201.浮遊島観光
慌ただしかった土曜日が明けて日曜日。
あのあとユキからメールが届いていて、夏休みイベントの会場である浮遊島へは午前9時から行くことになっていた。
朝食等を済ませてからゲームにログインして浮遊島に行くための支度を済ませてしまう。
支度と言っても普段持ち歩かないようなアイテム類を用意しておくだけなのだが。
支度が終わったら待ち合わせ場所である談話室へと向かう。
「おはよう、トワ。これで全員揃ったわね」
「おはよう。俺で最後か」
「そうなるわね。今日はおじさんもいるし、無理しない程度に見て回るだけにしましょう」
「なんだかすまないね、負担をかけてばかりで」
「そこは仕方ないよー。僕達の方が4カ月ぐらい先行してるんだからねー」
「まあ、そこまで気にするほどでもあるまい。レベル差は段々と詰まってきているようじゃしの」
「さすがにそこはね。ただ、スキルレベルは低いままだからあまり期待しないでほしいけどね」
「そこは皆でカバーしますから大丈夫ですよ。それにそんなにレベルが高い場所に行くわけじゃありませんし」
「そもそも戦闘する気があまりないしな。行く予定の場所って基本的にノンアクのモンスターばかりなんだろ?」
「そうね。浮遊島のスタート地点、浮遊島中央キャンプの湖から流れている川沿いに南へ進んで、浮遊島の終端までは完全にノンアクティブばかりらしいわ。そのあと登る予定の岩山も基本的にノンアクティブばかりのようね。こちらから手を出すとリンクするタイプみたいだけど」
「ならそんなに心配はいらないな。それじゃあ浮遊島とやらに行ってみるか」
今日の、というか浮遊島での行動方針を確認した俺達は、ホームポータルからイベント会場である浮遊島へと転移していった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「ここが浮遊島中央キャンプね。こうして見るとそんなに人が多いようには見えないけど」
「ここはスタート地点だからじゃないか? 浮遊島には他にもキャンプ地があって、そこをポータル登録すればそちらからでもスタートできるらしいし」
「なるほどね。今から中央スタートしてるわたし達は出遅れ組って訳ね」
「だな。……もっとも、今から参加するわけでもないけどな」
「それを言っちゃだめよ。……クエストボードがあるし、それを見てみましょうか」
「そうですね。……中央キャンプ周辺地図の作成とかモンスター討伐、それにアイテム採取ですか。あまり効率のいいクエストはないみたいですね」
「最初のキャンプじゃしそう言ったものじゃろう。ユキは何かほしい景品でもあったのかの?」
「えっと、1,000ポイントでもらえる、ホームペットの豆柴がほしいかなって」
「ホームペット? 何それ?」
「えーと、ホーム内でのみ召喚可能、というかホーム内に自動配置されるペットですね。私の場合だと、クランホームにいるとき、クランホームに現れてくれるらしいです」
「へぇ、面白いわね。他には種類はないの?」
「えーと、他にも猫とか犬でも色々種類がいるみたいですね。猫だと毛並みや模様の違いで種類があったり、犬も犬種が様々だったりします」
「交換に必要なポイントは……どれも1,000ポイントのようね。どうせだから、これを交換出来るようなクエストを探してみましょうか」
「……とは言っても、この周辺でクリアできるクエストは高くても100ポイントと言ったところだぞ。繰り返し受注も出来るようだが、そんな回数受けるのか?」
「そこは、あれよ。あっちのプレイヤー発行クエスト掲示板を見てみましょう。イベントポイントと引き換えにクエストを発行できるみたいだからね」
「プレイヤー発行ねぇ。そんなに美味しいクエストがあるとも思えないんだが」
「あら、そうでもないみたいよ? ミドルポーション★10以上1個500ポイントですって」
……確かに俺達の目的を考えれば美味しいクエストではあるが。
「これって相場的にどうなんだ?」
「ちょっと待ってね。……相場的には1ポイントあたり5から10Eらしいわよ?」
「一番安く見積もって2,500Eか。普段の売値から考えれば十分に効率はいいか」
「そうそう。それに私達みたいな生産職が手っ取り早くポイントを稼ぐにはちょうどいいらしいわね」
「それにしても募集数が100個か。ずいぶんと多いな?」
「既にレイドクラスのボスが発見されてるらしいわよ? それに対する備えじゃないかしら」
「ふーん、それじゃあこれでクエストクリアしてしまうのか?」
「それでいいんじゃない? トワ、普通のミドルポーション持ってきてるわよね?」
「ああ。じゃあ1人2つずつぐらいでいいか?」
「あ、皆さん。こっちにミドルポーション2つでポイント1,500って言うのがありますよ?」
「へぇ。……ふむ、募集主はわからないしこっちにしましょうか。募集個数にも余裕があるみたいだし」
「問題はそんなにポイント集めてどうするのか、って話だけどな」
「……適当にペットを交換しておけばいいんじゃないかしら? 気分でだしておくペットを変えるとか」
「……ペット以外には興味なしか」
「そうは言われてもねぇ……生産職として見た場合には微妙なものしかないのよねぇ……」
「……そのようだな。中途半端な素材セットとか今更もらってもな」
「おじさんでもいらないかなぁ。最近は生産セットがよくなったおかげで★7アクセサリーまでは安定して作れるようになったし、売れ行きもなかなかいいんだよね」
「じゃあ、この1,500の依頼よりも美味しいものがないか確認して、無ければそれを受けようか」
「そっちはもう確認済みだよー。ミドルポーションで1,500を超えるものはないねー」
「ハイポーションならあるがのう。★6で1,000は儂らの相場では釣り合わんな」
「そっちの方は大体とんとんってところだろ。……問題は★6のハイポーションなんて持ってきてないところだが」
「それじゃあミドルポーションの依頼で決まりね。……トワ、念のために銘は消しておいてね?」
「わかってる。……1人8つぐらいで大丈夫か?」
「1人あたり6,000ポイント、まあ、いい線じゃないかしら。じゃあ、よろしくね」
「わかった」
俺は手持ちのポーションから銘を消して他のメンバーに配布する。
全部で48個のポーションを失うわけだが、はっきり言って持ってきた量の半分にもならないのでまったく問題ない。
「それじゃあクエスト受注と報告をしてっと。……うん、私は終わりね」
「私も終わりました」
「わしもじゃ」
「ボクもー」
「おじさんも終わったよ」
「俺の方でも終了だな。……しかし、こんなにポーションにポイントを使って赤字にならないのかね?」
「そこは大丈夫らしいわよ? 今見つかってるレイドボスのレッドドラゴンで討伐ポイント10万らしいからね。もちろん、1人あたり10万じゃなくて参加者で等分らしいけど」
「ふーん、でもこれだと、生産職の方がポイント集めが楽じゃないか?」
「そこは微妙なラインね。私らみたいな高品質品をバカスカ放出できるプレイヤーならともかく、普通のプレイヤーだとまだ中級の壁をあまり越えていないみたいだしね」
「なるほどな。……ユキは何を見てるんだ?」
「え? ええと、この依頼。★10以上の薬膳料理らしいけど……1個あたり1万ポイントで募集だって」
「興味があるんだったら、ポイントに変えておいてもいいんじゃないか? 1個1万ポイントなら悪くない交換比率だろ?」
「うん、でも、さっき言ってたレッドドラゴンでも10万なのに料理6つで6万ポイントも出して大丈夫なのかなって」
「そこのところも大丈夫のようよ? もっと美味しいレイドボスもいるらしいから。それこそ、倒せれば1人あたり2~3万ポイント入るようなヤツがね」
「そうなんですね。……それじゃあ、交換しておこうかな?」
「ふむ、こうして見てみると武器や防具の募集もかなりの量が出ておるのう」
「交換レートはピンキリだけどねー。流石にボク達が作るような装備と釣り合いが取れる依頼はでてないよー」
「そこは性能を落として……と言いたいところだけど、それでも微妙なラインよね」
「おじさん的には美味しい依頼がいくつかあったから、それで交換させてもらったけどね。もっとも、中途半端なポイントが貯まってしまったって感じだけどね?」
「そう言えば、最高位の景品がプラチナスキルチケットの100万だったか。……定期的にクエストを確認に来てポイント交換してれば届くんじゃないか、これ」
「うーん、微妙なところでしょうね。さっきのユキの依頼だって、他は5,000ポイント前後だしよっぽど急ぎで集めてる人以外はそんなに高値をつけないんじゃないかしら?」
「そう言うものか。……そう言えば、クエストで安くアイテムを集めて高いポイントと交換するって手も使える気がするんだが」
「そこは対策されているみたい。一度、クエストを通して入手したアイテムはクエストの納品対象に出来ない仕組みらしいわよ? 最初期の頃にそれをやろうとして出来なかったって報告が掲示板ででてるから」
「そんなものか。……まあ、今日のところはこんなものでいいだろ」
「そうね。景品交換は帰りにでもしましょうか」
「それじゃあ、まずは川沿いに南下して浮遊島の端を見に行くで構わないな」
「さんせー。早く行ってみようよ」
「それじゃ、行ってみるか」
俺達は騎獣に乗って川沿いの道をキャンプから南下していく。
途中にいるモンスターはホーンラビットやグリースライムのような、第1の町周辺で見かけるモンスターばかりだった。
これで森の中に入っていくとウルフ種のモンスターもいるらしいのだが……今回は用がないし無視だな。
1時間ばかり南に走ると一気に視界が広がり、目の前に
どうやら浮遊島の南端部分にまでたどり着いたらしいな。
「うわー、これは高いねー。落ちたら助からないよね」
イリスは興味津々と言った様子で南端の崖から下を覗き込む。
……どうやらイリスは高所恐怖症とは無関係らしいな。
「イリス、そんなに端に行ったら危ないわよ」
逆に柚月は腰が引けてるな。
まあ、この高さがあったらそれも当然か。
「どうやら落ちる心配は無いようじゃぞ? ここに見えない壁がある」
ドワンは手持ちの槍で崖の先をつついてみせる。
だが、崖のところで見えない壁があるらしく、それ以上先に槍の柄は進まなかった。
「へぇ、安全対策もバッチリなんだね。……まあ、こんな高さから紐無しバンジーなんてやった日には高所恐怖症待ったなしだけどね」
おっさんも見えない壁を手で押して確認しながら周囲を探索している。
とはいえ、この周囲にはそんなに変わった物があるわけではないのだが。
「こんな高いところから水が流れ落ちてるけど、下にいる人達は大丈夫なのかな?」
ユキはユキで少しずれたことを心配している。
普通だったら大変だろうが。
「この高さなら地上に着く前に吹き散らされるんじゃないか? それに今この島が飛んでいるのは、海上みたいだし」
「あ、本当だ。それなら大丈夫なのかな?」
その辺はゲームだし大した問題は無いだろう。
「さて、とりあえず島の端から外界を見てみようって言う観光は終わった訳だけど、これからどうする?」
「そうじゃのう。ここは、あそこに見える山に登ってみると言うことでよいのではないか?」
ドワンが指さしているのはここから少し離れた場所に存在している岩山。
岩山ではあるが急勾配になっているとかはなく、騎獣に乗ったままでも昇れそうだ。
「そうだねー、もっと高いところからの景色も見てみたいかな?」
「おじさんも賛成かな。せっかくの観光だし、帰りは帰還の羽根で一瞬だ。せっかくだし登ってみないかね?」
「私も登ってみたいです。せっかくここまできたんですし」
「それじゃあ、決定かな。柚月も構わないだろう?」
「そうね、急ぎの用事があるわけじゃないし構わないわ」
さて、次なる目的地は決まったわけだ。
あの山には何があるんだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます