202.白竜帝の頼み事
浮遊島南端から見えた岩山の方に向かって騎獣を走らせること1時間弱、岩山の麓にたどり着いた。
そこは、帰還ポイントでもあるキャンプ地となっていた。
キャンプ地には見知った顔がいたので挨拶をすることにする。
「よう、鉄鬼、仁王。こんなところで何をしてるんだ?」
「うん? トワじゃねーか。昨日の『妖精郷の封印鬼』に続き、レイドボス攻略……ってわけでもなさそうだな」
「レイドボス? そんなのがここにいるのか?」
「ああ、ここの山頂がレイドボスエリアになっていてな。そこに『白竜帝 レイゴニア』ってのが居座ってるんだよ」
「へぇ、こんなところにレイドボスがねぇ……」
「その様子だと本当に知らなかったみたいだな。じゃあ何しに来たんだ?」
「湖から川沿いに南下して島の端まで行ったらここが見えたから、ちょっと遊びに来た」
「なるほどなあ、確かにそいつはお前ららしい行動理由だな」
「それで、白竜帝って言うのは強いのかしら?」
「かなり強いな。俺達ですらギリギリ勝てるぐらいだ」
「見た限り4パーティみたいだけど、レイド制限は?」
「戦闘エリアに入るだけなら制限なし。ただ、討伐ポイントが50万だからな。あまり人数が多いと、あまり美味しい狩り場とは言えねーな」
「ふーん、それで周回でもしてるのか?」
「いんや。さっき挑んできて休んでるところだ。一度倒してしまうとリアル4日間の再戦禁止状態になるからな」
「そうなのか。こんなところでも制限をかけてるんだな」
「そうでもしなきゃ、強いところはボス周回であっさり100万ポイント到達しちまうからな。……ああ、お前らならアイテム納品でも100万ポイント届きそうだが」
「正直、このイベントに関してはそこまで関わるつもりがないからな。そこまでポイント貯めるつもりはないよ」
「なるほどなぁ。もったいない気もするが、お前ららしいっちゃらしいな」
「おい、【魔銃鬼】。回復アイテム持ってないか? さっきのレイドで使い切っちまってな。これから別のレイドに挑む予定なんだが、回復薬の在庫が微妙なんだよ。市販価格よりも高くてもいいから売ってくんねーか?」
鉄鬼と話していると、仁王が回復アイテムの買取交渉にやってきた。
ポーションだとハイポーションになるけど……仁王達なら問題ないか。
「……まあ、『百鬼夜行』相手ならいいか。さっきミドルポーションは在庫を結構出してきたから、ハイポーションがメインになるけど大丈夫か?」
「……ちなみに、ハイポーションの最高品質はどうなってるんだ?」
「★12。まだ確実には作れないけど、本気で作れば7割以上は★12になるぞ」
「……同盟組んでて優先的に高品質ポーションが入手できる『白夜』がマジ羨ましいぜ。それを譲ってもらう事は可能か?」
「ダメなら持ってることを明かさないさ。回復量が★12だと1,000になるから1個あたり1万Eでの換算になるけど大丈夫?」
「……むしろ、1個で1,000も回復出来るポーションが1万で手に入るなら御の字だがな。瀕死のタンクだってほぼ全快じゃねーか」
「そう言う文句は、回復量を設定した運営か開発に言ってくれ。それでいくつほしい?」
「そうだな。HPポーションだけでいいから20個ほどほしいか。支払いはイベントポイントでいいか?」
「構わないぞ。1個どれくらいにする?」
「……そもそもそんなポーションに相場なんてないだろうからな。柚月、お前さんが決めてくれ」
「そうね。1個800ポイントぐらいでどうかしら?」
「それなら問題ないな。1万6千ポイントだ、受け取れ」
「それじゃあ、こっちもハイポーション20個。……うん、確かにポイント受け取ったよ」
「……なあ、回復量が1,400になってるんだが俺の見間違いか?」
「そんな事はないぞ? 回復量上昇のポーション瓶を使ってるから回復量4割増しだ。回復量が高い分には問題ないだろ?」
「こちらは問題は無いが……いいのか柚月?」
「別に問題ないわ。元より回復量上乗せポーションでの価格提示だったし」
「……すまんな、助かる。……おい、そろそろ休憩は終わりだ! 次のレイドボスに向かうぞ!」
「頑張るねぇ。このペースなら100万ポイントいけるんじゃないか?」
「そんな事はないぞ。今のところレイドボスは5体確認されてるが、そいつらを4パーティで最短日数での周回しても結構厳しい程度だ。市場じゃポーション類が減ってポイント交換じゃないとなかなか手に入らなくなってきてるしな」
そんな状態になっていたのか。
市場とか確認してなかったから、気にしてなかった。
「まあ、俺達は自前の調薬士もいるから何とか回してるけどな。それでも今みたいにギリギリなんだよな」
「それならレイド以外で稼げばいいのに。普通のボスとかもいるんじゃないのか?」
「いるにはいるがなぁ……あまり稼ぎがよくないんだよ」
「そう言うものか」
「そう言うものなんだよ。まあ、別にプラチナスキルチケット狙いって訳でもないから出来る範囲で稼がせてもらうつもりだけどな」
「そうか、頑張ってくれ」
「おうよ。それじゃ、そろそろ行くわ。またな」
百鬼夜行のメンバー達はそれぞれの騎獣でこの場を去っていった。
軽く1万6千ポイントとか支払えるんだし稼ぎは相当いいんだろう。
さて、俺達はこれからどうするか。
「この上がレイドボスだって事はわかったけど、これからどうする?」
「そうねぇ……私達がレイドボスに挑んだところで一蹴されるのは目に見えてるしねぇ……」
「そうじゃのう。負けたところで失うものは大したことはないと考えれば行ってみるのも手じゃろう」
「そうだねー。レイドボスを見に行くのも悪くはないかもねー」
「おじさんも興味はあるかな。もっとも、レイドボスの姿を見る前に全滅って言うのもありそうだけどね」
「行くなら私もついていきますよ?」
「……それなら登ってみましょうか。負けてもキャンプに戻されるだけだし、午後まで休めばデスペナも治るでしょう」
「決まりだな。それじゃあ、岩山を登るとしようか」
岩山の登山道はお世辞にも整っているとは言い難く、歩くのも苦労する状態だった。
騎獣で登っているから直接疲れることはないんだけど、スピードは出せないから歩く程度の早さでの登山になる。
そんな山道を30分ほど登っただろうか、遂に頂上部へとたどり着いた。
そこには聞いていた通り1体のドラゴンが待っていた。
『ほう、こんなところまで登ってくるとは希有な人間だ。我と戦いに来たのか?』
おや、いきなり戦闘にならない。
高度AI持ちかな?
なら交渉結果次第では戦闘を回避出来るかも。
「んーそう言うわけじゃないかな。岩山からの眺めが良さそうだったから登ってきてみた。あと、頂上に竜がいるとも聞いたしそれを拝みにやってきたと言ったところかな?」
『ふむ、我と戦いに来たわけではないのか。ならばゆっくりしていくといい。何も用意してやることはできんがな』
「それじゃあ、お邪魔させてもらうよ」
どうやら戦闘は回避出来たようだ。
それじゃ、遠慮無く眺めを堪能させてもらおうか。
「うわぁ、さっきもいい眺めだったけど、高いところから見るとさらに絶景だね!」
「そうだねー。ここからの方が遠くまで見えて楽しいや」
「おじさんとしては流石にちょっと恐いぐらいの高さだけどね。間違っても落ちないようにしないと」
「その辺は大丈夫じゃろうよ。安全策は取ってあるはずじゃ。……まあ、岩山を転げ落ちる心配はして置くべきじゃが」
「心配はそれぐらいでしょうね。……あとは後ろのドラゴンとか」
「ゆっくりして行けって言ってるんだし大丈夫じゃないか? それよりあの湖の側が中央キャンプかな?」
俺達は各々岩山からの眺めを堪能する。
そして10分ほどあたりの様子を確認していると、ドラゴンから話しかけてきた。
『ふむ、お前達の装備は自分達で作っているのか?』
「うん? 基本そうだけどそれがどうかしたのか?」
『なに、少し頼みがあってな。少し相談に乗ってはくれぬか?』
「……どうする、皆?」
「とりあえず話を聞いてみない?」
「話を聞くだけならいいんじゃないかしら。無理なら断ればいいわけだし」
「そうじゃのう。聞くだけ聞いてみようではないか」
「そうだねー。どんな話なんだろう」
「おじさんにできることだといいんだけどね……」
「という訳らしいから、相談内容次第かな。俺達は出来る事と出来ない事の差が激しいから」
結論は出たのでドラゴンに先を促してみる。
ドラゴンの口元が少し緩んだような気がするのは気のせいだろうか。
『そうか、それは助かる。相談内容というのは、我の素材で武器や防具を作ってきてもらいたいのだ』
「うん、素材で装備を? どういう意味だ?」
『なに、ここを訪れる者達は我が分身と戦い素材を持っていくが、それを有効に活用できないものが多いらしくてな。どうせならば最初から装備として渡してやった方が何かと役立つのではないかと思ってな』
これまたずいぶんユーザーフレンドリーな依頼だな。
でも、実際、このレベルのレイドボス素材で装備を作るのは大変だろうな。
「どうする?」
「まずは素材の現物を見たいわね」
「そうじゃの、儂らで使えるかどうか確認するところからじゃろうな」
「そうだねー。と言っても、木材は無いだろうし、ボクの出番あるかなぁ?」
「私は料理ですからね。もっと出番がなさそうです」
「おじさんは完全にスキルレベル不足だろうね」
『素材か。少し待て、今用意しよう』
ドラゴンが力を込めると様々な素材が落ちてくる。
いくら自分の素材だからってぞんざいに扱いすぎじゃないかな。
「ふむ、牙や角、骨は武器素材になりそうじゃの。牙は鍛えればインゴットにもなりそうじゃからトワの銃にも使えるじゃろう」
「鱗や皮はスケイルメイル向けかしらね。鍛冶でならスケイルシールドなんかも出来るんじゃない?」
「そうじゃの。その辺りなら作れそうじゃろう」
「ボクは角を削り出して弓や杖を作れそうかな?」
「……やっぱり私じゃ使える素材はないですね。ひょっとしたら骨はスープに使えるかもですが」
「ドラゴンの骨で出汁を取ったスープとは豪勢だねぇ。おじさんだと、本来なら牙あたりからアクセサリーが作れそうなんだけどスキルレベルがまったく足りてないね」
「俺もドワンがインゴットを作ってくれるまでは何もできないかな。インゴットが銃身にできるならだけど」
「それは可能じゃろう。ついでに言えば、角からグリップも作れるのではないか?」
「作れそうかなー。後は魔石もあれば全部ドラゴン製の銃が作れるよね?」
『魔石か、少し待て……これでいいか?』
「……魔石も作れるんだな。……うん、この品質なら大丈夫。あとは数があれば銃にできるかな」
『数か。少し待て。…………これを持っていけ』
ドラゴンが新たに出してきたのは、精密な細工が施された箱だった。
『それの中には我の分身から手に入る素材を取り出すことができる。もちろん数に限りはあるし、制限もかけさせてもらう。取り出した後、20日で消滅すると言う制限をな』
「つまり、消滅するまでに装備にして持ってこいと?」
『そうなるな。装備を持ってくれば対価として褒美を与えよう。どうだ、引き受けてはくれぬか?』
〈ユニークシークレットクエスト『白竜帝の頼み事』が発生しました〉
〈このクエストをあなた方が受注した場合、他のプレイヤーは受注できなくなります。受注しますか?〉
また、ユニークシークレットクエストか……
でも、これを断る理由はないんだよな。
「皆、クエストを受けようと思うけど大丈夫か?」
「オッケー、服と軽鎧は任せておきなさい」
「儂も武器と重鎧は担当させてもらおう」
「弓と杖はボクの担当かなー。頑張るよ」
「私は料理できそうなら料理を作りますね」
「おじさんは今回は完全に外野かなぁ。低レベルでも扱える素材があればいいんだけどね」
「それじゃあ、その依頼、『ライブラリ』が引き受けよう」
『それは助かる。できるだけ早く届けてほしいが、それでクオリティが下がっても本末転倒だ。できるならば次の天の日までに頼めるだろうか?』
「天の日ってことは日曜日か、それなら大丈夫だろう。構わないよな?」
「ええ、問題ないわ」
「構わんぞ」
「だいじょうぶー」
「はい、わかりました」
「……おじさんには期待しないでね?」
―――――――――――――――――――――――
ユニークシークレットクエスト『白竜帝の頼み事』
クエスト目標:
白竜帝素材からアイテムを可能な限り作成する
クエスト報酬:
???
―――――――――――――――――――――――
クエスト詳細が表示されたが……これはとにかく数を作れって話だな。
完成したアイテムの質や数で報酬が変わるのだろう。
『わかった、それではよろしく頼むぞ。お前達が望むなら、我の魔力で湖の側まで転送してやれるがどうする?』
帰りの足まで準備してくれるのか。
それは頼もしいな。
「観光はもう十分だと思うけど、構わないか?」
「うん、十分堪能したよ」
「そうね。もう帰りましょうか」
「そうじゃのう。早いところ、その素材で装備を作ってみたいわい」
「いぎなーし」
「そうだね帰ろうか」
『結論は出たようだな。それでは転送してやろう』
俺達の足下に光の魔法陣が現れて光ったと思ったら、中央キャンプまで戻ってきていた。
帰還の羽根を節約できたしラッキーだったかな。
皆、新しい
――――――――――――――――――――――――――――――
そんなトワ達の様子を観察している人間達がいた。
運営管理室の面々である。
「白竜帝の装備作成もプレイヤーが決まったようです」
「ふむ、『ライブラリ』か。順当なところに収まったな」
「これで五大竜の装備作成プレイヤーが決まった事になるわね」
今回の探索イベント、裏では5体のレイドボスから装備作成依頼を受けることができるという隠しイベントが用意されていたのだ。
もっとも、受注条件は『レイドボスと敵対せず、一定以上の生産スキルを持っている』という条件だったので、クエストが無事発行されるか一種の賭けだったのだが。
「それにしても、見事なまでに上位生産クランばかりに振り分けられましたね」
「中途半端な装備品が報酬になっても困るところだし、構わないのじゃないかしら」
「特に『ライブラリ』は★11以上で揃えてくるのは確定だろうからな。装備ができた後の交換ポイントが悩ましいぞ」
「……普通に1つ10万とか20万はつけないと問題になるでしょうね」
「まあ、それでも直接依頼するよりは安く済むんだから構わないだろうよ」
運営に出来る事は、あとはバランスブレイカーな装備ができないように祈るばかりである。
それぞれの竜によって素材レベルが違うので、生産クリティカルを使った製造をしても限界値は決まってくるのだが、それでもその限界値付近の装備を用意してくるだろう、彼らなら。
こんなイベントを考案したデザイナーとそれを承認した室長に多少以上の恨みの念を抱きつつも、彼らは彼らで自分達の仕事を果たすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます