200.とりあえず動きましょう

「さて、どこから手をつけたものか……」


 ワグアーツ師匠のところに薬草を買いに行き、その足で魔法錬金術士としての修行先に出向いた帰り。

 マギマグナムの作成者であるオジジ……サザンさんに渡してほしいと手渡されたマナカノン。

 持っていくだけならやぶさかではないのだけれど、それだけでいいのかって気もするし。


 とりとめも無いことを考えながらハイポーションを作成する。

 考え事をしながらでも【魔力操作】と【気力操作】の扱いには慣れてきている。

 なので、今回も失敗せずに★12が完成した。

 ……まあ、売り物として売りに出すには強力過ぎるんだけど。


 その後もカラーポーション類や、蘇生薬をこれまた★12で完成させる。

 こちらは2割ほど★11が混じるけど、まだまだ試行回数が足りないと言うことで自分を納得させる。


 とりあえず日課分の生産作業を終えた俺は、オッドに作業場所を譲って考え事の続きに戻る。

 今やるべきことは大きく分けて3つだ。


 1.星見の都を巡って色々なギルドを訪ねること

 2.宝探しイベントの浮遊島に見学に行ってみること

 3.頼まれたマナカノンをとどけること


 はっきり言ってどれも急ぎでやる必要は無い。

 かといって動かないのももったいないし……


「あ、トワくん、こんなところにいたんだ」

「ああ、ユキか。どうかしたのか?」


 工房にユキがやってきた。

 この工房はユキと共同利用だから、ユキもアイテム作成だろうか?


「さっき、他の皆で集まって明日の夜に浮遊島観光に行こうって話になったよ。トワくんも大丈夫だよね?」

「うん、ああ、大丈夫」


 ひとまず浮遊島には明日行くことが決定だな。

 そうなると残り2つの優先順位だが……


「トワくん、何か悩み事?」

「ん? 悩み事というかちょっと住人から頼まれた事があってな」

「なに、どんな内容なの?」

「んー、大した内容じゃないんだが……」


 ユキにこれまでの経緯を説明してマナカノンを受け取ったことを伝える。


「そうなんだ……だったら、その依頼を先にこなした方がいいんじゃないかな?」

「そうか? 星見の都の後でもいいかなと思ってるんだが」

「本人に取っては大事なことだよね、きっと。なら早めに話だけでも聞いてあげようよ」

「……それもそうか。多少順番が前後しても問題ないしな」

「そうそう。ああでも、先にガンナーギルドで話を聞いておいた方がいいかもしれないよ? そのサザンさんって人が戻ってくるなら色々と大変でしょう?」

「……まあ、ガンナーギルドにとっては重鎮の帰還になるわけだしな。……まずはガンナーギルドに行って話を聞いてみるか。ありがとうな、ユキ」

「いえいえ、どうしまして。それじゃあ、私は自分の分のアイテム作成をしたら今日はもう休むね」

「わかった。俺はこれから出かけてくるから、多分今日はこれでお別れだな。おやすみ、ユキ」

「うん、おやすみなさい、トワくん」


 とりあえず動いてみないことにはしょうがない。

 まずは王都のガンナーギルドからあたってみよう。


 ポータル間移動で早速ガンナーギルドへと到着。

 受付に頼んでギルドマスターのアリシアさんと面会できないか確認を取ってもらう。

 幸いさほど待たずに面会許可が出たので、ギルドマスターの部屋でアリシアさんと相談だ。


「あなたの方から面会希望というのも珍しい話ね。それで、どうしたの?」

「ええと、まずはこれを見てほしいんですが」


 俺はミリィから渡されたマナカノンをアリシアさんに渡す。


「……これはあなたの作った銃じゃないわね」

「見ただけでわかりますか」

「あなたの銃は、よく言えば質実剛健、悪く言えば無骨なところがあるからね。この銃はそう言ったイメージではなく、よく洗練されているわ。この銃をどこで手に入れたのかしら」

「えーと、魔法錬金術士のガイムさんって知ってますか?」

「ガイムなら知っているわ。一時期、サザンにも弟子入りしていたからね」

「その銃はガイムさんの娘のミリィさんの作品ですよ。彼女も魔法錬金術士らしいですね」

「なるほど……それならこの出来栄えも納得ね。それで、どうしてあなたがこの銃を持っていたのかしら?」

「実はミリィさんがサザンさんに弟子入りしたいらしくて。流石にあんな場所で隠遁生活を送っている状態じゃ弟子入りも何もないですからね。それを見せれば心変わりしてくれないかと」

「あなたはそう思う?」

「思いませんね。でも本人の希望ですし、一応持っていくだけ持っていこうかと考えてます」

「……そう。それならちょっと待ってくれるかしら」


 アリシアさんは便箋を取り出して1通の封書を認めた。


「実を言うとね、他にもマギマグナムを作成してみたいという錬金術士はいるにはいたのよ。でも本人は帰ってくる気はないみたいだし、どうしたものかと思っていたところなのよね。悪いんだけど、この手紙をサザンまで一緒に届けてくれるかしら。これであの人が動いてくれれば御の字なんだけど」

「わかりました。それではこの手紙も一緒に届けさせてもらいますね」


〈ユニークシークレットクエスト『魔法銃技師を連れ戻せ』が発生しました〉

〈このクエストはあなたが完了・または放棄しない限り別のプレイヤーは受注できません〉


 ここでクエスト受注か。

 内容はどうなってるんだ?


 ―――――――――――――――――――――――


 ユニークシークレットクエスト『魔法銃技師を連れ戻せ』


 クエスト目標:

  サザンに以下のものを渡す

   ミリィのマナカノン

   アリシアからの手紙

 クエスト報酬:

  次段階へのクエスト進行


 ―――――――――――――――――――――――


 うん、これだけじゃ何のことだかさっぱりわからないな。

 ユニーククエストだって言うし、早いところ進めた方がいいかな。

 ……幸い今日は夏休みの土曜日だし、少しぐらい夜更かししたところでなんの問題も無いし。


 アリシアからの手紙を受け取った後、そのままポータルを使って第4の町への転移門へ移動。

 そこからはシリウスの背に乗ってサザンさんの隠れ家まで移動する。

 とはいえ、サザンさんの隠れ家までの道は狭いのでシリウスは幼体化して、俺の護衛としての移動だが。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 森の中に分け入ってしばらく、サザンさんの隠れ家までたどり着いた。

 さて、問題はサザンさんがこの中にいるかどうかだが……

 そう考えてドアをノックしてみると、中から返事が聞こえた。


「ドアは開いておる。用事があるなら入ってきなさい」


 どうやら俺の来訪は気付かれていたらしい。

 ともかく開いているというのなら、家の中へ入らせてもらおう。


「失礼します。お久しぶりですね、オジジ……いいえ、サザンさんと呼んでもよろしいですか?」

「ふむ、儂の名前を知ったか。どうやらアリシアあたりに聞いたようだな。まあ、好きな方で呼ぶがいい」

「ありがとうございます。それでは、サザンさんと呼ばせてもらいますね」

「それで、今日はこんな辺鄙な場所になんの用があってきたのだ? 用もなければこのような場所に再び来ることはあるまい?」

「そうですね。サザンさんにお届け物です。まずはこの銃を見てもらえますか?」

「ふむ……よくできたマナカノンだな。実戦向きとは言えないが洗練されている。お主の作品ではないな」

「ええ、王都にいる魔法錬金術士のミリィさんの作品です。ミリィさんはマギマグナムを学びたいそうでして……」

「……儂から見ても十分に偏った武器を作りたいとは奇特な娘だな。それで、話はこれだけか?」

「もう1つ、これはアリシアさんからの手紙です」

「ふむ、アリシアからか。…………ふむ、どうしたものか」

「手紙には何と書かれていたんですか?」

「……まあ、お主なら教えても問題ないじゃろう。儂に王都に戻ってマギマグナムの作成方法を広めてほしいらしい。……まあ、直弟子にあたるもの以外には【魔石強化】は教えなくてもいいという話だがな」

「そうですか。……それで、その話は受けるのですか?」

「……ううむ、悪い話ではないのだが。もう一押しほしいな。……そうだ、お主の作品も見せてみろ。どの程度の出来栄えになっているか直接確認してやろう」

「わかりました。……今使っているのはこの4丁ですね。あと聖霊武器化したマギマグナムが1丁ありますがそれも見せますか?」

「そうだな、全て見せてもらおうか。……これは、なかなかの出来栄えだな。上級錬金セットではこれ以上のものを作る事は出来ないだろう。聖霊武器は初めて見るが、こちらも申し分ない出来栄えだ。ふむ、異邦人とはいえ市井にこれだけの銃を作れるものが現れたか」

「まあ、異邦人ですからね。成長速度は他の人に比べて遥かに早いと思いますが」

「だとしてもだ。これはいつまでもここで隠遁している場合ではないかも知れないな」


 おや、これはイベントが進んだのかな?

 イベント状態を見てみるか。


 ―――――――――――――――――――――――


 ユニークシークレットクエスト『魔法銃技師を連れ戻せ』


 クエスト目標:

  サザンに以下のものを見せる

   ★11以上のマナカノン 2/1

   ★11以上のマギマグナム 2/1

 クエスト報酬:

  次段階へのクエスト進行


 ―――――――――――――――――――――――


 どうやら武器の品質は★11でもよかったらしい。

 まあ、本人もやる気を出しているし、いいことだろうな。


「さて、そうと決まれば王都に戻る支度をせねばならんな。……ああ、途中でアメリアのところにも顔を出していかないといけないか」


 サザンさんも本格的に帰るための算段を考え始めているようだ。

 うむ、ここまで出向いたことが無駄にならずに済んだ。


「……ああ、済まないがお主に頼みたいことがある。今からアメリアとアリシアに手紙を書くからそれを渡してきてほしい。できるだけ早く渡してもらえるのが望ましいな」

「わかりました。それでは手紙を受け取ったらすぐに配ってきますね」

「よろしく頼む。では少し待っておれ」


 サザンさんが手紙を書き終えるのを待つこと数分、手紙が書き終わったようで2通の封書を渡してきた。


「こちらがアメリア宛てでこちらがアリシア宛てだ。まあ、本人達も宛名を確認してから開けるだろうし問題は無かろうが、よろしく頼むぞ」

「はい、わかりました。それでは失礼します」

「うむ、それではまたな」



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 その後、第4の町のガンナーギルドでアメリアさんに手紙を渡した後、王都まで戻りアリシアさんにも手紙を渡す。


「ずいぶんと早かったわね。……なるほど、事情は理解したわ。サザンは今住んでいる家を引き払ったら、すぐに王都に戻ると書いてあるわ。あとは、しばらく待てば帰ってくるでしょう」

「そうですか。色々なところを回ったのが無駄にならなくてよかったですよ」

「確かに。さて、私はサザンが戻ってきたときの準備をしなくちゃいけないから、今日はこれで失礼させてもらうわ。サザンが戻ってきたらマギマグナムの製造依頼を出すことになると思うからその時はよろしくね」

「わかりました。それでは」


〈ユニークシークレットクエスト『魔法銃技師を連れ戻せ』をクリアしました〉

〈魔法銃技師サザンは現実時間の一週間後、王都へと到着します。その頃にまたガンナーギルドへ訪れてください〉


 一週間後ね、今はまだ土曜日だから土曜のうちに着くのかな?

 ……さて、ついでだし、ミリィのところにも報告してくるか。


 ガイム魔法具店に入るとミリィさんがやはり店番をしていた。


「あら、トワじゃない。どうかしたの? お父さんに用事?」

「いや、あのマナカノンをサザンさんに見せてきたからその報告によってみただけ」

「本当!? それで、サザンさんはなんて?」

「実戦向きではないが洗練されているってさ。ガンナーギルドのギルマスも似たような評価だったぞ?」

「そう……。それで、サザンさんはどうなったの? 弟子入りを認めてくれそう?」

「そのことだが、サザンさんが王都に戻ってくる予定らしい。王都にいるなら弟子入りする機会もあるんじゃないか?」

「サザンさんが帰ってくるの!? こうしちゃいられないわ。弟子として認めてもらえるように励まないと……お父さん、店番を変わってもらえる?」

「あー、俺は用事を伝え終わったしこれで帰らせてもらうよ」

「そう? わかったわ。今日はありがとう。また何かあったらこのお店をご贔屓にね」

「了解。それじゃあ」


 とりあえずは、これで一段落と言ったところだろう。

 リアルの時間帯も深夜だし、今日はこの辺でホームに戻って落ちるとしますか。


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