれば、何となくだがわかる。それに、精霊の気配を感じたその日に外つ国の異邦人が入国したと聞いた。我らの島にある妖精郷の封印は解かれていない事からも、外つ国から来た人間が精霊を宿していると考えるのが自然だろう?」
「ジパンにも妖精郷につながる場所があると?」
「ああ、ある。もっとも、その場所は我々の組織で監視されているがな。悪しき人間を近づけないためにな」
「ええと、どうしてそんな事をしてるんですか?」
「ふむ、外つ国では妖精戦争の件は禁忌扱いで記録から消されているのだったか。まずはそこから説明せねばならないか」
「妖精戦争?」
また知らない単語が出てきたぞ?
説明してくれるみたいだし、ここからは録画しておいて後で教授に渡してみよう。
何か新しい発見があるかも知れない。
「妖精戦争だが、きっかけはかつて存在していたあるヒューマンの王国が原因だ」
「妖精戦争という呼称自体が不穏だけど……一体何があったんだ?」
「その国では妖精から得られる『妖精の雫』というアイテムが不老長寿の源になるとされていたのだよ」
「『妖精の雫』? 『妖精の粉』や『妖精の蜜』なら知っていますが『妖精の雫』なんて聞いたことがありませんよ?」
「それは当然だろう。『妖精の雫』とは妖精が世界から消滅するときに現れるとされている物なんだからな」
「妖精が世界から消滅? そんな事があるんですか?」
「結論から言わせてもらえばある。もっとも、それにはかなり面倒な手順を踏まなければいけないらしいがな」
「……その方法って現在も伝わっているのですか?」
「我々の組織では伝わっている、と聞いている。私のような一構成員には知るよしもない話だがな」
「……それでどうして戦争なんて事態になったんですか?」
「その国の王が『妖精の雫』を求めて妖精や精霊を狩りだしたのだよ。愚かにもな」
「ヒドイ……どうしてそんな事を?」
「簡単なことだ。不老長寿というわかりやすい結果を求めたのだよ。実際、その王国によってかなりの数の妖精達が被害にあったらしいからな」
「それで、その先はどうなったんですか?」
「ケットシー達の王国を初めとした妖精や精霊と親交の深かった国々が、その王国に対して戦争を開始した。しかし厄介だったのは、その国が高い国力を誇っており軍備も万全だった事だな」
「そう言えば、ケットシー達の寿命が長いのに技術の伝承が途切れたのって……」
「おそらく妖精戦争が原因だな。ケットシー達はその戦争の最前線に立って戦っていた。それこそ当時の王族が最前線で指揮する程度にはな」
「つまり、その結果としてケットシーのほとんどが滅びたと?」
「少なくとも伝承にはそう記されているな。実際、今ではケットシー達は王国を持たず隠れ里で暮らしているのだろう? 戦争の結果として王族の血筋が完全に途絶えたのか、それともまだ生き残りがいるのかはわからない。だが、国として表立って暮らすにはあまりにも数が少なくなったのだろう」
確かにそう言われると納得してしまう点も多い。
寿命が人間よりも長いのに、技術の伝承がそんな簡単に途絶えるというのもおかしな話だ。
「戦争の詳しい内容は私も知らされていない。ただ、妖精をめぐり大きな戦争があり、国が1つ滅びたこととケットシーや妖精、精霊達が姿を隠したと言う事実だけは残っている」
「ふむ……確かに、ケットシーは隠れ里に住んでいました。でも、妖精郷への道は封印鬼によって閉ざされていましたよ?」
「ふむ、妖精郷にたどり着くには、精霊達による試練を乗り越えなければいけないと伝承には残っているが……精霊の試練が何らかの形で変異してしまったのか、あるいは邪悪な意思によって妖精や精霊を隔離しようという存在がいるのか……」
「詳しくはわからないと?」
「そうなるな。なにせ数百年昔の話だ。今では詳しいことを知っている者も少ない。外つ国では禁忌として隠された内容だしな」
確かに、ケットシーに関しての伝承については不自然な途切れが生じていた。
ひょっとしたら妖精や精霊の伝承についても似たような現象が起きているかも知れないな。
「……さて、私が知る妖精戦争についてはこのくらいだ。それで本題なのだが、まずは精霊を見せてはもらえないだろうか?」
「……まあ、ばれているんなら隠し立てしてもしょうがないか。眷属召喚・エアリル」
「そうだね、眷属召喚・シャイナ」
俺とユキの眷属召喚によってエアリルとシャイナが姿を見せる。
「やっほー、トワ。何か用事? 戦闘って感じじゃないけど?」
「ユキ、何かあった?」
「あー、用事というかな。なんでもお前達の存在を確認したいって言う人がいてな」
「ふーん? まあ、それくらい構わないけど。それで、ボクのことが知りたいって言うのはキミ?」
「……ああ、まさか本当に精霊を従えているとはな」
「んー、形としては従属してる事になってるけど、ボクとトワは友達だよ? ねえ?」
「んー、まあ、フェンリルみたいに従ってるわけじゃないし。確かに友達みたいなものだな」
「そうだよね。シャイナちゃんは友達だよね」
「うん、ユキは大切な友達」
「……ここまで精霊が懐いているとはな。……いや、失礼。懐いているというのも無作法だな」
「ボクはそんな事じゃ気にしないけどね。それで用事は済んだのかな?」
「ああ、十分だ。だが、できればこのまま私と一緒に来ていただけると助かるのだが」
「うーん、どうする、トワ?」
これ、絶対に何かのイベントが進行してるよな。
という事は流れに乗っておいた方がいいか?
「……まあ、俺も色々と気になるしな。どこかに案内してもらえるのかな?」
「ああ、我々の組織の長に会ってもらいたい。精霊の気配を感じたというのも長だからな」
「組織の長ね。なんだか面倒な話になりそうな気がするんだが……」
「その点は心配いらない。今では伝承の中でしか出てこない精霊を連れた者に会いたいだけだろうからな」
「どうしてそう言い切れるんだ?」
「……いつものクセだからだ」
「……まあ、何となく理解した。ただ、俺達も用事があるからな」
「用事か。この後、我々の組織に来てもらえるなら多少の融通は利かせられるが?」
「……俺達のクランホームにあるホームポータルとこの国にあるサブポータルの転移権限を申請したいんだが」
「なんだ、そんな事か。ならば任せておけ。役所に行けば口を利いてやろう」
「一応、錬金術ギルドのギルドマスターから紹介状ももらってきてるんだがな」
「そうか。だが、審査は入るからな。それを飛ばせると思えば悪い話ではないだろう?」
「……ユキどうする?」
「うん、この人についていってもいいんじゃないかな?」
「らしいから、同行するよ」
「それは助かる。では早速だが、まずは役所に行こう。……アカネ、しっかり仕事をこなすのだぞ」
「わかってるよ。それじゃあ、またね。トワさんは依頼の件、忘れないでね」
「ああ、それじゃあ、また明日か明後日にでも来るよ」
クロに案内されて俺達はガンナーギルドを後にする。
向かう先は役所、サブポータルの転移権限の申請のためだ。
だが、これについてはクロの口利きと錬金術ギルドの紹介状のおかげですんなり許可が下りた。
……役所に口利きができるクロって一体何者だ?
ともかく許可は下りたので、ホーム屋に戻りサブポータルの転移権限を開放してもらう。
ここでもクロの口利きで少し値引きしてもらえたわけだが……本当に何者なんだろう。
「さて、そちらの用事は済んだか? ならば我々の組織に来てもらいたいのだが」
「わかったよ。それで、どこに向かえばいいんだ?」
「サブポータルから直接移動できる。まずはサブポータルのところまで戻るぞ」
「わかった」
最寄りのサブポータルへと戻って、クロとともに移動先を選択することになる。
そこには先程まで存在していなかったポータル名があった。
「サブポータルの転移先で一番下に新たな転移先が追加されているはずだ。そこに移動してほしい」
「ああ、わかった。行くぞユキ」
「うん、行こう」
サブポータルから転移した先はおそらくこの国の城壁の内部。
目の前には立派な木造建築の建物が建っていた。
「ようこそ、我々の組織『陰陽寮』へ。長がお待ちのはずだ。私についてきてくれ」
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