203.星見の都散策 1

「うわー、やっぱり人通りが多いね、トワくん」

「ん、そうだな」


 白竜帝から装備作成依頼を受けた日の午後、俺とユキは星見の都を訪れていた。

 理由は単純で、暇だったからだ。


 話は午前中まで遡る。


 ――――――――――――――――――――――――――――――



 白竜帝から素材箱を手に入れた俺達は、クランホームに戻ると早速中身を確認してみることにした。

 素材箱の中身は、岩山で白竜帝に見せてもらった素材一式と同じ物だった。

 問題は中に入っていた素材の量だ。


「なにが『数に限りはある』よ。それぞれ10,000個以上は入っているじゃない」

「それでも10,000個しかないとも言えるじゃろう。……儂らでは持て余すが」

「本来はもっと大人数で挑むクエストだとおじさんは思うんだよね。『ライブラリ』なら問題ないだろうけど」

「そうですね。……私達なら何とかできますけど、もっと人数の多いクランだと大変かも知れませんね」

「だよねー。それよりもまずは、適当に数を取り出してなんの素材になるか確かめようよー」

「そうだな。……とは言っても俺の素材になりそうな物は一切なさそうだが」

「確かに、錬金術素材や調合素材になりそうな物はないわね」

「ふむ、先程も見たが牙は鍛えればインゴットになりそうじゃ。トワの出番はインゴットから銃のパーツを作ってからじゃのう」

「ボクは角かなー。削り出すことで弓や杖に使えそうなのはさっきも確認した通りだねー」

「私は皮膜や鱗ね。上手く使えば服や軽鎧にできそう」

「私は……骨を煮込めばスープにできるでしょうか?」

「おじさんは完全にお手上げだね。本来ならボーンアクセサリーを作れそうだけど、圧倒的にスキルレベルが足りてないよ」


 各々が素材を改めて確認して、自分にできそうなことを確認する。

 作業量が一番多くなりそうなのはドワンだろうな。

 なにせインゴット作りはドワンしかできないし、インゴットが作れると言うことは基本的な金属装備は一式作成可能なんだから。


「ふむ、作る装備によっては角や骨を直接削り出して作った方が良い装備もあるのう。猶予は1週間もあるし、2~3日は色々試してみるべきじゃろうな」

「……となると、完全に俺の手が空くことになるな」

「そうね。……それなら今のうちに星見の都に行ってみるのはどうかしら? どうせ後で行くことになるんだし、ちょうどいいんじゃない?」

「まあちょうどいいと言えばちょうどいいが……」

「どうせなら星見の都のホーム屋を探してサブポータルの転移権限を開放しておいてくれると助かるんだけど」

「……わかったよ。そっちも探してみる。完全に初めて行く場所だから見つからなくても諦めてくれよ」

「わかってるわよ。……それじゃあそれぞれの予定は決まりかしら」

「そうじゃの。……おっさんはどうするかの?」

「おじさんは適当に自分のスキル上げをやってるよ。どう考えても期日までは間に合わないけど、スキル上げはしなくちゃいけないからね」

「予定は決まりね。素材箱は私が預かっておくから必要な素材は私に言ってね」

「わかった。それではとりあえず、牙を20に角と骨を10ずつ頼めるか」

「ボクは角を20かなー」

「私は骨を5個お願いします」

「オッケー。……はい、これね」


 こうして中間素材ができないと何もできない俺と、スキルレベルが足りなくて手が出せないおっさん以外のメンバーは、それぞれ自分の作業へと取りかかるのだった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 そんなわけで暇だからと言うわけで、昼食を食べた後、用事を済ませた俺は星見の都にやってきたのだが。

 一人で来たわけではなく、ユキも同行することになった。

 曰く、「骨からスープを抽出するだけなら全自動でできる」そうな。


 という訳で二人で星見の都を散策することになったのだが、星見の都も王都に負けず劣らず広かった。

 王都に比べると、道は十字に交差しており入り組んではいないのだが、それでもその広さ故に歩いて回るのは少々骨が折れる。

 なのでまずはサブポータルの転移権限を開通させるため、ホーム屋を探す事になったのだが……どこにあるのかまったく情報が無い。

 なので、適当なギルドに行ってから場所を聞いてみようかとも思ったのだが、ギルドも街の中心部では見つからなかった。


「あ、見て、トワくん。着物が売ってるよ?」


 そう、この星見の都、名前通り和風な国なのだ。

 住人NPCの衣装も純和風の着物姿だし、建ってる建物も完全に和風様式なのだ。


「ほしいなら寄っていってみるか?」

「いいの? ギルドやホーム屋さん探さなくちゃいけないんじゃない?」

「多少の時間が潰れたところで問題は無いだろう。それに、ギルドを探すならサブポータルを使った方が早そうだしな」

「うーん、それじゃあ少しだけよらせてもらうね」


 そう言って、ユキは着物屋? 織物屋? ともかくそう言った店に入っていった。

 女性がこう言った店に入ると長くなるものだが果たして、どれくらいかかるのやら。

 店先で突っ立ていてもしょうがないので、俺も店内に入ることにした。


 店内には色とりどりの反物や着物が置いてあった。

 ……柚月なら色々買い込んでいきそうだから、マップにピン止めしておくか。

 そして肝心のユキはと言うと、店員の住人と何やら話し込んでいた。


「えーと、それじゃあ、この桜色の着物を見せてもらえますか?」

「はい、かしこまりました。少々お待ちを」


 ……どうやら気に入った品を早速見つけたらしい。

 店員さんは商品を取りに行ったようだ。


「ようこそ、いらっしゃいませ。お客様はどういった物がご入り用でしょう」


 店内の様子を窺っていたら別の店員に声をかけられた。


「ああ、俺は彼女の連れですよ。店の前で待っているのもなんなので入らせてもらいました」

「あら、そうでしたか。……せっかくですので、お客様も何か買っていかれませんか?」


 うーん、和服か……あまり趣味じゃないんだよな。


「俺はいらないですかね。今の服が気に入ってますし」

「左様でございますか。もし、ご入り用でしたら当呉服店をご利用くださいませ」

「ああ、その時はよろしく頼むよ。……ああ、そうそう。ギルドに向かいたいんだけど、どういったらいいかな?」

「ギルドでございますか?……星見の都ではギルドはバラバラに散らばっておりますので、どこのギルドに行きたいかでご案内の方法も変わってしまいますね」


 ギルドの位置がバラバラとかかなり面倒だな……先にホーム屋を見つけて転移権限の開放をした方がいいか?


「それじゃあ、ホーム屋はどこにあるかわかるかな? ホームポータルの拡張を依頼したいんだけど」

「ホーム屋でしたらこの近くにありますよ。店の前の大通りを西に交差路2つ分進んだ先を北に曲がってすぐのところになります」

「そうですか、ありがとう。この国に来てまだ地理を覚えてないから助かるよ」

「いえいえ。外つ国の方でしたら迷うのも無理ありませんから」

「……やっぱり外国の人間だってわかりますか」

「ええ、お召し物から丸わかりですね。それがなかったとしても、雰囲気でわかりますが」

「なるほど……まあ、隠す物じゃないし構わないか」


 とりあえず、ホーム屋の場所はわかったし次の目的地はそこだな。

 それから、各職業ギルドを回ればいいだろう。

 ……王都だとどのサブポータルから、どの職業ギルドが近いかって一覧ができてるからすぐだけど、まだ星見の都にたどり着いたプレイヤー自体も少ないから、自力で探していくしかないんだよな。


「お待たせトワくん。……似合うかな?」


 ユキの声に振り返ってみると桜色の着物に身を包んだユキがいた。

 鮮やかな桜色の着物に紺色の袴、足下はブーツ姿になっている。

 髪には着物に合わせた桜色の簪が一本留められていた。


「ああ、よく似合ってるよ。……この短い時間でよく揃えられたな」

「えへへ。このお店の品揃えがよかったからだよ。こう言うのがほしい、って言ったらすぐに揃えてくれるんだもの」

「それはようございました。よくお似合いですよ」

「ありがとうございます。また機会がありましたらよろしくお願いしますね」

「ええ、喜んで。それではまたのご来店をお待ちしています」

「はい。ありがとうございました」

「それでは、失礼します」


 装備アバターを変えたユキを伴って店を出る。

 こうして歩いていると、ユキもこの国の住人じゃないかと錯覚してしまうな。


「トワくん、似合う? 似合う?」

「ああ、似合ってるよ。何度も念を押さなくても大丈夫だって」

「よかった。和服なんて稽古着ぐらいしか着たことがないから自信がなかったんだよね」

「そんなに心配することでもないと思うけどな。……ちなみに、その服、一式でどれくらいかかったんだ?」

「えーと、2万Eくらいかな? 防御力がほとんどないアバター装備だからかな、とっても安かったよ?」

「……まあ、俺達の感覚で言えば安いだろうがな。普通のプレイヤーではそんな簡単に出せる金額でもないからな」

「うーん、そう言われるとそうかもね。……それで、店員さんと何を話してたのかな?」

「ああ、ギルドやホーム屋の場所を聞いていたんだ。ホーム屋はこの近くにあるらしいから、まずはそこに移動しよう」

「うんわかった。……手、つないでもいいよね」

「別に構わないぞ。……ほら」

「うん! えへへ」


 ホーム屋までの短い距離をユキと手をつないで歩く。

 ……ゲームの中で手をつないで歩く事なんて今まであったかな?


「んー、やっぱりゲームの中だと手の感覚も少し違うね?」

「そうなのか? 身長とかはいじってないから体格は変わってないはずなんだが」

「なんというか、ちょっと手が冷たい感じがするかも?」

「ああ、アバターの体温が違ったりするのかもな。無駄にこったところがあるから」

「そっか。……ちなみに私の手は温かい? それとも冷たい?」

「うん? ……そう言われれば少し冷たい感じがするな。獣人自体が手の温度低いのかもな」

「そうかもね。今度イリスちゃんの手も触ってみようっと」

「迷惑をかけない程度にな。……ここを右手だな」

「うん。……あ、あの建物じゃないかな?」

「……看板も出てるし間違いなさそうだな」


 教えられた通りに道を歩くと、道を曲がってすぐ側に『住居万取扱』と書かれた看板を掲げた店があった。

 俺達は早速その店の中へと入っていく。


「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょう。お住まいをお探しでしょうか?」

「いや、サブポータルの転移権限をお願いしたいんだが」

「……おや、お客様は異邦人の方でしたか。これは失礼いたしました」

「あの、ホームポータルって住人の方は使わないんですか?」

「あまり使われませんね。ホームポータルは高額ですので」

「そうなんですね……」

「はい。……どうぞ、こちらにおかけください」

「ああ、ありがとう」

「それで、サブポータルの転移権限との事でしたが、お客様は外つ国の方ですよね?」

「ああ、そうだが、問題でもあるのか?」

「外つ国の方でしたら、申し訳ありませんがすぐには開通できないのですよ。役所に届け出が必要でして……」

「なるほどな。つまり俺達が役所に行って手続きをしてこないとダメだと」

「申し訳ありませんがそうなります。……お手数ですが先に役所にて許可証をもらってきていただけますか?」

「わかった。ただ、役所の場所がわからないけどそっちはどうすればいいかな?」

「それでしたら、こちらの地図をお持ちください。主要な施設については全て網羅していますので」


 渡されたのは星見の都の地図。

 開いて見てみれば、確かに主要な施設――各種ギルドや役所、ホーム屋、サブポータルの位置など――が網羅されていた。

 役所は……ここからならサブポータルを経由するより歩いて行った方が早いか。


「地図ありがとう。それじゃあ、役所の方に行ってくるよ」

「ああ、少々お待ちを。お客様の身分証があるのでしたら、ご提示いただけますか?」

「わかった。……これでいいか?」


 俺とユキはそれぞれの職業ギルドから渡された身分証を見せる。


「ありがとうございます。これだけの身分証があるのでしたら、先に各ギルドに届けを出してから役所に行かれた方が話は進みやすいでしょう。これだけの身分証をお持ちでしたら、各ギルドから紹介状を出していただけると存じます」

「そうか。色々とすまないな」

「いえいえ。私どもとしましても大切なお客様ですので」

「それじゃあ、まずは各ギルドを回ってみることにするよ」

「はい、またのご来店をお待ちしています」


 さて予定は変わってしまったが、どちらにせよ各ギルドには顔を出さなきゃいけないんだから一緒か。


「ねえ、どこのギルドから回ろうか?」

「とりあえず各ギルドの位置はバラバラだし……ここから歩いて行ける距離の料理ギルドからにしよう」

「うん、わかった。それじゃあ行こう?」


 ユキが俺と手をつないでくる。

 急ぐ話じゃないし、ゆっくり星見の都見物がてら回ってみますか。

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