199.魔法錬金術士とは
「いらっしゃいませー」
『ガイム魔法具店』の中に入ると売り子をしている狐獣人の店員から声をかけられた。
店の中には様々な物が展示されている。
主立った物は生活に根ざした魔道具――例えば照明器具だったりコンロのような物だったり――ではあるが、店の一角にはマナカノンやマギマグナムと言った魔法系の銃や魔術士向けの装備品なども飾ってある。
「お客様は武器をお探しですか?」
「え? ああ、いや、マナカノンはともかく、マギマグナムを取り扱っているとは珍しいなと思って」
「おや、お客様はガンナーですか。マナカノンは流通を再開してるから知ってても不思議じゃないですけど、マギマグナムを知ってるのは珍しいですね。相当ランクの高いガンナーだったりします?」
「あー、ギルドランクは14だな」
「それはすごい。ガンナーギルドでそこまで高い人ってあまりいないんじゃないでしょうか?」
「そんなものかな」
「ガンナーギルドって割と最近出来たものらしいですからねぇ。まだまだ人材不足だって聞いてますよ」
「そうか。それよりもガイムさんに会いたいんだが大丈夫かな?」
「父にですか? ご用件を伺ってもよろしいですか?」
おや、この売り子さんはガイムさんの娘だったのか。
ってなるとガイムさんはそこまで年をとっていないのかな?
「ワグアーツさんからの紹介で魔法錬金術士として訪ねてきたんだけど」
「わかりました。少々お待ちくださいね」
売り子の娘さんは店の奥へと引っ込み、数分待っていると再び店先に出てきた。
一人の痩せた狐獣人の男を伴って。
「君がワグアーツさんから紹介されてきたという魔法錬金術士かい?」
「はい、トワと言います。ガイムさんで間違いないですか?」
「ああ、私がガイムだ。一応、紹介された事を証明出来るものは持っているかな? 無くても魔法錬金術士というなら大歓迎だけど」
「ええと、紹介状があります。……これです、ご確認を」
「ああ、この字は確かにワグアーツさんの字だ。……ふむ、錬金薬士としての修行はもう済んでいるのか。それなら私が教えることはなさそうなんだけどねぇ……」
「そんな事を言わずにお願いします。魔法錬金術士というのがどんな職業なのかイマイチよくわかっていないので」
「……ふむ、そう言うことならば少し手ほどきをしてあげよう。私のアトリエに行こうか」
ガイムさんと店の中に入っていき、店の奥にあるアトリエへと案内される。
アトリエの中は色々な部品やら完成品やらが所狭しと並べられていた。
「あまり人を招くことがないから、散らかっているのは勘弁して欲しいな。これでも私にとっては色々使いやすい配置になっているんだ」
「そこについては文句は言いません。ところでどう呼べばいいですかね?」
「君の師匠は今はワグアーツさんだろう。普通にガイムと呼んでもらえれば十分だよ。私も若い頃は一時期ワグアーツさんにお世話になったこともあるからね」
「という事は兄弟子にあたるんでしょうか?」
「そこまで立派な物じゃないさ。薬士としての腕前はさっぱりだったんだからね。代わりに魔法具を作る才能には恵まれていたらしいから、こうやって店を開いているんだけどね」
「なるほど。それで、魔法錬金術士って言うのはどういった職業になるんですか?」
「そうだね、一言で言ってしまえば錬金術士の中でも魔法の才能に特化した錬金術士を指す職業かな。普通の錬金術士に比べて高い魔力適性を利用して魔法で戦うものもいれば、私のように魔法具の作成を行う物もいる。そんな職業さ」
「……つまりは結構幅広いジャンルになると?」
「そうだね。修練というだけなら魔法を使って戦うだけでも修行になるよ。魔力の扱いに慣れることが魔法錬金術士の基礎であり、もっとも大事なことだからね」
「でもそれだけじゃないんですよね?」
「まあ、そうだけど。……そうだな、修行方法としては魔法を使って戦うことの他に、魔道具や魔法具を作ると言ったことも修行になるかな?」
「『魔法具』ですか? 魔道具は何となくわかるんですけど、『魔法具』とはなんですか?」
「ああ、異邦人の間ではあまり使われない言葉なのかな? 『魔法具』って言うのは魔力を増幅して何かを行う道具の総称みたいな物だよ。ガンナーなら知っているだろうけど、マナカノンやマギマグナム、それから儀式杖なんかが武器としては有名かな?」
「儀式杖ですか?」
「そっちも有名じゃないから困るよね。魔力を循環させることで増幅させ、魔力の塊として飛ばして攻撃出来る特殊な杖かな。単純に魔法を使う際の増幅効果としては普通の杖に劣るから、あまり有名じゃないんだよね。私の場合はお得意様もいるし細々とではあるけど作り続けているが、なかなかね」
儀式杖か。
そんな武器種があるなんて聞いたことがなかったな。
宝杖とはどんな違いがあるんだろうか。
「魔力弾を飛ばすと言えば宝杖の方が有名ですけどそちらとの違いは?」
「宝杖が細工をメインに作る物であることに対して、こちらは錬金術で作ると言ったところかな。……せっかくだし、一回作って見せようか」
そう言ってガイムさんが集めたのはミスリルインゴットに魔石、それから宝石だった。
「まあ、使う材料的には基本的に一緒なんだけどね。宝杖が長杖にあたるのに対して、儀式杖は短杖にあたる武器になるのかな」
「そうなんですね。後は普通に合成ですか?」
「そういうことかな。では行くよ」
ガイムさんの手元に集められていた素材達が合成されて形を変える。
完成したのは、確かに片手用の杖だった。
形状としては、持ち手の先に宝石が付いていると言った感じのシンプルなデザインだ。
「これで完成だよ。……錬金術での物作りは呆気なく終わるから見せ場もないんだけど」
「そうですね。ちなみに作る上での注意点とかはあるんですか?」
「うーん、マナカノンやマギマグナムを知っているなら気になるかも知れないけど、特に注意点はないかな。マナカノンやマギマグナムは私も作って売っているけど、あれらは色々繊細だからね。儀式杖はそこまで難しくはないよ。興味があるならレシピをあげよう」
ガイムさんは大したことではないと言わんばかりにレシピを渡してくる。
渡されたレシピは儀式杖以外のアイテムについてのレシピも混じっていた。
というか、そちらのレシピの方が多かった。
「ガイムさん、これは?」
「うん、ゴーレムのレシピだよ。この後、説明するから一緒に渡しておこうと思ってさ」
「そうですか。……なんというか受け取る方が言うのもなんですが、そんな簡単にレシピを渡していいんですか?」
「ワグアーツさんのところで鍛えられたなら、この程度のレシピは楽勝だろうと思うけどね。……それに、君とは商売敵になることもなさそうだし。私は異邦人の顧客まで抱えていないからね」
「そうですか。では。ありがたく覚えさせてもらいます」
渡されたレシピを早速使い、作成方法を覚えてしまう。
覚えたアイテムは、儀式杖、ブロンズゴーレム、アイアンゴーレム、ミスリルゴーレムの4つか。
「それではゴーレム作成の説明に移らせてもらうよ。ゴーレム作成は、その名前の通りゴーレムを作る錬金術だ。ただ、このゴーレムは一時的な効果しか発揮しない。モンスターのゴーレムのように放っておけば何日間でも存在できるわけじゃないから注意してほしい。とりあえずブロンズゴーレムを作成してみせるよ」
ガイムさんは部屋の中からブロンズインゴットと魔石を集めて、錬金を始める。
錬金術が終わったところに残されていたのは、片手で握れる程度の小さな珠だった。
「これがゴーレムの珠だ。これに魔力を通して投げることでゴーレムが出てくる。……流石に室内で試すわけにも行かないから、実演できないのが残念だけどね」
「流石に実演まではしてもらわなくても大丈夫ですよ。ちなみに使用上の注意点はどんなことがありますか?」
「そうだな……まず、ゴーレムは本当に一時的なものでしかない。使ってから5分も経てば崩れ落ちてしまう程度の物だよ。だから使い道としては、一時的なモンスターの足止めや攻撃力不足を補うための助っ人程度の認識で使って欲しい。それから、ゴーレムは簡単な命令しか理解できない。複雑な命令を与えても上手く動けないから、そこも注意が必要かな」
なるほど、本当に使い捨ての戦力にしかならないのか。
ミスリルゴーレムまでしか無いのはそのせいかな?
「あとは……そうだな。君はマギマグナムを作る事が出来るかな?」
「はい。作り方は学んでいます」
「という事は【魔石強化】を覚えているはずだけど、ゴーレムを作るときには魔石を強化しちゃいけないよ」
「それはなぜです? 魔石を強化した方が強いゴーレムになりそうですが」
「その認識は間違っていないんだけどね。【魔石強化】で強化された魔石で作ったゴーレムは、暴走状態になってしまって命令を実行できないんだよ。それだけじゃなく、手当たり次第に暴れ回るからかなり危険でもあるしね」
「暴走状態ですか……確かにそれは使えないですね」
「うん、そう言うことなんだ。それに暴走状態のゴーレムは、魔力の消耗も多いらしくてね。1分程度しか形を留めていられないんだよ」
「壊れるのも早いと。確かに使い物になりませんね」
「……まあ、モンスターの集団の中に放り込んで暴れ回らせて注意を引きつける、そんな使い方も出来ないではないけど、あまり使い勝手はよくないかな。モンスターの集団に対して囮として使うなら、普通のゴーレムでも可能だからね」
どうやら、どんな使い方をするにしても使い勝手はよろしくないらしい。
作るなら普通に作れって事なんだろうな。
「儀式杖に使う魔石は強化してもらっても問題ないからね。そっちは気にせず作ってほしい」
「そうなんですね。……修行内容としてはこれらを最高品質で作ってくれば大丈夫ですか?」
「うーん、正直、魔法錬金術士としての修行はどちらかと言えば実戦よりなんだけどね。まあ、儀式杖にせよゴーレムにせよ、品質が高い物を作れた方が何かと便利ではあるか。それじゃあ、ミスリルゴーレムと儀式杖、この2つだけでいいから最高品質の物を作ってきて見せてもらえるかな。……ワグアーツさんのところで修行してきた後なら【魔力操作】も【気力操作】も使えるだろうからそんなに苦労しないと思うけど。……そうそう、儀式杖に使う宝石はそこまで品質が高い物じゃなくても大丈夫だよ。重要なのは魔石の方だからね」
「わかりました。それでは完成したらまた顔を出します」
「うん、私の修行はその程度の感覚で構わないよ。魔法錬金術士に大切なのは実践だからね。君は戦闘もかなりこなせるだろうから、戦闘で経験を積んだ方が早そうだけどそれだけというわけにも行かないからね」
これからは戦闘でも魔法を多めに使っていくことにしよう。
そうすればそんなにかからずにレベル上げが出来そうな気がする。
「うちの娘も魔法錬金術士なんだけどね。戦闘の方の腕前はまだまだ未熟で困っているんだ。それなのにサザンさんに弟子入りしたいって願望があるらしいから困ったものなんだよね……」
「サザンさんに弟子入り、ですか」
「ああ、何でもマギマグナムの製法を知りたいとか。私も昔はサザンさんに世話になっているけど、あの人も気難しいからね。それに今では人里離れた場所で隠遁生活を送っていると聞く。流石に、今の娘の腕前じゃあそんなところに修行に出すわけにも行かなくてね。いやはや、困ったものだよ」
「……それってサザンさんが王都に戻ってくれば解決する問題じゃないんですか?」
「そうなんだけどね……あの人、頑固だから」
「……まあ、難しいでしょうね」
「そう言う訳だから、様子見をしてるんだけどなかなかね。……さて、余計な事まで話し込んでしまったかな。ともかく、魔法錬金術士としての修行は実践あるのみだ。ワグアーツさんの修行に耐えられたんだ、こっちの修行でもいい結果を出してくれることを期待しているよ」
ガイムさんに見送られて店舗部分まで戻ってくる。
改めて商品を見てみると、どれも丁寧に作られてることがわかるな。
「ねえ、あなた、サザンさんの知り合いなの?」
そんな俺に声をかけてきたのはガイムさんの娘だった。
「知り合いというか、一度だけ教えを受けたって間柄かな。マギマグナムを作る方法を教えてもらっただけだよ」
「そうなの。……ねえ、1つお願いがあるんだけどいいかしら?」
「内容によるが……何?」
「サザンさんを紹介してほしいのよ。マギマグナムの作成方法を詳しく知っているのは、あの人しかいないってガンナーギルドでも言われてきたし」
「……紹介しても動くような人とは思えないんだけどな」
「私、これでも魔法錬金術士なのよ。マナカノンだけなら店で売ってるものも作っているわ。それにガンナーギルドにだって納品してるしね」
「それはまた……でも、それならサザンさんが隠遁生活をしてる理由も知っているんじゃ?」
「そこは私が弟子になってマギマグナムを生産すればいいだけじゃない。ダメで元々なんだし、引き受けてもらえないかしら?」
「うーん、まあ言うだけなら構わないけど」
「そう、それじゃあお願いね! これ、私の作ったマナカノンの中でも自信作よ。これをサザンさんに見せてもらえるかしら」
「わかった。話だけはしてみるけど、結果には責任は持てないぞ?」
「構わないわよ。……そう言えば名前、教えてなかったわよね。ミリィよ。よろしくね」
「俺はトワ。とりあえず時間があるときにサザンさんのところに行ってみるよ」
「ええ、それで構わないわ。よろしくね」
半ば押し付けられる形で渡されたマナカノンは、イベントアイテム扱いになっていた。
だが、クエストが発生してるわけじゃないし、これはどうしたものかな。
……まあ、忘れないうちに今度届けてみるか。
何か隠しクエストのような気もするし。
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