198.魔法錬金術士として

「へぇ、ジパンに行ってきたのか」


 レイドも終わり、ハルやリク達の用事が素材の買取だとわかると、俺はいなくてもいいことになるので退出しようとしたがそうは行かなかった。

 結局、逃げることは出来なかったため、お茶でも飲みながら話をしていた。

 なお、ユキは用事があるとのことで別行動中だ。


「ああ。まだ入口の港町と首都に着いてとんぼ返りしただけだから、何があるかわかってないがとりあえずジパンには一番乗りしたかな」

「ふうん。お兄ちゃん、珍しい食べ物とか無かったの?」

「それを確かめる前に帰ってきたからな。そう言ったものがあるかどうかは、明日以降になってから観光かな。各ギルドマスターから封書も預かっているし」

「なるほどなぁ。……まあ、俺達はイベントが終わるまで行く余力は無いけどな」

「そうだね。頑張って高得点を目指して、上位の景品を入手しないと」

「上位の景品ね……何があるんだ?」

「うーん、最高位の景品はプラチナスキルチケットだけど、これは実質不可能かな? これの交換に必要なポイントって100万だから」

「ゴールドスキルチケットでも50万だからな。今日の感じ50万はなんとかいけそうだけど、100万はちょっとなぁ……」

「そう言えばポイントを集めるってどうやればいいんだ?」

「基本はいろんなところに隠されていたり、モンスターがドロップする宝箱からの入手だな。その他にも、クエストをクリアしての入手なんてのもあるが、そっちはそっちで面倒な条件が揃ってるからな」

「『自分で作成した★10以上のポーションを納品』とかね。お兄ちゃん達なら楽勝だろうけど、普通の人には無理難題だよ」

「そう言うものか。どっちにしても、あまりイベントに参加する意味はなさそうだな」

「うーん、納品系のクエストだけやっておけば? そうすればペットを手に入れることは出来ると思うよ?」

「ペット? なんだそりゃ?」

「簡単に言えば、ホームエリア内でのみ行動可能な愛玩動物かな? 豆柴とか家猫とかいくつか種類があったよ」

「これもホームエリアの増設による物だろうな。ホームがあればペットと暮らすことが出来るんだからな」

「そう言えば2人はホームを買わないのか?」

「うーん、イマイチこれといって欲しい感じじゃないかな……」

「セイルガーデン王国のホームはどことなく味気ないというかな……まあ、イベントが終わって別の都市に向かうようになったら考えるさ」

「ふむ、なんならジパンの一般的なホームの様子を見てきてやろうか?」

「ホント!? それは嬉しいよ!」

「なんだかんだ言ってホームは欲しいからな。いいところはそこから売り切れてくだろうし、早いモン勝ちなら急ぐに越したことはないからな」

「早い者勝ちなのは認めるが、イベント終了後ってなると8月末なんじゃないのか? と言うか、それまでに宿題は終わるのか?」

「……宿題の話は今はしないでくれ。今はこっちの問題だけに集中したい」

「確か宿題データをこっちに取り込んでゲーム内でも出来るようにするシステムがなかったか?」

「……だとしても、ゲーム内でまで宿題はしたくねえよ……」

「この調子で本当に終わるのかねぇ……」

「ともかく、ホームエリアの件は頼んだからな!」

「はいはい、個人用なのかパーティ用なのかにもよるがどっちが目的なんだ?」

「基本的には個人用だな。俺らはプライベートまでは関わらない主義だからな」

「わたし達は、パーティ単位で入居出来る家も見てみたい! まあ、借りるときはバラバラになるだろうけど、興味はあるかな?」

「わかった。ジパンでの仕事が一段落ついたらホームエリアの件は考えておこう」

「やったー、お願いねお兄ちゃん」

「忘れないでくれよ。……そうそう、これが豆柴と家猫の様子だな。まあ、どっちも名前が示すとおりの存在だが」


 見せられた動画には、豆柴と家猫の様子が映っていた。

 ……うん、豆柴と家猫としか言えない造形だな。

 ただ、AIはそれなり以上の物を積んでいるらしく、なかなかリアルな動きをしてくれていた。


「他にも種類があるのか?」

「白兎とかフクロウがあった気がするよ」


 白兎にフクロウね……後で、イベントページを確認してみるか。


「お、お兄ちゃん、やる気になった?」

「まあ、現物を確かめてからだな。あとは無駄に時間が取られないようなら参加してもいい」

「お兄ちゃんは長時間宝箱を探して歩くようなイメージじゃないからね。でも、家猫とかマスコット系ペットを手に入れるだけなら、毎日納品系イベントをこなすだけでいけるはずだよ」

「そうだな。それが一番手っ取り早いだろ」


「はいはい、お邪魔するわよ」


 そこに現れたのは柚月だった。

 買取の値段が決まったのだろう。


「今回の持ち込み分の買取額はこれぐらいでいいかしら?」

「こんなに高くていいんですか?」

「まだ、こっちじゃ見つかってない素材ばかりだからね。そう言う訳で色をつけさせてもらったわ。出来れば今後もうちに卸して欲しいんだけど?」

「この値段で買ってもらえるなら是非!」

「そうだな、悪い取引じゃねえな」

「それじゃあ、商談成立ね。……はい、これが今日の分の代金ね」

「おおう、1回の取引で3Mとか滅多にないよ……」

「スキルブックの取引ならもっと高額だろう?」

「それと素材は別枠。……よし、宝探しだけじゃなく素材集めも頑張らなくちゃ!」

「現金だな。ポイント集めはいいのか?」

「モンスターの討伐や自然物の採取でもポイントが稼げるから問題ないよ!」

「そうか、まあ頑張れ」


 やる気をみなぎらせた妹様を見送った後、俺達は各々行動を始めた。

 俺とユキは修行先に出向いて生産素材の入手だな。

 ワグアーツ師匠の元に行くと、いつも通りの態度で出迎えてくれた。


「ふむ、ここでの修行は一段落したというのにまだここに通うか。いや、殊勝な心がけだ。それに、私が取り扱っている薬草類もこのあたりではそうそう手に入らないからな」

「ええ、そう言う訳ですので、時間があるときはこれまで通り薬草類を買いによらせていただきますよ」

「もちろん構わないぞ。それで、技の羅針盤は手に入ったのかね?」

「ええ、手に入りました。今は魔法錬金術士ですね」

「そうか、魔法錬金術士か。……ならばあやつの元で一度話を聞いておいた方がいいだろうな」

「あやつ、ですか?」

「ああ、こちらのことだ。まずは薬草の取引と行こう。いつも通り、買えるだけ全部でいいのだな?」

「ええ、お願いします。正直、これでも足りないぐらいなので」

「ふむ、そうなのか? お前が店をやっていることは噂に聞いているがそんなに繁盛しているのか?」

「今のところカラーポーション……パープルポーションとかは身内だけにしか販売していないですね。そちらの方の需要も満たせていない状態ですから」

「ほう、それは商売繁盛で結構。しかしそうなると、市井に出回ってはいないのだな?」

「そうですね。数をため込んでいるというのもありますが、まだ一般には販売していないですね」

「……そうか。それならば、今の倍の薬草を卸せば市井にも回るように出来るか?」

「うーん、商売全体を仕切っているのは別の人間なのではっきりとは答えられませんが、数量を限定してであればおそらくは回せるようになるでしょう」

「わかった。そう言うことならば、私の方から業者に頼んで卸す数量を増やせるように努力してみよう。あれらのポーションが作れるほどの人材は少ないのでな。お前にも働いてもらうぞ」

「わかりました。ですが、販売するのは王都ではなく第2の街になりますが問題ないですか?」

「構わんよ。本拠地が王都にないと言うことは承知している。薬草の数量だが、増やすには多少時間がかかる。1週間から2週間を目安に2倍ぐらいまでは増やしたいと思う。その程度であればさばけるな?」

「ええ、2倍でしたら何とか」

「よろしい。……そう言えば先日、薬草を買いに来たときずいぶんと急いでいたようだが何かあったのか?」

「ええ、まあ。高速船に乗ってジパンを目指すことになっていたので、その分急いでポーションの作成をしなければいけませんでしたからね」

「ほう、ジパンか。私も最近は行っていないな。どのような様子だった?」

「ジパンに到着したのは深夜だったので、街の様子はまだ見て回ってません。……ああ、セキの街から星見の都に抜ける最中に双頭百足が縄張りを作っていたことぐらいですかね。行ってみて奇妙に思ったことは」

「ふむ、ジパンの地でもモンスターの行動が活発になってきているのか? これは警戒せねばならないかも知れないな」

「やっぱり普通の状態ではなかったのですね?」

「もちろんだ。セキと星見の都を結ぶ道は、港で仕入れた荷物を都へと運ぶ重要な街道だ。そこにモンスターが現れるなど滅多にないことだったのだがな」

「気になるのでしたら、あちらで錬金術ギルドや調合ギルドに行ったときに話を聞いてみますか? あとは、一応ガンナーギルドにも」

「……そうだな。ここにいて出来る事は知れているが情報だけでも仕入れておきたい。頼んだぞ」

「了解しました。それでは、薬草も仕入れましたし今日はこの辺で失礼します」

「ああ、待ちたまえ。魔法錬金術士としての師匠を紹介しよう。わしの友人で少々頼りないところもあるが腕は一流だぞ」

「魔法錬金術士の師匠になれる人が王都にいるんですか?」

「無論だ。……と言いたいところだが、君ほどの腕前になると、あの男以外では学術都市まで足を運んでもらわねばならなくなるな」

「……国をまたいでの修行は流石に厳しいですね」

「君ほどの腕前ならば、錬金術の銀時計が手に入っているだろう。あれを見せれば魔法王国でも問題なく通用するぞ」

「それはいいことを聞きました」

「錬金術士としては常識なのだがな。……これが紹介状と地図だ。商業区に店を構えているからな。そこを訪ねていけばいいだろう。お前の指導に当たることになる男の名前は『ガイム』だ。紹介状を見せれば相手をしてもらえるだろう」

「ガイムさんですね。わかりました。それでは失礼します」

「ああ。薬草のことは忘れないようにな」


 一度クランホームに戻り、今度は商業区に移動する。

 もらった地図だと、このサブポータルからそんなに離れた位置ではないな。


 地図で示されたところに行くと『ガイム魔法具店』の看板が掛けられたお店が建っていた。

 なかなか立派な建物だし店もかなり綺麗にされている。

 果たしてガイムさんとはどんな男なんだろう。

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