205.星見の都散策 3
「いくつかって言われてもな。俺にも予定があるからすぐには答えにくいぞ」
「はい承知しております! その上で出来る事からやっていただければ構いませんから!」
「……こう言っちゃなんだが、ずいぶんと必死だな?」
「はい必死なんです! このままじゃガンナーギルドの撤退にもつながりかねません……」
どうやら俺が思っていたより大事のようだ。
「それで、俺に何をしてほしいんだ?」
「まずは商品在庫を確保していただければ助かります」
「……それは錬金術ギルドに頼むことじゃないのか?」
「そうなんですけど……いかんせん資金難でして……」
「……はあ、わかったよ。それで、何をどれだけ作ればいいんだ?」
「はい、短筒を50、長筒を50ほど作っていただければとりあえずは大丈夫です」
「短筒はハンドガン、長筒はライフルだったな。それで、材料はあるのか?」
「はい魔石も含めて準備できております! こちらです、お連れの方もどうぞ!」
「えっと、私も行っていいんですか?」
「特に秘匿しなければならない作業でもありませんので、どうぞご一緒に。……ああ、表に準備中の札をかけてこないと」
どうやらこのアカネという娘さん、なかなか忙しない性格をしているようだ。
表の札をかけ直し終わったらしいアカネさんは、俺達2人を作業部屋へと案内してくれた。
そこには大量の銃の部品が詰め込まれていた。
「……どうして銃を作る当てがないのに、こんなに大量の部品を発注するかな?」
「……あはは……私も錬金術士なんですよね。なら自力で作れるかと思いまして……」
「結果、まだまだ作れなかったと」
「……面目ない」
「はぁ。ガンナーギルドのギルドマスターなら銃の製法には触れることができるだろうが、自分の実力にあったレシピを覚えないと逆効果だぞ?」
「……耳が痛いお言葉です」
「……とりあえず、こちらのガンナーギルドのレシピを用意してもらえるか? どうにもセイルガーデン王国で使っていたものとは勝手が異なるようだ」
先程からハンドガンを作成しようとしているのだが上手く行かない。
材料が違うと言うことになっているから、こちらの銃を作るには専用のレシピが必要になるのだろう。
「はい、少々お待ちを! ……えーと、レシピはこの辺に……ああ、ありました!」
「……本当に大丈夫かな、このギルド」
「あはは、きっと大丈夫だよ、トワくん」
渡されたレシピは2種類、ハンドガンに相当する『短銃』とライフルに相当する『種子島』のレシピだった。
とりあえず銃身とグリップについては俺は覚える事が出来ないから銃製造に関してのレシピだけ覚えてしまう。
短銃にしろ種子島にしろ、特徴は単発式になっている代わりに普通のハンドガンやライフルより高性能と言ったところか。
連射式のスキルで制約を受けることになるが、一長一短だが選択肢が増えることは悪くはない、のか?
備え付けられていた錬金セットは中級錬金セットだったため、早速錬金術で短銃を1丁作ってみる。
……うん、問題なく★8で作成できるな。
攻撃力的には普通のハンドガンの2割増しと言ったところか。
続けて種子島の製造を行うが、こちらも★8、威力は2割増しでできた。
「うわぁ。私があんなに苦労して、全然できなかった銃製造があんなに簡単に……私の苦労は一体……」
「そんなものは知らん。とりあえずさっさと50ずつ作るから材料を用意してくれ」
「あ、はい。次の材料はこれになります」
「わかった。さっさと片付けるぞ」
「あ、種子島? の分の材料は私が用意するね」
「頼んだ、ユキ。それじゃ始めるか」
アカネさんとユキに材料を机の上に用意してもらい、俺はひたすら錬金スキルで銃を製造していく。
休憩なしのぶっ飛ばしで製造しているせいで、途中でMP切れを起こすがそれはMPポーションを飲んで回復しておく。
そして1時間弱で短銃50丁、種子島50丁の製造が完了する。
「やったあ! これで今日の納品分は問題なく終えられます! ありがとうございます!」
「今日の納品? ギルドで売るんじゃないのか?」
「ええと、守衛隊の方から銃を納品してほしいという依頼を受けてまして……それで、第1回目の納品日が明日だったんですよね……」
「……ずいぶんとギリギリだったんだな」
「いやぁ、その通りなので何とも言えないですねぇ……」
期日指定の話はゲーム的なシステムによるものだろうから。いつこなしても『明日』だったんだろうが、それにしてもギリギリではある。
「あのぉ……済みませんがこれからも定期的に通って作成を引き受けてくれませんか? もちろん謝礼ははずみますので」
〈ユニークシークレットチェインクエスト『星見の都の銃事情』が発生しました〉
〈このクエストをあなた方が受注した場合、他のプレイヤーは受注できなくなります。受注しますか?〉
ここでまたユニークシークレットクエストか、これは受けておいた方がいいだろうな。
「わかった。こちらも都合があるからな、どこまで手伝えるかわからないが出来る限りのことは受けよう」
「えっと、私にもクエストが出てるけどいいのかな? 私、銃製造できないよ?」
「そこは構いません! 少しでもお手伝いいただければ大丈夫ですので」
「それで、一体何丁製造すればいいんだ?」
「……それが、今まで納品した分も含めて、短銃1,000丁、種子島1,000丁の合計2,000丁なんですよね……」
「……それはまた気が遠くなる話だな」
「ああ、でも、2,000丁作ってもらう必要はありません。今までの間に納品した分もありますし、都合のつくときだけで構いませんので! ああ、でも1週間に50丁ずつは作っていただけると助かりますが」
「わかった、こちらとしてものんびりこなす気にはならないから、毎日可能な限り作成するとしよう」
「本当ですか!? 本当に助かります! ああ、でも、今日はこれから銃の納品に行かないと……」
「それならそれに付き合うとしよう。どこまで運ぶんだ?」
「ええと、この近くの兵舎までです。ああ、荷車に乗せて運びますので心配しなくても大丈夫ですよ」
「……俺達ならインベントリでまとめて持って行けるぞ?」
「流石にそこまでお世話になるわけには行きません! という訳で、荷車を裏手から正面に持ってきますので少々お待ちください」
アカネさんはギルドの裏手へと向かっていった。
なんというか、このまま終わりそうにないな、今日のクエストは。
「お待たせしました。荷車を表に運んできましたのでそちらに短銃と種子島を運んでください」
「わかった。それじゃあ始めるようか、ユキ」
「うん、わかった」
俺とユキは完成した銃をまとめてインベントリに放り込んでいく。
インベントリ内ではイベントアイテム扱いになるようだな。
「……それが異邦人様のインベントリですか。羨ましいですねぇ……」
「まあ、俺達には普通のことなんだがな。……とりあえず、今日作った分についてはこれで全部だな」
「わかりました。お手数ですが、表の荷車に出してもらえますか? そこから兵舎まで運んでいきますので」
「わかった」
アカネさんの指示に従い、表に止めてあった荷車に銃を積み込んでいく。
全100丁を積み込んだ時点でアカネさんがカバー代わりの布をかけて、落ちないように梱包していく。
「さて、これで兵舎まで持っていくだけですね」
「そうだな。……荷車は俺が引いていこうか?」
「いえいえ、お客様にそこまで迷惑をかけるわけには行きません。私が引いていきますよ。これでも筋力には自信があるんです!」
「そうか、なら止めはしないが」
「はい、お任せください!」
荷車を引き始めたアカネさんはゆっくりとではあるが荷車を動かし始めた。
最初こそゆっくりではあったが勢いがつき始めると、それなりの速度で移動を始める。
「勢いをつけるのはいいが、荷車にひかれないようにな」
「大丈夫ですよ、このくらい。これでも鍛えてますから!」
「その分を錬金術の勉強に向けた方がいいとは思うんだがな」
「うぅ……そうなんですが、ガンナーギルドのギルドマスターとしてあまりギルドを空けるわけにもいきませんし……」
「まあ、そうだろうがな。せめて種子島ぐらいは作れるようにならないとまずいんじゃないのか?」
「その通りなんですが……トワさん、お手数ですが作り方を見せてもらってもいいですか? 多分、作り方を横で見せてもらうだけでも結構な勉強になると思うんですよ」
「横で見てる分には構わないさ。ただ、銃の準備は忘れないようにな」
「あはは……できれば、もう少しゆっくりやってもらいたいですね」
「そればかりはなんとも言えないな……なぁ、この辺って治安が悪いのか?」
「え? どうして急に?」
「いいから、どうなんだ?」
「ええと、そこまで治安は悪くないですよ? それがどうかしたんですか?」
「いや、囲まれてるぞ、この荷車」
「ええ!」
アカネさんのその声をきっかけに、物陰から次々と現れる人相の悪い男達。
合計で……12人か。
「銃屋のアカネがようやく動いたとは聞いたが、余計な連中が2人も付いていやがったとはな」
「構わねえです、親分。ただの優男に小娘なんて大した事ないですよ。さっさと銃を奪っちまいましょうぜ」
「そう慌てるな。……おい銃屋。その銃を置いて立ち去れば危害は加えねえ。邪魔するんなら刀の錆になってもらうがどうする?」
あー、今度はそういうイベントね。
色々めんどくさいな、このクエストは。
「念のため聞いておくが、アカネさん、あいつらと知り合い?」
「そんなわけないです。どこかのゴロツキどもですよ。……あんた達こそどきなさい! さもないと痛い目を見るわよ!」
「ほう、あくまで邪魔立てするか。……まあ、いい。お前達やるぞ!」
「へい、親分!」
男達がそれぞれ刀やらドスやらを引き抜き臨戦態勢を取る。
こちらもそれぞれ武器を取り出して相手のステータスを看破するが……レベル20とかなんだよなぁ。
アカネさんだって40あるわけだし、これ、手出ししなくても勝てるんじゃなかろうか。
「おらおら、怖じ気づいたのかガキども!」
「どう料理したものか悩んでただけだよ。ウェポンチェンジ・双迅。ファイア!」
「ああん? ぐぇ!!」
想像通り、単発火力としては持っている武器の中でも最低の雷迅でもワンパンらしい。
これは……手間だけかかってすぐに終わりそうなイベントだな……
「チッ、お前ら一気に叩いちまえ! 相手は3人だ、数で押し込めば問題ねぇ!」
数でねぇ。
どうやらオーバーキルしても死なないイベントのようだし、ここはいっきに片付けるとしますか。
「ユキ、正面の敵を頼む。俺は背面の敵を片付ける」
「うん、わかったよ。気をつけてね」
「ああ、わかってるさ」
「あの、私は……」
「アカネさんは念のため荷車の護衛な」
「はい! わかりました!」
背面の敵はすでに残り5人、おあつらえ向きに固まってくれている。
それならば使うスキルは1つしかないよな。
「食らっておけ、テンペストショット!」
「ああん? なんだ、こりゃ!? 吸い込まれる!?」
「グギャア、痛えぇ!!」
「グアァ!?」
ふむ、背面の敵は全て片付いたようだな。
しかし、レベル50ぐらいまでのモンスターならワンパンできるテンペストショットを受けて死なないとか、イベント戦とは言えタフだな。
さて、正面はっと……
「万槍招来!」
「ぐぁぁ!」
「くそう、このアマァ……」
あっちも片付いたようだな。
ユキの万槍招来に耐えられるほどのHPはなかったか。
親分って呼ばれてた男でもレベル30ほどだったし。
問題があるとすれば……
「さて、アカネさん。この惨状をどう片付ければいいと思う?」
「ええと、このまま、番所に行ってこいつらを引き渡すのが一番なんですが……」
「何か問題でも?」
「これじゃあ、どっちが襲われたかわかりません……」
「相手が先に武器を抜いたんだ、正当防衛だろう?」
「いや、でも……」
「おい、そこ! なんの騒ぎだ!?」
俺とアカネさんが今後の事を話していると、突然男の怒鳴り声が割り込んできた。
「あ、衛士様」
「む、ガンナーギルドのアカネか。一体何の騒ぎだ」
「実は、兵舎に頼まれていた銃を納めに行こうとしたのですが、この者達が銃をよこせと斬りかかってきて……」
「ふむ、この男は……お尋ね者の連中だな。よく無事だったものだ、アカネ」
「そこはほら。ギルドマスターですし。今回は助っ人もいましたから」
「助っ人?」
「こちらのお二方です。外つ国からいらした異邦人ですよ」
「そうか。助太刀感謝いたす。……だが、この惨状ではな。詳しい話を聞きたいので番所まで来てほしいのだが……」
「でも、私は銃の納品が……」
「うむ……困ったものだ」
「ならば、私が代わりに事情を説明しよう」
アカネさんが衛士の男と話をしているとそこにさらに割り込んでくる者がいた。
黒い髪をした猫獣人だが……どこかアカネさんと似た雰囲気を持ってるな。
「あ、クロお姉ちゃん」
「ふむ、久しいな、アカネ。……衛士よ、私も事の一部始終を見ていた。説明は私が引き受けよう。それで構わないな」
「ですが、当事者の話を聞かないことには……」
「……仕事熱心なのは結構だが。……これでどうだ?」
クロと呼ばれた女性は手元から何かを衛士の男に見せる。
「これは……失礼いたしました!」
「ああ、そこまで堅苦しくしないでも結構。とりあえず私が事情を説明することで問題ないな?」
「はい、大丈夫であります!」
「という訳だ、アカネは納品に行ってくるといい」
「えっと、ありがとう、お姉ちゃん」
「ああ。それから外つ国の異邦人よ。済まないが君達とは少し話がしたい。納品が終わったらガンナーギルドで待っていてもらえるかな?」
「……わかりました。それでは、ガンナーギルドでお待ちしています」
「そんな堅苦しい言葉遣いじゃなくても大丈夫だよ。……それでは、また後で」
「うん、また後で、お姉ちゃん」
衛士は数名の増援を連れてきて倒れていた男達を連れて行く。
その後をクロと呼ばれていた女性がついていった。
「それじゃあ、お姉ちゃんも話があるみたいだし、早いところ納品を済ませてきましょう」
「ああ、そうだな。……それで、彼女の話ってなんなのか想像できるか?」
「いえ、お姉ちゃんの仕事の話なのか個人的な事なのか、ちょっと見当がつきません……」
「そうか……まあ、本人から話が聞けるだろうし、今は納品を急ぐとしよう」
「はい、お願いします」
一悶着あったが、俺達は無事に銃の納品を終えることができた。
あとは、あのクロと名乗っていた女性との話だが、はてさて、どうなるのやら。
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