204.星見の都散策 2
「それじゃあ、ちょっとギルドマスターさんに挨拶してくるね」
「ああ、急ぎじゃないししっかりな」
「うん。でも、なるべく早く戻ってくるよ」
料理ギルドに到着した後、ユキが持っていた紹介状を渡すと『ギルドマスターに会ってほしい』と言うことになった。
同伴者でしかない俺は、その間待つことになるのだが……せっかくだし販売所の更新とかをしておくか。
そう思ってギルドの販売所を訪れて商品を更新したが、あまり商品は変わらない気がするな。
とはいえ小豆とか餅米が増えたしユキなら餡子を作れるだろうから、そのうち和菓子の類いでも開発するだろう。
大福とか。
ギルド内の販売所でみたらし団子と抹茶を購入して、テーブルでそれらを食べながらユキの帰りを待つ。
4本セットだった団子の2本目に取りかかろうとしたとき、ユキが戻ってきた。
「あ、トワくん。お団子なんて売ってたんだ」
「ああ、販売所の内容も更新しておいた。餅米も売ってたし、ユキなら団子とかも作れるようになるんじゃないか?」
「うん、できるかも。ああ、でも、レシピが必要かな? ……ちょっと売ってるレシピの一覧見てくるね」
「はいよ。ゆっくりで構わないからな」
ユキは駆け足でギルドの受付まで戻っていく。
ここからじゃユキの背中しか見えないが、色々なレシピを買い込んでいるようだ。
やっぱり食文化は地域性が出るし、新しいレシピが多かったんだろうか?
「お待たせトワくん。レシピ色々買ってきたよ。これで、自分でもお団子とか大福とか色々作れると思うよ」
「そうか。……ユキも食べるか?」
「うん、もらおうかな。……結構美味しいね」
「それはよかった。もう一本も食べていいぞ」
「ありがと。それじゃあ、いただきます」
食事が終わったら次のギルドへと向かう。
次は同じくユキのギルドであるランサーギルドだ。
ここでもユキはギルドマスターの部屋に呼ばれたため、俺はのんびり待たせてもらった。
……このペースで行くと俺のギルドではユキを待ちぼうけさせてしまうかな。
10分ほどでユキは戻ってきたため、次のギルドへと向かう。
次は……どこに行こうか?
「さて、次のギルドだけど、どこに行っても同じぐらいの距離なんだよな」
「そうみたいだね。……でも、ガンナーギルドの場所がわかってるって珍しいよね」
「そう言われるとそうだな。厄介事がなければいいんだけど」
「大丈夫だよ、きっと。そうそうイベントが起こるとは限らないし」
「……だといいんだけどな。ガンナーギルドだけは信用ならなくてなぁ……」
「とりあえず、次に行くギルドを決めちゃおう? ね?」
「そうだな。……ガンナーギルドは最悪明日でもいいとして、調薬ギルドから行くか」
「わかったよ。それじゃあ、サブポータルまで移動だね」
「そうだな。行こうか」
最寄りのサブポータルまで移動して、調薬ギルド近くのポータルまで転移。
そこから数分歩いて調薬ギルドへとたどり着く。
調薬ギルドにつき、ギルドマスター宛の封書を出したことでやはりギルドマスターとの面会となった。
今回はユキを待たせる形になってしまうが、仕方が無いか。
その後、行われたギルドマスターとの面会では到着の挨拶と今後の活動方針を聞かれた。
活動方針と言ってもクランホームを移転するわけでもないし、ジパンには基本的に観光目的だと伝えておいた。
ギルドマスターは残念そうだったが、こればっかりは仕方が無い。
10分ほどで挨拶も終わり受付まで戻ってユキと合流する。
気になったのでギルドの受付で販売レシピを確認してみると、『丸薬』という回復アイテムが追加されていた。
丸薬の効果はポーションより高いが、ポーションのような瞬間回復ではなく数秒かけての回復らしい。
あとポーションは飲む必要はなく、体にかけても回復するが、丸薬は飲み込まないと効果を発揮しないようだ。
とりあえず、回復効果は高いわけだしポーションとの差別化もできそうなのでレシピは購入しておく。
それから販売品の更新はユキの方でやっておいてくれたようだ。
調合ギルドの次は錬金術ギルドなのだが、こちらはすぐ側にあったので移動時間はほとんどかからなかった。
さて、こちらも封書を預かっているしまた別行動になるだろうな……
そう思っていたら、ギルドの受付でかけられたのは思っていなかった言葉だった。
「ギルドマスターとの面会ですが、お連れの方も同席していただいて構わないそうです。よろしければどうぞ」
「そうですか……どうする、ユキ?」
「えっと、それじゃあ一緒に行きます」
「かしこまりました。それではこちらにどうぞ」
案内された先、つまりギルドマスターの部屋では当然だがギルドマスターが待ち受けていた。
ただし、部屋の中ではなく部屋の外、廊下であったが。
「君達がセイルガーデン王国から来た異邦人かね?」
「はい、異邦人のトワです」
「えと、ユキです」
「私はゲンゾウ。ここのギルドマスターをしている」
「よろしくお願いします。……それで、どうして部屋の前で待っていたのですか?」
「セイルガーデンのギルドマスターからの依頼だからな。少しばかり付き合ってもらおう。こちらだ、ついてこい」
「はあ。わかりました」
ゲンゾウさんの後を追いかけると、途中下り階段を下ったりしながらギルドの最奥部と思しき場所へとたどり着いた。
「ここは?」
「錬金術ギルドの秘奥であるガーゴイルの錬金室だ。ここを見せてやってほしいとの事だったのでな」
「……それって簡単に見せてもいいんですか?」
「無論、簡単に見せられるものではない。だが、セイルガーデンでの功績を考えれば開示しないというのも考え物でな」
「開示してもらっても作るつもりは今のところありませんよ?」
「かまわんよ。どういう物かという事だけ見てもらえればそれでいい」
錬金室の扉は何らかの認証によって自動で開かれた。
その奥にあったのは、鎧武者を象った像や般若像、金剛力士像などであった。
「これがガーゴイルですか?」
「ああ。あくまでこれらはひな形であり、完成したガーゴイルではないがな。完成品はこれだ、出でよガーゴイル」
ゲンゾウさんの言葉に従い、1体の像が現れた。
金剛力士の姿をしたガーゴイルだ。
「セイルガーデンにはセイルガーデンのガーゴイルが伝わっているがな。ジパンに伝わっているガーゴイルはこれらだ。……まあ、違うのは姿形だけであり能力的には変わらないのだがな」
「そうなんですか? 形によって能力が違ったりはしないと?」
「変わらんな。確か、魔法王国には飛行できるガーゴイルがいると聞くが……違いがあるとすればそれぐらいだろう。もっとも、それで性能が大きく変わると言うことはないはずだが」
「飛べるというのはそれだけでかなりなアドバンテージでは?」
「魔力を消費して飛ぶという話だからな。魔力の少ないガーゴイルでは飛べて数十秒だろうよ。それ以上に、ガーゴイルの性能を決めるのはその装備の差だ」
「装備ですか? 見たところ何も装備していないように見えますが」
「今は非戦闘状態だからな。戦闘時は私が集めた装備品を装備して戦うことになる。そして、ガーゴイルのステータスは装備によって引き上げられる。上質な装備をすればそれだけ性能が増すという事だ」
「戦闘経験を積んでレベルを上げることはできないんですか?」
「レベルという概念自体は存在するがステータスは上昇しないな。ガーゴイルの強さを決めるのはその装備だ」
つまり強力な装備をつけなければステータスは低いままか……ずいぶんとお金のかかりそうな話だ。
「封書にはお前さんにガーゴイルの製法を教えてほしいとあった。そして、お主の実力も足りていそうだ。ガーゴイルのレシピを受け取っていくか?」
「ええと……あまり作る予定はないんですが」
「それも承知の上で製法を教えるつもりだ。使わなければ使わないで困ることはない。どうだ、覚えていかぬか?」
「……わかりました。それじゃあ、レシピを覚えるだけなら」
「そうか、それでは少し待て。レシピを持ってこよう」
ゲンゾウさんは部屋の奥へと消えていった。
ここはあまりウロチョロせずに大人しく待っているとしよう。
……ガーゴイルはここに残ってるわけだし。
数分後、ゲンゾウさんは戻ってきた。
「……待たせたな。これがガーゴイルのレシピだ」
「では拝見します。……これはまた、豪華なレシピですね」
「これぐらい揃えねばガーゴイルとしては役に立たないからな」
そのレシピに記されていた製法は、大量の高ランク素材を要求する物だった。
というか、アダマンタイト鉱石300個やメテオライト鉱石300個とか、市場に出回ってるのをかき集めないと揃わないだろう。
……これは確かに5月の時点で実装済みだったんだろうが、実質的に入手する方法はなかったんじゃないかな?
「その様子ならば無事にガーゴイルの製法はわかったようだな。ではレシピは返却してもらおうか」
「わかりました。……作れるようになったガーゴイルは、ここにある3種類だけなんですね」
「他のガーゴイルを作りたいならば各国のギルドマスターを訪ねることだ。銀時計を見せれば特に問題なく製法を教えてくれるだろう」
「そう言うものですか」
「それだけの意味を持つのだよ、銀時計は。上級錬金術士であり錬金術ギルドに多大な貢献をした者しか持てないアイテムだからな」
「……思った以上にすごいアイテムなんですね、これ」
「ああ、紛失しないように気をつけるのだな」
「わかりました」
ゲーム的な話をすれば、インベントリの『貴重品』に分類されているアイテムは紛失というか放棄出来ない仕様だが、それはあくまでゲームの仕様上の話だ。
普通に生活してれば紛失の恐れがあるよな。
「なくさないように気をつけますよ。それで要件は終了でしょうか」
「そうだな。……何か困っていることがあれば相談に乗るが?」
「困っていることですか……」
「トワくん、サブポータルの転移権限の話は?」
「ああ、そうだ。クランホームから星見の都のサブポータルへの転移権限をほしいのですが」
「ふむ、それくらいならば許可が下りるだろうが……一筆
「よろしくお願いします」
「わかった。それでは、私の部屋に戻るとしようか」
その後はギルドマスターの部屋へと戻り、役所への紹介状を書いてもらった。
それを受け取った後、俺達は販売品の更新を行いレシピも確認してから錬金術ギルドを後にする。
これで残りはガンナーギルドだけなのだが。
「……紹介状も手に入ったし、先に役所に行って許可をもらってくるか?」
「うーん、後でも大丈夫じゃないかな。きっとガンナーギルドだってそんなに時間かからないよ」
「だといいんだけどな。それじゃあ行ってみるか」
「うん、行ってみよう」
ガンナーギルドはこれまた街の中でも外れの方にある。
ここからではかなり距離があるため、サブポータル経由での移動だ。
最寄りのサブポータルまで移動して、さらに歩くこと数分、ガンナーギルドまで到着したのだが……
「……なんて言うか、人気がないね」
「そうだな。首都のギルドでこれだと他の街のギルドがどんな状態かが思いやられるな」
「まずは中に入ってみようよ」
「ああ、そうするか……」
戸を開けてガンナーギルド内へ入ってみる。
そこはやはりガランとしており、そこそこ広いスペースにぽつんと受付が一人だけ座って……というか、突っ伏していた。
俺達はその受付嬢? の元へと歩み寄り声をかけてみる。
「おーい、ここがガンナーギルドであってるよな?」
「はい!? はい、ここがガンナーギルドです!」
「……こんな様子で大丈夫なのか、ここ」
「うーん、どうだろうね……」
「あの、新規入会ですか? そうだと嬉しいんですが」
「残念ながら俺はもうガンナーギルドのメンバーだよ。セイルガーデン王国からやってきたんだが。これ、アリシアさんからの封書な」
「アリシア様からですか!? それでは拝見させてもらいます」
「構わないけど、ギルドマスターに渡さなくて大丈夫なのか?」
「あ、私、ギルドマスターのアカネです。挨拶が遅れて済みません」
「……やっぱりギルドマスターしかいないのか」
「……どうもすみません。他に人を雇う必要も理由も余裕も無くて……」
「まあ、いいや。早く中身を確認してもらえるか?」
「はい、では失礼して…………トワさんとおっしゃるのですね。あの、いくつか頼みを聞いていただけないでしょうか?」
うん、何となく予感はしてたけどクエストが続くのか。
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